そして急展開っぽい点があります。お許しを。
───あれから色々ありまして、現在季節が変わり夏になりました。
バイトの方は軌道に乗りまして以前と変わらずやっていけています。接客業にも慣れてきたものですよ。日常生活の中で他人に対してうっかり『お嬢様』や『ご主人様』と呼んできてしまうくらいにはですね。その事を話すと流石の杏も苦笑いをしてました。やっぱり異常でしたか...
しかし、そんな杏は昨日シンデレラプロジェクトの合宿に行ってしまったので暫く会えません。と言っても一週間程度ですけれどね。一応飴を急いで大量に作ったので飴が無くなるということはないでしょうが...いざというときは諸星さんに任せましょう。あの人なら杏の面倒を見てくれるはずですし。
まぁ、だからと言って私が暇な訳がありません。今日もバイトがあります。時間はあまり無いので朝御飯は...今日はいいですね。抜きましょう...杏もいないのでね。
バイトというのは私にとっては癒しでもあるわけなので、少しルンルン気分...とでもいうのでしょうか、そんな気持ちで346プロダクションへと向かっております。表面に出すのは恥ずかしいので隠してはいますけど。
そんな中でです。
「...いますよね、これ」
私の後ろを誰かが着けているの感じました。どの辺りからでしたっけ...多分家の近くからでしょう。最初は気のせいだと思って普段は通らない道を通ったりしてやり過ごそうと思ったんですけど、それでも着けてきているのです。杏のファンとかですかね?
「...まぁ、気にしていても仕方ありません。行きますか」
結局、それは346プロダクションの敷地内へと入るまで続きました。
★ ★ ★ ★
「否ちゃん、何か悩み事でもあるんですか?」
「ふぇ?」
現在、バイトの休憩時間です。仕事ならば最長6時間は動けますし休憩なんて必要ないんですけど、カフェの店長が無理矢理休憩時間を作りやがりまして...悲しいですけど休憩してます。菜々先輩という監視役を付けてです。なんでこんな徹底してるんですか...
とまぁその時、菜々先輩がさっきの言葉を私に掛けました。
「...悩み事ですか?」
「はい。なんか浮かない顔をしていたので」
「...えぇと」
今朝の件...お話するべきでしょうか?菜々先輩なら何か知っているかもですし...
...いえ、菜々先輩の負担になりますし辞めましょう。それに、私の被害妄想だったという可能性も否定できません。
「いいえ、特にこれと言ってはないです」
「そうですか、勘違いだったんですかね?...でも、何かあったらいつでも相談してくださいね!」
「ありがとうございます」
菜々先輩が眩しいです...私はまだまだのようです。頑張って菜々先輩のように...いえ、これは無理ですね。菜々先輩のようにキラキラした存在になんて私には...
...おや、ようやく休憩時間が終わるようですね。
さて、切り替えましょう。It's begin、ですね。
★ ★ ★
...帰宅中です。仕事に夢中で今朝の件はすっかり抜け落ちてたんですが、また着けられていることで思い出してしまいました。
人数は...あれ、増えてますね。一人だったはずが三人辺りの気配を感じます。
ちょっとアレなので撒きますか、ということで、その辺の路地裏へ行くことにしました。単純に行き先が被っただけの可能性もありますし、これが被害妄想だったりしたらここまではこないはずですからね。
...まぁ、結果は最悪のものとなってしまいましたが。
「へっへ...とうとう追い詰めたぞ...」
「大丈夫だって。少し着いてきて貰うだけだしさ」
「飴なら山ほどあるよ...ぐひひ」
...うへぇ、気持ち悪い。なんですかこれは完全にヤベーやつじゃないですか。
しかもここは行き止まりですから逃げるにしても前の三人の男性を突破しないとなりません。これは無傷で突破するのは厳しいみたいですね...なんとか穏便に済ませたいのですが。
「...私を着けていたのはあなた方ですか?」
「お?なんかしゃべり方ちがくね?」
「ぐひひ...キャラ付けだったんだ」
話をしましょうよ。私は早く帰りたいんですが。
「私は双葉杏ではないですよ?」
「誤魔化しても無駄だって!」
「少し変装してもバレバレ...」
「そういうのいいから、俺らに着いてきてよ?」
さてどうしましょう...撒くために来たのが人の気配がほぼないところですから助けは望めません。
絶体絶命...ですか。
「...ッチ!おい!やるぞ!」
「し、仕方ないね!」
「しゃーねーなァ!!」
あれま、完全に包囲されちゃいましたね...
「おい、怪我したくなかったらさっさと頷け。俺らに着いてくるか?」
「嫌です」
「...は?お前この状況分かってんの?」
「だから嫌だと言ったでしょう。早くどいて下さい」
「...こんの、アイドル風情が!チョーシ乗ってんじゃねぇぞ!!」
その言葉と共に男から拳が私に向かって飛んできます。
...はぁ、使いたくはないですが...仕方ありませんね。怪我はしたくないですから。
「フッ!!」
「ガッ!」
「「!?」」
拳を最低限の動きで避け、股間に向かって思いっきり蹴りを放ちます。久しくやってない動きですからぎこちなさが自分でも分かりますよ。まぁ、この男には十分な一撃みたいでしたが。
そしてどうやらこの男が一番腕には自信があったみたいですね。他の男達は怯んで動きませんし。
「ッ...このガキ...!!」
「...一応言っておきます。私は『杏』ではなく『否』です」
「『否』?...『否』って...!!?」
「空手や柔道、合気道に飽き足らずダンスや剣道等数々の種目の大会で賞を獲得し、それぞれでプロの道に誘われたのにも関わらず受賞した後何故か辞めてしまった伝説の秀才、『双葉否』!?...噂では、アイドルの双葉杏にそっくりな見た目だと言われてるが...まさか!!」
「...お、おい嘘だろ?俺たち人違いした挙げ句、ヤベーやつに手を出しちまったんじゃねーか...?」
「ヒ、ヒィィィ!!い、命だけはぁ!!」
.................................
「...今回はこれで勘弁してあげますが...次は容赦しませんからね」
.....................帰りますか。
★ ★ ★ ★
「ただいま戻りました...ん?...あ」
反応が返ってこなかったので一瞬不思議に思いましたが、そういえば杏は合宿中でしたね。既に帰ると杏がいるものだと認識してしまっています...
...はて、この家はこんなに広かったでしょうか。なんとなく昨日よりとても広く感じます。
前はこの家に一人で住んでたんですよね...えぇ、その期間は杏と過ごす日々よりも長かったはずです。思えばあの時は───
「──いえ、やめましょう」
...さて、ご飯はどうしましょうか...なんかとてつもなく面倒ですね。今日は抜きましょうか...1食しか食べてませんが死にはしませんしいいでしょう。
と、すると───
「...電話?」
私の携帯に電話の通知が届きました。更に相手は──『非通知』。
5秒ほど取るべきか迷いましたが、とりあえず取ってみることにしました。詐欺紛いならすぐ切りましょう。
「...もしもし」
『もしもし、否?』
「...杏?」
『あー良かった。合ってたみたい。今ね、泊まってる場所の電話から掛けてるんだ』
なら非通知なのも頷けますね。ケータイはどうしたと思いましたが、皆と過ごして関係を深めるためケータイは置いていくように言われてたなんて愚痴ってたのを思い出しました。それ災害とかあったとき大丈夫なんですか?なんて私が返したのも。
そういえば杏からログボ受け取っといてって言われてましたね。後でやっておきましょう。
「合宿はどうですか?」
『うん、正直ヤバい』
「おや、何かあったんです?」
『全体曲の練習してるんだけどさー、全く息が合わなくてね』
「ふむ...まぁ、なんとかなるんじゃないですか?」
『うわ、かなり適当』
「実際現場を見てれば解決策は浮かぶのでしょうけど見てませんので」
『うーまぁそうか。そっちはどう?』
「今日は...そうですね、帰りに男三人に路地裏で追い詰められたことぐらいですかね」
『!?だ、大丈夫だったのそれ!?』
──おっと、これは話すべきではありませんでしたね。こちらでも分かるほど大声で叫ぶようにこっちに問いています。
「...んーまぁはい。なんとかなりましたよ」
『...ホントに?怪我とかしてないんだよね?』
「はい。きちんと穏便に済ませましたから」
...私の中では、ですけどね。嘘は言ってませんよ。
『ならいいけど...』
「えぇ、私のことなど気にせず合宿に励んで下さい。夏フェス...でしたっけ?応援してますから」
『...ありがとね』
「では、この辺りで」
『うん、じゃーねー』
後6日はこんな調子なんでしょうか...なんか調子が狂いそうです。
...寝ますか。どうせ明日もバイトですからね。その前にログボ受け取ってと...
夏フェスは...チケット予約してますが当たりますかねぇ。当たらないと見に行けないので是非とも当たって欲しいものですが。