色々間違ってるかもしれません。許して。
それではどうぞ。
さて、プロジェクトクローネとしての活動は順調...順調?いえきっと順調なのでしょう。モデル雑誌の撮影やインタビュー等の仕事はありますのでね。仕事があるだけよいと思いますし。
ちなみに、ライブ公演はまだだそうです。秋の定例ライブ──要は、それなりに規模があるライブです──がプロジェクトクローネの初舞台となるらしいのですが...正直な感想を申し上げますと、本気か?と思います。
初レッスンの時に皆さんと色々と話していたのですが、完全な新人というのは私、そして鷺沢さんぐらいでして、後は元々別の部署に所属してたという方々ばかりなのです。それならば私達よりも経験値があるでしょうからまぁなんとかこなせるでしょう。
しかし完全に新人の私達がいきなり規模のあるライブ会場でライブをする...普通しませんよね?最初は小さい仕事からコツコツと...いやまぁ仕事はしてますけど、そこから始めるものだと思うのですよ。それに鷺沢さんは比較的人前に出るのが苦手な様子...緊張し過ぎで倒れたりしなきゃいいんですが...
「...あのー、否ちゃん?どしたの?」
「...おっと失礼。まだ撮影の途中でしたね」
辺りを見渡してみると、これでもかというレベルにまで精密に作られたスタジオのセット。正面にあるのは色んな角度に配置されたカメラやそれを操作するカメラマンさん達。
現在はプロジェクトクローネのPV撮影の真っ最中です。私としたことが、仕事中に別のことを考えてしまうとは...疲れでしょうか?いや、あり得ませんね。私が疲れるなど。
「ちょっと否、大丈夫なの?なんかさっきからボーッとしてたけど...」
「はい、もう大丈夫ですよ...皆さま、大変申し訳ありませんでした」
速水さんの言葉に応えつつ、ここのスタジオにいるすべての関係者さん達に頭を90度あたりまで下げて謝罪をします。
「いや、気にしなくていいよ!まだ撮影序盤の序盤だし、むしろ始まる前に元に戻ってくれてよかった!」
「ありがとうございます」
めっちゃいい方じゃないですか監督さん...っとと、配置に着かなくては。
今私が来ている衣装は長袖の黒と青を基調としたドレス。後、青色のバラに模したものがついてるゴムで髪を縛ってポニーテールにしてます。まぁ髪型に関してはいつも通りですからゴムを変えただけになりますけど。というか、正直ドレスというよりはビジネス用手袋を身につけたスーツに近い格好してますね、私。スカートが付いてるだけまだギリギリドレスと言えなくもないですが。
このPVには特に動くような場面は無く、決めポーズみたいなのを取るのが良いのだそうです。しかし思い思いにというわけではなく、きちんとどう動くべきなのかは指定はされてます。
まぁ、そこに関しては大してきつくはないんですけど。そこよりは完成形はCG込みのものとなるのでそれに合わせ易いようにするのが少々難しいって感じではありますね。
更に怖いのがこの様子を美城さんが見ている、ということなんですよね...見限られないように張り切らなくてはいけませんね。
と、緊張感を常に持ちつつ皆さんが望むようなポーズをとりながら撮影は進んで行き、そのまま何事もなく終えることが出来ました。
...そういえば、美城さんから後で来いと言われてましたね。早めに行かなくては...上司を待たせてはいけませんからね。
「失礼します」
「よく来てくれ......」
「......どうされました?」
美城さんがいらっしゃるお部屋...常務室とでもいいましょうか、そこに訪れた瞬間...いえ、美城さんが私を見た瞬間何故か固まってしまいました。
心なしか少し驚いて...いや引いてる?そんな気がします。しかし美城はすぐに表情を元に戻し私を見つめながら言いました。
「...いや、なんでもない。それよりかけたまえ、早速だが本題に入ろうと思う」
「分かりました」
手が示されている方向にあるソファに一言断りを入れてからかけ座ります。
...んー、なんとなくですが部屋が眩しいような...目もなんか乾いているのか若干痛みを感じる気もしますし...後で顔を洗ってすっきりするとしましょう。
「どうかしたか?」
「あ...いえ、なんでもないです」
「...そうか。それで本題なのだが...君の曲が完成した」
「!!」
...とうとう出来てしまったのですね。私のデビュー曲が。
その曲は先程述べた私のデビューステージである秋の定例ライブで歌うこととなる曲だそう。
最初私はてっきり誰かの曲を私が歌うという形を取り、顔と名前を覚えてもらうデビューになるかと思っていたのですがまさかデビュー曲まで頂けるなんて思っても見ませんでしたよ...
デビュー曲を頂くと聞いたのはほんの少し前でしたがもうできたとは...流石美城さんといったところでしょうか。この場合作曲家の方が凄いのでしょうかね。
「とりあえず聞いてみたまえ」
「分かりました」
渡されたヘッドフォンを付け、曲に集中するため目を閉じて耳をその曲に傾けましょう───
────どこか寂しさが垣間見えるイントロから始まり、歌詞の前に一瞬盛り上がったかと思えば無音になり...静かに歌詞が歌われていきます。曲のテーマは『失恋』でしょうか?......なんかしっくりきませんけど。
そもそも仮に失恋がテーマなら歌えない気がします。恋なんてしたことありませんでしたし...そんな暇なわて......
...やめましょう。とにかくなんかマイナスっぽいイメージがある曲...いえ、これは違いますね。これは───
「───なにかから立ち直る曲...ですか?」
「ほう...」
曲を聞き終わりヘッドフォンを外して唐突に美城さんに尋ねてみます。
すると美城さんは軽い驚きと面白そうな感じの声と表情を見せました。正解...みたいですね。
「君はそう読み取ったか」
「ええ、完全な直感ではありますが」
「間違ってはいない。その直感を大事にしなさい」
...別の正解があるのでしょうか。しかし私はこれからはその意味でしか取れません...ぐぬぬ、視野をもっと広めなくては...
「明日からのレッスンはこの曲の練習をしてもらう。ダンスも歌もだ」
「分かりました」
いままではいつどんな時でも対応できる全体曲のレッスンばかりでしたからね...おねがいシンデレラとかその辺りです。ようやくか...という感情もあれば、もうなのか...という恐れという感情もあります。というか後者が凄まじいです。
「それと唐突だが...君は休みを取っているか?」
「? とってますよ? きちんと週2はレッスンのお休みを頂いています」
「その二日は何をしている?」
「勿論346カフェでバイトです」
「...辞めないのか?」
「そのつもりはありません」
実はこの美城プロダクションには特殊なシステムがありまして、アイドル部門に限らないですが、見込みがある候補生ならば給料が貰えるようになっています。つまりまだデビューしてなくて仕事もさほどない私でも一応給料は貰えるのです。
要はバイトはしなくても良いということですが......正直給料のために仕事をしているわけではありませんし関係ないですね。
「質問を変えよう。君は何もしないで身体を休める日を取っているか?」
「必要ないです。何かしてないと落ち着かないですし、何より私は仕事であれば6時間休みなしで動けますし、何より私は疲れませんから」
「...そうか」
事実、346カフェでのバイトがレッスンに悪影響を及ぼしてるなんてことはないわけですからね。仕事ですから、きっちりやらないといけませんし。
「...ヌヌ葉否さん。ダンスレッスン、ボーカルレッスンの日以外でのこの曲のレッスンを禁止する」
「なっ!!??」
「これは決定事項だ。決して自主レッスンはしないように...」
「っ......」
なんて残酷なことを...なぜ禁止にしたのか理解に苦しみます...!!
「あぁそれと、カフェのほうには話を付けておく。バイトも暫く禁止だ」
「なっ!!!」
「自身の体調管理も仕事の内だ」
「ですから私は疲れなど───」
「一度進んだ時計の針はもう二度と元の同じ場所へと戻ることはない。何かあってからではもう手遅れだ...話は以上。今日は帰ってこのCDを覚えなさい」
「っ......失礼します」
まさか美城さんと意見が噛み合わない日が来るとは...しかし、ここで従わないといつ切られるかわかりません。
バイト禁止...なかなかハードですね...やることが本当に飴制作ぐらいしかすることがありませんよ...
「あれ、否?」
「否ちゃん?」
「...あ、杏と...諸星さん。どうもです」
「おっすおっす☆」
帰宅の準備を整え今から帰ろうとした時、並んで歩いている杏と諸星さんに出会いました。
「なんで否ちゃんはここにいるのぉ?」
「......ええとですね...」
...なんか私、アイドルになったんですって言うの恥ずかしいですねコレ。なんて誤魔化しましょうか...ふむぅ...
「...もしかしてさ、噂の新人って否のことじゃない?」
「...噂?」
はて...どこかでその単語を聞いたような...
「美城常務直々にスカウトされて、なんかとても小柄で、初レッスン4時間受けてもあんまり息切れしなくて、とある天才が作った機械じゃないかって言われてたやつ」
「あ、それかなり噂になってたよぉ!トレーナーさんがとーってもびっくりしてたにぃ!」
「ええと...はい、多分私です...」
「あーやっぱり...もう噂の内容だけで否だってほぼ確信したしねぇ」
なんか変な広まり方してますねその噂...まぁ、最後以外は事実ですけども。なんですか機械って。流石に酷くないですかね...?
「ねぇ否。アイドルになろうと思った理由ってある?」
「...というと?」
「なんか今まで否はアイドルとかには興味なかったじゃん。なんで急にって思ってさ」
「...理由、ですか」
............言ってもいいんでしょうかねこれ。恥ずかしいですが...
「そうですね...決定的だったのは美城さんのアプローチですけど...ここでは、『生きる意味』を見つけられるかもって言われましたから」
「...へぇ」
「...結構凄い理由だにぃ...」
「...あ、すみません。いきなりなんか変なこと言い出して...」
「んーんー!ダイジョブ☆ ね、杏ちゃん!」
「.........」
「...杏ちゃん?」
「杏?」
「え!あ、ごめん...聞いてなかった」
「もー!杏ちゃんったら!」
...どうしたのでしょうか。いきなり黙り混んでなんかして...
「とにかく、これからよろしくにぃ! もし一緒のステージに立つことになったら一緒にハピハピしようね!」
「!」
...一緒の...ステージ...? 杏と同じ舞台...に?
私と杏が...同じ場所に......
「...否?」
「否ちゃん?」
「! だ、大丈夫ですよ!」
私はとっさに表情を作ります。それにしても何故でしょう...杏と同じステージに立つと考えただけで.........だけ、で......
「...あ、ヤバーい!!レッスンに遅れちゃう!!」
「え、じゃあ杏はプロジェクトルームに」
「ダメだよ杏ちゃん! 一緒に行こー! ごめんね否ちゃん、またね☆ きらりんダーッシュ!!」
「やめろぉぉぉ.........」
「...ハァ!!...ハァ、ハァ...うぷっ...」
あの二人がどこかへ行ってしまった後、私はとっさに近くの壁へと背中を預けました...
幸いここには今誰もいませんから、落ち着いて息を整えれます...
この感じは...何なんでしょう、なぜ杏と一緒にステージに立つことを考えると......
「ハァ...ハァ...落ち、着いて...きました...ね...」
プロジェクトが違うからほぼ関わることはないのかとか思ってましたが...それは無さそうです。そりゃそうですよね...同じ会社ですし...
「とりあえず...早く、帰りましょう...曲を、覚えなくては......」
一旦これは忘れましょう...今は、私の曲のことに...秋の定例ライブのことに集中...しなくては......
「...あれって...否さん?」
後どれくらいで本編完結かな...