深窓のTS魔女   作:小動物愛好家

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三ヶ月家に籠ってたロラは若干コミュ障気味。
ぶっきらぼうな話し方が個人的なツボ


旅人

 

 

 

ある日、透石で知人の様子を伺っていたところ、以前助けた少年が見知らぬ男性を連れて屋敷に向かってくる姿が見えた。

度々襲いかかってくる魔獣を撃退しているのを見ると、男は戦いに慣れた人間であると予測出来る。俺としてはそういう穏やかじゃない人間に来てほしくないと言うのが本音だが、曲がりなりにも魔女をやっている以上避けられない運命なのかもしれない。とりあえず警戒されないようお茶でも淹れて待っておくか。うん、それが良い。

 

しばらくして客人はやって来た。帯剣し太陽の光を受け鈍い輝きを放つ鉄製の鎧は、戦いを生業にする人間であることを言わずとも語っている。玄関の扉を開けて彼を視界に入れた瞬間、突然跪いたと思ったら目にも留まらぬ速さで俺の手の甲に口付けを落とした。

 

「驚いた…こんな所に僕のフィアンセが居たなんて。今すぐ教会へ向かおう!」

 

「ぇ?」

 

俺の手を握って返事も聞かずに道を戻ろうとする男に、隣に居た少年が待ったをかけた。その顔は般若のような形相である。

 

「パトリックさん!何やってるんですか!」

 

「おおアンリ君。すまない、つい癖で…」

 

パトリックと呼ばれた男は俺の手を離し、気恥ずかしそうに頰を指で搔く。あの流れるような動作は確かに女性の扱いに慣れているようだったが、彼が女好きであることはこの際気にしないでおこう。

 

「俺はパトリック。旅をしている者だ。先程の非礼をお詫びするよ、森の魔女さん」

 

「べ、別に気にしてない。私はロラ、ロラ・プラシエル」

 

改まって手を出す彼に応じる。旅の途中、村で俺の噂を知り態々会いに来たと彼は語った。なるほど、パトリックは旅人だったのか。それならあの強さにも頷ける。ついでとばかりに側で控えていた少年も身を乗り出し、こちらに手を差し出す。今日は案内人としてここへ来たんだという。

 

「僕はアンリ。この前は助けてくれてありがとうございました」

 

「どういたしまして」

 

彼の身長に合わせ少し屈む。この前視てしまったアレはもう気にしてないし、笑顔で握手を交わす。するとアンリ君は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。どうしたのだろうか?

 

「彼はウブなのさ。どうもレディの笑顔に慣れてないらしい」

 

「ち、違います!」

 

赤くなっていた少年は更に顔を真っ赤にしてパトリックへ吠える。なるほどそういうことだったのか。いや、そうじゃなくて、彼らは意味があってここを訪れたはずだ。さっきからさながら漫才のようなやり取りを繰り返しているが、何がしたいのだろう。

 

「パトリックさん、そんなことより目的があるんじゃなかったんですか!?」

 

恥ずかしさを誤魔化すように話の流れを断ち切るアンリ君。そうそう、それが知りたかったんだ。

 

「おっとそうだった。君を弄るのが楽しくてつい」

 

悪怯れる様子もなく彼はクツクツと笑う。爽やかそうな見た目のわりに悪趣味なヤツだ。その内背後から刺されるぞお前。

 

「ロラさん、俺はあんたに求婚しに来たわけじゃなくて、魔法を教わりに来たのさ」

 

「ほう。魔法を、か」

 

見た所パトリックは剣士、魔法を駆使して戦う類の人間には見えない。そりゃあ魔法を教わるなら魔女以上の適役はいないだろう。

 

「俺は今よりもっと強くなりたいんだ。その為には魔法を習得するしか道はない」

 

悔しそうに顔を歪め彼の拳に力が入る。余程の事情があるらしい。

 

「だから頼む!俺に魔法を教えてくれ!」

 

俺の両肩を掴んで懇願するパトリック。人に何かを教えた経験など無いに等しいが、こうも頼りにされてしまっては断ることも出来ない。結局彼の願いを聞き入れ、日没までの間魔法の習得を手伝う流れとなってしまうのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「己が魔力を感じる方法は幾つかある。その中でも簡単なものを実践してもらう」

 

荒れ果てた屋敷前の庭での実習。何にでも挑戦したいお年頃のアンリ君も参加しているから、生徒は二人だ。

まずは基礎の基礎、そもそも自分に流れる魔力を感じ取れないと魔法は使えないからな。

 

「口で説明するのは難しいのだが、こう…包丁で指を切りそうになった時、怪我をしてないのにジクジクした熱を感じたことはないか?」

 

分かりやすい事象を挙げるのなら、まな板に手を固定して指の間に釘を落とすという実験。実際にやってみると分かるのだが、釘が落下した瞬間、着地点周辺の指に熱が集まるのを感じ取れると思う。あれが謂わば魔法の源なのだ。

 

「あれを常にコントロール出来るようにならなければ、魔法は使えない」

 

「あの感覚を、か。ちょっと難しそうだなぁ」

 

自分の手を見つめ、グッパグッパと開いては握りしめる動作を繰り返すパトリック。アンリ君に至っては頭からはてなマークが乱立してしまっている。

自分にとって当たり前の感覚を他人に伝えるのは非常に難しい。こういった手はあまり使いたくないが、時短の為にも魔法で手っ取り早く感覚を掴んでもらうとしよう。

 

「仕方ない。パトリック、私の手を握ってみろ」

 

「ん?良いのか。じゃあ遠慮なく」

 

サササッと体を横付けさせ、ぎゅっと指を絡ませてくる不届き者。彼の突拍子も無い行動に、アンリ君も俺も呆気に取られてしまう。

 

「ば、馬鹿者!誰が恋人繋ぎをしろと言った!!」

 

「いででででで!?」

 

反射的に電撃魔法をお見舞いしてやると、パトリックは地面に落ちた蝉のように転がり回った。ハッハッハ、思い知ったか魔女の力。

 

「真面目にやれ!」

 

「パ、パトリックさん…大丈夫ですか?」

 

心配そうに駆け寄るアンリ君だが、どこか残念なものを見るような目になっているのは気のせいではないはず。

 

「あ、ああなんとか。やれやれ、厳しいねロラは」

 

「自業自得だろうが」

 

少年の手を借り立ち上がったパトリックは、土を払うと俺に平謝りをしてきた。コイツ懲りてないな。

 

「いいか、余計な事はせずただ黙って私の手を握れ。わかったか?」

 

「もうしないって。悪かった」

 

彼がキチンと手を重ねたのを確認したので、今度は電撃ではなく魔法の源を相手に流し込む。指先にピリピリした感覚を感じ取ったのだろう、パトリックは気持ち悪そうに顔を歪めさせた。そこで俺は手を離す。他人の魔力ではあるがこの効果は20秒程続き、今ならそれを使って魔法を行使出来るはずだ。

 

「指先に力を集中させてロウソクの火をイメージするんだ。出来るか?」

 

「ああ。ロウソク、ロウソクの火…だな」

 

人差し指に念を送り始めた彼は何度かブツブツ呟いた後、見事小さな灯火を生み出した。とても嬉しそうに喜んではいるが、魔法習得への道はまだ始まったばかり。これを自らの魔力で作り出し、さらに複雑なイメージを湧かせられるようにならなければ実戦で使えるモノには到底ならない。

年甲斐もなくはしゃぐパトリックを見て、僕も僕もとアンリ君がこちらにやってくる。

 

「どれ、君もやってみるか。さあ手を」

 

「うわあ、なんか変な感じ…」

 

痒そうに掌を掻く少年に、先程と同じようにロウソクの火をイメージするよう促す。するとアンリ君は、予想外なことに少しの時間も必要とせず即座に火を指先に灯した。しかもサイズが大きい。彼は自分の可能性に気付いていないようだが、上手くいけば将来大物の魔術師になれるかもしれない。この俺がそこまで言うのだからまず間違いないだろう。

 

「偉いぞアンリ君。あのダメ男より才能がある」

 

「ダメ男は酷いんじゃないかな魔女さん」

 

肩を落としてボヤく男を、少年の頭を撫でて無視する。伸び代のあるアンリ君を手塩にかけて育てた方が教え甲斐があるというものだ。とは言え日没まで手伝ってやる約束を忘れた訳じゃない。約束を守ってこその魔女だ。それ故、俺はパトリックに向かってこう囁いた。

 

「なら、誰でも使える強力な魔法を知りたいか?」

 

と。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

太陽が険しい山岳に身を隠し、森に夜の帳が下りる。出番を待ち続けていた音楽家達が彼方此方でアピールを始め、あっという間に天然のコンサート会場へとその姿を変貌させていく。普段は荒々しい魔獣共も、今は演奏に耳を傾けている頃だろう。

そんな中、忙しなく荷物を纏める人間の影が二つあった。傍らにはとんがり帽子を目深に被り、黒いローブを着た傾国の美女が立つ。

 

「よし、これでおしまい」

 

丸々と太った皮袋を肩に掛け、パトリックが立ち上がる。あの中には魔女お手製の水晶をこれでもかと詰め込んでおいた。旅先でも魔法の修行は続くだろうが、その穴埋めをする為の謂わば繋ぎ。これが先程言っていた『誰でも使える魔法』の正体。少年やフランソワに渡していた物と同じ、自分の魔力を必要としない使い捨ての魔法である。

 

「水晶が無くなればまた訪ねて来い。その時は稽古に付き合うぞ」

 

「助かる。恩にきるよ、ロラ」

 

小さくはにかむパトリックに、アンリ君が不満そうに頬を膨らませる。

 

「む、いつから呼び捨てするような仲になったんです?」

 

「おや、妬いてるのかな?」

 

「妬いてません!」

 

ムキーッと赤くなって反抗する少年。相変わらず趣味の悪い男だ。顔は眉目秀麗だというのに、何故こうも中身が残念なのか。

 

「仲良くしろ二人共。それとアンリ君、山菜は忘れず母に渡してやるんだ。分かったね?」

 

「あ、ハイ勿論です!お母さんもこれで元気になりますよ!」

 

透石を通じて視る彼の母は想像以上に儚げな人だった。力をつけて欲しいとの願いも込めて、少年には健康に良い山菜をたっぷり持たせている。これで元気になってくれればよいのだが。

 

「それじゃあロラさん、また会いましょうね!」

 

「ああ。達者でな」

 

森の外に向かって歩き始めた彼らを屋敷の玄関から見送る。いつもなら行動範囲ギリギリの所まで付いていくが、今回はパトリックがいる。俺の出番は無いというわけだ。

茂みに隠され見えなくなった姿から視線を切り、屋内に戻る。喧騒の去った屋敷内はヒンヤリと冷たく、そして淋しい。

 

「…………」

 

次に誰かが訪れるのはいつだろう。そんな事を考えながら、トボトボと自室へ向かうのであった。

 

 

 




パトリック「都に着いたら色々仲間に自慢してやろっと」

アンリ「都に行くんですか?」

パトリック「あそこは稼げるからな。オススメだぜ」

アンリ「ふ〜ん…」
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