行こうよ! ゆるキャン△   作:Pain elemental

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第6話 絶品!暗黒物質!?

 

 イーストウッドでのキャンプから一週間後、引っ越しの片付けもだいぶ落ち着いてきた春彦の部屋に、彼が山梨に越してから初めての来客がやってきた。

 

「おぉーここが春彦の新しい部屋か。相変わらず釣り道具だらけだなー」

 

「あんま触んなよ、ってもう触ってるし…」

 

 春彦が注意したときにはすでに千明は春彦の部屋にある釣り具を物色していた。

 

「このパソコンのマウスみたいなのはなんだ?」

 

「それはワカサギ釣り用の電動リール」

 

 千明が手に取ったリモコンのような小型の機械を見て春彦が答える。

 

「電動って、手で巻かないのか?」

 

「電動のが手返しがいいからな」

 

 ワカサギ釣りは次から次へと魚を釣り上げていく手返しの釣りだ。だから仕掛けを落とす速さと仕掛けを巻き上げる速さが非常に重要になる。しかし従来のワカサギ用手巻きリールでは、そのどちらの動作も遅くなってしまうという欠点がある。

 

 近年ワカサギ釣りにおいて主流となっている電動リールにはそれらの欠点はなく、本格的にワカサギ釣りをするアングラーたちの大半が電動リールを使用しているのである。

 

「電動なら片手で操作できるから、もうひとつ竿を出して二刀流にしてより数を伸ばしていくこともできるぞ」

 

「へぇー、釣り道具も色々進化してんだな。キャンプと同じだな」

 

 春彦の薀蓄に適当に相槌を打つ千明。すぐに彼女の興味は釣り道具よりも釣った魚の方に移っていく。

 

「釣ったワカサギは食べるんだよな?」

 

「ああ、天ぷらに唐揚げ、南蛮漬けにフライ。どれもうまいぞ」

 

「いいねぇー。なぁ、今度あたしも連れてってくれよ?」

 

「連れてくのはいいけど、エサがなぁ…」

 

 ワカサギ釣りに使われるエサはいわゆる虫エサで、サシと呼ばれるハエの幼虫、いわゆる蛆虫であったり、赤虫と呼ばれる蚊の幼虫などをエサとして使用する。虫エサに抵抗がない人はいいとして、釣り経験のない女性には中々に厳しい戦いになるであろうことは容易に想像できる。

 

「一応人工エサとかもあるけど、食いがイマイチだったりするんだよな」

 

「そのへんは生き物相手だからしょうがないよな。ま、春彦が釣ってきてくれればそれでいっか」

 

「その度たかりにくんのはやめろよな」

 

 かくいう今日も春彦が午前中に釣りに行っていたと聞いたから千明はやって来たのだ。そして千明がたかりに来るくらいなのだから、当然今回春彦が釣ったものも美味しく頂けるものである。

 

「春彦の魚料理はうまいからさ、つい来ちゃうんだよなー」

 

「褒めたってたかってることにゃ変わりはないだろ?」

 

「今日は久しぶりってことでな? 作ってくれよなぁー?」

 

「初めから作ってやるつもりじゃあるけど、今後何度となく来ると思うとめんどくせーなってな」

 

 可愛げのないことを言う春彦ではあるが、それでもやって来たらなんだかんだで作ってあげてしまうわけで。自分が作ったものを美味しいと食べてもらうのはまんざらでもないのだ。

 

「あぁ、そういえば今日なでしこも来るってさ」

 

「は? なんだその新情報? あいつ四尾連湖にキャンプ行ってんじゃねえのか?」

 

「春彦が絶品魚料理を作るって言ったら、夜には帰ってこれるから行きたいって」

 

「しゃーねーなぁ… とりあえず来てもいいって連絡しとくか…」

 

「ああ、もう言っといたから大丈夫だぞ?」

 

「あのよぉ、まず俺に話を通せ?」

 

 春彦の許可など取らずにすでに千明はなでしこのことを招待しており、春彦の家の場所や来る時間などもしっかりと連絡済みだった。中々に非常識ではあるが、春彦と気の置けない仲である千明だからこそ許される横暴だ。

 

「まあいい、ひとりもふたりも変わんねーし」

 

「春彦ってなんだかんだ優しいよなー、あたしは好きだぞーそういうとこ」

 

「俺はお前のそういうとこ、あんま好きでないよ」

 

 面と向かって好きじゃないと言えるのも本気ではないとわかっているからで、ある意味仲の良い証拠である。悪態を交えながらふたりが談笑していると春彦の家のインターホンが鳴った。

 

「こんにちはー」

 

「ようなでしこ。まあ上がってけ」

 

「おじゃましまーす」

 

「キャンプはどうだった? 楽しかったか?」

 

「うん! 焼き肉キャンプ、すっごい楽しかったよ!」

 

「そりゃよかったな。キャンプしながらうまいもんたらふく食えて」

 

「昨日はリンちゃんと焼き肉… 今日はハル君ちで魚料理… 幸せだなぁ~」

 

「飯のあるところなでしこありだな」

 

 すでに顔がほころびまくっているなでしこを家に上げて、とりあえず自分の部屋に通した春彦。部屋では千明がすっかりくつろぎモードになって、ベッドに寝転んでキャンプ雑誌を読んでいた。

 

「さて、来て早々悪いけど、これから作り始めるから千明は手伝え」

 

「えぇーっ」

 

「なでしこは部屋で適当に待っててくれ」

 

「ううん、はる君に作らせて私は何もしないなんて悪いし、なにか手伝うよ!」

 

「聞いたか千明? これが感謝の気持ちってやつだ」

 

「あたしだってちゃんと感謝はしてるぞー」

 

 それならちょっとは行動で示せと、春彦はなでしこと千明を伴って台所にやってきた。そして台所の床に置いてあるクーラーボックスを開けて、その中身を新聞紙を敷いた流しに取り出す。

 

「おぉー今回も大漁だな!」

 

「すっごーい! これ全部イカだよね?」

 

「そうだ、全部で19杯あるな」

 

 流しいっぱいに出てきたのは『コウイカ』というイカだ。刺し身などでポピュラーなアオリイカやヤリイカとはまた別の種類であり、別名スミイカとも呼ばれるこのイカは、その名の通り墨が非常に多いのが特徴だ。

 

「イカとはまた面白いもん釣ってきたなー。刺し身とかがうまそうだぁ」

 

「お刺身、フライ、煮物にイカ焼き… どれもおいしいよねぇ」

 

 魚介類としては比較的ポピュラーなイカに、これから出来上がるであろう料理を想像してよだれを垂らす千明となでしこ。しかしそんなふたりの予想とは裏腹に、これから春彦が作ろうとしている料理は意外なものだった。

 

「まあ、刺し身とかでもいいけど、せっかくのスミイカだし今日はそれらとはちょっと違うの作るかな」

 

「違うのって、他にイカ料理ってなにがあるっけか?」

 

「スパゲッティがあるだろ? イカスミの」

 

「え? イカスミパスタ作んのか?」

 

 意外な料理に少しだけ怪訝そうな顔をする千明。

 刺し身や天ぷらなどのレシピも勿論あるが、別名スミイカとも呼ばれるコウイカは、イカスミを使ったソースで作るパスタが非常に有名である。たしかにイカ料理の中ではちょっと変わり種ではあるが、イタリアのヴェネツィア発祥でもあり、味の方はちゃんと美味である。

 

「イカスミパスタって自家製でできるの?」

 

「作るの自体はそんな難しくないぞ」

 

「味の方は大丈夫なんだろうな?」

 

「おうよ。こないだ作ってすげーうまかったから、是非ともお前たちにおみまいしてやろうと思ってな」

 

「おみまいって言葉が怖いな…」

 

 不安そうな千明を尻目に、春彦は早速調理に取り掛かる。まずはイカのしたごしらえだ。

 

「まずは甲らを、よっと… こうやって取り出す」

 

「わっ!? なんか白い殻みたいなのが出てきたよ!」

 

 春彦がイカの頭を下にして、足を掴んで流しの底に押し当てると、胴の隙間からツルリと白い甲が飛び出てきた。ちなみにコウイカの名前の由来であるこの甲は、インコのカルシウム補充のための餌として売られていたりする。

 

「んで次は胴に手を入れて、足を内蔵ごと引き抜いてっと… あ、これが墨袋な?」

 

 春彦は包丁などを使わず手際よく下処理したイカから、水銀のような色をした袋を取って千明となでしこに見せた。

 

「へぇーここにスミが入ってんだなー。ってなでしこ?」

 

 両手で目を覆って指の隙間から見ているなでしこに千明が気がつく。

 

「私、内蔵とか見るの苦手なんだぁ…」

 

「あぁ…」

 

 なでしこの主張に千明は納得したように頷く。体力面は非常にタフななでしこだが、怖いものや血が苦手と、女の子らしい一面もちゃんとあるのだ。

 

 そんななでしこをよそに、春彦は19杯もあるイカを慣れた手付きで次々と処理していき、あっという間にすべてのイカを捌ききった。

 

「よし。捌いたらイカの身を適当に細く切って… 次はいよいよソースとパスタだな」

 

「ひと切れもーらいっ! んーっうまっ!」

 

「あーっ、あきちゃんずるいよー!」

 

「ちなみに一晩寝かすともっと味が出るぞ?」

 

 つまみ食いする千明たちに豆知識を披露しながら、春彦はソースを作るフライパンを取り出して、パスタを茹でる鍋にお湯を沸かす。

 

「ソースの味が濃いから塩は少なめにして、パスタを入れて… 千明、そこにあるタイマー7分にして、なでしこは盛り付ける皿出して」

 

 沸騰する鍋にパスタを投入し、その横でフライパンに熱を入れる。フライパンに市販のガーリックと赤唐辛子のオイルソースを適量、そしてイカの肝と墨袋を適量入れて、肝と墨袋をおたまでつぶしながら、焦げ付かないよう弱火で混ぜていく。

 

「パスタ茹で上がったぞー」

 

「よし、じゃあザルで水を切って… フライパンに入れて火を止めて絡める」

 

「頑張ってハル君! パスタは手早さが命だよ!」

 

 茹で上がったパスタと一緒に茹でていたイカの切り身をフライパンに入れて手早くソースと絡めていくと、薄黄色がかったパスタがどんどんと真っ黒に染まっていく。

 

「なんか、ものすごいダークマターが出来上がってくな…」

 

「ほんとにすっごい真っ黒だよー」

 

「見た目はアレだけど味はうまいからな?」

 

 真っ黒になったパスタに細かく切った青しそをふりかけ、用意しておいた皿に盛り付けていき、見た目ではちょっと食欲をそそらない春彦特製のイカスミスパゲッティが完成した。

 

「お前ら食わんの?」

 

「いや、ちょっと見た目がな…」

 

「私、イカスミパスタ初めて食べるよぉ」

 

 手を付けようとしないふたりの前で春彦が完成したパスタを口に運ぶ。

 

「んん! やっぱうまいわこれ」

 

「ほんとかよ春彦? お前のうまいは信用できないんだよな…」

 

「言っとくけど俺だって味覚は普通だからな?」

 

 千明の中では野生児なイメージが強く、実際虫系の料理でも平気で食べてしまう春彦だが、味の良し悪しはきちんと分かっている。それでも千明は二の足を踏むが、なでしこは春彦の言葉を聞くと思い切ってその真っ黒なパスタをおそるおそる口に運んだ。

 

「んんっ!? うまっ!? これおいしいよあきちゃんっ!」

 

「マジか? どれどれ… んっ!うんまーっ!」

 

 イカスミパスタの美味しさに驚く2人に「ほらな」と言わんばかりに春彦がドヤ顔をする。

 

「これ前レストランで食べたのよりうまいぞ!」

 

「肝が新鮮だからな、素材のおかげだよ」

 

「ソースが濃厚でおいひ~」

 

 新鮮な肝とスミを使ったソースは濃厚でパスタによく絡み、独特のイカの香りがするものの生臭さなどは一切なく、千明が以前食べたような養殖ものよりも確実に美味なことは間違いなかった。

 

 さっきまで二の足を踏んでいたのが嘘のようにイカスミパスタを頬張る千明となでしこ。なでしこの食い気を考えて多少多めに作ってあったのだが、春彦特製のイカスミスパゲティはみるみるうちに食べ尽くされ、あっという間に売り切れになってしまった。

 

「はぁ~おいしかったぁ~」

 

「あははっ、なでしこお前口の中真っ黒だぞ?」

 

「お前もな千明。ま、おいしかったようでなによりだ」

 

「やっぱ春彦の作る魚料理は間違いないな!」

 

「さっきのお前のセリフ忘れちゃいないぞ?」

 

 イカスミで口の周りを黒くして満足感に浸る3人。パスタの見た目は暗黒だったが、心の中は春を思わせるような明るい色に染まっていた。

 

「あ、リンちゃんから返信来てる」

 

 食事前に出来上がったパスタの写真をリンに送っていたなでしこがスマホで返信を確認する。

 

『暗黒物質?』

 

 中々に失礼な返信をしてきたリン。やはり見た目だけではイカスミパスタのおいしさは伝わらなかったようだが、見た目的にこればかりは仕方がないことだろう。

 

「まあ、この色はなぁ… 海苔とかと違って食欲を無くす色だしな」

 

「春彦には悪いけど、墨汁そのまんまだよな」

 

「あはは…」

 

 残念ながらリンにはその味を伝えることができなかったものの、実際に食べた千明となでしこには大好評だったイカスミパスタ。そしてこの料理があまりに気に入ったのか、これ以降春彦が釣った魚を料理する際には千明だけでなく、味を占めたなでしこまでもがやって来るようになってしまったのだった。

 

 




胃袋を掴むって重要なことなんですよね?(すっとぼけ)

あと関係ないけど、キャラの中では千明と恵那ちゃんが好きです。
もちろん他の子も好きだけど。
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