稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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15話:交渉と領地の進捗

宇宙暦753年 帝国暦444年 8月下旬

シャンタウ星域 惑星ルントシュテット

ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

 

「ザイトリッツ様、もう少しでございます」

 

専属従士のフランツが駆け足をしつつ、俺を励ましてくる。横を見ると乳兄弟のパトリックもかなりキツそうだが頑張ってついてきていた。

何をしているかというと、幼年者向けの軍事教練の最中だ。3月に7歳になったわけだが。ルントシュテット家の中で10歳からオーディンの幼年学校に入学するのは、確定の進路らしい。

 

俺は前世では護身術を兼ねて、合気道やら空手やら柔道やらの有段者だったが、いかんせん身体は貴族の7歳児だ。技術云々の前に身体ができていなかった。そこでおばあ様に相談した訳だが、予想外の事が判明した。専属従士のフランツは幼年学校卒でそのあと陸戦隊の育成学校を卒業していて、装甲擲弾兵の有資格者らしい。

 

優しい雰囲気のフランツが、陸戦隊の中でも精鋭の装甲擲弾兵の有資格者。前世で言ったら、よく会う近所の優しいお兄ちゃんが陸自のレンジャー資格もってたみたいな感じだろう。無理難題はなるべく言わない様にしようと心から思ったよ。

 

で、話は戻るがおばあ様ももう少ししたら教練をさせるつもりだったらしい。相談がきっかけとなり、GOサインが出たわけだ。それ以来、午前中は右腕改めフランツ教官の指導の下、教練に励み昼食を取ってから昼寝をして、午後から事業を動かす生活となった。

フランツ教官は某鬼軍曹のように怒鳴り散らしたりはしないが、常にニコニコしながら、7歳児にはかなりキツイレベルの教練を課してくる。

 

風のうわさでフランツが屋敷のメイドの一人といい感じらしいと聞いたが、教練内容が増やされる事を防ぐために、イジッたりはしていない。

 

領地経営に関しては思った以上に反響があった。視察で感じた部分だったが、領地では娯楽が少ないのだ。なので軍事教練は大変だけど、新しい出会いもあるし酒もでるしで月一と言わずもっと頻繁にしてほしいという声が上がった。正直、予算ありきの話なので、おばあ様は頻繁にするかは一年様子をみたいとの思惑があったが、俺の方で予算を持ち、毎週末開催とした。というのも、ルントシュテット家の特殊な状況が遠因としてある。

 

本来なら伯爵である父上が領地を治める訳だが、それができない中で長兄と次兄もオーディンで在学中だ。そんな中で、長年領地経営を代行してきたおばあ様の下で、色々と自分たちに利益のある話を提案してくれる我らがザイトリッツの名前が悪い意味で売れ過ぎたのだ。

 

なので、軍事教練のあとに差し入れる酒類を、兄上たちの名前で差し入れることにした。

俺の危惧していることをおばあ様にも相談したので、年度末に予備費が余ればそこから酒代を補填することになっている。結婚数も増えているし、前向きに家族計画を話し合う新婚家庭も増えているらしいから、ひとまずはうまくいっているという所だろう。

 

事業といえば、大吟醸酒レオも好調だったが、付加価値を付け続けないと飽きられるのが怖い。なので、2回に分けて3000万リットルずつ醸造しているが、毎回200万リットルを長期熟成に回すことにした。内々だが、兄貴と相談はしていていずれフリードリヒコレクションとでも銘打ち、販売するつもりだ。

 

で、話は戻るが結構ヘロヘロになるまで走らされた後にウエイトは使わないが、腕立てだの腹筋だのをみっちりやらされる。苦難を共にしている為か、パトリックとの絆が深まった気がする。そんなこんなで、教練を終え、汗を流して昼食を取り昼寝をする。午後からは楽しい金儲けの時間だが、資料を見ているとおばあ様が部屋に入ってきた。

 

「ザイトリッツ、軍との交渉の件で、ニクラウスから手紙が来ているわ。状況によってはルントシュテット伯領から予算を出す必要があるでしょうから、相談したいのだけど良いかしら?」

 

「ええもちろんです。むしろお時間を割いていただきありがとうございます」

 

かなり前から打診はしていたが、やっと回答が出たようだ。手紙を受け取ると、内容を確認した。さすがに満額回答を毎回はもらえないようだ。

 

「おばあ様は、内容は既にご確認されているという事でよろしいでしょうか?」

 

「ええ。内容は理解しています。予算に関してはフリードリヒ殿下のおかげもあり、豊富な状況ですから問題ありませんが、昇進して半年も経たないうちに立場を利用したように見えることを進める事は判断に迷うわ。ザイトリッツの意見も聞きたい所ね」

 

兄貴と叔父貴は相変わらずの大活躍だ。2期醸造分のうち出荷した2800万リットルも高値で売りさばいており600億近い売上を上げてくれた。ルントシュテット伯領に300億、俺の口座に30億が入金されていた。あの二人はフェザーン人もビックリの商才の持ち主だった訳だ。

 

そして父上だが、4月に昇進し大将になっている。後方支援部門のトップと言っていい役職についたが、これは引き続き軍部系貴族の一角として門閥貴族の介入を防ぐ役割を期待されての事なので、予備役編入はまだ当分先になるという事だ。ルントシュテット家としては名誉なことだが、現状のいびつな形が続くという事でもあるので、素直に喜べない昇進でもあった。

 

で、手紙の内容である。軍に交渉していたのはシャンタウ星域の帝国軍補給基地に、輸送船の造船ドックとメンテナンス設備を新設することだ。新たに始めたいシャンタウ星域を軸とした交易業であるが、輸送船は空荷で動かすと大赤字だ。なので、事業を立ち上げる前に、ある程度どこで何を積めるのかを見込む必要があった。

 

そこで重要になるのが、造船ドックだ。これがあれば、穀物だけでなく各種鉱石も交易商材の候補になる。なので、事前に軍に対して、交渉を持ち掛けていた訳だ。

 

「建設費まで半分負担は、喜ばしい話ではありませんね。運営費半分負担は雇用にもつながりますし悪くない話ですが......」

 

「そうですね。悪くない条件ですが、この手の話で建設費負担まで求められるというのは前例がありません」

 

まあ軍としても設備は新設したいが、予算は限られているだろうし身内で羽振りがいいのがいるから、少し援助してくれって所だろう。ただ、こちらだけが満額回答をする理由もない。

 

「おばあ様、軍としても父上を財力の面でも当てにしているという所でしょう。この際、このお話を逆手にとっては如何でしょうか?」

 

おばあ様は、考え込んでいる様子だ。

 

「この際ですが、建設費の負担を了承する代わりに輸送船だけでなく戦艦と巡航艦の造船ドックも作ってもらいましょう。どうせ警備で巡航艦はつけなければなりませんし、戦艦と巡航艦のドックも出来れば、必要とされる資材も桁が変わります。造船を含めた重工業は、利権がガチガチに固まっていますが、それを得られるのであれば安い買い物でしょう」

 

「利権を独占している方々からの報復が心配です。その辺りはどう想定していますか?」

 

「利権を独占したいなら、建設費を半分負担すればいいだけです。後はそれぞれのご判断でしょう」

 

ここまで話すと、おばあ様は何か納得する様子だった。言ってみれば軍としても既存の利権を引き剥がしたいのだと思う。建設費を半分出すなら利権を維持できるが強欲な連中にとっては当たり前だったことに金を払えと言われるわけだ。

 

まあ、無理だろうな。

 

軍は口実と、辺境地の入口にそれなりの生産拠点をもてるしルントシュテット家としては、雇用と交易の面で旨味があるからそれなりの初期投資は容認できるが、コストをかけずに利権を得ていた連中は、利権を維持するための追加負担などとても判断出来ないだろう。

 

「おばあ様、軍には建設費の負担を条件に、戦艦・巡航艦の造船ドックを造らせましょう。重工業を我が領で立ち上げられるのです。それに比べれば安い買い物ですから、これで話を進めましょう」

 

出費はでかいがこれが動き出したら、辺境領主たちにはかなり強気に交渉できる。辺境領主たちはビジネスパートナーの予備軍な訳なのでそれなりに優遇すればいい。

 

しかしなあ、多少政務に通じてて、名代として他家と交渉ができる人材が欲しいな。対外的には俺は3男でまだ子供だし、おばあ様に辺境領主たちと交渉してもらうのも限界があるし。




口座残高:62億7200万帝国マルク
領地の増収分が酒代にそのまま回ってると想定してます。

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