稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

14 / 146
14話:領地経営と次の事業

宇宙暦753年 帝国暦444年 3月下旬

シャンタウ星域 惑星ルントシュテット

ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

 

領地に戻ってきて2か月が経過した。大吟醸酒レオは、既に大成功と言っていい成果を出していた。オーディンでの打ち合わせ通り、兄貴はかなりうまくレオを売りさばいている。

 

もともと貴族や富裕層が集まる高級飲食店に伝手があったのだろう。店主や料理長を内々に呼び出して試飲させながら価格交渉をしたらしい。置物としての見栄えを意識してか皇室御用達の印章を彫りこんだ60リットル詰めの樽を作って売り出した様だ。

狙い通り、高級店ではレオがなければ顔が立たない雰囲気が生まれており、ひと樽1万帝国マルクの強気の価格設定だがかなりの勢いで売れているし、リピート率も100%を維持している。

 

瓶詰めの方はもっと好調だった。兄貴がというより、叔父貴が辣腕を奮っているらしい。まあ、自分の主に調子に乗った態度をされたら、主人以上に部下は根に持つものだ。

門閥貴族のうち、派閥を作って調子に乗っていた連中には暴利に近い高額で、それ以外の門閥貴族には高値でしぶしぶという態で売りさばいているらしい。あえて何も言わなかったが、軍に近い貴族にはかなり配慮した金額で融通している様だが、瓶のレベルを変えることでうまく対処しているようだった。

 

出荷した3000万リットルが完売状態で樽売りが30万樽売れて30億、瓶詰めの方は超高額で300万本、高額で500万本、お友達価格で400万本売れて計590億の売り上げとなっている。ここから折半で310億がルントシュテット家に入り、俺個人には10%が入るので31億が手元に入った。

 

この時点で、おばあ様から預かった10億はお返しした。おばあ様はなんだか寂しそうだったが、俺としては胴元ではなく心からおばあ様と呼びたかったので最優先でお返ししたのだ。さて、俺としては次の事業に目星はつけていたが、もともと原資がかなりかかる事業なので、下調べに時間をかけていた。ここで困ったのがルントシュテット家の領地開発の責任者、我らがマリアおばあ様である。

 

昨年比で320億近い増収が見込める訳だが、こんな増収は過去に無い為、滞っていたインフラの修繕などを予定するもその他の使い道がわからない状態になった。そこで領地経営の責任者であるおばあ様は全ての元凶である溺愛する孫、可愛いザイトリッツに領地の経営方針を相談するという決断をした。

 

そこで今からおばあ様と従士のフランツ、乳兄弟のパトリックの4人で、会議をする訳だ。正式な役人を入れないのは、あくまで俺が3男であり、領地経営に本来口を出す立場に無い為で、従士と乳母兄弟が同席するのは勉強の為だ。

 

専属従士のフランツは今年18歳、俺が事業をしていく上での右腕候補だし乳母兄弟のパトリックはまだ7歳だが、一番信頼できる同志でもある。今からわからないなりに経験を積ませたい。そんな訳でこれから本邸のサロンにて優雅にお茶を飲みながら経営方針会議が始まることになる。

 

「では、ザイトリッツ。始めなさい」

 

なんか一度言ってみたかったセリフを言えて満足みたいな表情を浮かべつつ、ティーカップを持ちながらおばあ様が会議の開始を宣言した。まあ、後の二人は今回はおまけだ。早速始めるとしよう。

 

「では、始めさせていただきます。私なりに領地経営の方針は考えましたが、今回は初回ですので考え方も含めて、お話ししたいと思います。大前提として、増税を選択肢から外した場合、領地を繁栄させるというのが増収と定義すると、すべきことは2つだけです」

 

・領内の人口を増やすこと

・領民の収入を増やすこと

 

俺は事前の用意していたタブレットをおばあ様に見せながら説明を続ける。

 

「まず人口増についてですが、領内の人口データを踏まえますと未婚成人男性の数が未婚成人女性に対して不足しております。これは軍への徴兵が原因と考えられますので、抜本的な解決策はいまございませんが、昨年以来、我が領の雇用状態は売り手市場で、人口も流入傾向ですので様子を見るしかないでしょう。

その上で既存の単身者に早く結婚してもらう、早く子供を儲けてもらうという観点では、以下の3点がございます」

 

・恋人を見つけてもらう

・結婚したいと思ってもらう

・子供を早く生みたいと思ってもらう

 

ってか俺もまだ7歳なんだけど、生々しい話をしてるなあ。タブレットをスライドさせながら話を進める。

 

「統計が無い為、戸籍をざっくりと確認した結果ですが領内の婚姻についてはほとんど同じ町村の中で成立しています。ですので16歳~30歳位までの単身者限定で、町村をまたぐ形で交流の場を作ることが望ましいと思います。具体的には簡単な軍事訓練を月1回程度週末に行い、打ち上げの際に飲むビールなどをこちらで負担する事を提案します」

 

おばあ様は面白そうに説明を聞いてくれているしフランツも興味深げだ。パトリックにはまだ少し早い話かもしれない。

 

「続きまして、結婚したいと思ってもらう件ですが、これについては強制はできませんので、助成をすることを提案します。具体的には結婚祝いを伯爵家から渡すであったり新居を用意するにあたって助成するなりを提案します」

 

目線を横に向けるとフランツはうんうんと頷いていた。恋愛とか結婚とか考えだす年ごろだろうし当然か。

 

「子供を早く生みたいと思ってもらうという部分では出産のリスク低減と子育てのコスト削減の観点からアプローチしてみました。リスク低減という観点では短期では助産師資格者を各町村に数名いる状態を目指し、長期では領内で一時間以内に医療機関がある状態を作ることを提案します。

コスト削減の観点では出産祝い金を伯爵家から贈る事と幼児を近隣で昼間だけでも預かる仕組みづくりが必要かと。短期では幼児何人当たりで人員何名分といった仕組みで人件費負担を行い、長期的には幼児専門の養育施設を事業として設立することを提案します」

 

ここで、一旦、説明を区切り、おばあ様に視線を向けた。おばあ様はいろいろ考えている様子だったが、

 

「ザイトリッツ?ここまでの提案の内、短期での提案を全て実施するとして、予算はどれくらいかかるかしら?」

 

と問いかけてきたので

 

「婚姻数や出産数にもよりますが100億組んでおけば余程の大幅増でも起きない限り、大丈夫でしょう」

 

と回答した。

 

「また長期目線では初等教育学校と中等教育学校を設立して対象となる領民は原則無料で入校可とします。ここまで実現できれば、出産から18歳までの養育をかなりフォローできますので、子育てのコストへの不安はほぼなくせると存じます。これ以降は医師や実務担当者、技術者を目指して上級教育機関を志向する者に奨学金を支給してフォローすれば問題ないでしょう」

 

おばあ様は資料を見ていたが

 

「奨学金の原資は今から準備を始めることにしましょう。教育機関の立ち上げができる人間と、教師候補も確保する必要がありそうね。この部分は、今年度は30億位予算を用意しておけば問題はないでしょう?」

 

と俺に目線を向けてきたので同意の意味でうなずいた。

 

「続けます。領民の収入増という観点では、短期では麦・米の増産となります。この部分はインフラ整備、特に灌漑設備への予算配分をお願いしたいと考えています。

中長期的な施策については私が目星をつけている事業の展望にもよりますが、農学・鉱学・工学・航宙学の修了者かつ経営・経済の素養を身に着けた人材の育成です。

 

この話は最初におばあ様にお伝えしますが、私は次の事業として、辺境宙域と帝国後背地をシャンタウ星域を中心として結ぶ形で交易船を運航することを考えております。この事業は短期では収益化が難しいと想定しておりますが帝国領全体で考えた際、帝都とフェザーンの直線上から外れたシャンタウ星系と、辺境星域では交易船自体が少なく、そもそも領地の経営資源が乏しい中で、停滞しやすい材料が揃っている状態です。

 

そこで、まずは定期交易船を運用しながら、各領内で適した商材の増産を進めます。当家の領地で実績を上げた手法を提供することも出来ましょう。

その際に、穀物の増産の次のステージ。増産に成功した穀物の輸送、加工。各種鉱物の産出、製造業の立ち上げを担える人材を育成しておくことで、当領と辺境領域における次世代産業の担い手を育成するのです。新しく立ち上がる事業の中心的な役割を当領民が担うことになりますので、必然的に給与は高いものとなりましょう。

 

先を見据えて教育に投資できる余裕があるのは我が領だけでございます。具体的には通信設備を整え、成人が通常の業務を終えて以降に学ぶ場をつくります。設備さえ作ってしまえば、通信教育ですから、講師役は学科ごとに優秀な方を一人用意できれば質は担保できます。副次的な効果となりますが、共通の志向を持つ領民の交流の場ともなりえます」

 

ここまで話して、また俺はいったん区切った。

 

「よくわかったわザイトリッツ。それで、この事業を進めるには予算はどのくらい必要かしら?」

 

「おおよそですがこちらも100億を組んでおけばかなり余裕があるかと思います。残りは予備費として置いておくのがよろしいかと。新しい試みを大きな軸で2つ実施しますので、予想以上に成果が出た場合や、不測の事態が起きた場合に備える意味もございますが、増収分の使い道を全て決めておく必要もないでしょうし」

 

「だいぶ色々と考えてくれた様ね。提案については全て採用させてもらうわ。ただ、新しい試みをする以上、狙い通りの成果が出ているか問題が出ていないかチェックしておきたいと思います。

そこで、貴方を新政策の特別査察官に任命します。領地の役人たちにも進捗を確認させますが、貴方の方でも進捗状況を確認して、問題が起きそうなら早めに報告を上げて欲しいのです。依頼料として、予算から10億帝国マルク割いておきましょう。役目には報酬が必要ですしね」

 

うーん。原資はいくらあっても困らないけど、もらい過ぎのような気もするけどどうなんだろう。おばあ様目線で言えば投資分の10億は一年で回収できて、領地経営で見れば一時収入ではなくほぼ継続的に320億近く収益が増えたわけだから、まあご褒美ってことで10億位はおすそ分けってとこかな。

 

あとは、至急で対応が必要な場合は、ここから予算を出して後々予備費から補填するって緊急対応も期待されているって感じかな。そう認識しておこう。

 

「ありがとうございます。ご期待に沿えるように励みます」

 

まあ、次の事業は軍や辺境領主たちとの交渉が先に必要になるので、一気に話が進むこともないだろう。ルントシュテット領は大きな変化が起こっているので予想外の事も起こるだろし、焦らず交渉を進めながら、まずは領地の進捗に気配りしておくか。




超高額:一本1万帝国マルク(100万円)×300万=300億帝国マルク
 高額:一本5000マルク  (50万円)×500万=250億帝国マルク
お友達:一本1000マルク  (10万円)×400万=40億帝国マルク
計590億+樽30億で計算してます。
口座残高:32億7200万帝国マルク。

※執筆の力になるので、評価・お気に入り登録の方もよろしくお願いします。感想も、感想返しをする際に、色々と思考が進むので、お手数でなければ併せてお力添えください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。