行こうよ! ゆるキャン△   作:Pain elemental

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あけましておめでとうございます。
イーストウッドの野クルキャンプはまだよ?


第3話 冬キャン初挑戦!

 

 

 

 キャンプ雑誌とネットで調べ、シュラフやらなにやら、とりあず必要なものをネット通販とアウトドアショップで揃えた春彦だったが、揃えたものを触って眺めているうちに、今すぐにでもキャンプに行きたいという衝動に駆られてしまった。

 

 しかし野クルで計画しているキャンプにはまだ1週間ほど先。しばし悩んだ末、春彦は次週のキャンプの予行演習という名目で、週末に近場のキャンプ場でソロキャンプをすることにした。

 

 非常に衝動的ではあるが、春彦は遠足の前日寝れないタイプ。要するに性格が子供っぽいのだ。ここで雨でも降れば春彦の目論見も外れただろうが、結局当日は快晴そのものだった。そして午後になって出かける支度を済ませた春彦は、荷物を持って停めてある愛車のバイクカバーを取り外した。

 

(さて、今日もまた世話になるぞ)

 

 黒い車体のスクーター、アドレスV125Sのシートに手を置いて、春彦は心の中でそう語りかけた。このアドレスは春彦が釣りに行くときの足としてバイクを使おうとAT限定の小型二輪免許を取った際に、バイク乗りの親戚が新しいのに乗り換えるからと譲ってくれたものだ。走行距離は4万キロを超えており、車体には所々小さな傷も見られるが、それでもまだ走りは快調そのもので、春彦の頼れる愛車であった。

 

 リアキャリアのホムセン箱にシート下、サイドバッグ、シートバッグとあらゆる積載場所にキャンプ道具を積んで、忘れ物がないかもう一度しっかりと確認する。そして最後にミラー部分にあるスマホホルダーにスマホを取り付けると、フルフェイスのヘルメットを被って荷物が満載されたアドレスに跨った。

 

「よし、行くか」

 

 差し込んだキーを回してブレーキをかけながら始動ボタンを押してエンジンをかけると耳慣れたエンジン音が響く。目指すはなでしこがリンと出会った本栖湖のキャンプ場。春彦はアクセルを回して走り出した。

 

 快調に走る春彦のアドレス。透き通った冷たい冬の空気を感じながら、紅葉で色づいた山々の間を抜けていき、走ること約30分。特にトラブルに見舞われることもなく、春彦は本栖湖のキャンプ場に到着した。

 

「よーし、着いっ… たぁ~」

 

 ロッジの前にバイクを停め、春彦は伸びをして固まった体をほぐした。そのままロッジの中に入り、受付でチェックインを済ませると、再びバイクに乗って湖畔に続く道を下りていく。木々に囲まれた道を抜けて視界が開けると、富士山をバックにした雄大な本栖湖の景色が春彦の目に飛び込んできた。

 

「おぉー…」

 

なでしこから聞いた通りの素晴らしい景観に春彦も思わず声を上げる。そして…

 

「本栖さん、お久しぶりです」

 

 バイクから降りると姿勢を正して本栖湖に向かって一礼した。

 実は春彦、ここ本栖湖には埼玉に引っ越す前に2度ほど釣りをしに訪れたことがあり、昔を思い出した春彦は、懐かしさに思わず挨拶が出てしまったのだ。

 

 本栖湖への挨拶を済ませた春彦は、手頃なスペースを見つけると、早速テントの設営に取り掛かった。アンダーシートを敷いて、テント本体にポールを差し込み本体を立ち上げ、フライシートを被せてペグを打ってテントを固定する。以前やったことがあるおかげか、流石にこのあたりはスムーズにこなしていく。

 

 それから持ってきた荷物の中から、折りたたみの椅子やランプなどその他の装備を使うものだけ取り出し、残りをテントの中に仕舞う。

 

「うぉ、めっちゃキャンプだわこれ」

 

 テントの前に持ってきたキャンプ道具を並べると、中々にそれらしい感じになり、春彦は感動して目を輝かせた。並べられたキャンプ道具たちをじっくりと眺めていく。

 

「今日はもうこれでいいんじゃないかな」

 

 すでに翌日までの利用料を支払っているので、当然本気で帰るつもりはないが、こうしてキャンプらしい画を見れただけでも、春彦としてはそこそこ満足だった。

 

「でもこんなのも買っちゃったしなぁ」

 

 調理用に新しく揃えたガスバーナーとコッヘル。この2つに関しては使わずに帰るのは流石にもったいない気がする。

 

「ま、今日は大して使わんけど」

 

 アウトドアショップで衝動的に買ったはいいものの、流石にしょっぱなから本格的なキャンプ料理を作る気は起きなかった春彦。一応今日も使いはするつもりではあるが、その用途としてはカップ麺を作るためにお湯を沸かすことだけだ。

 

「さてと…」

 

 ひとしきりキャンプ場所での設営を終えた春彦は、椅子に座ると魔法瓶に入れて持ってきたほうじ茶を飲んで、ようやく一息つくことができた。

 

 リラックスして改めて景色を見渡すと、千円札のモデルになったという本栖湖越しの富士山が嫌でも目に入る。耳を澄ませば風で木々が擦れる音や、湖の波の音が聞こえる。春彦以外のキャンプ客が周りにほとんどいないせいか、この静けさの広がる湖畔にいると、どことなく時間がゆっくりと流れているような感じがした。

 

「いやほんと、今まで俺がやってきたの、キャンプじゃなかったわ」

 

 寒さという問題を除けば、今までしていたキャンプとは比べ物にならない快適さと心地よさに、春彦はすでにやられかけていた。しかし1時間ほほど経つと、流石にリラックスしているだけでは飽きてきくる。退屈さに加え、周りにほとんど人がいないことへの寂しさも感じ始めた。

 

「流石に暇だな…」

 

 春彦はここにきて自分の計画性のなさに気が付く。キャンプというのはテントの設営などが済んでしまえばあとはあまりやることがない。もちろん火を起こしたり、食事をとったりと多少はやることもあるが、それでも翌日までの長い時間の中ではほんの僅かなものだ。春彦は買ったばかりのキャンプ道具に興奮するあまり、キャンプをする以外の目的を考えていなかった。

 

「本とかラジオとか持ってくるんだったな… てか目の前に湖あんのに釣りできねぇとかっ… う~わ~…」

 

 水があり、魚がいれば釣りをしたくなるのが釣り人の性であるが、頭を抱えて足をバタつかせたところでどうにもならない。

 

 なにか暇を潰して寂しさを紛らわす方法がないかと考える春彦だったが、ふとズボンのポケットに入っているスマホのことを思い出した。スマホの電源を入れてカメラを起動し、目の前の富士山の景色の写真を撮る。そしてその写真を千明に送ろうとするが…

 

「そういやあいつ今日バイトだっけ、犬山…もたしかそうだ…」

 

 メッセージを送ったところで、バイト中のふたりから返信が返ってくるのはいつになるかは分からない。となると友達の中でキャンプ好きな人間といえば、春彦が思い当たる人間はひとりだけだった。

 

「そうだ、各務原…」

 

 つい先日知り合ったばかりで、まだ友達といえるかも微妙ではあるが、状況を考えれば彼女は適役といえる。

 

「初めてメッセ送るのって、なんかちょっと緊張するよな…」

 

 別になでしこのことを異性として意識しているわけではないが、それでも出会ったばかりの女の子に自分から連絡するというのは、それだけでなぜか緊張してしまうものなのだ。

 

 妙に緊張しながらトークアプリを起動してなでしこのアカウントを見つけると、チャットを作成して撮影した富士山の画像とメッセージを送信した。

 

『いま本栖湖来てる』

 

 おそろしく要点だけをかいつまんだ飾りっ気ゼロのメッセージ。その文面から春彦の微妙な緊張が伺える。

 

「これでよしっと…」

 

 ヴーッ

 

「はやっ!」

 

 まだ送ってから20秒も経ってないぞ?

 

 あまりの返信の速さに、春彦は一瞬なでしこ以外の誰かがタイミングよくメッセージを送ってきたのかと考えたが、送り主はしっかりとなでしこだった。

 

 春彦は思わず周りを確認する。どこかでなでしこがメッセージを送っているところ見ているんじゃないかと思ったようだが、当然なでしこはいるはずもない。

 

「まあ、ありえないよな、そんなこと…」

 

 あまりにも馬鹿馬鹿しい自分の考えにため息をつく春彦。なでしこが話していたリンとの鍋キャンプが、まさに春彦の考え通りだったことなど当然だが知る由もなかった。

 

『おぉー! 昼間の富士山! 私が行ったとき全然見えなかったんだー』

 

 こちらもこちらでなでしこのテンションの高さがその文面からよく伺える。なでしこは自分が行った時に見えなかった昼間の富士山が羨ましいらしい。

 

『でも来週野クルキャンプなのに小沢君頑張るねぇ』

 

『なんかキャンプ道具買ったら使ってみたくなって』

 

『わかる! 私もおとといから寝袋で寝てるんだ』

 

 マジかよ… こいつ俺とおんなじことしてんじゃん…

 

 実は春彦も寝袋を買った日の夜に、部屋に布団があるのにわざわざ寝袋で寝ていた。まあ流石にそのことは恥ずかしいのでなでしこには言わなかったが。

 

『あ、小沢くんのキャンプ道具みせてよ』

 

 春彦が使っているキャンプ道具が気になるというなでしこからのメッセージに、春彦は立ち上がってテントを中心にキャンプ道具の写真を撮ってなでしこに送る。

 

『おぉー! ちゃんとキャンプしてる! いいなぁー』

 

『適当に買ったけどわりとそれらしくなったわ』

 

『自分で買ったんでしょ? すごいなぁ』

 

『まぁ、引っ越す前はバイトしてたし』

 

 実を言うと春彦のお金は新しいバイクを買うための費用として貯めていたものだったのだが、今のバイクも古くはなってきたが走ることに関しては支障はないので、新しいキャンプ道具に使うことにしたのだ。

 

『なんのバイト?』

 

『レストランでホールやってた。だからこっちでも似たようなバイト探そうと思ってる』

 

『そうなんだ。やっぱ私もバイト探そっかなー、お小遣いだけじゃ心もとないし…』

 

『いいんじゃね? 千明も犬山も始めたし、キャンプってそこそこ金かかるしな』

 

 もともと釣り道具のためにバイトを始めた春彦だったが、お金がかかる趣味という意味ではキャンプもそれに当てまるわけで。親が気前良くなんでも買ってくれるなら別だが、そうでないのならやはりバイトをするのが一番現実的だ。それになでしこにはバイトをしたいと思う理由があった。

 

『実はちょっと私も興味あるんだ、ソロキャン』

 

 人懐こいなでしこは、基本的にはキャンプは友達としたい派ではあるが、それとは別になでしこがキャンプに興味を持つきっかけとなった、リンが好んでするソロキャンにも少しだけ興味が出ていた。

 

『ソロキャンしなくてもキャンプ道具は欲しいし』

 

 ソロキャンをするには自分のキャンプ道具を揃えなければならない。もしそうなれば、今よりもお金が必要になるのは当然だし、ソロキャンをしないにしても、自分のキャンプ道具が欲しいという気持ちは少なからずなでしこは持っていた。

 

『そか。まぁいいと思うぞ? バイトはやっといて損はないしな』

 

『うん、ちょっと考えてみるよ』

 

 後に本当になでしこがバイトを始めてソロキャンをするなどとは、この時の春彦は考えてはいなかった。だがそれでも彼はなでしこのことを素直に応援した。 

 

 そんなこんなでトークアプリでなでしこと会話しながら、春彦は近くを散歩したりしてのんびりと時間を潰していった。そして夜になると買ったばかりのバーナーとコッヘルでお湯を沸かしてカップ麺を食べ、その日は早めに就寝し、翌朝は早めに片付けを済ませて、チェックアウト時間の10時に帰路についたのだった。

 

 

「で、どうだったんだ初めての冬キャンは?」

 

 休み明けの月曜日の放課後、春彦は野クルの部室に集まった千明たち3人に、先日のキャンプの感想を訊かれる。

 

「結構良かったぞ? 景色はいいし、飯は普段の3倍くらい美味く感じるし、買った道具のおかげか思ったより快適だったな」

 

「ほうほう、春彦もようやくキャンプの醍醐味を分かってきたようだな?」

 

 自分も大してキャンプをしたことがないくせをして、千明はどこか先輩面をしながら春彦に言った。

 

「まあな、トイレもあるし、地面も平らで寝やすかったぞ?」

 

「平らだと…?」

 

 春彦の言った「平ら」という言葉にどこかひっかかりを覚える千明。

 

「お前今あたしの胸見て言ったろ!」

 

「は? お前の胸見る男なんかいねーよ」

 

「なにをーっ!」

 

 春彦の罵倒を皮切りに千明が春彦に掴みかかり、何の前触れもなく春彦と千明は取っ組み合いの喧嘩らしきなにかを始めた。

 

「このっ…貧乳をバカにしおって…!」

 

「悔しかったら育ってみろっ…!」

 

「わぁぁ~ふたりともケンカはやめて~!?」

 

 取っ組み合ってお互いの頬を引っ張り合う千明と春彦に、なでしこは慌ててふたりの仲裁に入ろうとする。

 

「大丈夫やでー、なでしこちゃん」

 

「へっ…? でもふたりがケンカして…」

 

「あれはじゃれあいみたいなもんでな? ふたりにはいつものことなんよー」

 

「そうなの?」

 

 よく見るとふたりのケンカはどちらもかなり手加減をしている。あおいの言う通り、ふたりのこのケンカは単なるじゃれあいのようなものでしかなく、お互い本気で相手を憎んだり、傷つけようとしたりする意思は全くないのだ。

 

 なでしこよりもふたりとの付き合いが長いあおいは、そのことをきちんと分かっており、むしろふたりのケンカを「懐かしいなぁー」と微笑ましそうに眺めていた。そしてあおいの言葉でふたりが本気でケンカしていないと気づいたなでしこは、ふたりの奇妙な関係に戸惑うかと思われたが。

 

「そっかぁ、やっぱりふたりって仲いいんだね!」

 

「へ? あー… まあな!」

 

「そうだな、まあ俺達そこそこ付き合い長いから」 

 

「へぇー、なんかいいなぁ… あっ、ねえ小沢君、私のこともなでしこって名前で呼んでよ?」

 

 なでしこはむしろふたりのやりとりを見て、その仲の良さが羨ましくなったようで、とりあえず春彦と仲良くなろうと、お互いの呼び方を変えるよう春彦に提案した。

 

「ん? あぁ、別にいいけど…」

 

「やった! じゃあ私はハル君って呼んでいい?」

 

「おう、まあいいぞ…?」

 

「よーしっ! あ、そうだ、私もほっぺたつねっていい?」

 

「それはやめてほしいかなぁ…」

 

 なでしこの勢いに押されて名前呼びを許した春彦だったが、そのあとの要望には流石に却下した。あのスキンシップは千明とだからやる訳であって、当然ではあるが誰彼構わずする訳ではない。

 

 とまあそんなふうに春彦はなでしこと名前呼びしあう仲になった訳だが、その様子をひとり面白くなさそうに見ている者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 野クルの活動が終わったあと、春彦は野クルの面々は揃って下校した。途中最寄り駅が違うなでしことバイトがある千明とは別れたが、あおいが家にみかんが大量にあってお裾分けしたいと、春彦に提案した。

 

 思い出したように言われたあおいの申し出に、ふたつ返事で了承した春彦。だが彼女の家に向かう道中、あおいは思いもよらぬことを春彦に言い始めた。

 

「そういえば小沢君、なでしこちゃんのこと名前で呼ぶようになったやん?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

「私のことは名前で呼んでくれへんの?」

 

「んー?」

 

 話の流れがよく理解できず、春彦は首を傾げる。

 

「えーと、なんでまた急に…?」

 

「だって私なでしこちゃんより付き合い長いのに、小沢君まだ名前で呼んでくれてないやん?」

 

「それが気に入らないと?」

 

「気に入らんってほどのことでもないんやけどー…」

 

 あおいと春彦は中学からの付き合いなので、そこまで長いものではないし、春彦が埼玉にいるときも千明のように頻繁には連絡を取り合っていなかった。そのせいもあってかふたりの距離感はいまだに微妙なままだった。しかしあおいとしては、野クルの他の3人の中で自分だけ名前呼びされないというのは、妙な違和感というか、疎外感のようなものを感じてしまうわけで。

 

「たしかに一理なくもない。お前だけちょっと仲良くないみたいだもんな?」

 

「せやろ?」

 

「わかった! じゃあ犬山のことは千明とおんなじ様にイヌ子って呼ぶわ」

 

「……」

 

「お気に召さない……?」

 

 なぜかは分からないが、あおいはどうしても春彦に下の名前で呼んでほしいらしい。よく分からないあおいのこだわりに、春彦は一瞬ゴネてやろうとも思ったが、むしろ面倒になりそうだと考え直し、素直にあおいの言うことを聞くことにした。

 

「じゃあ…… あおいって呼ぶよ」

 

「せやなぁ、小沢君がどうしてもって言うならそう呼んでええよ?」

 

 とても楽しそうに笑いながら言うあおいに、春彦は「めんどくせぇぇ」と内心かなり苦い顔になるが、とりあえずこれでこの騒動が終わるならと、ここはぐっと堪えることにした。しかし、呼び名云々についてはこれだけではまだ終わらなかった。

 

「じゃあ今度は私が小沢君のことなんて呼ぶかやなー」

 

「そうだった……」

 

 春彦があおいのことを下の名前で呼ぶなら、当然あおいが春彦をなんと呼ぶかも決める流れになる。春彦の苦悩はまだ半分が終わっただけでしかなかったのだ。

 

「もうどうぞ、ご自由に呼んでください……」

 

「せやなぁ、ハル君っていうのはなでしこちゃんに取られてもうたし… あっ、春ちゃんってのはどお?」

 

「ちゃん付けってのは…… あんまりじゃないか?」

 

「えぇー、ご自由にって言ったやーん」

 

 たしかに自由に呼べとは言った春彦だが、なんとなくちゃん付けされるというのは気が進まない。ちゃん付けされるようなキャラじゃないし、どことなく子供っぽいと感じるからだった。

 

「んー…… じゃああきみたいな感じで、はるってのはどう?」

 

「まぁ、はるちゃんよかいいかな……? いや、もうはるでお願いします」

 

 未だ納得しきってはいなかったが、これ以上ゴネたところでやっぱり自分が不利になるだけだと春彦は悟った。あおいの性格のせいもあるが、春彦は基本的にこういった押し問答にはめっぽう弱いタイプなのだ。

 

「意外とあっさりな感じやね?」

 

「いや、なんか俺たち、今めちゃめちゃ恥ずかしいやりとりしてんなって思って……」

 

 春彦の言う通り、傍から見ればふたりのやりとりは下手すればカップルのようにも見えなくもない。少し冷静になった春彦は自分たちのしたやりとりを思い返して、なんとも居心地悪くなってくる。

 

「なんや照れてるん~?」

 

「照れてねーよ」

 

「そんな怒らんでよもぉー」

 

 散々からかわれてしかめ面になる春彦の背中を、笑いながらポンポンと叩くあおい。ふたりの表情は対照的ではあるが、一応春彦も怒っているというわけではなかった。

 

「あ、そういえば、うちの妹がはるに会いがってたでー?」

 

「あぁー、あかりちゃんだっけ? よく俺のこと覚えてたな」

 

「えらいはるのこと気に入ってたしなぁ?」

 

「なんかやたら懐かれてた覚えがある」

 

 あおいをそのまま小さくしたような彼女の妹、犬山あかりを思い出して春彦は首をかしげる。

 中学時代に春彦があおいの家に遊びに行った際、なぜか春彦はあかりにやたらと気に入られてしまった。春彦が引っ越すと聞いたときはガチ泣きして悲しんだあかりだったが、その春彦が山梨に戻ってきたことを先日あおいがあかりに告げたところ、あかりは跳び上がって喜んだのだそうだ。

 

「俺そんな気に入られるようなことしたっけか?」

 

「それは私にも分からんなぁ……」

 

 散々春彦のことをからかったあおいだったが、こればかりは本当に心当たりはなかった。どうして春彦が好かれるのか。その理由はあかり本人にしか分からないが、一つ確かなことは、このあと春彦は犬山宅であかりから大歓迎を受けるであろうということだった。

 

 

 

 

 

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