私とフィムの日常(?)譚 ━━親馬鹿AGEはフィムが好き━━ 作:揚げたて茶飲みのハンバーグ
……多分もうちょっと遅れるけど許してヒヤシンス
━━━━とあるミナトの通路。そこで二人の男が会話をしていた。会話と言っても楽しそうな雰囲気ではなく、とても緊迫した空気だった。
「おい、あのユウゴとかいうガキ。何故アルカと一緒の牢獄にぶち込んだ?そのせいでアルカに感情が出てきてるぞ」
「上の決定です。それに仮に彼女に感情が生まれたとしても何か損害が出るわけでもないでしょう?」
「それがあるから言ってるんだよ!」
片方の男が怒鳴り、壁を叩きつける。
しかし周りから軽蔑するような視線が向けられてきたので、少し落ち着いてから話を続ける。
「……感情ができたら、今までアルカがしてきた人殺しに支障が出るかもしれん。少し前にもあいつはひとを殺すのを躊躇った……このままでいつか俺たちをあいつは裏切るかもしれん」
「手錠があるのに…ですか?」
「…あぁ。アルカは一度あの手錠のロックを自力で解除したことがあるんだ」
「………」
「わかったか?これがどれほど危険なことか。だから絶対にあいつに感情を持たせるな、そのためなら何をしても構わん…仮に殺してでもな」
「……わかりました。それでは失礼します」
※※※
私はユウゴと一緒に過ごしていて、いろいろなことを知ることができました。
それはもう数えきれないほどのことを教えてもらい感謝しても仕切れません。ですが聞いてワクワクするような事があれば聞いて心が痛くなるよう事もあり、複雑な気持ちになることがありました。
例えば━━━━人を殺してはいけないこと、など。
聞いた時はとてもショックでした。嘘を言ってるのではないかとユウゴを疑ったぐらいです。
でもその時のユウゴの顔はとても真剣でした。
その日からです。私は人を殺すことが出来なくなりました。
任務でも看守の人が無線から席を外している間に逃がしたりして、アラガミに食べさせたなどと嘘をついてやり過ごしていました。
ですがそんなことは長くは続きませんでした。バレたのです。
私が殺したことになってるはずの人が帰ってきていると、看守の人が牢獄に怒鳴り込んできました。
「くそっ!やっぱりてめぇかユウゴ!お前が何か吹き込んだんだな!」
「へっ、なんの事かな看守さん。俺は何もしてないぜ?」
看守の人は限界だったのかユウゴの胸ぐらを掴み思いっきり顔を殴り始めました。
「てめぇのせいでこいつに感情が出来てるじゃねぇか!どうしてくれんだ?あぁ!?」
それは何度も何度も、ユウゴの体が痣だらけになっても殴り続けていました。すると突然看守の人は何か思い出したかのように手を止めました。
「…そうだ、お前に罰を与える。これでお前も俺に舐めた口を開くこともなくなるだろ」
━━━━え?罰を…与える…
やだ……このままじゃ、ユウゴが連れていかれる…止めなくちゃ…!
「やめて!ユウゴを連れていかないで!」
「おい、このガキを止めてろ」
看守の人が命令すると、脇のほうにいた男の人が出てきて私を押さえつけてきました。
「や…だ…離して……ユウゴを…返して…」
例えAGEだとしても子供である私が大人の力に勝てるわけもなく、出ようともがいても動くことが出来ませんでした。
そんなことをしている間にユウゴの姿が見えなくなってしまい。私を押さえつけている人も止める必要がないと思ったのか力を緩めて解放してきました。
ですが私はもう動く気力がありませんでした。
私の世界にとっての光をこの者達に奪われたのです。そう実感すると心の奥の方が痛くなってきました。
「ふん、残念だったな。今頃あの野郎は看守に連れられて車で懲罰房に向かってる頃だろうよ。たぶん死ぬぜ?」
男は高らかに笑い牢獄を出ようとしたところ…
何か私の中のものが切れたような音がしました。
そして気づいたら隣に落ちていた鉄パイプを拾い上げていました。とても自然な形で体が動きます。
まるで私を繋いでるものが無くなったような感じです。
そのまま男の方に近づいていき…
「……殺す」
思いっきり後ろから喉の方に鉄パイプを突き刺しました。躊躇なんてありませんでした。ただ私にとってはゴミを潰すのと同じようなことなのですから。
それから私は牢獄から出て颯爽とこのミナトを駆け抜けていました。ここから出るルートは覚えていたため迷いなく進んでいきます。
しばらく進んでたら看守の部屋に着いたので隣の扉を開いて車があるか確認しますがその姿はありませんでした。
あるのは広大な荒野と、地面から生えるように突き出ている崩壊した建物が何棟か見えるだけです。
……もしかして…間に合わなかった?……
そう思ったところ、よく荒野の地平線近くを見てみると車が走っている姿を捉えることができました。
この事実に少し嬉しくなり、体に力が湧いてきました。
「早く…ユウゴを助けないと…」
私はこの荒野を駆け抜けだしました。
※※※
「…オーナー!周辺に何か反応があります!これは……人間です!」
「なんですって!このまま救出に行くことはできるの?」
「はい。反応自体は近くなので出来るかと…」
「わかったわ、じゃあこのままその反応に向かって」
「はい!」
※※※
どれほど歩いたことでしょう。
車の影を追い、ずっと移動していましたがその影は今では見えなくなりどこに向かってるのか分からなくなっていました。
歩いてきた環境も劣悪だったため、体力を一瞬で奪われてきてそろそろ動けなくなりそうです。
……このまま私…死ぬのかな?…
どれだけ歩いても歩いても建物や車が見えてくるわけでもなく視界に映るのは変わらない荒野の景色だけです。
心身完全に弱りきってしまいついには……
ドサッ
倒れてしまいました。
どうにか立とうとしますが体が言うことを聞かず動いてくれません。つまりはもう終わってしまったのです。
そうなってくると私の結末はもう決まったようなものです。
そのら辺のアラガミの餌となるか、自然と死んでいくか、このふたつです。
…ごめんね……助けられなくて……
私が絶望の縁にたち、希望を捨てていたところ突然何かが近づいてくる音がしてきました。
最初は車かと思いましたがそんなものの音ではありませんでした。もっと大きな何かが近づいて来る音です。
その音はある所までくると止まりました。
そして少し経つと…
「そこの君?大丈夫?」
となりに金髪のメガネをかけた人が私の顔を覗き込んで来ました。
私のことを助けに来たのでしょうか…?
でも…もうダメです…
意識が……遠のいて……