世界を騒がせているCOVID-19の影響を受けて、私の職場も休業となり、こうして久しぶりの更新をする運びとなりました。
外出自粛要請に従い、ぽちぽち家で執筆していきますので、何卒宜しくお願い致します。
少し、昔話をしよう。
それも御伽話になるくらい遥か昔のお話だ。
──かつてこの世界には、数多くの「魔女」と呼ばれる存在が人と共に暮らしていたと言われる。
彼女たちは、只人には到底扱えないような高位の魔法を駆使し、人々の営みを豊かにしていたそうだ。
当時の人間と魔女の関係は極めて良好で、それこそ互いに惹かれ合い、新たな生命を授かるほどだったという。
しかし、そんな平穏な世界にある事件が起きた。
愛する人に裏切られ、あまりに酷い仕打ちを受けた一人の魔女が、怒りと絶望に身を任せ自身の住んでいた国を丸ごと焼き尽くしてしまったのだ。
この事件が起きた後、魔女に向けられていた人々の尊敬は畏怖に変わり、中には迫害を受ける者まで現れたという。これを受けて、各地に点在する魔女たちは「彼の地」に集いある決断を下した。
人との共生はもはや不可能、己の強力すぎる魔力は自身と共に人里離れた場所に封印すべし、と。
それからというもの、魔女は人間たちの前から姿をくらまし、人目につかない秘境に自身を封じ込めたという──
これは、我が国で教育を受けていれば誰でも知っている昔話だ。多くの民はこれをただの御伽話だと捉えており、魔女など存在しないと、架空の存在だと考えている事だろう。
だが、実際に魔女は存在している。
いや、存在していた…と言うべきか。
これまで私は、かつての魔女の隠れ家と思しき場所を訪れ、何度も調査を行ってきた。
しかし、そこにあるのは幾ばくかの人骨と、孤独を綴った古い日記ばかりであり、肝心の魔女本体もとうの昔に亡くなり、力の継承も行われていないという状況のみであった。
確かに、この世界には魔女が存在していたのだろう。しかし今現在に於いては、もはや力の系譜は絶たれ、魔女は滅びてしまったものだと考えられていた。
そう、あの時までは──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「カルミア様!大変でございます!」
「何事だ、そんなに取り乱して」
息も絶え絶えに、失礼にもノックもせずに入ってきた部下を叱ることはせず、話を続けるよう促す。彼のこのような慌てた姿はごく稀である。それほどの何かがあったのだろう。
「魔女が、魔女が見つかりました!」
「おいおい、冗談は止してくれ。あれほど探し回ったのだ、魔女はもう存在しないと結論付けたはずだぞ」
大真面目にそう抜かす部下に、話を聞くのも馬鹿らしくなり、机に足を乗せ煙草に火をつけ一服する。全く、どうせならもっとマシな嘘を吐けないのか。
「う、嘘などではありません!先程、将軍の向かわせていた調査隊が帰還したのですが、彼らが言っていたのであります!『魔女がいた』と!」
「ほう…?」
小耳に挟んではいたが、オカルトを全く信じないあの堅物将軍が本当に調査隊を向かわせていたとは。
吸い始めたばかりの煙草をくしゃりと灰皿に押しつけ、話を聞く姿勢に入る。
「煙草を一本無駄にしたんだ、それなりの話を聞かせてくれよ?」
「は、はい!彼らが言うには、つば広のとんがり帽子を目深に被った赤髪の女が、辺境の森に住んでおり…」
その話は私の枯れた好奇心と探究心を大いに刺激した。幼い頃から探し求めた存在が、今まさに手の届く範囲に現れたのだから。
しかし、私には一つの疑問が浮かんだ。それは、自らを封印する「結界」が魔女の住処に張られているはずであり、なんの知識も持たない者はそこから先へは侵入出来ないようになってるからである。
「結界でありますか?確か、赤髪の魔女は結界の外へは出られないと言っていたそうですが、他の者は自由に行き来できるんだそうです」
「なんだって?そんな馬鹿な…いや、しかし…」
不可解なことであった。これまで私が調査した魔女の住処にはいづれも不可視の結界が張られており、私のように古代魔術に精通した者がいないと結界の解除は不可能に近い。
調査隊の見たと言う魔女は結界に何か細工をしたのか?しかし、人を避け生きる彼女たちがそのようなことをするわけが…いやいや、あの物語からは相当の年月が経っている。もしや、人間との共生を彼女は望んでいるのか?そう考えると辻褄が合いそうだ。
実のところ、魔女の使う魔術については未解明の部分がかなり多い。中には精神状態によって効果が左右されるものもあったらしい。もしかしたら、赤髪の魔女は無意識の内に人間との触れ合いを望み、その結果結界の作用が和らいだと仮定することもできなくはない。
しかし、何はともあれ…
「気になることが多すぎる。直接会って話さないことには全てが机上の空論に過ぎん。行くぞ」
「は…行くとは、まさか魔女のところへでありますか!?」
椅子にかけていた上着を手に取り、部屋を後にする。後ろから部下が慌てて追いかけてくる音が聞こえるが、もはや私は彼が追いつくのを待っていられるような状態になかった。
久方ぶりに自分の頬が緩むのを感じる。ここのところデスクワークばかりだったからだろうか。思えば外に出るのも随分な気がする。
ああ、こんなにも晴れやかな気分になるのはいつぶりだろうか──
足取りも軽やかに、私は堅物将軍の元へ急ぐのであった。
自分の作った設定で自分の首を絞めるスタイル(結界のくだり)
更新が止まっていたのも、この結界の扱いに困ってたからなんですよね…いやあ、なんでこんなの作ったんだろう…