稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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11話:兄貴の正体

宇宙暦753年 帝国暦444年 1月上旬

首都星オーディン ルントシュテット邸

ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

 

年末年始は今回も家族で過ごすことができた。オーディンに向かう段階から、おばあ様は上機嫌だった。というのも大吟醸の試飲を最初にしたのがおばあ様だったからだ。

 

領地経営者目線では新しい特産品が出来た事になるし、しかも溺愛してやまない可愛いザイトリッツが作ったのだ。もちろん完成品の第一号はおばあ様に献上したわけだが俺の胴元は味覚の部分でも結構繊細だった。

 

なんというか、兄貴はどうすれば一番引き立つかまで分かる感じだけど、胴元は良し悪しと流行りそうかは確実にわかる感じだろうか。両親にも大吟醸を飲んでもらったがかなり高評価だった。父上は挨拶回りの手土産にしたいとまで言ってくれたがこちらの手元にあるのは工業製レベルの瓶だったので少し待ってもらう事にした。

 

兄貴からの返球待ちという所だが、まだ大吟醸を届けて1か月もたっていない。少し気が早いだろう。そろそろ荷造りでも始めるかと思っていたところで父上から呼び出しを受けた。遊戯室に向かうと、父上とおばあ様が既に席についていた。

 

「ザイトリッツ参りました。父上、お呼びとの事でしたが」

 

「うむ。ザイトリッツ、そこに座りなさい。お前にも関係があるのだろうが、先ほどグリンメルスハウゼン子爵家から書状が届いてな。領内で作った大吟醸を皇室に献上するにあたり事前に内々で相談したい為、ザイトリッツを同席の上、一度屋敷に参られたいとの旨、ご連絡を頂いたのだ。母上にもお尋ねしたが、子爵に大吟醸の事を話した覚えはないとのことなのでな、事情を確認するのに呼んだのだが」

 

これ話し方を気を付けないと怒られる事になりそうだな。

 

「左様でしたか父上。ご心配をおかけしました。実は少しご縁がございまして子爵ともうひと方、お話しする機会がございました。ちょうど大吟醸の件で悩んでいた時期でしたが、御二人はお酒の見識が深く、貴重なご意見を頂きました。とはいえ先方はどうやらお忍びのご様子でしたので、子爵とのみ連絡先を交換しておりました。ご相談に乗って頂いた御恩もございますので大吟醸の完成品も年末にお届けいたしました」

 

よし、嘘は言っていない。それにしても予想より返球が早かったなあ。大きな動きでもあったんだろうか。

 

「そうか。先方はかなりお急ぎのようだ。今日にでもとお話を頂いている。まもなく領地に戻る時期であろうし私も予定がある身だ。多少失礼に当たるが今日伺う旨ご使者の方にお伝えするので失礼のない様に用意をしておきなさい」

 

おばあ様に手伝ってもらいながら用意を済ませた。さすがに子爵家を訪問するのに失礼がない恰好なんて分からないしね。でも胴元がいつもよりなんか慌ててるような。

 

そんなこんなで少し間をあけてから子爵邸に向かった。伯爵邸から子爵邸まではそんなに距離はない。すぐに執事らしき人に先導され応接室に入ると兄貴と叔父貴が待っていた。

 

「これはフリードリヒ殿下、お久しゅうございます。ルントシュテット伯ニクラウスでございます」

「ニクラウスが3男、ザイトリッツでございます」

 

兄貴は楽にせよというと面白そうに視線を向けてきた。さすがにあの出会い方で実は殿下でしたは無いだろう。

 

「グリンメルスハウゼン子爵には、ザイトリッツが貴重なご意見を頂いたようでありがとうございます」

 

などと父が正式な場での挨拶を交わすのを横目に、この先の事を考えていた。おそらく良い形にまとめられる。すると叔父貴メインで話が始まった。こういう場では、御付の人がお言葉を伝える感じになるらしい。叔父貴、うまく話してくれないと後で怒られるから頼むぜ。

 

話の内容としては

 

・殿下とお忍びでオーディンを散策している際に縁があった事

・助言はしたが、受け取った品はとても出来が良く驚いた事

・世に出すにあたって、まずは皇室に献上したい事

・両親の負担を憂慮しており、差配の面で後ろ盾が欲しい事

・既に陛下に献上済みでありお墨付きの一段上の御用達はもらえる事

・近いうちに非公式ではあるが拝謁がかなう事

・拝謁の際に褒美が与えられるので、希望する物があれば申告してほしい事

 

って感じだった。正直満額回答だよ。兄貴と叔父貴やるなあ。こんだけ仕事も早いし、兄貴と同席した連中はなんだかんだ懐いてる。親分たちの態度を見ても人徳みたいなものはあると思うけど、なんで後継者争いから脱落したんだろう?

 

視線を父上に向けると、まだ思考が追い付いていないようだ。折角満額回答を用意してもらったのに、まごつくのは申し訳ない。

 

「殿下、子爵様、この度のご配慮ありがとうございます。父上、私も考えていた事がございます。それをお話し致しますのでその上で、最終的なご判断をされてはいかがでしょうか?」

 

・皇室の御用達を得た以上、大吟醸が利権となること

・後ろ盾がないと門閥貴族の介入があると予測される事

・リヒャルト皇太子とクレメンツ殿下の派閥で対立が深まっていること

・片方に付けば万が一の際、報復が予想される事

・派閥に入っても新参者であるため、介入は防げないこと

 

ここまでを話したうえで

 

「以上を踏まえますと、大吟醸に関してはフリードリヒ殿下に後ろ盾をお願いし、差配も恐縮ではございますがお願いするのがよろしいのではないでしょうか。貴重なご意見を頂戴したのも確かですし、皇室の御用達を頂けたのもお力添え頂けたからです。他の方に後ろ盾をお願いすると不義理になるかと」

 

そこまで話すと父上も判断を下したようだ。

 

「フリードリヒ殿下、判断が遅れ申し訳ございません。ルントシュテット家としては是非とも後ろ盾と差配をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「うむ。喜んで務めさせてもらおう。命名については大吟醸のままで良いのかな?」

 

これだけは胴元への恩返しもあるから譲れない。

 

「殿下。大吟醸は祖母マリアの尽力がなければ作成は困難でした。よろしければレオと命名することをお許しください。祖父レオンハルトにちなむ名となりますし、古代語で獅子を表す言葉でもございます。いかがでございましょう?」

 

「うむ、レオか、良き呼び名であるな。そうするとしよう」

 

よし、これでおばあ様の機嫌は何とかなるだろう。

 

「あとは褒美の事だが、何か希望はあるかな?」

 

父上に目線を向けるが俺の方を見たままだ。つまり俺が決めていいってことなんだろうけど、これも考えていたことがある。さて、どう切り出そうか。

 

「殿下、今回ルントシュテット家はお力添えを頂いて新しい利権を確保いたしました。そうなりますと、さらに金銭・債券・利権と言った物を頂くのは妬みを招くでしょうから危険でしょう。爵位も当然危険です。爵位と強欲さしか取り柄が無い方が多数いらっしゃるようですし。

そこで確認して見たのですが、祖父に率いられた方々も含め奮戦むなしく叛乱軍に囚われている帝国臣民が約150万人。帝国軍が捕虜とし更生を試みるも反省の色がない叛徒どもも約150万人いるそうです。これを交換することを褒美としては頂けないでしょうか。

祖父レオンハルトを支えてくれた者たちが、苦しい生活を強いられているのはルントシュテット家の名誉にも関わると存じます。また陛下は無駄をお嫌いとのことでした。更生の余地のない者どもの食費が浮き、限界まで奮戦した臣民が帰還すればまた帝国に尽くしてくれましょう。いかがでしょうか?」

 

「うむ。その提案は良いものであるが、いささか褒美の色が薄いと思われるやもしれぬ。その時は如何する?」

 

「今後ともレオを陛下にご愛飲いただければと。陛下にご愛飲いただき、殿下にお力添え頂ければいつの日か帝国軍人が戦勝を祝う際にはレオでなければという日が参りましょう。これ以上の褒美はございませぬ」

 

褒美に関しては一応考えてはいた。金は稼げばいいし、そうなると利権も敢えてもらう必要はない。爵位はもっと危険だし、俺には必要ない。男爵でももらって、コルネリアス兄上にいずれ継いで頂くのも考えたが、まだ高々12歳。反感を食らうだけだし何だかんだであの人も優秀だと思う。お膳立てしなくても爵位くらい勝ち取るだろう。

 

そうなると欲しいのは兵士からの信望だ。ルントシュテットは兵士を見捨てない。大事に思ってくれるというイメージがあれば軍歴を積むうえでかなり協力を得られるだろう。私欲を捨てて捕虜交換を願い出たとあれば、門閥貴族も多少なりとも軍部への浸透も控えるはずだ。この状況で褒美としてもらっても危険がなく有益なものをしっかりもらっておこう。

兄貴は一瞬目線を叔父貴に向けたが、

 

「うむ。そこまで言うのであれば陛下にそうお伝えしよう」

 

と言ってくれた。結構いろいろ話が続いたのでそろそろ引き上げないと晩餐をとることになる時間帯だ。どうしたものかと思い出すと

 

「殿下そろそろ切り上げませんと次のご予定が迫っております」

 

叔父貴が区切ってくれた。ではまたな!などと言いながら兄貴は部屋を出て行った。

 

「謁見に関しては日時が決まり次第、お知らせいたしましょう。大筋は固まりましたので、委細はまた改めて」

 

という事で、叔父貴の屋敷をあとにする。父上にも先に謝っておこう。

 

「父上、この度は出過ぎました。申し訳ございません。ただ私はカミラが誰に殺されたのか忘れてはおりませぬ。お含みおき下されば幸いでございます」

 

父上は少し困った顔をしながら

 

「私ももちろん覚えて居るし、大切な子息が重体にされたことも覚えているよ」

 

と言ってくれた。少し嬉しかった。




独自設定ですが

お墨付き:皇室として良いものだと認定したもの
御用達 :お墨付きの中で皇室で実際に常用される物

とご理解ください。父上と胴元はグリンメルスハウゼン子爵が誰の侍従武官かはもちろん知っていました。

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