ヌヌ葉否   作:エンゼ

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「...ボクはあの娘に何かしてやれたかな...」

 

否のバイト先の店長の執務室。そこから話が終わった否が退室した後、その店長は思わず呟いてしまった。

そこから感じられるのはまるで自分の娘を心配する親のそれ。更にどこか暖かみも感じられる。

 

「本当はこんな事、ボクはしちゃいけないんだろうけどね...」

 

そう言いながら店長はため息をつく。

 

「...でも、せめてこれくらいは許してくれるよね?」

 

すると店長は携帯電話を取り出して、とある所へと電話を掛ける。掛けた電話はコール一回で繋がったようで、彼は流暢に話始めた。

 

 

「...もしもし、ボクだよ。久しぶりだね......とまぁ、実は頼み事があって掛けたんだ。君の管轄外かもしれないけど聞いてくれるかい?...今西君」

 

 

 

 

 

 

◯ ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも皆様、お久しぶりでしょうか。私は...なんとか元気です。強いて言えば新しいバイト先が見つからないというのが苦でしょうか。

 

念のため、杏にはこの事は黙っています。下手に心配はされたくありませんからね...まぁ、あの賢い杏のことです。きっと何かしら感づいているのでしょうけれど。

 

さて、時は店長との話の次の日。用事を済ませて軽く変装をし出来るだけ早く店長のもとへと行きました。その時苦しそうな表情で私の辞表を受け取っていたのですが、その後に何か悟ったような表情でとあるメモと店長の名刺を貰いました。これは何なのかと聞くと、

 

『とりあえずここに書いてる場所に行って欲しい。何かと聞かれたらこの名刺を見せればいいよ。必ず否ちゃんの役に立つから』

 

と言われてしまいそのままです。

それで今はそのメモに書かれた場所に来ているのですが───

 

 

「...ここ、どう見ても346プロですよね」

 

 

 

えぇ、見間違えるはずがありません。何回か杏をここに連れてきてたりしますし、あのコンビニへ向かうときもこの辺りを通るため割と知っています。というか、日本にいる人は大抵知ってるんじゃないんですかね?というレベルですよこれ。よくテレビに映ってますし。

 

紙に書かれた情報が間違ってるのだと思い何回も調べたりしてみるのですが、やはり場所は変わらず346プロ。

...何をさせる気なんでしょうかねあの店長は。芸能人になれというわけではないのは百パーセントですけど...芸能事務所で事務員しろってことなんでしょうか...気は進みませんけれど。

 

確かにExcelやWardとかは人並みに扱えるようにされましたけど...まぁ、仮にそうだとしてもとりあえずシンデレラプロジェクトでなければ無問題です。杏の様子を見たいというのは少なからずありますけれど、またあの時のように倒れるのは御免ですからね...

 

うむむ、どうしたらよいのでしょう...

 

 

「あ、もしかして貴女が『ヌヌ葉否』ちゃんですか?」

「ふぇ?」

 

 

思考していたら突然声を掛けられました。

声は女性。そこにどこか幼さが感じられるような...母性が感じられるような...不思議と虜になりそうな声です。思わず変な返事をしてしまいました。

その声の方向へと振り向くと、メイド服を着た可愛らしい方がいました。見た目から察するに大体私と同年齢でしょうか。

 

「...すみません。貴女は...」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!ウサミン星からやって来た現役JKの声優アイドル!安部菜々、17歳です!キャハ☆」

「...安部さんでしたか。よろしくお願いします」

 

...凄いとしか言えませんね。なんていうんでしょうか...なんか...なんか凄いです。

...私の語彙力では凄いとしか言えませんでした。これが平安時代の人間ならば面白しとかあはれなりとか言うんでしょうか?単純に現代人の語彙力が低いだけかもですけど。

おや、安部さんの様子が少しあれですね...どうかしたんでしょうか。

 

「あ、安部さん...ですか」

「あ、えっと、お気に召しませんでした?」

「い、いえ!ナナは17歳ですからもっとフランクに呼んで頂けるといいかなーって...」

「...すみませんが初対面ですので、まだそれは難しいです。それより、何故私の名前を貴女が?」

「あぁ、それはですね、店長から聞いたんですよ。何でも、急遽もう一人バイトを雇うことにしたって」

「...なるほど...」

 

恐らく安部さんの言っている店長はこっちの店長ではないでしょうけれど、こっちの店長が何かしたのは事実です。

にしても何故346プロなんでしょう。他には...いえ、ありませんね。私が探して見つからなかったんだから言えます。

...ん?ちょっと待ってください?

 

「...無礼なのは分かってますが改めて聞かせてください。安部さんはアイドルなんですよね?」

「は、はい...って言っても、まだそこまで有名じゃないんですけどね...」

「ならここの事務所に所属しているんですよね?」

「そうなりますね」

「...それならば、346カフェとの関係は?」

「あ、実はですね。たまにバイトをしてるんですよ。レッスンがない日とか撮影がない日とかですね」

「なんと!」

 

あ、アイドル業をやりながらバイト...ですか!?え、マジですか?!私と同年齢のはずなのにここまで働くことに対して積極的とは......私もまだまだのようですね。

 

確かに芸能人の中には仕事があまり少なく、バイト等を兼任してる人もいらっしゃいます。しかし、そこにいる安部さん...いえ、安部先輩は私と同年齢なのにも関わらず私以上に頑張っているのです!これを敬わずしてどうしろと言うのでしょう!

 

「...えっと、否ちゃん?」

「安部先輩!」

「先輩!?」

「改めまして、これからよろしくお願いします!!」

「せ、せめて菜々と呼んでください~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

余談になりますが─────というか、これが本題なのですが────私は346カフェでアルバイトとして雇って貰えることになりました。

メモを見せたら一発合格でした。もうホントに店長には感謝してもしきれないですねぇ。

さて、安部先輩...もとい、菜々先輩を見習ってこれからももっと頑張ります!


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