実は、この展開は最初から考えてありました。
めちゃくちゃな個人解釈、個人設定入ります。ご注意ください。
──夏フェス当日。なんとかチケットには当選しました。杏にそのことを伝えると、『チケットぐらいなら杏がプロデューサーに言って用意出来たよ?』なんて言ってましたよ。なのでとりあえず『それではズルになりますからね』と言っておきました。それプラス色々話しましたが省略しましょう。長くなるのは自覚してますから。
野外のライブには初めて来ましたがやはり迫力が凄いですね...もう沢山の人で賑わってます。杏が出るのは...おや、真ん中のほうなのですね。まぁどうせ全部見るつもりなので関係はないですけど。
...おや、そろそろ始まるみたいですね。杏、見せてください。あなたのアイドルの姿を。
★ ★ ★
───圧巻。感想を言うならその一言でしょう。
私がこれまで行ったのは杏達キャンディーアイランドのデビューライブ。であるため比較的小規模だったのですが、今回はそれの何倍も上を行く大きさのライブ会場です。更に皆さん以前よりも相当成長していましたので素晴らしいという言葉も添えておきましょう。ありがとうございます、とも。
途中、新田さんが何故か出なかったとか雨が降りだしたなんてトラブルが有りましたが、それに屈することなく笑顔で皆さんとても頑張っていました。
杏達のライブですが、私が以前のようなことになることはありませんでした。ですが───
「...私は、どうでしょうか」
この思いが無くなることはありません。
ライブは確かに良かったですが、それとこれとは話は別なのです。私はアイドルの方々のファンではありますが、ライブを見に来たのは杏が出ているからという面が強く他の方々とは違い人生を全てアイドルに費やすなんて覚悟はありません。言い方はアレかもですが、テレビを付けて、その人が映ってたら『あ、ちょっと見てみようかな』なんて思うレベルのファンです。
...恐らく、私は永遠に探すのでしょうね。私の意味を、生きる意味を。
───いいえ、考えるのは止めましょう。今日は杏は打ち上げで遅くなると言ってましたので、ご飯は作らなくてもいいですね。今日は抜きましょう。
───そんな時でした。
「失礼、少し話をしませんか?」
...誰でしょう?スーツ姿の女性の方...
「...まぁ、大丈夫です」
「ふむ、では聞かせてください。君にこのライブはどう映りました?」
「...」
怪しい人ではなさそうですし、まぁいいですよね。
えぇと...私がどう感じたか、ですか。
「...そうですね。とても輝いていたかと思います。出演者の方々、ファンの方々、皆が一つになって一つのステージを作り上げてる...こんな具合にですね。キラキラしてました」
「なるほど」
...こんな感じですかね?なんか関係者っぽく感じますし意見としては妥当でしょう。
「...おっと申し訳ない。私はこういう者です」
「あ、これはどうも...!?」
かなり丁寧に名刺を頂いたのですが、そこには...
「346プロダクション常務取締役の...美城さん!?」
つまり346プロのNo. 4...めちゃくちゃ御偉いさんじゃないですか。...なんでそんな方が私にお声を。
「君の名前は?」
「...ヌヌ葉否です」
「そうですか、ではヌヌ葉否さん。後一つだけ聞かせてください」
そう言って美城さんは続けます。
「君も、彼女らのように輝ける可能性を持っている。どうでしょう、これから私が開始する予定のプロジェクトに参加してみませんか?」
★ ★ ★ ★ ★
「......お、お断りさせて頂きます」
余りにも展開が急過ぎで、少しの間フリーズしていましたが、なんとか言葉を捻り出すことに成功しました。
プロジェクトに参加するってことはアイドルになるってことですからね。全力で拒否します。
「...ふむ、何故です?」
「それは...相応しくないからです。あの場所は、彼女らだからこそ相応しい」
「果たしてそうかな?私からすれば、君は立派なアイドルの原石。磨けば輝くが、逆に磨かなければただの石同然。君にとってもこの機会は良いものだと思うが」
なんかこの人急に口調変わりましたね。これが素なんでしょうか。
「何か理由があるなら聞かせて欲しい」
「...」
...やけに食い下がってきますねこの人...仕方ありません、最終手段を使いましょう。本当は...やりたくないのですが...
「...分かりました。すみませんが場所を移動させて下さい。私と貴女以外誰も居ない場所へ」
★ ★ ★ ★
ライブを見に来たのは確かめるためだった。現美城プロのアイドル事業の様子を。
私は美城プロのデビューしてるアイドル、出演した番組、ライブ映像を全て目を通してきた。そこで抱いた感想は面白い、だった。一人ひとりそれぞれ異なる個性を持ちそれぞれが色褪せることない魅力を兼ね備えている。
──だが、それまでだ。それでは勝てない。
この現代社会。アイドル事業を制しているのは美城プロではなく、765プロなどだ。我々美城プロがそれらに勝つためにはとある目標を目指さなければならない。
そう...その目標こそがかの伝説のアイドル、『日高舞』。彼女がアイドルとして君臨していた時間は大して長くはない。しかし、現在存在するどのアイドルよりも輝き、どのアイドルよりも名前と顔が知られている。アイドルと言えばまず人々が最初に浮かぶのがこの『日高舞』だろう。
単体では彼女に匹敵することはほぼ不可能。ならばどうするか...そこで我が美城プロの武器である『数』だ。
他事務所に比べ美城プロは人材が非常に豊富。ならばこれを生かさない手はない。
私が美城プロのアイドル事業の役職として就任した際には全ての事業を一度白紙にし、一つに纏めようと考えている。全ては『日高舞』という存在に匹敵させるため。今後の美城のブランドはその方向へ向けようとも思う。
だが───足りない。美城プロに所属しているアイドルはデビューしてるしてないに関わらず全て目を通した。だが足りないのだ。これから自分が発足しようと考えているプロジェクトの最後のピースが。
名前やメンバーは粗方決めてある。方針は言わずもがな。だが欠けている気がしてならなかったのだ。
そんな思いを胸の内に秘めつつ、ライブを見てやはり一新しなくてはと再認識した時────偶然、彼女を見つけた。
ふと目にやった先に彼女はいた。帽子を被っていたものの見た目はこれほどかというぐらい『双葉杏』によく似ており、何故かライブを楽しそうに見ている他の客とは違い、羨望と諦感と...何かを求めているような、そんな視線で見ていた。
正直、私は彼女に惹かれた。美城の他のアイドルにはない魅力───上手く言葉には出来ないが───少しでも圧力を加えたら台無しになるような儚さ、多少穢れてはいるもののそこからうっすらとある美しさがそこにはあったのだ。
それで目の前の彼女は『双葉杏』とは別物であるとした私はライブ終了後に彼女に声を掛けた。彼女こそが探していた最後のピースに違いない、と確信して。
彼女──名は『ヌヌ葉否』というらしい──は私の申し出に断った。だが折角見つけたピースを失うわけにはいかない。なんとか食い止めようとするが乗り気ではない様子。そこまで断る理由は何かと思いそれを問う。すると彼女はこう切り出した。
「──すみませんが場所を移動させて下さい。私と貴女以外誰も居ない場所へ」
...誰も居ない場所か。余程広めたくないものらしい。
そこで私達は近場のホテルの一室へと向かった。偶然にもかなり空いていたらしくすぐに入ることが出来た。
部屋に入るや彼女は部屋の鍵、カーテンを全て閉める。そして椅子へと座りこう言い出した。
「...後日また、というのが嫌なのでここではっきりさせましょう。まずは私の身体を見てください」
とりあえず同意し彼女を見る。
かなり躊躇していたが、最終的に彼女は自分の長袖の上着を脱ぎ下着姿になる。その肌には────
「これは...」
「...醜いでしょう?これが理由です」
────物凄く痛々しい傷跡だった。
大量の切り傷、火傷の跡......数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど存在していた。
「...まさか」
「...そうです、私は両親から多数の虐待を受けてました...もう、その両親は居ないですけど」
「居ない...?」
「交通事故、らしいです。二人とも」
力なく笑う彼女は続けた。
「隠さず言ってもいいんですよ?気持ちが悪い、醜いと...昔で慣れましたから」
そんな彼女に、私は────
「私はそうは思わない」
「...いいんですよ、お世辞なん「私は冗談というのが嫌いな質だ」...て」
「...ヌヌ葉否さん。君と同じ目をした人間を私は向こうで見てきた。君と同じように、過去に囚われ何をすべきか分からないという人間をだ」
「!.........」
「君のしたいことすべきことや君の過去...それは分からない。だが、したいこと等は動かなければいつまでもそれははっきりしない。だからこそ、それを探してみないか?」
「...私はアイドルみたいに輝くことなんて...」
「アイドルというのは輝こうとしてなるものじゃない。輝いているものだ。いつの間にか輝いてるものだ。私は君にそうなる可能性を持っていると確信している」
「ですが、この身体が...」
「少なくとも、私はそれが醜いなどとは感じなかった。気になるのならばこちらでなんとかしよう」
「......そこでは見つかるのでしょうか。私が生きる意味を、希望を」
「...それはまだ分からない。だが、それも全力でサポートすることは約束する」
一呼吸置いて続ける。
「...ヌヌ葉否さん、ここでもう一度君の答えを聞きたい。私の予定しているプロジェクトに参加してみないか?」
「...私は──────
終わりが少し見えてきた