インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 作:リバルリー
「一夏」
一時間目のIS基礎理論授業が終わり、忍は一夏に声をかけた。
「おお、忍!良かった、お前と一緒のクラスで!」
一夏は忍を見た途端、ぱあっと表情が明るくなった。
「うん。僕も君がいてくれて良かった。周りは女性ばかりで嫌だしね…でも、なんで一夏はこの学園に?」
「あぁ、それは…」
一夏はこの学園に入るまでの経緯を説明した。
「……つまり、藍越学園の試験会場に行く途中に迷子になって、間違えてこの学園の試験を受けて、無事ISを起動した、と。……普通の学校の試験なら着替えないだろうし、そこら辺で気付かない?確かに今は落とす可能性があるからか、受験票とか無くなってるけどさ……」
「あはは……何も言い返せねぇや。…だけど、なんで忍はこの学園に入れたんだ?お前も偶然ISを起動できたのか?」
忍は、首を横に振って、一夏の問いを否定する。
「じゃあ、なんで…?」
「一夏は5歳の頃のこと、覚えてる?」
「ああ、その時は【白騎士と堕天使事件】が起きたな。それがどうかしたか?」
「やっぱり忘れてる…?あの時、一夏も見たよね?僕が黒い鎧を纏ったの」
「え……?あっ⁉︎あの時の⁉︎じゃあ、【堕天使】って呼ばれてたのは……」
一夏が言いかけたその時だった。
「…ちょっといいか?」
凛とした声が、忍と一夏の会話を遮った。
二人が声を掛けられた方を向くと……
「「…箒?」」
六年ぶりに再会した、幼馴染がそこにいた。
「……」
「……」
「……」
箒に連れてこられた屋上で、3人とも静寂を守っている。
その静寂を最初に破ったのは——一夏だった。
「……そういえば、箒」
「何だ?」
「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」
「………//」
箒は一夏の祝いの言葉を聞くなり、顔を赤らめた。
(ああ、やっぱりな)
その箒の反応を見た忍は確信した。
箒は、一夏に恋をしている。
恐らく虐められている箒を一夏が助けたという日からだろう。
「…なんで、そんなこと知ってるんだ」
箒は一夏にそう問いかける。
「なんでって、新聞で見たし…」
「な、なんで新聞なんか見てるんだっ!」
「はぁ⁉︎」
一夏たちが言い合ってる横で忍は……
(あぁ、違う違う。一夏、箒はきっと、貴方に頑張ってたところを見て欲しかったんだよ。僕も一応TVで見たしね)
そう心の中で呟いていた。
箒と一夏の言い合いが落ち着いた頃、また一夏が思い出したように口を開く。
「あー、あと」
「な、何だ⁉︎」
箒が怒ったような感じで問う。
そんな箒の剣幕に一夏は押されたようで、黙ってしまい、答えを声に出そうとしない。
「あ、いや……」
どうやら一夏が箒の剣幕に押されていることに、箒は気付いたようだ。ばつが悪そうな感じになった。
剣幕から開放された一夏が、先ほど声に出せなかった答えを出す。
「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐ分かったぞ」
「え……」
「ほら、髪型一緒だし」
すると、箒は少し照れくさそうに、ポニーテールをいじりだした。
「よ、よく覚えてるものだな…」
声も少し嬉しそうだ。だが……
「いや、忘れないだろ、幼馴染のことくらい」
という一夏の発言で、箒は無言のまま一夏を睨んだ。
そして、
「ふんっ!」
箒はそう言って一夏から離れ、遠くで空を眺めていた忍に声をかけた。
「久しぶりだな、忍。元気にしていたか?」
「……うん、おかげさまで」
忍は冷ややかな声色で返事をした。
「……私の知らない間に、少し冷たくなったか?」
「……そうだね」
「一夏には普段通り話すのに、私に対しては冷たいな……」
「…僕は女子に嫌われるような振る舞いをした。それなのにあまり近付かれると君にも被害が及ぶ。……それに、一夏が好きなのに、僕の隣にいられても困る」
忍が小声で箒に囁くと、
「っ⁉︎//」
箒は顔を赤らめた。
「ほらほら、行った行った」
そう言うって忍は「あっちいけ」のジェスチャーをする。
「あ、ああ……」
箒が言い、忍に背を向けた途端、チャイムが鳴り出した。二時間目の始まりを告げるチャイムだ。
それまでこっそり三人を遠巻きに見ていた野次馬たちも、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
「さあ、僕らも急ごう。始まるまで時間がない」
「おお、そうだな。俺たちも戻ろうぜ、箒」
「わ、分かっているっ」
そういうと、箒は踵を返して、教室に戻っていく。
忍も焦ったように早歩きで、教室に向かう。
その二人を追うように一夏も教室へと駆け出した。
「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ……」
山田先生は、すらすらと教科書を読んでいく。
生徒たちも、黙々とノートを取っている。
——偶然IS学園に入学することになった、一夏を除けば。
(……やべぇ、このアクティブなんちゃらとか広域うんたらとか、どう意味なんだ?全然分からねえ……というかこれ、全部覚えなきゃいけないのか…?)
一夏は積まれた五冊の教科書の一番上のもののページをぱらりとめくるが、よく分からない単語がずらりと並んでおり、さっぱり分からなかったようだ。
「──では、ここまでで何か質問のある人はいますか?」
山田先生が何か分からないことがある人はいないかと尋ねる。
だが、一夏は先生に全然分からないと言うのが少し怖いらしく、隣の女子に聞こうとしたが——
「織斑くん、何か分からないところがありますか?」
理解していなさそうな顔をしていた一夏に気付いた山田先生がそう一夏に尋ねた。
「え!あ、あの…えっと…」
一夏はあたふたしつつ、教科書に目を落とすが、やはり内容はさっぱり分からなかった。
「分からないことがあったら訊いてください、何せ私は先生ですから!」
えっへんと言わんばかりに胸を張る山田先生。
一夏は聞こうと決心した。
「先生!」
一夏が手を挙げる。
「はい、織斑くん!」
山田先生は、やる気に満ちた返事をする。
そして、一夏は、質問の内容を山田先生に伝える。
「ほとんど全部分かりません……」
「え…?ぜ、全部、ですか…?」
山田先生の顔が困惑した表情になる。
《ああ…これは困ったことになりましたね…》
AI【アルヴィト】が忍に語りかける。
(うん、そうだね。一夏は望んでここに来たわけじゃない。間違ってIS学園に来たわけだから、土台が出来ていないわけだし。参考書もあったけど、あの厚さを試験後から入学式の短い期間で全部覚えるのはすごく難しい。僕はISを纏ったあの後から、ISの勉強を始めて、今ここにいるけど……)
《先生側も、ISの知識をほとんど持たないまま入学する学生、男子が入学することになるなんて思っていないでしょうからね…》
(……うん。そうだね)
「え、えっと…織斑くん以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらいいますか?」
ここで山田先生がクラスの全員にそう問いかけるが、誰も手を挙げることはなかった。
「えっ?えっ?」
一夏は明らかに困惑している。
「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」
千冬先生が一夏に尋ねる。
「ああ、分厚いやつのことですか?」
「そうだ。必読と書いてあったはずだろう?」
「いや……古い電話帳と間違えて捨てました」
スパーンッ!
千冬先生は、今度はバインダーで殴った。
流石に痛そうだ。
「あとで再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな」
「いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
一夏はそう反論したが……
「やれと言っている」
その言葉と同時に送られた有無を言わさぬ鋭い目つきに一夏は素直に従う他なかった……。
「……はい、やります。」
そんな一夏を心配して、山田先生が一夏の両手を握り、詰め寄って、優しく声を掛ける。
「え、えっと、織斑くん。分からないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って、ね?ねっ?」
「はい。じゃあまた放課後、お願いします」
「はいっ!任せてください!」
「さぁ、山田先生、授業の続きを。」
「は、はいっ!」
そして、山田先生は教壇に戻り———こけた。
「うー…いたたた…」
(この先生、大丈夫なんだろうか……)
一夏と忍は山田先生に不安を覚えていた。
いかがでしたか?次もよろしくお願いします!