着任先の新提督が色々とマトモじゃない。   作:夏夜月怪像

95 / 152
龍騎編第2章、ひとまずのフィナーレです。


戦わなければ、生き残れない!


85話 : 引き返せないのならば

「………これが、俺の知ってることだ。後の事は青葉……君が知ってる通りだ」

 

 

「………ッ………」

 

 

赤塚鎮守府にて、《脚本家(シナリオライター)》と讃えられた智将・沼田統也の実弟、静から話を聞いた城戸真司…そして、統也の秘書艦を務めた青葉は黙り込んでしまっていた。

 

 

あまりにも惨い……そして理不尽な仕打ちに、青葉は泣き崩れ、真司は溢れんばかりの怒りに拳を震わせていた。

 

 

「……分かったかい?アンタや兄さんみたいに真っ当な人間や、鈴谷みたいに人のために命を削る艦娘ほど排除されて、嘘の塊みたいなゴミばかりが伸し上がっていく……それが、この世界の仕組みなのさ。そんな奴らを黙らせるだけの力を得るには、そいつらが嫌う力を得て振りかざすしかないんだよ」

 

 

そう言って冷ややかな笑みを浮かべる静の顔は、先程までの悪人振った雰囲気は微塵も無く。

 

大切な物を奪われ、傷付いた一人の若者としての本心が表れていた。

 

 

「……そっか……」

 

真司は一言、ポツリとそう呟く。

 

 

「とりあえず、アンタだけはそういう奴らと違うことは分かった。だから、これ以上攻撃はしないし、アンタの邪魔もしない。でも……アンタが俺を止める権利が無いってことも解って欲しい。アンタみたいなお人好しに、俺みたいな奴の過去をどうこうされたくないんだ」

 

 

「静さん……!」

 

真司のことは認めたが、それでも自分の復讐を止めるつもりは無いと言う静に対し、青葉はいい加減にしろと厳しく諌めようとした。

 

 

「―――分かった。なら、気の済むまでやれば良い」

 

 

ところが、真司はそれを許す発言をした。

 

 

「せ、先輩!?」

 

「っ!?」

 

 

これには静も予想していなかったらしく、驚きのあまり目を見開いた。

 

 

「手段は最悪だけど、それで気が済むのなら好きなようにすれば良い。兄貴を殺した奴らや、大本営の権力者どもの遺族から恨まれ続けることが……戦い続けながら生きることが出来るのならな」

 

 

「ッ!!」

 

「ぁ……」

 

 

遺族………

 

その一言に、静と青葉はハッとなる。

 

 

 

「俺、お前や青葉みたいに物事を難しく考えるのは苦手でさ?頭ん中が爆発すると、見える範囲がすっごい狭くなっちゃうんだけど……それでも、踏み越えたらまずいラインくらいは忘れないようにはしてる……つもり」

 

 

だって

 

 

「それを踏み越えたら……もう、引き返せなくなっちゃうから」

 

 

「………」

 

それを聞いて、静は自分のしてきた事を思い返す。

 

 

醜い欲望を持った連中のために、兄さんは殺された……

 

だから、それに対する復讐は殺す以外に無い……そう思いながら、奴らを一人残らず消した……。

 

 

でも………

 

 

 

そんなクズ共だって、何も生まれた時からそうだったとは限らない。

 

 

そいつらにだって……家族が…大切な人たちが居たんだ………。

 

 

 

我が子の死を受け入れられず、半狂乱に泣き叫ぶ両親や大好きな父、或いは祖父との別れを拒む子供たちの姿を、静は見ていなかった。

 

 

否……見えてはいたが、見ないようにしていた。

 

 

自分のした事が、兄を奪った連中と何ら変わりないことを、理解していたから………。

 

 

 

「………おれは……人を…殺し……ちがう…人殺しなのは、兄さんを殺した奴らのことで、おれは……おれは…!!」

 

 

目を背けてきたことを思い返した途端、静の身体がガタガタと震えだした。

 

震えを抑えようと、静はブツブツと呟き、己の行為を正当化しようとする。

 

 

 

「おれは…おれはっ……!!!」

 

 

―――その時。

 

静の体を、青葉が優しく抱きしめた。

 

 

「ごめんなさい……私にも、もっと力があれば……こんな事をさせなくて済んだのに……っ…司令官を……あなたの兄さんを死なせてしまって………ほんとに…ごめんなさい………っ……!」

 

 

青葉の流した、暖かな涙が静の頬を伝い、鼓動が静の胸に響いてくる。

 

 

 

「青葉?それに………静さん?」

 

 

そこに、品の良さげな声が呼びかけてきた。

 

 

「えっ……えっと……君は?」

 

ブラウンのブレザーに、艷やかで長い茶髪。

 

その顔立ちは、鈴谷と似ていた。

 

 

「く…熊野……さん?」

 

青葉の裏返った声に、真司も目を丸くした。

 

 

「え?なに、知り合い?」

 

「最上型重巡洋艦《熊野》さん……。鈴谷さんの、姉妹艦…です………」

 

 

「……えっ………?」

 

 

熊野―――

 

鈴谷に妹がいることは本人から聞いていたが、名前までは知らなかったので、静も熊野の顔を見る。

 

 

静の顔を見て、熊野は穏やかに微笑んだ。

 

 

「鈴谷の言っていた通りの方のようですわね?真面目で、融通の利かない…でも、誰よりも優しい…提督が誇りとされていた弟さん」

 

 

静の目線に合わせて屈むと、熊野は青葉ごと抱きしめた。

 

 

「鈴谷のこと……ありがとうございました。小生意気でそそっかしい、甘えん坊な姉でしたけど……貴方のことを、本当に愛していましたの。貴方の心の傷が、簡単に癒えないであろうことは理解していますが……せめて、彼女と提督の分まで、私に貴方を守らせて下さいな?」

 

 

「………っ……」

 

 

熊野の言葉は、とても暖かく。

とても優しく……静の心に染み込んでいく。

 

 

それは、確かに自分を想ってくれた、大切な人の温もりと似ていた。

 

 

 

―――ありがとう。

 

でも……そろそろ、自分を許してあげなよ?―――

 

 

 

謎の声が聞こえたその時……。真司と静は、ガラス越しに鈴谷の姿を見た気がした。

 

 

その顔は、愛しげに微笑んでいて

 

静の額にそっと口付けると、奥に立つ若い提督……沼田統也の幻影と共に、遠くへと歩き去っていった……。

 

 

 

「…あ…ぁあ……あああ…ぁあ〜〜ぁああ……!」

 

 

溜め込んでいた物……そして、独りで抱え続けた物が崩れ落ちた反動であろう。

 

 

青葉と熊野に抱きしめられたまま、静は大声をあげて泣いた。

 

 

その様子に、真司も少しだけ涙ぐみ、空を見上げた。

 

 

「……上〜を向ぅ〜う〜い〜て♪()〜るこ〜ぉう、おぅおぅおぅ………♪」

 

何となしに、『上を向いて歩こう』を口ずさんでみる真司。

 

 

静の泣き声と、上手いのか下手なのか分かりづらい真司の歌声が、夜空に上っていく。

 

 

 

その日の夜空は、雲一つ無い夜空であったという。

 

 

 




仮面ライダー龍騎第2章、及び仮面ライダーヴァイス編。

完!!

人気投票その7

  • 沼田 静
  • 沼田統也
  • 鈴谷
  • 熊野
  • バイトダイラー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。