前後編で終わらせたかったのですが思ったより長くなったのでもう一つ区切ります。
寄り道が多いですが、まぁ番外編なのでということで……。
「ほら、ついたよ」
「おぉ! ここがレッスン場……!」
「の、前の部屋ね」
手を引かれて、とことこと杏のあとを着いてきた否。さながらその目は子ども特有の何にでも興味を持つ目でした。
「それじゃ、杏は着替えてくるからちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」
「はーい!」
元気よく手を上げてにこやかに返事をする否。可愛いですね。
その返事を聞き、杏は駆け足で更衣室へと走っていきました。電話から大体5分程度経ってしまっているので、あと10分で着替えてストレッチを軽く済ませておく必要があるからでしょう。
まだかなー、早くこないかなーと否が杏のことをうずうずして待っていると──誰かが否を発見しました。
「あっ、杏ちゃんかな?」
「うーん、あれは否ちゃんじゃないかな。でも、どこか小さいような……」
先ほど杏と否が入ってきたところからやって来た三村かな子、緒方智絵理のお二人さんでした。否とも面識があり、まだざっくりですが区別できるようです。
かな子は、とりあえず話しかけることにしました。
「おーい!」
「……んぇ? おねーさんたち、だーれ? ここにはキレイな人しかおらんと?」
「え?!」
声をかけてみて返ってきたのは、ダルそうな声でも、丁寧過ぎる声でもなくまさかの訛り。さらに急に褒められたことも重なり思わずかな子は驚いてしまい固まってしまいました。
「(この子、杏ちゃんや否ちゃんに凄く似てるけど誰なんだろう。どっちかの妹さんなのかな……)」
美城プロダクションのレッスン場にいるということは、誰かの関係者か、もしくはただ似てるだけの自分の見たことがないアイドルかのどちらかでしょう。どちらにせよ、目の前の女の子とは初対面だと思った智絵理は自己紹介をすることにしました。
「えっと……私はね、緒方智絵理っていうんだ。それで、こっちのお姉さんはかな子お姉さんだよ」
「智絵理おねーさんとかな子おねーさんかぁ……あ、わたしね、双葉否っていいます! よろしくね!」
「……いなむ、ちゃん?」
「え、否ちゃん?」
「うん、そーよ!」
さらに出てきた衝撃の事実に復活したかな子と智絵理は頭の中が疑問でいっぱいになってしまいました。
「「(こんなに小さかったっけ……? )」」
しかも口調も以前会ったときのそれは大分かけ離れていたので、二人の混乱を加速させていました。
「不思議やねー、おねーさんたちにもなんか見覚えあるんよ。ねぇねぇ、もしかして前にどっかで会ったりしとらん?」
「あ……」
「えっと……」
二人はもうこの状況を整理することで精一杯。上手い答えが浮かばずどうしようかとお互いに目を見合わせていると、更衣室の方から駆け足の音が聞こえてきて、その場の皆がその方を向きました。
「お待たせ否ー。あれ、今日二人もレッスン?」
「うん、そうだよ。そろそろ時間だよね?」
「あー、じゃあ急いだ方がいいよ。あと5分で始まっちゃうから」
「え?! うそっ!?」
「急いで着替えないと……!」
二人は走って更衣室のほうへと向かって行ってしまいました。
「……? あれ、着替える? そういや杏おねーさんもさっき着替えてたやんね。何で着替えてきたと?」
「今更それ聞くの? ……まぁいいや。レッスンをするためだよ。だからレッスン場に来たってこと」
「レッスン? なんでレッスンすると?」
「なんでって……そうだった」
口調や身長こそ全く違いますが、否は否。対峙しているのは本人なため本人が知っている知識をこの否が持っているものだという考えがあったようですが、目の前の女の子はここがどこなのかさえも分かっていないのだ、ということを杏は思い出しました。
「……実はね否、私やかな子ちゃん、智絵理ちゃんみたいなここにいる人殆どがみんなアイドルなんだ。だからレッスンしてるの」
「アイドル!? アイドルってあの!? だから綺麗な人しかおらんかったとね……。皆すごかー……」
あんたもそのアイドルの一人なんだよ、と内心苦笑します。
「んー、まぁそういうことだよ。私はこれからレッスンがあるんだけど、その間一人になっちゃうのは心細いよね?」
「……うん」
「それでなんだけど……本当のアイドルがどんなレッスンしてるのか、見てみたくない?」
「え、いいん!? 見てみたい!!」
「よし決定。じゃあ本当のレッスン場へいくよー」
「おー!!」
──────
────
──
「失礼しまーす」
「まーす!」
「あ、杏ちゃーん!」
「ギリギリだぞ双葉」
レッスン場で待っていたのは準備運動をしているきらりと、トレーナーさんでした。やっと来たという思いを二人は持っていましたが、杏と手を繋いでいる女の子が目に入った瞬間それは吹き飛んでしまったみたいで固まった様子でその子を見つめます。
「……ところでだ、その子は誰だ?」
「否ちゃんにそぉっくりー……」
「えっと、この子は」
「双葉否です! よろしくおねがいします!!」
「「……ふたば、いなむ?」」
「あー……実はね」
杏はこれまでの出来事を端的に説明します。
「ってことなんだ」
「一ノ瀬か……やつならやりかねん」
「早く戻るといいねぇ」
今の否には難しい話はさっぱり。杏が今何について話しているのか分からず、ぽかんとしていました。
「……ねぇねぇ杏おねーさん。この人たちだぁれ?」
「んーとね。あっちはきらりで、こっちはレッスンのトレーナーさんだよ」
「よろしくねぇ否ちゃん♪」
きらりはいつも年少相手にするように少し体を屈めて笑顔で優しく声をかける。その笑顔に引かれたのか、少し控えめ気味だった否は一転して子ども特有の人懐っこい笑顔でそれを答えます。
「よろしくね、きらりおねーさん!」
──途端、きらりに電流が走る。
「か、か、か──」
「……きらり?」
「──きゃっわいぃぃ!!!☆」
「ふぐぅ?!」
目の前にやってきた否をもうそれはぎゅぎゅぅっと抱き締め始めました。急に激しく抱き締められたせいか少し否は苦しそうです。
これがただの年少の子からの対応であったならばきらりはここまでには至らなかったでしょう。では何が原因でこうなってしまったのか。それはこの子が否だからであることです。
元の否とは面識があって、その際は表情は固くどこか一歩身を引いたようにして壁を作って接してきており、もっと仲良くなりたいけど中々なれないという状態でした。
そんな中でこの否です。幼くなり言動もその姿相応のものとなり、いつもからは考えられない満面の笑顔を振り撒いてくるのです。それはそれは守らなくてはならない愛しさを持ち始めたのです。
まとめますと、所謂『ギャップ萌え』に近いことがきらりには起こったのです。普段クールなあの子が満面の笑顔を見せてくれたらドキドキしますよね。あれです。
「すっっっごいハピハピしてるよぉ!!!」
「」
「きらり離したげて! 否潰れてる! これ多分息出来てないから!」
「諸星! そこまでにしておけ! おい諸星ぃ!!」
暴走してしまったきらりを止めることは一部では鬼とも言われているトレーナーでも難しく、一分かけてようやく暴走が収まって否が解放されました。
さっきの出来事によって軽く気絶してしまった否は隅に寝かせられ、その間にかな子や智絵理が合流し、時間は遅れたもののレッスンは開始されるのでした。
多分きっとおそらく次は短いので今回みたいな開きはないかと思います。
しかし先のことは分からないのでこれ以上の開きがあるかもしれないですが、よかったら待ってくださると嬉しいです。