深窓のTS魔女   作:小動物愛好家

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長らくお待たせしました。
長期間ほったらかしになってましたが、最近ようやく創作意欲が湧いてきたので、中身はともかくまず完結させようと思い立ち、こうして更新する運びとなりました。
今後更新が続くかは分かりませんが、頑張ります!
えい、えい、むん!


衝突

 

 

 

それはある日のことであった。

いつものようにロッキングチェアに揺られながら、透石を通しアンリ君や村の様子を見ていた時に、それはやってきた。

漆黒の鎧を身に纏った筋骨隆々の大男が、数人の兵士を引き連れ村にやってきたのである。

彼らは物珍しさに集まってきた村人たちに声をかけると、あろうことかアンリ君を拘束し、俺のいるこの森へと歩を進め始めたのだ。

俺は慌てて戦支度を済ませ(勿論本当に事を構えるつもりはない)玄関前で彼らが現れるのを待つ。大男たちの目的は間違いなく俺だ。村人への質問により俺と関わりがあると分かったアンリ君を人質とする事で、交渉を有利に進めようとしているのだろう。

やかましく音を立てる心臓を押さえつけるように腕を組み、玄関前に立つこと数分。はたして彼らはやってきた。

 

「こんな森の奥深くまでご苦労様。歓迎…はあまりしたくないが、要件は聞いてあげよう」

 

「わざわざ出迎えてくれるとはな。私たちの動向をどう探っていたのかは分からんが…」

 

兵士たちの一歩前に立つ大男は、手首を縄で拘束されたアンリ君を一瞥すると、こう続けた。

 

「一々説明する手間が省けたと言うわけだ。早速だが魔女ロラ・プラシエルよ、我々と共に都へ来て頂こう」

 

有無を言わさぬ圧でそう男が言い切ると、傍に立つ兵士が火縄銃?の銃口をアンリ君に向けた。つまり、逆らえば彼の命はないと言う事だ。

 

「どうやら、私に断る権利はないらしいな」

 

「ダメですロラさん!こいつらはロラさんを戦争の道具にするつもりなんです!ついて行っちゃダメだ!僕のことは気にしないで下さいっ!」

 

銃口を向けられたままアンリ君は叫ぶ。以前館に来た黒服の男たちの話でおおよその見当はついていたが、やはりそうか。

兵士の持つ銃を見るにそこそこ銃火器は発展してるらしいが、それでも魔女の力は必要らしい。

正直なところ、人を殺めるなんてまっぴらごめんだ。前世はもちろんのこと、今においても魔獣を殺めることはあるものの、無益な殺生は極力していない。しかしアンリ君を人質とされている以上、つべこべ言っている場合ではないだろう。

こうなっては仕方ない、俺は傍に浮かせておいたロッドを握りしめ、威嚇する。

 

「だが抵抗する権利は行使させてもらおうか。引き金を引くのが先か、魔法で怪我するのが先か…試してみるか?」

 

「なるほど面白い、やってみるがいい。私が相手をしよう。ちょうど魔女の実力を知りたかったところだ。」

 

鎧の大男は腰に手を当てて挑発するような素振りを見せる。怖がってアンリ君を解放してくれないかなと考えていた俺の甘すぎる願望は、あっさりと崩れ去ってしまった。

 

「………」

 

「どうした、何もしないのか?」

 

マズイ。この状況…どうすればいいのだろうか。ここまで来ても人を傷付けることに躊躇いが生じてしまう。冗談が通じない相手なのは見ればわかる。

どうしようかと内心あたふたしている間に、男が先に動いた。

 

「来ないのならこちらから行かせてもらおう!」

 

「くおっ!?」

 

ぶおん、と剣が重く速度のある音で目前を過ぎ去った。気付くと既に大男は眼前に迫っており、二の矢が首めがけて飛んできている。

相手がその気なら、もうやるしかない。皮肉にも男の攻撃によって俺の覚悟は決まった。

決心がついたのはいいがまずは防御。迫る剣を障壁魔法で弾き返し、ロッドを介して男を動けなくする程度の激しい水流を放出する。

 

「無駄だッ!この程度で怯むとでも!」

 

だが男はあっという間に水流を凍らせてしまうと、氷柱が地面へ落下する前に剣で叩き割り、鋭利な氷の破片を此方に吹きつけさせた。

 

「くっ!」

 

「阿呆め、隙だらけだぞッ!」

 

破片の防御に手を割かれた瞬間を突かれ、男が懐に入り込む。奴に反撃するよりも早く、彼の突き出した短剣が左肩に深々と刺し込まれ……ることはなかった。

 

「なッ!?刃が通らん…!まるで鋼鉄のような硬さ!」

 

男は心底信じられないと言った表情を浮かべるも、冷静に距離を取り俺と再び対峙する。今の俺は斬りつけても火花が散るだけで、身体には傷一つつかないほど硬く強固になっている。

 

「魔法使いが真正面から近距離戦を受けるとでも思ったか?既に私の体は硬質化魔法で鋼の硬さを手に入れている…そして!」

 

密かに準備させていた、雷撃魔法の起動トリガーを押した。

 

「私はお前が距離を取るのを狙っていた!」

 

「ぐ!?…ぉぉぉおおおおおお!!!」

 

強すぎる電撃に周囲が極光に包まれる。これだけの電流を流されれば、例え象であってもしばらくは動けない。俺は殺めてしまわぬよう慎重に魔力を制御しながらこう続けた。

 

「お前には国を守ると言う使命があるのだろう。命までは取らない、潔く帰ってはくれないか」

 

平穏で楽しくこの世界を生きていければいいと、アンリ君やフランソワちゃん達との交流を経て、最近はそう思うようになった。人を殺したくなんてないし、これは嘘偽りない心からの本心だ。

たとえこの男のように俺に危害を加えようとした人間であっても、殺してしまったら一生その出来事に苛まれ続けることになるだろう。

そんなエゴとも言える願いを込めながら極光を見つめていると、信じられないことにあの大男は事もなげに姿を表した。

 

「ふ……どうやら魔女というものは随分と驕傲な奴のようだな」

 

一体何をしたのか、皆目検討もつかないがとにかく男は無事だ。あの様子だと傷一つ負ってないかもしれない。

俺は嫌な汗が頬を伝って行くのを感じた。

 

「まさかこの私、サルデア王国将軍【ソール・ガイスト】に勝てると思ったのか?」

 

国の、将軍───!そんな人間を相手に俺は戦っていたのか。雰囲気から只者ではないと薄々感じていたが…

 

「そして、既にお前の敗北は決した。大人しくお縄につくがいい」

 

「な、にを…ッ!?」

 

大男──ソール・ガイストがニヒルな笑みを浮かべたかと思うと、途端に俺は立っていられなくなり、片膝をついてしまった。

自然と視界が下がり、ふと目に入った足元を見やると、何やら足に植物が絡み付いているのが見えた。

 

「ようやく気付いたか。そいつはこの森に自生していた、魔力を糧に成長する植物。ここへ来る道すがら、俺が採取したものだ」

 

この植物…以前森を散策していた時に見かけたものだ。近付くと途端に蔓を伸ばし、腕に絡み付いたと思った瞬間、凄まじい勢いで魔力を奪われたので火炎魔法で焼き、結局どのような植物だったのか調べることが出来なかったはずだ。

 

「少し手を焼いたが、私の凍結魔法で保存しておいたのだ。まあ、俺の鎧が電気を地面へと逃してくれていなければ、流石に危なかったが」

 

運も実力のうちと言うことか、とガイストは笑う。非常にまずい状況だ。何か策を考えなば俺は拘束され、国のために戦わされるハメになる。それはわかっているが、これほど魔力を失ってしまうともはや動くことすらも困難だ。ガソリンがなければ車は動かないように、魔女もまた魔力を失えば再起不能となる。

 

「ああ…!そんな、ロラさん…!」

 

将軍は俺に近付くと、縄で俺の両手足を拘束する。向こうではアンリ君が悔しそうに顔を歪めさせているのが見えた。

今までそれなりに魔法の訓練はしたはずだが、まさかこうも易々と打ち倒されてしまうとは。これが実戦経験の差か。

 

「さて、遊びはこれでしまいだ。皆の者!急ぎ都へ帰るぞ!いつ敵国が侵攻してくるか分からんからな!」

 

「ハッ!」

 

将軍の号令と共に、兵士が俺を米俵を持つかのように肩で担ぎ歩いて行く。あの男は本気でこの俺を森から出し、都へ連れて行くつもりらしい。

だが、館にやってきた使者たちから何も聞いてないのだろうか。結界が張られているが為に、俺がこの森から出る事は叶わないと言うことに。

 

「おまえ…私が、この森から、出られ…ないと…知らないのか…」

 

辛うじて絞り出すことが出来た声をしっかりと聞き届けた将軍は、森の出口へと足を進めながらこち らに不敵な笑みを見せ、答えた。

 

「結界のことか?心配はない、古代魔術に精通した女を連れてきてある。今頃は結界も解除した頃だろう」

 

古代魔術…?旅人のパトリックが確かこのワードを口にしていた気がする。魔法の訓練をした時に、彼は『ロラさんの扱う魔法は現代で使われてるものとはまた別の系統、いわゆる古代魔術なんじゃないか』と言っていた気がする。その時はさして気にも留めなかったが、まさかこんなところで再びこの言葉を聞くことになるとは。

というか、俺ではまったく手出しが出来なかったあの結界は、古代魔術の産物だったのか。

 

「彼女は普段、自室に引きこもり古代魔術の研究をしている者で、な!………ふん、普段は変人扱いされているが、今回ばかりはその知識に頼るほかなかった」

 

話しながら片手間に襲いかかる魔獣を斬り伏せ、将軍は続ける。曰く、使者たちの話を聞いたその女は資料を漁り、結界がどのような仕組みで働き、どのようにすれば機能を停止させられるかを突き止めたらしい。この遠征に同行させるよう懇願したのも本人だという。

話している内に件の女が見えて来た。タバコを咥えたまま地面に何かを書いている。

 

「おお、将軍殿。そいつが魔女さんかい?随分と早かったじゃあないか。ちょうど解除の術式を描き終えたところさ」

 

金髪を無造作に後頭部で纏め、片眼鏡をかけた個性的な出立ちの女は、タバコをペッと吐き出し靴で火を消しながら男に向き直った。

 

「一戦交えたが、戦闘に関しては素人だ。しかし光るものはある。そっちは?」

 

「もう終わったよ。こいつは完成した時点で効力を発揮するらしくてね」

 

「そうか。結界がなくなったのであれば行くぞ。道具をまとめろ」

 

はいはい、と気安い調子で返事をした女は、せかせかと後片付けを済ませ、俺の横についた。先頭を行く将軍をチラチラ窺ったあと、女はヒソヒソとささやいた。

 

「私の名はカルミア、君には研究者として調べたいことが山ほどある。長い付き合いになるかもしれないんだ、都に帰ったらぜひ歓迎パーティーをしような」

 

ゾクリと背筋が凍る。カルミアと名乗った女は人の良い笑みを浮かべているが、目は全くと言って良いほど笑っていない。まるで彼女は、俺を通して別の何かを見ているような…そんな瞳をしている。

 

「それじゃあ道すがら簡単な質問をしていこうじゃあないか。まず、魔女はすべからく非処女であると聞くが────

 

その後、こんな遠慮のない話から始まり、矢継ぎ早に質問が飛んできたせいで、俺は結界を知らぬ間に踏み超えていたことにあとで気づくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

思っていたよりも呆気なく森から出てしまった俺、もとい将軍一行は、村の出入口に待機させてあるという馬車へと急ぐ。

初めて見る森の外の景色、アンリ君の生まれた村はファンタジーの世界を丸ごと持ってきたような景観であった。

主要な道は石畳で舗装され、家々は煉瓦や石材で組まれており、少しくすんだ赤い屋根が目を引く。行き交う人々は素朴なウールや麻製の服を着ているようだ。

 

「外に出るのは初めてかな?ここは辺境の村ゴルゼル。都まではかなり遠いが、行商人も訪れる賑やかな村だ」

 

物珍しさからあたりを見渡していたところ、それに気付いたカルミアが 村の概要を教えてくれた。透石で見るより鮮明で美しい景色に、呑気にしていられる状態ではないが思わず感嘆の息が漏れる。

ぼけーと能天気に村を眺めていると、集まってきた村人たちの中から妙齢の女性が駆け寄ってきた。

 

「お母さん!」

 

「アンリ!」

 

その女性はアンリ君の母親だったようで、彼に近付こうとするものの、いかつい兵士によって静止させられてしまった。

アンリ君の母は病弱であったはずだが、彼に初めて会った時に渡したあの葉が功をなしたのか、体調は良さそうだ。

 

「お母様ですか。すみませんが、少しばかり貴女の息子さんをお借りします」

 

「しょ、将軍様…!どうしてアンリを連れて行くのですか!人質が必要なら私が行きますからっ」

 

お母さんは後ろから走ってきたアンリ君の父親らしき男性と一緒になり、ガイストに詰め寄る。

 

「本来ならば守るべき民を害すなど言語道断ですが、今は一大事なのです。魔女を戦場へ連れて行き、我が軍を勝利へ導く為にはどうしても彼が必要なのです。どうか分かって頂けないでしょうか」

 

ガイストは膝をつき、威圧的な言動はせずアンリ君の両親に向き合う。さらに必要であれば国から協力金を払うと続け、アンリ君の身の安全も自らが保障すると言い切った。

将軍の真摯な態度は、両親の不安を拭い去る力があったようだ。母親は心配そうな顔を浮かべてはいるものの、一応は納得したらしい。しかし、父はそうではなかった。

兵士に引き止められながらも歩みを止めず、ついに将軍の目前までやってきたアンリ君のお父さんは、ガイストの両腕をガシリと掴んだ。

 

「将軍様、いくら貴方が力を持った人だとしても、息子に何かあれば絶対に許しません。アンリは俺たちの宝だ。本当に、その言葉を信じてもいいんですね?」

 

「ええ、他でもないこの私が保障します。もし御子息が怪我でもしようものなら、私は潔く腹を切りましょう」

 

ガイストの言葉に父親はなおも煮え切らない様子だったが、ポツリと『ぐれぐれもアンリを頼みますよ』と言うと引き下がった。

 

「お母さん、お父さん…!」

 

「良いご両親を持ったな、少年」

 

ガイストはそれだけ言うと両親に一礼し、村の出入り口へと歩みを進めた。

冷酷な男だと思っていたが、国を守る軍人としての責務を感じてはいるらしい。先程のやり取りは森で戦った時のガイストとはまさに正反対だ。どうして俺にもその態度で接してくれないのか、少しばかり腹が立った。

 

 

それから少しして馬車のある村の出入り口に到着した俺たちは、ついに都へと向かって走り出すのであった。

 

 

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