インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 作:リバルリー
入学式が終わり、忍たち新入生は一年一組の教室へと案内された。
その教室の教壇に立つ眼鏡をかけたやや低身長の女性が教室を見渡し、こう挨拶する。
「全員揃ってますねー。それじゃあ
副担任の山田先生の挨拶を聞いた忍は……
(どうせこの教師も、男子がいじめられていても、助けないんだろうな)
と、そう感じていた。
それよりも忍は、教壇の目の前にいる学生を注視する。
入学式の時は気付かなかったのだが、教室に案内された時に気付いた。
忍以外にも男の制服を着ている者がいたのだ。
それと、気のせいだとは思うが、後ろ姿が心なしか一夏にそっくりに見える。
そうこうしている間に、山田先生が生徒達に自己紹介を促した。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。ええっと、出席番号順で」
クラスの女子たちが順番に自己紹介してるのを聞きながら、忍は内心イライラしていた。
先生の煮え切らない態度と、さっきから、クラスの女子たちの視線が自己紹介をしている人にではなく、忍ともう1人の彼に刺さっているのが感じられるからだ。
(あぁ…早くここから消えたい)
忍は心の中でそう呟きながら、男子生徒の方へと目をやると、彼は横を向いていた。
その横顔に、忍は見覚えがあった。
(間違いない…一夏だ!なんで一夏がここにいる⁉︎)
忍は思わず立ち上がりそうになったが、落ち着いて、一夏の目線を追ってみる。
そこには、あの彼女がいた。
あの時一夏が助けた女の子。
忍を気遣っていた女の子。
黒髪のポニーテール。
そして、鋭い目つきで忍はなんとなく分かった。
(箒もこの学園に⁉︎いや、箒は女性だからここに入るのは当たり前なのか…あっ、箒が窓の外に顔を逸らした)
忍は一夏が可哀想に見えると、同時に自分にも気づいて欲しかったかなぁ……とも思った。
「一夏くん?織斑一夏くん?」
「は、はいっ⁉︎」
一夏は考え事をして、自分の番が来た事に気付いていなかったようだ。
周りからくすくすと笑い声が聞こえる。
(人を小馬鹿にしてこっそり笑うなんて……)
忍は再びイライラする。
「あの、大声出してごめんね。怒ってる?本当にごめんなさい!でも、あ、あの、「あ」から始まって今「お」なんだよね、自己紹介、してもらえるかな?だ、ダメかな?」
山田先生はおどおどして、何度も何度も頭を下げながらも、自己紹介を一夏にお願いしていた。
「いや、あの、そんなに謝らなくても…自己紹介もしますから、先生落ち着いてください」
そう一夏が宥めると、山田先生はがばっと顔を上げ、一夏の手を掴み、熱心に一夏に詰め寄った。
「ほ、本当?本当ですか?や、約束ですよ?絶対ですよ!」
(まぁここでヘマをすると環境に馴染めなさそうだ。僕は馴染まない方がいいけど……一夏、頑張れ)
忍は心の中で一夏を応援する。
一夏は立ち上がり、後ろを少し向いた。
女子たちは、全員一夏に視線を向けている。
箒も、横目で一夏を見ていた。
そして……
「えー……織斑一夏です。よろしくお願いします」
一夏は自己紹介をし、儀礼的に頭を下げて、上げた。
だが、JKと呼ばれる時期の女子。
男性のことはもっと知りたいだろう。
ましてや、この学園に2人しかいない男子ともあれば、この程度の自己紹介で満足できるはずもなく……
(もっと色々喋ってよ)
とでも言いたげなクラスメイトの女子たちの視線が一夏に刺さる。一夏は見るからに焦っていた。
「……」
一夏は大きく息を吸い込む。
(もっと聞きたい!)
という女子たちの期待の視線が一夏に向けられる。
そして、一夏が口を開き……
「以上です!」
ズコーッというずっこける音が聞こえる。
忍も、あまりの虚しさに呆れかえってしまった。
「あ、あのー……」
一夏にかけられる山田先生の声。
しかも涙声っぽさが増してる。
「え?あれ⁉︎ダメでした⁉︎」
そう一夏は狼狽えるその直後……
ガンッ!
という音が響いた。
その音は拳骨で出るような音ではない。
手に持つ出席簿で一夏の頭を叩いたその人物は…………
そうあの人……
「いっーー⁉︎げぇっ、関羽⁉︎」
(一夏……)
一夏がふざけた事を口走り、
再びガンッ!という乾いた音が鳴り響く。
(……そりゃ叩かれるよ、自業自得だ)
忍が呆れ果てている内にトーン低めの声で一夏を叩いたその人──
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
そんな千冬先生に山田先生が声をかけると、
千冬先生は、一夏にかけた声とは比べ物にならないくらい優しい声で答えた。
「あっ、織斑先生。もう会議は終わったんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな。」
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと…」
先程の涙声とは違い、若干熱っぽい声と視線で千冬先生へと応えている。しかもはにかんだ。
(……主人に甘える犬かよ)
忍は心の中でそう悪態をついた。
そして、千冬先生は教壇へ上がり、こう挨拶する。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ。」
すると、女子たちから黄色い声援が響いた。
「キャーッ‼︎千冬様、本当の千冬様よ‼︎」
「ずっとファンでした!」
「あの千冬様に指導していただけるなんて嬉しいです‼︎」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです、北九州から!」
「私、お姉様のためなら死ねます‼︎」
こう騒ぐ女子たちを千冬先生は鬱陶しそうな顔で見る。
「…毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。いや、それとも私のクラスに馬鹿者を集中させてるのか?」
すると、また黄色い歓声が上がった。
「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って‼︎」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして〜‼︎」
騒ぐ女子たちに忍は心の中でまた悪態をついた。
(…うるさい。そして女子は虐められたいのか?俺が知ってる女子は虐めるのが好きそうだったぞ)
そして、千冬先生の視線は一夏に向き、
「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」
と、一夏に辛辣な言葉をかけた。
だが、事実なので仕方がない。
「いや、千冬姉、俺は──」
一夏が言い訳を始める前に、
ガンッ!という音がまた響いた。
「織斑先生と呼べ」
「…はい、織斑先生」
その時、教室が静まり返った。
「え…?織斑君って、あの千冬様の弟…?」
「それじゃあ、世界で二人だけのISを使えるって男だっていうのも、それが関係して…?」
「いいなぁ、変わって欲しいなぁ」
という声が聞こえる。
「……」
「さて、……面倒だが挨拶をしろ、白波」
そんな中で千冬先生が忍に話を振ってきた。
「……分かりました」
忍はそう言い、立ち上がる。
そしてワザと低めなトーンで自己紹介をした。
「白波忍。好きなものは読書。嫌いなものはうるさい人や場所。まぁ短い付き合いだが、よろしく」
『関わるな』と言おうとしたが、ここは2人の例外を除き、女子だけが操縦できるパワードスーツのことを勉強する学園。よって2人の他には女子しかいない。そんなところで女子に喧嘩を売るようなことをすれば、小中学の二の舞どころか、さらに酷い目に遭わされるかもしれない。だから、その妥協案として、低いトーンで自己紹介をしたのだ。
忍が自己紹介をし終えたところで、チャイムが鳴った。
「さあ、
千冬先生はそのチャイムを聞いて、そう指示を出した。
(…ちょっと横暴な気もするが。)
忍は思ったが、その思考は、今日何度も聞いた、ガンッ!という音にかき消された。
一夏が千冬先生に殴られたみたいだ。
「席に着け、 馬鹿者」
……一夏は泣いていい。
いかがでしょうか?これからも頑張るので、よろしくお願いします!