深窓のTS魔女   作:小動物愛好家

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お待たせしました。更新が遅くなってしまい申し訳ないです。
言い訳させてもらうと、本当にこの内容でいいのかとかなり悩んでおりました。プロットにも若干の軌道修正をくわえてます。
あとがきにも書いていますが、可笑しな点がございましたらドシドシご報告ください。低評価も覚悟の上です。

2/27 ご意見をもとに、作中の表現を一部改定いたしました。ご指摘ありがとうございました!


希望

 

「鉄砲隊、装填開始!」

 

黒光りする馬に騎乗した男が、地を揺らす大声で叫ぶ。その言葉に呼応して横一列に並んだ銃士たちが、一斉にマスケット銃の弾込め作業に入る。

ここは戦場。周囲を大国に囲まれたこの国は豊富な海洋資源や鉱物を目当てに、度々他国からの侵略を受けている。今眼前に広がる光景も、隣国の侵略行為に他ならない。

 

「魔術師隊攻撃始め!」

 

作業を行う銃士の傍に立つ魔法使い達が、陣の左右から順番に攻撃を放つ。距離にして150m、敵陣の兵士たちは前面と頭上に掲げた大盾で魔法から身を守る。しかし特殊な訓練を修了した魔術師隊の完全なるアウトレンジ戦法は、確実に相手を蝕む。

 

「良いぞ!次、鉄砲隊射撃用意、撃てーーッ!」

 

中心に位置する魔術師達の攻撃が止むと同時に、先程と同じ順番で銃士が鉛玉を発射。魔法を受け耐久度の下がった大盾では防ぎ切れず、銃弾は貫通。何人もの敵兵が自陣に到達する事なく崩れ去っていく。

 

「鉄砲隊はすぐさま再装填にかかれ!術師も詠唱が終わった者から順次攻撃せよ!」

 

銃士が慌ただしく銃弾の再装填に着手し、魔術師も同じ手順で魔法を降り注がせる。

幾度の危機を乗り越え、死線を潜り抜けた者達は他国軍よりも練度が高く、その恐ろしい攻撃の嵐を前に敵兵は動く事を許されない。

 

「将軍様、此度の戦も何とか持ちこたえられそうですな」

 

先頭に立つ馬上の男に、近づいて来た初老の爺が呟く。しかし男は顰めっ面を崩さず正面を睨みつけたまま動かない。

 

「いいや、奴らの戦術も日に日に改良されている。このままでは、いつかこの戦線も突破されてしまうだろう」

 

これは将来確実にやってくるであろう最悪の日。見ての通り彼らはテストゥドと呼ばれる構えを運用し、遠距離攻撃に対し防御力を高めて来た。それに加え、マスケット銃の製造技術が流出する可能性も視野に入れなくてはならない。銃を運用しているのは今のところ我が軍しか存在しないが、この優位性も今後失われてしまうのは明白。だからこそこの男は独自の方法で戦闘を指揮し、出来る限り敵を殲滅するのだ。

 

『神よ。どうか我々に希望を…』

 

男の指揮の下、止む事のない魔法と銃弾の嵐は、敵兵を文字通り蹴散らしたのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

魔術師の詠唱時間をマスケット銃の発砲でカバーする戦術は、将軍によって考案された。さらに陣形は横陣を基本とし、大砲の砲手も含め順番を決めて攻撃することでそれぞれのクールタイムを補い合う。これにより絶え間なく攻撃が続けられるのである。万一に備え後方にパイク兵を配置し、撃ち漏らしがあった場合は彼らが銃士・魔術師の援護に駆け付ける。この戦術が編み出されてから全戦辛勝、兵士の損耗率も以前に比べ飛躍的に改善された。ほぼ無敵と言っても過言ではない戦果に、しかし男は素直に喜べないでいた。

 

「度重なる戦闘、彼らの疲労も限界か…」

 

都の南端に位置する兵舎では、多くの兵士達が身体を休めていた。だが目には生気が無く隈も酷い。それも当たり前だ。三日連続で出撃すれば誰でもこうなる。加えて碌な睡眠も取れていないのだから。

敵国は昼夜を問わず我々に何度も戦場へ赴かせる事で、軍を疲弊させるつもりなのだろう。このままではマズイ。元々低い射撃の命中率も目に見えて悪化している。

 

「何か、決定的な一撃を与えられるものは無いのだろうか…」

 

思わず口にしてしまったのは、ありもしないただの願望。そう都合のいい話が運良く転がっているはずもないのに。やはり人というものは、行き詰まると神頼みをしてしまうものらしい。全く嘆かわしい事だ。

 

「おや、将軍様。お考え事ですかな?」

 

「セバスか。いや何、ただの独り言さ」

 

廊下の窓から月を眺めていたのを、白髪の混じった初老の爺に声を掛けられ顔を向ける。セバスティアンは私の優秀な部下だ。初めて戦場に立った時からの付き合いであり、時に軍事顧問としての側面も見せる経験豊富な男だ。

 

「左様で。なれば将軍様、巷で噂になっている"魔女"の話をご存知ですかな?」

 

鋭い眼光が私を射抜く。どうやら独り言は聞かれてしまっていたらしい。

 

「知らんな。それは私の世迷言と関係があるのか、セバス」

 

「ええ、ええ。勿論でごさいます。というのも、酒場にいたという流浪人が火元なのだそうですが…」

 

要約すると辺境の村に隣接した森で、古より語り継がれる"魔女"が暮らしているという噂だ。それだけなら私も与太話として聞かなかったことにしたが、セバスティアンは流浪人が持っていたとされる水晶の欠片を懐から取り出した。

 

「ふむ、確かに魔力の残滓を感じられるな。だがこれは…」

 

残滓としては余りにも力が大きすぎる。通常はここまで大きな痕跡は残らないはずであり、それに今まで感じたことの無い波動だ。

私は僅かに希望の光が差すのを幻視した。もしかすると、この噂は本当かもしれない。

 

「…セバス、その流浪人とは話したのか」

 

「はい、既に情報は搾り尽くしました。やはりその森が怪しいかと」

 

「そうか。直ちに調査隊を向かわせろ。この噂が本物かどうか、調べる必要がある。可能ならば魔女とやらに協力を仰ぐのだ」

 

「仰せのままに」

 

恭しく腰を折り、スッと立ち去っていく後姿を見て戦慄する。あの爺はどこまで見通しているのか、彼に知らないことなど無いのではないかと思ってしまうほど、何か末恐ろしいものを感じずにはいられなかった。

 

「兎にも角にも、最も敵に回したくない奴なのには違いない」

 

暗い廊下で一人、男はニヒルな笑みを浮かべた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

存外植物を育てるのも悪くないな。大きく開いた一輪の花を愛で、そう思った。

パトリック達が去って一週間が経ったある日、何らかの植物が発芽しているのを発見したのだ。寂しさ紛れで水遣りをしていたところ、見ての通り美しい花が咲いたのである。俺の髪に似たマゼンダ色の花弁をふんだんに湛える、百日草のような花。

だが、せっかく生まれてきてくれたんだ。どうせならもっと相応しい場所が良かったろうにと、俺は雑草が生え放題のままだった庭を整備してそこへ植え替えた。造園については全くの無知なので、枯れてしまったりしないかと不安だったものの、現在も元気に空を見上げているのでとりあえず一安心だ。ついでに屋敷の景観も相対的に良くなったから、まさに一石二鳥。あとは腐り落ちた屋根をどうするかだが、あまりそこについては考えたくない。想像するだけで頭が痛む。

しかし新たな楽しみが増えた事を喜び、木々の隙間から漏れる陽の光に目を細めながら呟く。

 

「ミツバチや蝶が来れば、きっと和むだろうな」

 

と。

 

 




執筆に際して、以下の戦争を参考にしています。

パヴィアの戦い
チャルディラーンの戦い
長篠の戦い

現実世界でのマスケット銃は有効射程がギリギリ70mくらいですが、この世界では魔法が存在する為、ライフリングがなくても補助魔法を使うという形で、そこそこ遠くまで撃てる設定。

可笑しな点がありましたら気にせずお知らせください。
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