稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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ノーマンと申します。別サイトで毎日更新をしていましたが、システムトラブルで難しい状況になりましたので、ハーメルンさんにお世話になる事にしました。投稿済みの115話分を5分おきに公開していきます。何卒よろしくお願いします。


1話:目覚め

宇宙暦752年 帝国暦443年 オーディン軍病院

ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

 

ふと目をあけると、白い天井が見える。

ここはどこだろう......。

そんな事を考えながら周りを見渡すと、腕には点滴がされ、定期的に機械音が聞こえる。

 

なにやら頭に巻かれている感じがする。

手足を動かしてみるが、特に問題はなさそうだ。

 

視線を右に向けると窓が見える。

オレンジがかった陽光が目に入る。どうやら夕方らしい。

 

落ち着いて現状を把握しようとするが、頭がボーっとして思考を進めることができない。どうしたものかと思っていると突然ドアが開いた。

 

「お気づきになりましたか。また安静が必要です。そのままお休み下さい。ご家族をお呼びしてまいります」

 

30歳位の女性医師が、ゆっくりと話しかけてきた。欧米系のキリっとした顔立ちだがやけに身長が大きい。そのまま女性医師は部屋を出て行った。

 

しばらくすると勢いよくドアが開く。

 

「ザイトリッツ、目覚めたのですね!!」

 

部屋に入ってきたのは30歳と50歳位の女性。やけにクラシックなスタイルのドレスを着ている。病院という場には合わないな......。などと考えていると、先ほどの女性医師も部屋に入ってきた。

 

「マリア様、カタリーナ様。ザイトリッツ様はまだ覚醒されたばかりです。安静にする必要がございますので、お静かに願います」

 

「ごめんなさいね。久しぶりにヴァルハラに出てきたザイトリッツにこんなことがあって。わたくしたちも万一のことがあったらと不安でいたものですから」年配の女性が答える。

 

「覚醒はされましたが、お話などをされるにはもう数日安静にされてからがよろしいと存じます。万が一の状況はもう御心配には及びません。一度、お屋敷に戻られ、お休みになられてください。ザイトリッツ様もそれをお望みになると存じます」と女性医師が言うと

 

「お義母様、ローゼの言う通りですわ。峠は越えましたしニクラウス様にもお伝えせねば。一度戻りましょう」

 

「そうね。ザイトリッツ、本当に心配したのよ。ローゼの言うことを聞いて安静にしていなさい。またすぐ参りますからね」

 

何やら話が勝手に進むが、年配の女性から鬼気迫るモノを感じ、思わずうなずいてしまった。

 

「ではローゼ、くれくれもザイトリッツをお願いね」

 

と言い残すと、クラシックなドレスの二人組は部屋から出て行った。ドアをみると数名従者やメイドのような恰好をした者が見える。

 

「ザイトリッツ様」

 

ローゼと呼ばれた女性医師が話しかけてくる。

 

「ザイトリッツ様は交通事故にあわれました。まだ意識がはっきりしないと存じますが、安静にしていれば回復いたします。今はお休み下さい」

 

考えるのも話すのもまだキツイ。

一度うなずくと、目を閉じる。

 

目を閉じる前にドアの方に目線を向けると、6歳位の男の子が見えた。

 

初めて見るはずなのに彼がパトリックであることが分かった。

なぜだ?という疑問が浮かぶが、今は考えがまとまらない。

 

夢でも見ているのだろうか。

ザイトリッツと呼ばれることに違和感も納得感も感じる。

 

違和感の方を考えてみる。

そもそもこの身体は子供のようだ。はっきりしないが、そこそこの年月生きていた気がする。

 

祖母も母も、あんな貴族のような恰好をしていただろうか?いや、中流階級だったように思うし、なんとなくだがかなりの期間、教育機関に通った記憶もある。

 

はっきりしないが、日々値動きをするものを先読みして元手をつくり、その金で組織を買い取り再生して儲けた気もするし、子供がいたような気もする。

 

次に納得感の方を考えてみる。

 

不思議な話だが、やけに鬼気迫るモノを感じた年配の女性は祖母でマリア。若い方は母のカタリーナであるとなぜかわかる。

 

ニクラウスは父親だ。軍関連の仕事をしていたように思う。軍服を着ている印象がなぜかある。

 

そしてパトリック。

そう、彼は乳兄弟だったはずだ。

 

でもそうなると......。

 

乳母のカミラはなぜ顔を出さないのだろう。祖母マリアと母カタリーナがいるのに彼女が顔を出さないのはおかしい。

 

一瞬しか見えなかったパトリックの表情。泣いていたように思う。

 

他にも、祖父レオンハルトが反乱軍の名将との戦争で戦死したこと。

参戦した多くの帝国軍人が戦死したため、父は本来伯爵家を継ぐはずが軍を退役できずにいること。

 

生まれたのがレオンハルトが戦死した年であるため、祖母が私をレオンハルトの生まれ変わりと思い込み、溺愛していることもなぜかわかる。

 

色々なことが頭を駆け巡るが、なぜかパトリックの泣き顔と、カミラが顔を見せないことが気にかかる。

 

だが、そこで限界だった。

意識がはっきりしない中で思考したせいか、もう眠気にあらがうことができない。

 

私は意識を手放した。

 

 

翌朝、人の気配を感じながら目を覚ます。

目線を左に向けるとローゼ先生が目に入る。

 

よく見ると目の下にクマがうっすらとだが見える。夜勤明けなのだろうか、初めて見たとき感じたキリっとした印象はうすれている。メイクが乱れているからか。それともイスに腰かけたままうつらうつらしている......。無防備な状態を見たからだろうか?

 

窓からは日の光が差し込んでいる。

光量からすると、早朝ではないが、お昼でもないように感じる。

 

ローゼ先生に声をかけるべきか悩んでいるうちに、人の気配が近づいてくる。スッとドアが開くと、祖母のマリアが見えた。

 

「ザイトリッツ、気分は如何?」

 

カツカツと足音を立てながら祖母がベットに近づく。人の気配と足音に反応したのか、ローゼ先生が目をさました。

 

「これはマリア様、ご無礼をいたしました。勤務後にザイトリッツ様のご様子を確認していたのですが」

 

「おばあ様、おはようございます。ローゼ先生が傍にいてくれたおかげか、安心して休むことができました。昨日はご心配頂いたにも関わらず、お礼も申し上げず申し訳ありません」

 

視界の端でローゼ先生が恐縮する空気を感じる。

 

「あら、ザイトリッツ。レディーを気遣うのは貴族の男性の務めですが、5歳のあなたにはまだ早いわ。教えてもいないのにしっかり務めをはたせるとは。さすがレオンハルト様の生まれ変わりです」

 

うっとりしながらこちらを見つめてくる祖母。

生まれ変わりの可能性はあるけどレオンハルトの生まれ変わりではない。まあ、そんなことを明言する必要はないだろう。

 

「マリア様じきじきにくれぐれもとのお言葉を頂きましたしご出産の際は私も立ち会いました。万全をと思い私自身で御傍におりましたが、お見苦しいところを申し訳ございません」

 

どうやらローゼ先生は俺を取りあげてくれたらしい。

 

「むしろここまで尽くしてくれるのはありがたいわ。ローゼ、身分の違いはあるとはいえ、あなたはザイトリッツの母も同然です。自分の体調も顧みず、ザイトリッツの傍にいてくれたこと、決して忘れません。ザイトリッツ?あなたもローゼがあなたの命の危機に自らを省みず尽くしてくれたこと。くれぐれも忘れてはなりませんよ?」

 

「おばあ様、まだ頭がもやもやしておりますが、昨日に比べるとかなり回復しています。これもローゼ先生が付き添ってくれたおかげでしょう。もちろんこのザイトリッツ、三男ではありますが御恩はお返しするつもりです」

 

「恐れ多いことでございます。私はルントシュテットのご支援を頂いて医療大学を卒業できました。御恩を思えば当然の事にございます」

 

ローゼ先生が恐縮した様子で返答する。

 

「おばあ様、ローゼ先生は昨日わたしに付きっきりでした。おばあ様がいらっしゃった以上、ローゼ先生にはお休み頂いたほうがよろしいのでは?」

 

「そうね。ローゼ、ご苦労でした。今日はわたくしがザイトリッツの傍におります。さがって休みなさい」

 

「しかしマリア様......」

 

「しかしではないよ。ローゼ先生。私の為にも帝国臣民の為にも休むべき時に休んでくれ。ローゼのような美貌の持ち主がクマを浮かべて激務をこなしても周囲が落ち着かない。

 

私の主治医はローゼなのだろう。ならちゃんと体調にも万全を期してくれ」

 

休もうとしないローゼにきちんと休めと伝えると

 

「あらあら、私やカタリーナは寝ずに心配していたのにローゼのクマは心配するのねえ......」

 

とおばあ様がすねだした。

 

「おばあ様、正直記憶があいまいなのです。いろいろと確認したいことがございますが、ローゼ先生が同席では話せないこともございましょう。おばあ様と話した後ケガによる影響なのかはローゼ先生と相談しますが、おばあ様と忌憚なくお話がしたいのです。いけませんか?」

 

「マリア様、恐縮ですがザイトリッツ様にここまで言われては控えざるをえません。一旦帰宅し体調を万全にしたいと存じます」

 

そうローゼが言うと

 

「あらあら、ザイトリッツは淑女の扱い方まで覚えているのね。一体だれが教えたのかしら......」

 

などと言いながら、目だけは迫るものがある。

 

「おばあ様、お戯れはおやめ下さい。いろいろとはっきりしない部分があるので、確認含めお話ししたいのです。それともおばあ様は私と話したくないのでしょうか?」

 

すがるような目線をあえてマリアに向けると

 

「そんなことはないわ。ザイトリッツ。ちゃんとお話ししましょうね。ローゼ?ザイトリッツが気にするわ。あなたは主治医ですが夕方まではわたくしがここにおります。あなたは体調を万全にしなさい」

 

「はい。マリア様」

 

そんな会話を横目に見ながら当家って結構権力あるんだな

などと、現実逃避するわけではないがホッとした様子のローゼを

見ながらどうしたものかと考え込むのだった。


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