インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 作:リバルリー
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
休み時間、早速一夏の席にやってくるセシリア。
(……腰に手を当てて何になるのか。腰辛いのかなぁ)
忍はセシリアのポーズを見て、そんなくだらないことを考えていた。
「まあ、勝負は見えてますが、流石にフェアじゃありませんものね」
(……その余裕が、いずれ身を滅ぼさないといいけどね)
余裕ぶるセシリアを見て、忍は心の中で警鐘を鳴らす。
「…?なんで?」
一夏には、何故自分に専用機があることがフェアなのか分からないようだ。
「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げますわ。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」
「専用機は、量産型や訓練機よりもスペックが高かったり、その機体だけの特殊能力があったりするんだ。まぁその特殊能力は、条件を満たした後じゃないと使えないんだけどね…。そして、専用機はその人の特徴に合ったものが用意されるんだ。だから、一夏が特徴をフルに活かせないであろう訓練機じゃあ、フェアじゃないんだろうな。と言っても、戦闘データが取れてない一夏の実力は未知数だから、どんな専用機が来るのかはわからないけど」
少しでも一夏に分かりやすくなるようにと思い、忍はセシリアの解説に専用機の簡単な説明を付け加えた。
「へー……」
一夏が声を漏らす。
「……よく分からなかったかな?ごめんね。僕、人に教えるのは苦手でさ」
「いや、忍の説明のおかげで多少分かった。サンキュー、忍」
「僕の説明が、少しでも専用機のことを理解するための参考になったのなら幸いだよ」
忍と一夏が友人らしさを感じる会話をしていると、
「……こほん!」
セシリアが咳払いをした。
「あなた方の友情は素晴らしいですわね。ですが、話を戻させていただきますわ。先ほど貴方が教科書で読んだ通り、世界でISは四百六十七機。つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類六十億人超の中でもエリート中のエリートなのですわ!」
セシリアが脱線した話を戻し、解説を続けた。
「そ、そうなのか…」
一夏が驚愕の声を上げる。
「そうですわ」
セシリアが肯定する。
が、
「人類って今六十億超えてたのか……」
そんな的外れな一夏の発言に、忍はずっこけた。
「そこは重要ではないでしょう⁉︎」
そう言ってセシリアが一夏の席の机を叩く。
一夏の席に積まれてあった教科書やノートが落ちる。
「あなた……馬鹿にしてますの⁉︎」
「いや、してない」
「……まぁいいですわ。今のわたくしは他にやりたいこともありますし」
そう言うと、セシリアは、箒の席に歩いていくと、
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
と、箒に束の話題を振った。
案の定、箒は鋭い視線をセシリアに返す。
「妹というだけだ」
「う……」
声を詰まらせると、セシリアは一歩下がった。
(あぁ…箒にその話題はタブーって、さっきの会話で分からなかったのかな)
《文化が違うと、察するというのは難しいのかもしれませんね》
忍とアルヴィトが脳内会話で陰口を言う。
そんなことは知る由もなく、
「ま、まぁ。どちらにしてもこのクラス代表に相応しいのはこのわたくし、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」
セシリアは少し動揺しつつも、自信満々な態度を崩さずにそう言い放ち、立ち去っていった。
「箒」
「……」
お昼休み、一夏は箒に話しかけるが、箒は反応しない。
「篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」
一夏は箒を気にかけているようだ。
(人のことには敏感なのに、自分のことに関しては全く気づかないよね、一夏って)
《どうしたらあんな性格になるんでしょうね……》
(……分からん)
《ですね……》
二人が脳内会話してると、
「他に誰か一緒に行かないか?」
一夏が他に一緒に昼食を食べる人を募集していた。
すると、
「はいはい、はいっ!」
「行くよー。ちょっと待ってー」
「お弁当作ってるけど行きます!」
本音たち三人組が手を挙げて、自分たちが行きたい、という意思を示した。
そんな中、忍は、
(えっ?うそ、お弁当作れるの?待って、じゃあ僕は勝手に弁当の食材を買いに行けないと思い込んでただけ?)
弁当が作れるという事実を知り、心の中で狼狽えていた。
「……私は、いい」
肝心の箒は誘いを断った。
が、
「まあそう言うなって。ほら、立て立て。行くぞ」
そう言って、一夏は強引に箒の腕を組み、箒を立たせようとした。
「お、おいっ、私は行かないと言って——う、腕を組むなっ!」
当たり前だが箒は嫌がる。
だが、一夏はやめない。
「なんだよ、歩きたくないのか?おんぶしてやろうか?」
一夏は相手が幼馴染だからか、軽々しくそう言った。
「なっ……⁉︎お、お前は他人の目線は気にならんのか⁉︎」
「お前が頑なに他の誰かと一緒になるのを拒むからだろ。ほら、行こうぜ」
一夏はそのまま箒の腕を引き、食堂へ向かおうとする。
「は、離せっ‼︎」
「学食に着いたらな」
箒は嫌がるが、一夏は聞こうともしない。
が、それがいけなかった。
「い、今離せっ!ええい、こうなったら——」
箒がそう言うと、一夏が箒に絡ませた腕が、肘を中心に曲がった。
気付けば一夏は、床の上に投げ飛ばされていた。
(一夏……年頃の女子に馴れ馴れしく触るから……)
忍は、心の中で一夏を憐れんだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
箒は息を荒げている。
「腕上げたなぁ」
一夏はそう呑気に言った。
「ふ、ふん。お前が弱くなっただけではないか?こんなものは剣術のおまけだ」
「まぁ一夏はずっと家事に勤しんでたからね。弱くなってたり忘れてるのは許してあげて。かく言う僕もそうだけど……」
「そ、そうか……なら仕方ない。だが、武術はISでの戦闘の助けになると思う。お前たちも鍛え直しておくといい」
「うん、そうする。ありがとう、箒」
「まぁ、これも幼馴染である私の役目だ」
忍と箒が幼馴染らしく会話している横で、
(古武術をついでで覚える女子は世界でお前くらいだと思うぞ箒……)
一夏は立ち上がり、心の中でそう呟いた。
「え、えーっと……」
「私たち、お邪魔みたいだし、やっぱり……」
「え、遠慮しとこうかなー……」
先程誘いに乗ってくれた本音たちが下がろうとする。
「あ、おい、待ってくれ!折角だし、みんなで食べようぜ、な?」
一夏がそう言って引き留める。
「ま、まぁ、織斑君がそう言うなら……」
「わかったー!」
「お弁当無駄になっちゃったけど、織斑くんと一緒にご飯を食べられるならいっか!」
そう言って三人は戻って来た。
「じゃあ箒、行こうぜ」
「な、名前で呼ぶなと——」
「いいから行くぞ」
そう言って、一夏はまた強引に箒の手を引く。
「お、おい一夏。いい加減に……」
「黙ってついてこい」
「し、忍!なんとかしてくれ!」
「やだ。なんとかしても箒に怒られそうだし」
「薄情者ォォォォ‼︎」
教室に箒の叫びが響いた。
学食に六人が着くと、
「箒、何でもいいよな。お前、何でも食うし」
一夏がそう言った。
「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある」
「そうだぞ。僕が合わせ味噌が好きなように人にはみんな好き嫌いがあるものだ」
「そ、そうだな……。あ、日替わり二枚買ったからこれでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ。忍もいるか?」
「ありがたいけど遠慮しとく。他の三人に渡してあげて」
「お、おう……任せとけ」
「織斑くんの奢りは嬉しいけど……やっぱり私、自分で買うよ」
「私も遠慮しておくね。やっぱりお弁当食べたいし」
「私もいいよー。お菓子あるし!」
「話を聞いているのか一夏!」
そう言って、箒が一夏に怒る。
「聞いてねえよ。俺がさっきまでどんだけ穏和に接してやってたと思って——」
台詞を言い終わる前に、忍が一夏の頬を叩いた。
周りの視線が、一斉に忍と一夏に刺さる。
「な、何するんだよ忍!」
「してやってるとか、偉そうな態度をとるのはよしなよ一夏。箒は君の大切な幼馴染だろ?なら大切にしなきゃ。友達にそんな態度をとってたら嫌われるよ。僕もそんな態度をとる一夏は嫌い」
そう言って、忍は食券を購入し、並んだ。
「……悪かった、箒」
「いや、その…私も悪かった。好意を無下にするような真似をして……すまない」
「お、おう……まぁ、その……俺は頼まれたからってこんなことは普通しないんだ。幼馴染の箒だからこんなことやれるんだ」
一夏は頬を掻き、目を逸らしながらそう言った。
「ふふっ、なんだそれは……おかしな一夏だ」
「うーん……そこまでおかしいか?普通だと思うけどなぁ……」
そのやり取りを見ていたみんなの視線が和らいでいく。
忍も、学食のざるそばといなり寿司を持ちながら、二人を見て微笑んでいる。
「一夏」
「おう、なんだ?箒」
「……そ、その……ありが……」
箒がそう言おうとした時、
「はい、日替わり二つお待ち!」
学食のおばちゃんの声に遮られた。
「ありがとう、おばちゃん。おお、美味そうだ!」
「美味そう、じゃなくて美味いんだよ」
そう言って、学食のおばちゃんはニッと笑った。
「おーい、一夏、箒!みんなも!こっちだよ」
席を先に確保した忍はそう言って、五人に手を振る。
一夏と箒が座ったしばらく後、本音たちも同じテーブルに座った。
ちなみに、並び順は、癒子、さゆか、本音、忍、箒、一夏といった順番だ。
「そういやさあ」
「なんだ、一夏」
一夏が箒に話題を振り、それに箒は、味噌汁を啜りながら返事をした。
「ISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週の試合、何も出来ずに負けそうだ」
「あんなくだらない挑発に乗らなければ、そんなこと考える必要なかったろうに……」
そう言って箒はまた味噌汁を啜る。
「まぁ、篠ノ之さんの言う通りだよね……」
「ま、まぁまぁ、織斑くんも専用機とか知らなかったわけだし」
「しのぶーの話によると手違いでここに来ちゃったんだってー」
「えっ、それって本当に⁉︎」
本音たちはその話で盛り上がる。
「そこをなんとか、頼む!」
一夏が箸を持ったまま、手を合わせ、箒に頭を下げる。
「一夏、その前に箸置きなさい」
「はい……」
忍に促され、一夏は箸を置く。
その時、
「ねえ、君たちって噂の子でしょ?」
いきなり、声をかけられる。
声をかけられた方をみんなが向くと、三年生らしき女子が立っていた。
学年の違いは、制服のリボンの色で判別できる。
一年が青、二年が黄色、三年が赤だ。
「はあ、多分」
一夏が返事をすると、先輩は一夏の隣の席にかけ、若干傾けた顔を一夏に向ける。
「代表候補生の子と戦うって聞いたけど、ほんと?」
「はい、そうですけど」
「まぁ、そうですね」
「噂って広がるの速いね……」
「女の子は噂好きだしね」
「うーん……でも私は噂、あまり好きじゃないかもー……」
三人が小声でそう話す。
「でも君たちって素人だよね?IS稼働時間いくつくらい?」
そう聞かれて、
「いくつって……二○分くらいだと思いますけど」
と、一夏は言い、
「うーん…初めて起動したのが五歳だから……大体十一年くらいになりますかね。正確には分からないですけど…時間に直して、1日2時間稼働させてると仮定して……一九二七二○時間くらいでしょうか」
そう言った瞬間、周りが驚愕の色に染まる。
「え、白波くん……十一年って……」
「ちょっと長すぎじゃない……?」
「わたしたちが五歳の頃は……えっとー……」
本音たち三人も例に漏れず、ざわついている。
「え、えっと、そっちの子は、二○分だったわよね」
顔を引攣らせながらも、先輩は強引に話を戻す。
「え、えぇ、まぁ」
「それじゃあ無理よ。ISは稼働時間がものをいうの。その対戦相手は代表候補生なのよね?なら軽く三○○時間はやってると思うわ。まぁ、そこの子は……うん」
そう言って、先輩は忍を少し引いているような目で見つめた。
「でさ、私が教えてあげよっか?ISのこと」
先輩は、少し冷や汗をかきながらも、一夏に顔を近づける。
「はい、ぜ——」
一夏がそう言おうとした時、
「結構です。私が教えることになっていますので」
箒が食事を続けながら、それを遮った。
「あなたも一年でしょ?私の方が上手く教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから、他の人より多少は教えられると思います」
言いたくないが、しかしここは譲れないとばかりに箒はそう言った。
「篠ノ之って——えぇっ⁉︎」
先輩はとても驚いた様子だった。
ISを作った人の親族が目の前にいるともなれば、驚くのも無理はないだろう。
「ですので、結構です」
箒はそう言って、先輩の案をキッパリと断った。
「そ、そう。それなら仕方ないわね……」
そう言うと、先輩は軽く引いた感じで去っていった。
一夏は驚いた様子で、箒を見た。
「なんだ?私の顔に何か付いているのか?」
じっと見つめる一夏に、箒が聞く。
「なんだって……その、教えてくれるのか?」
「お前から頼んだのだろう?おかしなことを聞くのだな、一夏は」
そう言って、箒は少し笑う。
「今日の放課後」
「ん?」
「剣道場に来い。一度、腕が鈍ってないか見てやる」
「いや、俺はISのことを——」
「ISで戦うなら、その前に武術を身につけておくべきだと私は思う。お前の専用機が格闘特化の機体だとしたら大変だしな。……まぁ、射撃特化の機体だったら、すまない」
「……分かった」
箒の意見にも一理ある。
一夏は、箒の意見に乗ることにした。
「織斑くん、頑張って!」
「織斑くんなら、きっと強くなれるから!」
「おりむー、ふぁいとー!」
本音たち三人も、一夏を応援する。
「おう、サンキュー!」
一夏は笑顔で応えた。
「……箒、よく束さんの妹って言う気になったよね」
「一夏が他の人に取られるのが嫌だったんだ……それで、先輩に優位に立てるのがこれしか無かった……軽蔑するか?」
「いや、むしろそう思って当然だと思うよ。恋する人は他の人に取られたくないっていうのはみんな同じだろうしね」
「……//」
忍にそう言われ、箒は顔を赤らめた。
いかがでしたか?多分投稿期間また伸びるかもです……