ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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指導者の理想

王都マハマユリ。

鴎歴273年の建国の際にルシ・シロタエによって設立された都である。

いや、都というより雲上に浮かぶ巨大な王城といった(おもむき)がある。

実際、この王都に住んでいるのは地位の高い人物ばかりであり、一般市民は住んでいない。

簡潔に言えばコンコルディア王国の王宮そのものが王都マハマユリである。

そんな王都にある王の一室。

先日にミリテス皇国との同盟をライローキで締結してきた蒼龍王は笑みを堪えることができなかった。

蒼龍王は自分の祖国を嫌っていた。

正確には祖国に根付く女尊男卑を激しく憎悪している。

彼は蒼龍王家に生まれ、人並み以上の才を持っていた。

役人として、または官僚として十分以上の仕事をこなせるほどに。

しかし女尊男卑のコンコルディアでは彼の功績は常に色眼鏡をかけて見られた。

具体的には男の癖に生意気だとか、王家の威光のおかげででかい態度がとれるのだなどだ。

無論、はっきり彼にそう言う者はいなかった。

しかし周りのそういった視線に気づけないほど彼は愚かではなかった。

それに加え、彼より明らかに無能な女が彼より高い地位にいることも珍しくなかった。

これほど彼にとって屈辱的なことはない。

必ずや女というだけで高い地位にいる者達に相応の屈辱を味合わせてやる。

そんな思いを持った彼がコンコルディアで至高の地位を欲したのは当然であったのかもしれない。

幸い、というべきか蒼龍王家は先代女王がルシであるがゆえに後継者がいなかった。

だから女王が亡くなるなり、昇華するなり、シガイに堕ちるなりすれば、臨時という但し書きがつくだろうが彼に自然と王位がまわってくることになる。

その為に彼は何度も王の座に就こうと画策した。

しかし実行に移す前に全て女王に見透かされて断念してきた。

いくら女とはいえ、仮にもルシに人の身では対抗することは叶わないのか。

そんな諦念を抱きながらも王の座に就こうと画策すること自体をやめようとしなかったのは、たとえルシとはいえ女に負けることなど許せない、認められないという彼のプライドがあったからだろう。

だが、そんな状況に転機が訪れたのが10年前。

シドが実権を握ったばかりの皇国と影で繋がりを持った際に女王はなにも言わなかった。

今までならこんなことをすれば即座に指摘されてきたというのに。

その後、何年もかけて皇国との繋がりを強化してきたが女王はなにも言わない。

今年に皇国が朱雀に侵攻し、ロリカ同盟を消し飛ばしても女王はなにも言わない。

ここに至り、彼は女王は自分が皇国と繋がりを持っていることに気づいていないと判断した。

おそらく女風情にはルシの力を扱いきることなどできなかったのであろうと。

だからこそ皇国に女王暗殺を提案し、それが皇国の手によって実行されると驚くほど簡単に女王は死んだ。

所詮ルシといえど女。高く見たのが間違いであった。

そう彼は現実にある結果を見て、記憶から消え去った女王のことをそう決めつけた。

 

「白虎め。蒼龍クリスタルを保護するだと?

あんなクリスタルなんぞくれてやるわ。

我の国に相応しきクリスタルは別にあるのだからな」

 

蒼龍王は高らかに笑う。

国家を成り立たせるあらゆる力の源であるクリスタルを他国へ引き渡すなどコンコルディアがミリテスの属国化する暴挙であると言っても過言ではない。

しかし、そんな表面上の些事など彼にとってはどうでもよかった。

仮に引き渡さなくても蒼龍クリスタルなど彼はいずれ自ら破壊するつもりであったのだから。

それに蒼龍王には属国化などする気はないし、必要以上に干渉させる気などない。

無論、皇国の上層部に何度か頭を下げる必要に駆られるが、そんなものは今まで女に頭をさげてきた屈辱に比べれば屁でもない。

 

「青龍の力。それさえあれば青龍王国を再建できる」

 

青龍王国。

それは鴎歴197年にルシ・トコヤミが現在のライローキに設立した国家。

青龍人と呼ばれた者達の国であり、蒼龍同様モンスターと竜を使役していたという。

男性中心の社会を持った大国でもあり、蒼龍クリスタルによって滅ぼされたという。

この国家の実在は確実とコンコルディア王国の公式見解ではあるが、それにしては青龍王国の詳細はあまり伝わっていない。

というのも青龍王国の民である青龍人はクリスタルの化身である竜を喰らい、その結果として竜の呪いを受け、青龍人は呪われた力で互いに相争った。

そこに蒼龍クリスタルの意思を受けた聖女が青龍人と青龍クリスタルをナラクへと封じ、民を解放したのだ。

そんな竜の怒りを買った青龍人の詳細など知らずともよい。

ただ青龍人は間違った存在であった。それだけ知っておけばよいというのである。

 

「ハッ、所詮権力を握りたかった女どもの小賢しい策謀であろう」

 

だが蒼龍王はその伝承を信じてなどいなかった。

ただただ女だというだけで出世していき、功績を立てた自分の陰口を叩く女どもが巣食う王宮で殆どの人生を過ごした蒼龍王は女という存在を凄まじい偏見で見るようになってしまっている。

だから蒼龍王は青龍人は竜を喰らって竜の力を身に着けたが、強欲な女どもの策略に嵌ってしまい封じられた。

そして残った女どもはさも自分たちが正義で間違っていたのは青龍人達がであるに見えるよう話を脚色し、青龍王国が男性中心だったのがこのような悲劇が起こった原因のひとつとしてそれを否定し、女尊男卑が正しい在り方であると詭弁を弄し、まんまと女どもがこの国を支配するようになってしまったのだと解釈していたのだ。

 

「間違っておるのは青龍王国ではなく、このコンコルディアの体制よ。

間違いを正し、皆を正道へ導くことこそ王である我の責務。何者にも邪魔させぬわ」

 

蒼龍王は不健全で歪んだ野望に向かって邁進(まいしん)する。

その野望とは青龍王国を蘇らせ、オリエンスに覇を唱えること。

無謀にもほどがある野望であるが、それは蒼龍王自身理解している。

だが国を腐らせる女どもが実権を握り、本来その権利を行使すべき男が蔑まされている現体制を破壊し、男尊女卑という在るべき国の形を取り戻せば自分の代では無理でも何代か後の王が成し遂げるであろうと信じていた。

何故なら王家に伝わる伝承で、蒼龍の男は聖女によって竜に呪われた力をその血に封じられた青龍人の末裔であることを彼は知っていた。

ならばその力の封印を解く方法を明かせば、必ずや他国の軍隊をたちどころに灰燼に帰すことのできる力を持った青龍人の軍隊を築けると考えたのだ。

その考えを真っ当な感性を持つ人が知ればおそらく呆れ果てるだろうが、そもそもからして劣等種である女どもが国を支配している状態で他国とやりあえているのだから有能な男達が国を支配するようになれば他国を圧倒できて当然であるという思考をするのが蒼龍王である。

たとえ愚かと誹られようが、劣等感に苛まれた王にとってそれは絶対の真理なのである。

 

「いずれ白虎とは手を切るが、今はともかく我の目的の為に、朱雀の大地を少しでも多く我が物とすることが先決よ」

 

当然オリエンスに覇を唱えることが目的の蒼龍王には、白虎とオリエンスの覇権を分け合おうなどという殊勝な考えはない。

今回の同盟とて、朱雀が滅ぼして旧朱雀領が両国によって色分けされれば、そう遠くない日にミリテス皇国とコンコルディア王国がオリエンスの覇権を巡って全面戦争をすることになるだろうと蒼龍王は見ていた。

つまりこの大戦が終結した後に待っているのは、オリエンスの覇者を決める大戦を起こすための準備期間という名の平和だ。

 

「おっと。朱雀は我らが女王を暗殺した故に我らが誅ずるということになっておるのだったな!

まったく害虫を殺してくれただけでなく、自らが滅ぼされる理由をつくってくれた朱雀には感謝してもしきれぬわ!!」

 

すでに女王のことを記録としてしか覚えていない蒼龍王にとって、女王は女のくせに腹立たしいことに王座を王家の男達から奪ったばかりか、王座に座り続ける為に不老となるルシにまでなって王の権力を振るい続けた強欲きわまりない下賎な女でしかない。

もし女王のことが記憶に残っていて、己の企みを看破され続けた言いようのない恐怖を覚えていたならばもう少し言葉を選んだだろう。

尤も、ニュアンスが変わるだけで女王が死んでよかったという感想は変わらないだろうが。

 

 

 

同時刻、旧ロリカ同盟領上空。

【ロマノフ級】のラウンジルームで2人の文官が話し合っていた。

 

「蒼龍臨時政府もチョロイもんだな」

「ああ、国の力の源を他国に売り渡すような王に誰が従うってんだ」

 

彼らは互いに笑みを浮かべるとウイスキーの入ったグラスで乾杯しあう。

彼らにとって蒼龍臨時政府の決断は随分と愚かなものに映ったのだ。

 

「張りつめてばかりいろとは言わんが、あまり気を抜くのは感心せんな」

「「げ、元帥閣下!」」

ウイスキーを飲んで少し赤くなっていた顔は、シドに声をかけられた直後に真顔に戻り敬礼する。

 

「貴様らは今回の蒼龍の対応をどう思う?」

 

シドの問いに文官2人が顔を見合わせる。

なんでそんなことを問うてきたのかわからないからだ。

 

「愚かだと思いますね」

「その通りです。いくら事前交渉で決まっていたとはいえこれはありえません」

「では、蒼龍王の考えが分かるか?」

 

続けての問いに文官達も怪訝な顔をする。

蒼龍王の思考を読めと言われても、常軌を逸しすぎててよくわからないのだ。

 

「……王になれて有頂天になってるのでは?」

「……或いは、かつての腐敗貴族のように血統だけが取り柄のバカなのでは?」

「うむ。……そうか。ならよい。ああ、そうだ。私もそれが欲しいな」

 

シドが文官達が持ってるグラス指さすと、文官達は空のグラスにウイスキーを注いでシドに渡した。

渡されたグラスの中のウイスキーを感情のない瞳で見つめながら、シドは思考する。

 

(計画通りといえばそうだが……随分とあっさり引き渡したのがひっかかるな)

 

シドとしては今回の交渉は相当時間がかかると考えていた。

事前にクリスタルの引き渡しに関する密約を結んでいたとはいえ、蒼龍がそう簡単に自国のクリスタルを引き渡さないだろうと考えていたのだ。

しかし現実として、思いのほかあっさりと蒼龍はクリスタルに引き渡しに同意したのだ。

無論、最初はクリスタルの引き渡しを蒼龍王も渋っていたが……

 

(熱を感じれなかった。もし本気で渋っていたのならば、もっと交渉は難航しただろう

では、蒼龍にはクリスタルを失っても痛手にならないような力が他にあるとでも?)

 

殆ど勘に近いものではあったが、シドはその疑いを捨てきれずにいた。

その力とやらが自分が構想しているような自然の力を引き出す類のものであれば問題ない。

むしろそんなものを蒼龍が実用化させているのなら、シドにとっては福音ですらある。

しかし、もし、そうではないのだとしたら……

 

(まぁいい。朱雀を滅ぼした後、クリスタルジャマーを展開して蒼龍に攻め入ればハッキリすることだ)

 

雷が鳴る日は近く、それまでに成さねばならぬことは多い。

仮に蒼龍王の裏にシドが最も憎む存在がいるのならば滅ぼすまでだ。

 

「アギトか……、くだらんな」

 

シドは誰にも聞こえないほど小さな声で呟くと、グラスを一気に呷った。

全ては神々が操る歴史を終わらせ、人の時代を築く為に。

それこそが己の理想であり、その為に手段を選ばぬことをシドは改めて認識した。




タイトル通り今回は我らがミリテス皇国の気高き指導者シド・オールスタイン元帥と見た目そのままな蒼龍王の2人に焦点を当ててみました。
あと自分の蒼龍王や軍令部長に関する考察を活動報告に載せてますので興味あったら見てください。

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