深窓のTS魔女   作:小動物愛好家

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息抜きに書いた短編TSです。
多分続かない。

2/27 ストーリー進行に伴いサブタイトルを変更しました。


魔女

 

木々の隙間から少量の陽が差し込む、鬱蒼とした森。小動物すらも滅多に足を踏み入れないような場所に、その屋敷は建っていた。

両開きの扉は植物の蔓に覆われ、往時は白く輝いていたであろう白亜の石柱も、薔薇に巻きつかれおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。窓枠は経年劣化でガタガタになっており、屋根に至っては一部腐り落ちてしまっているザマ。外観だけでも、人が住んでいるとは思えないようなこのオンボロ屋敷。

 

どうです、これが私のおうちなんですよ。酷いでしょう?

 

おっと、申し遅れました。私ロラ・プラシエルといいます。僭越ながら、このオンボロ屋敷の主人をしております。経緯を話せば長くなるので、掻い摘んで説明いたしますと、TS転生して気付けば館の主となっていました。ということです。

何を言っているのかわからねーと思うが…という感じですね。自分でも分かりません。

目を覚ますといきなり森の中で、人里求めて歩き回るうちにここへたどり着いたんです。前世の記憶は結構忘れていますが、性別が男だったという事は辛うじて覚えています。ああ、私の名前は書庫にある絵本から適当に抜き取ったものです。江戸○コナンみたいな。名前が無いと色々不便ですからね。

 

 

つらつらと動かしていた羽ペンを止め、ほぅとため息を吐き外を眺める。やめたやめた、馬鹿馬鹿しい。こんなことしてもなんの役にも立たん。俺は書き始めたばかりの日記を机に放り捨て椅子に凭れかかった。

 

転生してから恐らく三ヶ月程。屋敷に掛けられていた何らかの魔法か呪いで魔女となってしまった俺は、この何もない森を一定範囲から出られないようになっていた。生まれ変わった意味を探すかのように、一時期は頻繁に屋外調査に赴いていたが芳しい結果は得られず、屋敷内の本を虱潰しに読み漁ったりもした。しかしやはり結果は同じで、代わりに手に入れられたのは前世に無かった魔法の知識と薬草学、この世界の文字だけであった。

俺にできることと言えば、精々こうして暇潰しをするか、森や屋敷の手入れをするくらい。神がいるのならば、何故俺をこんな所に放り出したのか問いただしたいもんだね。日記には飽きたし他にやれることは無いだろうかと立ち上がった時、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。

ついに来たか!逸る気持ちをなんとか抑え、身支度を済ませてから屋敷を飛び出す。これだよこれ、異世界転生ならやっぱりイベントが無いと始まらないよね。俺は持ち前の優れた嗅覚と聴覚を駆使し、悲鳴がした方向へと駆け出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

それは一瞬のことだった。魔獣に襲われもうダメだと諦めた時、一陣の風が背後から吹き抜けた。するとさっきまでヨダレを垂らして僕を食らわんとしていた魔獣が、恐ろしいナニカでズタズタに引き裂かれてしまったんだ。それと同時に、目の前に黒いローブとつば広のとんがり帽子を被った人が視界に飛び込んできて、直感でこの人に助けられたんだと僕は思った。と、とにかくお礼を言わなくちゃ失礼だよね。

 

「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」

 

僕がそういうと、その人はゆっくりとこっちに振り返った。

 

「ああ。怪我は無かったか?痛むところは?」

 

"彼女"は気遣わしげな目でこちらを見つめてくる。それなのに僕は、返事をするのも忘れてぽーっとその人を観察し始めてしまう。背中まで伸びたマゼンタの髪に、帽子の影からでも目立つ透き通った蒼い瞳。それに村の人たちよりも長い耳は今まで見たこともないものだったから、仕方ないよね。

いつまで経っても返事をしない僕に、やがてローブのお姉さんはあわあわし始めた。

 

「お、おい。どこか痛むのか!?怪我はどこだ、私に見せろ」

 

こっちに手を伸ばして服を脱がせようとするお姉さんに、流石に僕も慌てて制止する。彼女のお陰で傷なんてどこにも無いし、体調は至って健康そのものだし。

 

「大丈夫だよ。ありがとお姉さん」

 

「な、なんだ、それならそうと言ってくれれば良いのに」

 

僕の言葉に、お姉さんはホッと胸をなでおろす。その姿を見ながら、ふと疑問が浮かび上がってきた。それはお姉さんが何故こんな所に居たのかということ。この森の中へは僕みたいにやむを得ない事情がある人しか来ないはず。ひょっとしてお姉さんもそうなんだろうか?とは言え村にこんなキレイな人なんていないしなぁ。うーん?

 

「キミ、この森は結構デンジャラスなんだぞ。家はどこだ?途中まで案内するから教えてくれないか」

 

考え事をしていた僕に声がかかる。そう提案してくれたのはお姉さんだ。しかし僕は首を横に振って答える。

 

「だ、ダメだよ。薬草が無いとお母さんが…」

 

そう、僕には病に倒れた母がいる。この森で採れるという薬草が無いと、病気は治らず母は亡き人になると医者に言われ、だからこそ僕は危険を冒してまでここへやってきたのだ。

それを聞いたお姉さんはしばらく顎に手を当てて考えると、こう言った。

 

「その薬草、うちにあるかもしれない」

 

と。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

屋敷を見た少年は若干表情を歪めていたが、薬草のためと割り切って俺の後ろを付いて歩く。この子、知らない人について行っちゃダメだと教わらなかったのか?案外ダメ元でも言ってみるもんだね。

少年を連れたまま俺が倉庫として使っている部屋に入る。一応掃除はしてあるので見て呉れは悪く無いはず。そこから引き出しのプレートを確認し薬草を探す。彼が言うには、赤い葉脈に白のギザギザした葉が特徴の草らしいが。確か最近そういうのを採取したような記憶が…あった、これだな。

 

「キミ、これがその薬草か?」

 

少年の言う薬草と特徴がピッタリ合う草を掌に乗せて見せる。すると彼の目はキラキラと輝きだし、満面の笑みで勢いよく頷いた。

 

「これですこれ!間違いありません!」

 

「そうか、なら持っていくと良い。このままでも良いのか?」

 

少年の手にそっと薬草を握らせる。すると彼は困惑してこちらに返そうとしてきた。

 

「えっ、良いんですかこんな貴重なものを持っていっても!?」

 

「良いも何も、うちじゃ使い道がないからな。是非有効活用してあげてくれ。このまま引き出しの中で腐らせてしまうよりよっぽどいい」

 

そう言うと、彼は渋々といった感じで大切そうに茶色いベストのポケットにしまってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、何から何まで。お姉さんがいなきゃ今頃僕は魔獣の胃の中でしたよ」

 

少年を守りながら移動出来る最大範囲までやってきた俺は、念のためにと攻撃魔法を込めた水晶を手渡し別れの挨拶を交わしていた。

 

「礼は要らん。後は一人で行かなきゃならないんだ、気を付けろよ」

 

「大丈夫です。ここまで来れば魔獣も出てきませんから。お姉さん。ホントに、ホントにありがとうございました!それじゃまた!」

 

元気よくパタパタと駆けていく少年を見つめながら、俺は安堵の溜息を吐いた。

まさか日本語が通じるとは思わなかったなあ、と。

 

 

 

 

 

 

彼が無事帰った後、少年の村では"森の奥にとんでもない美女がいる"という噂が広がったことを、ロラはまだ知る由もなかった。

 

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