インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 作:リバルリー
放課後 剣道場
「うーむ……」
「いてて……」
一夏と箒は、満載のギャラリーの目線が刺さる中、先程まで剣を打ち合っていたのだが、やはりというか、この三年間、まともに剣を握る機会が無かったからか、一夏は一方的に箒に負け続けていた。
「まさかここまで弱くなっていたとはな……。部活は帰宅部だったのか?」
「ああ。三年連続皆勤賞だ」
「一夏はずっとバイトしてたんだ。僕が行ければ良かったんだけど、ISの勉強しなきゃいけなかったから……」
「そ、そうなのか……?二人とも大変だったな」
「気遣ってくれてありがとう。ところで、一夏のことはいいの?」
「そうだな。一夏」
忍に促され、箒は一夏を呼ぶ。
「はい?」
「お前を鍛え直す。キツイことを言うが、IS以前の問題だ。バイトが大変で剣道が手につかなかったことは理解したが、このままでは代表候補生を倒せるとは思えない。これから毎日、放課後三時間、お前がカンを取り戻すまで、私が稽古を付ける。いいな」
「え……それはちょっと長いような……っていうかそれよりISのことをだな」
「ダメだ。正直に言って、ISは後から感覚でどうとでもなる。なんというか、こう…シュバッという感じで」
そう言うと、箒は「また明日な」とだけ言い残し、更衣室に行ってしまった。
「シュバッってなんだよ……忍、教えてくれ」
「僕も感覚で戦うタイプだから教えるのは無理。それより、トレーニング続けよう。こんなんじゃ、自分を許せないでしょ。一夏」
「ああ、そうだな。ところで、俺は今の箒のシュバッという言葉の意味を知りたいんだが……」
「多分移動とか、回避のことを指してるんだろうけど……僕にも分からない」
「だよな……」
忍にそう言われると、一夏はがっくりと肩を落とした。
(少しキツく当たってしまっただろうか……)
更衣室で剣道着から制服に着替えながら、箒は先程の自分の発言を少し悔やむ。
(……い、いや!これもあいつのためだ!昔の一夏は……もっと強かった……)
昔の一夏を思い出し、不安を振り払うと同時に箒の口元がほころぶ。
(あいつがISで戦えるようにする為に、明日からも頑張ろう……)
箒はそう意気込んだ。
(……そういえば、結局あいつの専用機ってどっち寄りなんだろう……?まぁ、よく前に出るあいつのことだ、格闘特化だろうな。あいつがそれを扱いこなせるように、私も頑張って稽古を付けなければな)
そして、小さく拳を握る。
(……それにしても、よく私と分かったものだな)
意気込んだ箒はふと思った事を心の中で呟きながら、頭に巻いた手拭いをほどいて、髪に触れる。
(あいつら、六年も経っていたのに……顔も、見た目も、あの頃とはまるで別物になっているのに)
それでも、一夏は箒を覚えていた。
忍も、しっかり覚えてくれていた。
「ふふっ」
そう思うと、嬉しくて、つい笑みが溢れてしまう。
箒が二人を一夏と忍だと分かったのは、単に二人の名前がTVで出ていて、その時に写真が出たからだ。
名前が出ていなければ分からないくらい、幼馴染みの二人は男らしい顔つきになっていた。
いや、忍はそうでもなかったが、あの時と比べ、目付きが鋭くなっていた。
──正直に言えば、格好いいと思った。
特に一夏が。
名前を見て、飲み終わり、流しに持って行こうとした湯呑みを落としてしまったほどである。
(……一夏は、新聞で昨年の全国大会優勝を知ったと言っていた。だが、それは私の知る限り、端っこの記事であるはずだ。なのに、一夏は『すぐにわかった』と言ってくれた。……髪型を変えなかった甲斐があったな)
そう心の中で呟くと、箒は髪を弄る。
箒も十五歳の乙女。
恋をするのはなんら不思議ではない。
ふと、箒は鏡を見る。
「………はっ⁉︎」
鏡に映った自分の顔を見て、我に返る。
「………」
箒は、平静さを取り戻す為に、鏡の中の自分を睨む。
すると、恋する乙女の目付きから、元の鋭い目付きに戻る。
(と、とにかく、明日の放課後から特訓だ。せめて人並みには扱ってもらわなくては……それに……)
そこまで心の中で呟くと、箒は一つため息をつく。
(放課後、一夏と二人きりに、いや、忍も来るだろうから三人か。とにかく、一夏と一緒になれる口実が出来……)
そこまで心の中で呟き、箒ははっとした表情を浮かべる。
「い、いや!そのようなことは一切考えてはいない!何も下心などない……私は純粋に、同門の衰えを嘆いているだけだ。そして同門故に面倒を見てやる。それだけなんだ……」
そう一人で口に出して言うと、箒は再びため息をついた。
「故に、正当だ!」
誰もいない広い更衣室に、箒の声が響き渡った。
「忍ー、痒いところはないか?」
「もー、僕も十六歳だし、子供じゃないよ!」
夕飯を食べ終わり、部屋に戻った一夏と忍は今、二人でシャワーを浴びていた。
「ほーう……そんなおませさんな子はこうだ!それっ!」
「わっ、ちょっ、やめっ、あははは‼︎」
「はぁ…はぁ…参ったか!」
「あははは、あはっ……いやー、参った参った……降参だよ」
まるで幼い子供のようなやり取りをしながら、体を洗う二人。そんな中、一夏がふと呟く。
「……忍、その痣、やっぱり、まだ消えないんだな」
忍の背中と腕には、痛々しい痣があった。
「あぁ……うん。まだ消えないね。これを隠すためには長袖着ないといけないんだよね……。5月になったらもう暑くなるから、早く消えて欲しいけどね。あの時腕で防がなきゃ良かったかなぁ……」
そう言って、忍は俯き、少し悲しそうな笑顔を見せた。
「ごめんな……忍。あの時、俺がもう少し早く助けに行けてたら、お前にこんな痣作らせることなかったのに……」
「謝らないで。一夏は何も悪くないじゃない。むしろ、助けに来てくれて感謝してる。あの時、一夏が来てくれなかったら、きっと僕、今頃死んでると思うよ」
女子の集団から暴行を受けたあの日、一方的に嬲られていた忍を、一夏が助けに来たのだ。
「そ、そうか……?」
「うん。だから一夏、あの時助けてくれて、ありがとう」
「お、おう……どういたしまして」
「さあ、僕を洗うんでしょ?」
忍はそう言って、話を切り替えた。
「ああ、そうだった。よし、気合い入れて行くぜ!」
「あっ、ちょっと、背中で洗うときに力入れるのはやめ……痛ぁぁぁぁぁぁ!」
「わ、悪い!」
忍の悲鳴が部屋中に響き渡った。
いかがでしたか?次回は戦闘描写だから、かなり時間かかるかも……