その決戦が、今。
陸と海を股にかける、“
雄介が一条の呼び出しに応じ、桜子の研究室を後にしてからしばらく経った頃。
桜子のスマホに、一条からの着信が入る。
「もしもし、沢渡です。……はい、あの後すぐ出ていきましたけど………まさか、また……?」
「ええ………。陸上奇襲鬼が活動を再開したようで、既に4件の被害が出ているそうです」
受話器越しの桜子の声が不安げになり、一条に伝える。
『あの………五代くんが決めた以上、止めてくれとは言いません。ただ……戦うことで、五代くんの身に危険が降りかかりそうになったら、その時はまた支えてあげて下さい』
「勿論です!彼一人に背負わせることの無いよう、尽力します!」
桜子の懇願を、一条は即答する。
「それから………連絡基地の大淀さんにも、伝えてあげてくれませんか?」
「……なんと、伝えれば?」
「『五代くんは、絶対大丈夫』って」
その言葉の重みと深みに、一条はより意思を固めた。
「___はい!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、ヂーダは自身を止めようとする警官たちを次々と攻撃。
鋭い爪で喉元を引裂き、地に叩きつけた警官の背中を強靭な脚で踏みつけ、骨を砕くなど、俊敏さと怪力で圧倒していた。
警官に包囲されれば全滅させて移動…を繰り返し、追跡する白バイ隊員を翻弄する。
「こちらTRCS04!陸上奇襲鬼は、現在六本木方面を逃走中!その速度は、推定時速300km!このままでは、振り切られますっ!!」
白バイ隊員からの無線を受け、一条は指示を送る。
「我々もすぐに合流する!無理はするな!!」
同じ頃。一条との待ち合わせ場所に向かっていた雄介はヂーダの走り去る影を目撃した。
「今のって……!!」
持ち前の勘の鋭さから、雄介は影の向かう先へ走りだす。
そして、白バイ隊員が交差点に入ったとき。
ヂーダは左腕に“連装砲”を装備し、白バイ隊員に向けて発砲した。
「っ!?う、うわあぁぁあッ!!?」
慌ててハンドルを切ったが、そのためにバランスを崩し、近くのコンビニの壁に突っ込み、転倒した。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、隊員に声をかける雄介。
「あ…ああ、なんとか………」
幸い、隊員に怪我は無く、トライチェイサー2013Aも問題無く使えそうだ。
「良かった〜!じゃ、コレちょっと借りますっ!!」
ヘルメットを取り、トライチェイサーに跨がると、雄介はヂーダを追うべく出発してしまった。
「えぇ!?ちょっ…ちょっと!?待って!!」
雄介の唐突過ぎる行動に、白バイ隊員は混乱しながらも追いかけようとするが、当然止められる訳もなかった。
ヂーダを見つけ、追いかける雄介。
その雄介に気付き、さらに加速するヂーダ。
(奴の左腕に付いてるのって……艤装だよな、やっぱり……)
揚陸強襲鬼の件といい、揚陸侵艦たちは深海棲艦や艦娘に似通った特徴があまりに多い。
「東京に、何しに来たんだ……!?」
丁字路を走り抜けるヂーダを雄介が追いかける中、曲がり角から入った一条と長門、吹雪は雄介を発見する。
「司令官!今の……!?」
「まさか………!」
入り組んだ道路を抜け、ヂーダは歩道橋へと入る。
「!」
後を追うべく、雄介はトライチェイサーを操って歩道橋に入ろうとした。
「フッ!」
「うあっ!!」
しかし、ヂーダの連装砲が火を噴き、雄介を足止め。
怯んだ一瞬を突いて、そのままヂーダは逃げてしまった。
そこに、ヂーダを追っていた別の警官が雄介に気付き、詰め寄った。
「君!!いったい何のつもりだ!?」
「スイマセン……。逃げられちゃいました…」
「何なんだ、君は!!」
そこへ、警官に詫びる雄介の右手を、一条の手錠が捕らえた。
「!?…あっ!」
「コイツは、私が連行します。あなたは揚陸侵艦を!」
「ハッ!!」
追跡を警官に引き継がせ、雄介をパトカーに乗せて一条たちは警視庁へ。
「提督……彼を逮捕して良かったのか?」
「…………」
長門の質問に、一条は答えない。
「スイマセン!もうちょっとで追いつけたんですけど………あとちょっとだったのに……」
悔しげに謝る雄介。
「五代さん……どうして、あんな真似を?」
「また変身して戦う気だったんだろう?」
雄介に尋ねた吹雪の問いに、一条が確認するように答えた。
「はい」
当たり前のように返事をした雄介に、吹雪も長門も呆気にとられる。
「……昔とは訳が違うんだ。今に撃ち殺されるぞ?」
一条提督の補佐艦として、民間人である雄介の身を案じる長門。
「だからって、止められます?」
「あ、あの……五代さんは、もっと自分を大事にするべきですよ!」
次に、吹雪が説得を試みる。
しかし
「してますよ!」
「なに?」
「だからこそ、自分が大切だと思うものを守りたいんです!」
にこやかな表情ながら、その言葉には一片の迷いも無い。
「一条さんもそうですけど…長門さんや吹雪ちゃんたちだって、そうじゃないですか?」
「っ………」
「……私は………っ……」
その一言に、今度は吹雪は黙り込み、長門は口ごもってしまう。
そうこうしているうちに、一条たちは地下駐車場へ到着する。
車から降りようとしたとき、無線が入る。
『こちら軽巡・由良!揚陸侵艦迎撃艦隊旗艦・足柄が、単騎で陸上奇襲鬼の追跡を開始!今、連れ戻すために後を追っています!』
『了解!陸上奇襲鬼との戦闘は、接近戦を特に注意されたし!!』
『了解!!』
無線から聴こえる状況___それは、ヂーダを見つけた足柄が、我先にと追跡を開始。
神通や由良たち随伴艦を置き去りに、単独行動に走ってしまったというのだ。
しかも、その先は港付近のコンテナ置場。
立体的な動きを得意とするヂーダを追い詰めるには、火力だけでは地形的に不利である。
実際、合流した警官隊は反撃の隙も作れずに、次々とヂーダに討たれ、遺体は足柄の砲撃を凌ぐ盾にされている。
如何に足柄が歴戦の艦娘であっても、万が一弾切れを起こせば、それが最期となる危険は充分に有り得る。
しかし……。
仮に神通たちが間に合ったとして、そこからまた逃げられたり、返り討ちにされるようなことがあれば、石ノ森鎮守府が大打撃を被ることにもなる。
「……一条さん?」
思案する一条の背中を、雄介たちは見つめる。
『中途半端』はしません____。
雄介の書き置きをポケットから取り出し、一条は静かに眼を閉じる。
そして、意を決した表情で向き直った。
「___五代雄介!」
「はい!」
「俺について来い」
一条の後を、雄介と共に吹雪と長門もついて行った。
一条に案内されたのは、地下ガレージだった。
照明が点いたことで、一瞬目が眩む雄介たち。
眼を開けると、そこには1台のオートバイが置かれていた。
車体その物はスマートで、船体を象った外装が前面と左右の両側面をカバーし、マフラー部には小型のジェットスクリューが搭載されており、第一印象は「タイヤ付きの小型モーターボート」と呼ぶべき姿をしていた。
「わぁ……!!カッコいい……!」
「一条さん、これって……?」
吹雪と共に、眼を輝かせる雄介。
「《ドルフィンチェイサー2018》。《トライチェイサー》や《ガードチェイサー》の実践データを基に開発された、改良型の試作機だ。普及型ではコストの都合上、切り捨てた性能が、コイツには全て備わっている!」
「スゴいじゃないですか!!」
「なんと……!!」
一条の説明に、雄介のみならず長門も興奮する。
「……あれ?司令官、これ右ハンドルが無いですよ?」
吹雪が指摘する通り、ある筈の右ハンドルが欠けていた。
しかし。一条も雄介も、それに関してはよく理解している。
「グリップはここだ」
そう言って、起動キーであるドルフィンアクセラーをアタッシュケースから取り出し、ドルフィンチェイサー本体にセット。
さらに、起動用の暗証番号を登録。
その番号は、雄介___クウガと共に戦い抜いた2大マシンと同様〈0318〉である。
暗証番号登録により、ドルフィンチェイサー2018は起動した。
スロットルを軽く吹かし、一条は最後にこう告げた。
「後から俺たちも行く!!」
雄介は小さく頷くと、腹部に両手をかざし、アークルを呼び覚ます。
「変、身!!」
構え、動作を終えるとベルトは赤い光を放ち、雄介はクウガへと変身する。
一条がシャッターを開けると、新たなマシンを得たクウガは、スロットルを全開にし、出発した。
「よし……。吹雪!長門!直ちに艤装を展開し、弾薬等の最終点検を!それが終わり次第、俺たちも出撃する!!」
それは、一条 薫の《提督》として最初の出撃命令であった。
「了解ッ!!!」
吹雪と長門は敬礼し、出撃準備に取り掛かった。
ドルフィンチェイサーは力強く、しかし軽やかな速さで道を走る。
マシンを駆るクウガの眼は、目指す先で待つ戦いへの覚悟と決意に満ちていた。
ヂーダが逃げた先の港。
足柄や警官隊が、用心しながら姿を探していた…その時。
「フンッ!!」
白バイ隊員の頭上から、肩車をするように飛びかかると、両脚で首を挟み、小枝を圧し折るかのように殺害。
「揚陸侵艦……!!」
単装砲を構えるが、ヂーダは足柄の腕を払い除け、蹴り飛ばすと左腕の連装砲を構える。
「伏せろォォッ!!!」
その時、一人の若い刑事が、大声を張り上げながら足柄を突き飛ばし、ヂーダの凶弾を一身に受けて倒れたのである。
「………え?」
目の前で起きた光景に、足柄は頭が真っ白になる。
今、この男は何をした?
私を突き飛ばして……そして、今血まみれで倒れて、死んでいる………。
「わたし、を……かば……って……」
この瞬間、足柄は頭の中がグチャグチャになった。
人間は醜い。
自分さえ良ければ、周りなど何とも思わない連中。
艦娘を道具や欲望の捌け口程度にしか見ていない、下劣な存在ばかり____。
そう、思っていたのに。
人間を憎むことで、戦ってきたのに……
なぜ?
なぜ、この
なぜ……
ワタシハ イキテイルノ……?
「あ……ああ……あぁぁあ……っ……!!」
突然溢れ出す涙にも、足柄は思考が回らない。
この人を殺したのは誰か?
目の前の揚陸侵艦か?
それとも……
「ビガラロ・ギショショビボ・ソギデジャスレ!!」
私………?
ヂーダの主砲が足柄に狙いを定め、発砲しようとしたその時_____!
稲妻のような爆音が轟き、1台のバイクを巧みに操る赤い戦士が現れた。
「ッ!!」
避けようとするヂーダの顔面に、バイクの車体後部を浮かせ、後輪を横凪に振るバイクテクニック「ジャックナイフ」を決める。
「グァウッ!?」
倒れ、怯んだ隙に赤い戦士___クウガは足柄の下に駆け寄る。
「ひぅっ!!」
昨晩の未確認だと気付き、足柄は殺されると思い、身体を強張らせた。
しかし、クウガはたった一言。
「大丈夫ですか、艦娘さん!?」
「___え?」
あまりに予想外過ぎて、足柄は泣いていたことも忘れてしまった。
「……クウガァ!!」
憎々しげに名を呼ぶと、ヂーダは海へと逃走。
クウガはすぐにドルフィンチェイサーに跨がり、海に向かって飛び出す。
コンソールのテンキーでモードを切り替え、水上バイクモードにして海域へと飛び出した。
「……………」
遅れて、ようやく追いついた神通たちに名を呼ばれるまで、足柄はクウガの向かった海を眺めていたのであった。
さあ!!
遂にきました、クウガの初・海上戦!!
次回、ヂーダとクウガの戦いが決着を迎えますっ!!
本作の人気投票その1
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