断捨離   作:でぃえん

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 人生の転機は何だったか? 

 

 そう問われると、俺の場合はギターになるのだろう。 

 

 こいつと出会ってからずっと…大学に入ってからも抜け出せずに、バンド仲間とプロなんてものを目指そうとした。 

 

 その結果として今の俺がいる。 

 

 音楽で食っていくことを諦められずに、ここでスタッフをして。  

 

 その原点はどこにあったか? 

 

 

 

 

 

 それは、父だ。  

 

 

 父はいつものように思いつきでギターを買ってきて、そしてほんの一ヶ月で辞めてしまった。 

 

 多趣味だが飽きっぽい人だった。 

 その割に飽きたものでも捨てようとしなかったので父の書斎と倉庫には物がひたすら溜まっていくばかりであった。 

 母親も最初は散財と散乱した部屋に怒っていたようだが、いつの日か諦めていた。 

 

 

 その半ば打ち捨てられたギターが俺の最初の相棒である。 

 

 

◇◇◇

 

 「10年以上もギターやって、結局は仕事にして。

 俺とは全然違ったな」 

 

 皮肉げに笑う父の言葉が蘇る。 

 

 

 「…こうなってみると、何か一つに打ち込んどきゃ良かったんじゃないかって」 

 

 「未練がましかったんだ、また情熱が戻んないかと思ってずっと、ずっと」

 

 「捨てときゃあ良かったな、部屋の中のもの全部」 

 

 

 そして、随分と痩せ細った身体で述懐した。 

 俺は、耳を塞いでしまいたくて、たまらなくなった。 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 ライブスタッフをしながらプロを目指すことに随分と反対する父に向かって、何事にもすぐ飽きるお前に何が分かると吠えた。 

 そして、家を出て行ったのだ。 

 

 

 

 父の言ったことは誤りだ。 

 俺は、父と一緒だ。 

 全く、血筋は争えないのだ。 

 

 

 いつまでたっても過去を捨てきれず。 

 あのとき、父のギターを弾いていた頃を忘れられないでここまで来たと思っていた。 

 

 

 

 俺を突き動かしていたのは、いつの間にか父に対する意地でしかなくなっていたのに。 

 

 

 すっかり劣化して変質してしまった思いを、俺はいつまでも大事にする。  

 いつか、好きだったあの頃を思い出せるように、と。 

 

 

 

 ほら、親父と全く同じじゃないか。 

 

─────────────────────

 

 

 

 暫く無言が続き、俺が何を言おうか思案していると市ヶ谷ははっとしたように腕を離した。 

 

 「……すまん、余計なこと聞いた、かも」 

 

 

 市ヶ谷は顔を曇らせている。 

 遺品だということも悟られてしまったのだろう。 

 敏いな。と俺は思わずにはいられない。 

 

 

 「いや、別に。騙してた俺が悪いからそんな顔すんな。 

 後学のために聞くけど、俺のじゃねえってどこで気付いた?」 

 

 「蝉の抜け殻を趣味で集めてる奴は売ろうとなんかしねーし…

 そもそもいままでお前が捨てられなかったにしてはあっさりだったなって… 

 そんなにお前にとって大事なものなら、売りに出すときはもっと他の反応をするだろ」 

 

 

 

 せめて明るく売り飛ばしてやろうとは思ってたんだけど。 

 やはりそういう他人事の態度はバレてしまうものらしい。 

 

 「それで、何で急に手を放した? …あんなに聞きたがってたのに」 

 

 

 「……だって、これは」 

 

 市ヶ谷は言い淀む。 

 それでも小さく息を吸って、続けた。 

 

 

 

 「多分、家族か何かの遺品だと思った。

 ……気を、遣って、私に言わなかった、のかもしれないって、それで」 

 

 「あー!もういいから!」 

 

 今にも泣きそうな顔をして言わないでほしい。 

 

 

 「すまん、言わせちゃ駄目だよなこんなこと」 

 

 彼女の頭を数度、ぽんと叩く。 

 

 

 「気に病むなよ、そもそも別に気を遣ったわけでもなくて」

  

 「………なあ」 

 

 しかし市ヶ谷は顔を上げないまま、言葉を遮った。 

 

 

 「この人の遺品、全部持ってきたのか?」 

 

 

 「そうだったとしたら?」 

 

 

 「……あの、さ。

 私は、だけど。こういうの全部捨てちゃったら後で後悔するんだ。 …つか、した」 

 

 市ヶ谷は迷って、それでも俺の方を向いて、告げた。 

 

 

 「だから……その、お前も」 

 

 「まあ、全部売りに出してるわけないけどな」 

 

 

 「……………」 

 

 市ヶ谷の顔がみるみる朱色になった。

  

 と、思ったら萎んで、げんなりしていった。 

 

 

 

 

 「あーそう…もういいわ……。 

 なんか私がバカみてーじゃん」 

 

 

 「気持ちは伝わった! ありがとな市ヶ谷。 

 あと来年の年賀状はいらないぜ、喪中だし」 

 

 

 「お前の住所知らねえよ!」 

 

 

 

 やはり、市ヶ谷は元気にツッコミを入れてこそだな。 

 ちょっと元気になったようで安心した。 

 

 

 

 もう来んなよ!!という声を尻目に車に乗り込んで、助手席に置いていた初代相棒を撫でる。 

 雪はもうやんでいて、外は小春日和に戻っていた。 

 

 

 

 

 

 戸山の話が妙に耳に残っていたのだ。 

 

 だから、このギターも可愛がってくれる奴がいるかと思って流星堂に行くことを思いついた。 

 

 

 

 まあ、それは短絡的に過ぎたな、と俺は苦笑する。 

 

 なんの因果か、こいつはまだ俺の横にいる。 

 

 

 

 まさか市ヶ谷にいろいろと教えられるとは思わなかった。 

 でもまあ、Poppin' Partyとはそんな存在だったな。 

 流石に、彼女もポピパの一員だったというわけだ。 

 

 

 無理に離す必要なんてなかった。 

 決別だけが、選択ではないのだ。  

 

 

 

 

 

 ポピパが原点を追い続けて夢を撃ち抜こうとするように。 

 絶たれていた、目に見えない繋がりを復活させ、世界に共有するように。 

 

 

 

 俺も彼女たちのように、またこいつを抱いて眠っていたあの日に立ち帰ることが出来るんだろうか? 

 俺は自宅に向けて車を走らせながら、そんなふうに思った。 

 

 

 車の後ろに積まれたままの荷物は相変わらず、物凄い圧を俺に掛けてくる。 

 俺は苦笑した。 

 そういえば、こいつらも売り払ってしまうつもりだった。 

 

 

 まあ、これも縁だ。 

 家に帰ったら、やっぱり父の遺品はまた倉庫に戻しておこう。 

 母にはなんと言われるか分かったもんじゃないけれど。 

 

 

 

 

 そしてその後は……久々にこいつのメンテをして、そして、それから思うがままにかき鳴らしてやろう。 

 

 助手席に座る相棒を見て、俺は口笛を吹いた。 




 

 年末だしガルパのキャラがしかたなく大掃除を手伝ってくれる話を書こうというコンセプトで書きました。どうしてこうなった…?
 
 みんなが帰省して寂しがってる有咲も見たかったんですが正月イベはみんな集合してるらしいですね。よかったね有咲
 
 
 ご愛読ありがとうございました。よいお年を!
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