インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 作:リバルリー
今回は短め。
朝の教室。
今日は心なしか、普段より騒がしい。
そんな中、忍は本を読んでいた。
「ねえねえしのぶー、何読んでるの?」
本音がそう聞いてくる。
「月の本。最近は色々なことが分かってきてるから面白いんだ。月の海は玄武岩という石でできていたり、とか」
「ほぇー、しのぶーは物知りだなー」
「僕は頭は良くないよ。アルヴィトがお手伝いしてくれるんだ」
「アルヴィト?アルヴィトって誰ー?」
そう本音に尋ねられ、忍はハッとした表情を浮かべた。
(そっか、僕の脳に直接話しかけるから、アルヴィトは他の人には気付かれないんだよね)
心の中でそう呟くと、アルヴィトが応えた。
《はい。マスター以外と話す必要性はないと製作者に想定されてますから》
(そうなんだ)
そして、短い脳内会話を済ませて、忍は本音にこう説明した。
「えっと……アルヴィトは先生。家庭教師さん。オンライン家庭教師ってのがあって、その先生」
もちろん、ウソである。
ヴァルキュリア・ベルフェゴルの情報は、秘匿されているらしいからだ。
もう前回の戦いである程度バレてると思うが、それでも、忍はアルヴィトのことまでバラす気にはならなかった。
「どんな人なの?」
「えっと……外国の人。女性なんだけど、小さい頃から教えてもらったからか、不快じゃないんだ」
「その人がいなくなったら、しのぶー悲しい?」
「小さい頃からお世話になった人が死んだら、基本誰だって悲しいと思うよ。その人を憎んでいたならば、話は変わりそうなもんだけど」
そう言って、忍は読んでいる本のページをめくる。
すると、挟まっていた何かが落ちた。
「あっ……」
落ちたそれを、本音が拾った。
「はい、しのぶー」
「あ、ありがとう、本音さん」
「えへへー、どういたしましてー」
笑顔でそう言うと、本音は忍が手に持っている、栞としては大きいそれを見た。
「それ、写真?」
「うん、写真」
「綺麗だなー。お月さまの下に男の人と女の人」
その写真には、忍と似た髪色の男性と、青白い髪の女性が月に照らされる砂浜の下でこちらに微笑んでいる姿が写されていた。
「この二人、もしかしてしのぶーのお母さんとお父さん?」
「よく気づいたね。そう、この二人はお母さんとお父さん。そしてこの写真は、僕と二人を繋いでくれる」
忍は、少し憂いを帯びた顔をしてそう言った。
「遠い所にいるの?」
本音は、忍にそう尋ねる。
「うん。遠い。きっとISを使ってもエネルギー切れる」
「ほえー、そんな遠いところに住んでるんだー」
二人で談笑していると、忍は、やや遅れて来た一夏の席に集まっている女子の話を耳にした。
「織斑くんおはよー。ねえねえ、転校生の噂聞いた?」
「転校生?今の時期に?」
(転校生……)
そう聞いて、忍は顔をしかめた。
転校生は、IS学園のほとんどの生徒とは違う。
女尊男卑がほとんど感じられないのは、ここの女子たちが男子だろうと平等に、学園の仲間として扱うからだろう。
でも、転校生は、そういうのは関係ない、女尊男卑が当たり前の学校からやってくるので、男子がいじめを受けても何ら不思議ではない。
《今のマスターは、弱いままではないですよ。長い間ISの訓練をした上、一夏さんたちと共に武術の稽古もしました。だから、きっと大丈夫です》
アルヴィトがそう言って、忍を励ました。
(ありがと、アルヴィト)
《いえいえ》
アルヴィトにお礼を言い、脳内会話を終えた忍は、一夏の周りから聞こえる声に耳を傾ける。
「転校生?今の時期に?」
今はまだ四月下旬。
なのに転校生は、いささか早すぎる気がする。
それなら、初めから入学届を出せば良かったはずだ。
あまりの早さに、一夏は疑問を抱かざるを得なかった。
「そう、なんでも中国からの代表候補生なんだってさ」
ふーん、と言って興味無さそうな一夏とは対照的に、忍は考え事をしていた。
(中国というと、鈴を思い出すな。彼女にはなんやかんやよくしてもらったし、元気にしてるといいなぁ)
心の中で、忍は中国にいるであろう、数少ない女性の友達である鈴に思いを馳せた。
(そういや、代表候補生といえば)
心の中でそう呟き、一夏はセシリアに目線を送った。
「他国の代表候補生の存在を危ぶんでの転入?それとも、一夏さんたちのデータ取り……?」
そのセシリアは、席に座ったまま、考え事をしているようだった。
「だが、このクラスに転入してくるわけではなさそうだ。机も増えていないからな。ならば、騒ぐほどでもあるまい」
セシリアの肩を叩き、箒は一夏の方を向いてそう言った。
「そ、そうですわね……。今はそんなこと気にしても仕方ないですわね」
「そうだ。来月にはクラス対抗戦が控えている。相手の情報収集も大切かもしれないが、それをするのはお前の実力が納得のいくものになってからだ。でないと次の戦い、あっさり負けるぞ」
「でもなぁ……」
箒にそう諭されるも、一夏は釈然としない様子だった。
「む……そんなに気になるのか?」
「ああ、少し」
箒の問いかけに一夏が正直に答えると、箒の表情が不機嫌な時のそれに早変わりした。
(私というものがいながら、同クラスはともかく、他クラスの女子を気にするとは……)
「……とにかく、来月のクラス対抗戦に向けて、実戦的な訓練をするべきだ」
「お、おお……」
「他の皆さんだと、訓練機の手続き等で時間がかかってしまいますから、専用機持ちであるわたくしや忍さんの出番ですわね」
「え、僕?……うん、やるよ」
話を振られた忍は一瞬困惑したが、すぐにそう答えた。
「まあ、やれるだけやってみるか」
一夏が諦め半分といった感じでそう言った。
「やれるだけではダメですわ!一夏さんには勝っていただきませんと」
やる気のなさげな一夏に喝を入れようと、セシリアが声を張り上げる。
「そうだぞ。男がそんな弱気でいてどうする」
セシリアに便乗し、箒も声を上げる。
「一夏ならきっと勝てるさ。なんたって、昨年の剣道全国大会優勝者の箒の幼馴染だもん」
忍はそう言って、一夏を励ます。
『そういうのは言わないでいい!』と箒が声を上げるが、スルーした。
「おりむー、ふぁいとー!」
そう言って、本音も一夏を応援する。
「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」
何故クラスみんなが幸せになるかというと、クラス対抗戦に優勝すると、そのクラスには学食デザートの半年フリーパスを配られるからだ。
忍が少し本音を横目で見ると、
「えへへ……おかし…おかし……」
そううわ言のように繰り返していた。
忍はなんだか見てはいけないものを見た気がして、目を逸らした。
「織斑くん、頑張ってね!」
「フリーパスのためにもね!」
(多分そっちの方が目的だよね……)
「今のところ専用機持ってるクラス代表って一組と四組だけだし、余裕だよ」
「お、おう……」
女子の雰囲気に圧され、一夏はそう言うしか出来なかった。
その時、
「——その情報、古いよ」
という、声がした。
((なんかすごく聞いたことある声……))
そう思い、一夏と忍は顔を上げる。
「二組も専用機持ちのクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
そこには、腕を組み、ドアの前に立っているツインテールの少女がいた。
「鈴……⁉︎」
「お前、鈴か?」
二人は記憶の中の少女の姿と照らし合わせ、その少女の名を呼ぶ。
「そうよ。中国代表候補生、
その名を呼ばれた少女は、笑みをこぼし、そう答える。
ツインテールが、小さく左右に揺れた。
いかがでしたか?進行が遅くてすみません…。次回も頑張ります