稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生   作:ノーマン(移住)

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50話:予想外の未来

宇宙暦779年 帝国暦470年 4月下旬

アムリッツァ星域 惑星クラインゲルト クラインゲルト子爵邸

ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

 

「わざわざのご足労ありがとうございます。リューデリッツ伯」

 

「とんでもない事です。また隣の惑星が騒がしくなりますので、先にご挨拶しておかねばとお時間を頂戴した次第です。事前にご相談した通り、新たに4個艦隊分の駐留基地をお隣の惑星モールゲンに建設する事となりました。完成の暁には6個艦隊の駐留基地になりますので、増築というより、改築に近い工事になります。工期は2年ほどを予定しております。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします」

 

「迷惑などと、むしろ事前にご相談いただけた事、感謝しております。本来ならクラインゲルトにも2個艦隊程度は受け入れる余地はございますが、人口の流入と増加が重なりまして、ここに駐留基地を更にとなると、行政面でいささか手に余る状態でした。お礼を申し上げなければならないのはこちらの方です」

 

壮年のクラインゲルト子爵が、恐縮した様子で頭を下げてくる。言葉を濁してはいるが、このクラインゲルト子爵家もRC社のお得意さまだ。当然、領地開発と福祉政策の拡充により、他の辺境星域と同様の状況だったが、その中でもイゼルローン要塞建設から第11駐留基地の新設、そしてまた艦隊駐留基地の改築が始まるので、7年続いた特需状態がやっと落ち着いたころ合いで、また特需が起こるという、良くも悪くも多大な影響があったのがアムリッツァ星域だ。

第11駐留基地の改築案を出す前にクラインゲルト子爵には、惑星クラインゲルトに基地を新設する余地があるかを確認したが、子爵の言葉通り、行政組織の育成が全く追いついていない状況の中で、必ずしも品行方正な者ばかりではない軍人を、駐留基地要員も含めれば350万人近く受け入れれば、治安組織が悲鳴を上げるどころか崩壊しかねないという事で、モールゲンに集中させる判断をした経緯がある。

 

「それにしても驚きました。よくよく考えれば25年ぶりにご領地を拝見することになりましたが、ここまで成長しているとは......。資料では毎月確認しているのですが、百聞は一見に如かずと申しますが、宇宙港からお屋敷までの窓から見える光景に驚きました」

 

「他ならぬリューデリッツ伯にそういって頂けるとは、我が家の誇りですな」

 

子爵もまんざらではない表情で誇らしそうだ。俺とクラインゲルト子爵家は25年前のルントシュテット領に帰還兵の受け入れと、造船所の新設が重なった時代からの付き合いだ。RC社の最初期からのクライアントでもある。

 

「ご子息も士官学校で励まれている事、聞き及んでおります。辺境自警軍を志望して頂けているとか。ありがたい事だと思っております」

 

「愚息も自分なりに志を持ったようでして、ご配慮いただければ幸いに存じます。RC社とのご縁で、顧問のグリンメルスハウゼン子爵の遠縁になるフィーア殿との婚約も予定しております。25年前はこんな未来が我が領に来るとは思いませなんだ。ありがとうございます」

 

「それはおめでとうございます。式への参加はなんとも申せませんが、ご嫡孫が誕生した際は私からもお祝いを送らせて頂ければ幸いに存じます」

 

「リューデリッツ伯から銀の匙を頂ければ、孫の将来も安泰でしょう。うれしいお言葉ありがとうございます」

 

25年前はまだ先代クラインゲルト子爵の時代だった。政府に領地の開発案を提出しても無しのつぶてで、世を拗ねていた先代を説得してくれたのが、当時嫡男だったクラインゲルト子爵だ。大事にしたい縁でもある。お茶を飲みながら昔話に花を咲かせる。

 

「それでは子爵、温かいおもてなしを頂きありがとうございました。3年後にはお隣に1000万人近い軍人が配属されることになります。RC社の方からも予測と対策案は出しますのでご検討をお願いいたします」

 

「承知いたしました。RC社の方々にも大変良くして頂き感謝しております。愚息の士官学校卒業を機会に、当家でも御用船の購入を検討しております。その辺りも良しなに願います」

 

子爵の見送りを受けて、地上車に乗り込みクラインゲルト子爵邸を後にする。25年前は砂利道だったが今では完全に舗装されているし、宇宙港も湖を流用した簡易なものだったが今ではしっかりとした物が建設されている。ほとんどはクラインゲルト子爵の功績だが、辺境星域を豊かにすることに少しでも役に立てたなら嬉しい事だし、実際に目にすると胸にしみる物がある。これから宇宙港に向かい、モールゲンに戻る予定だ。昨年の段階で計画に基づいた整地作業が完了している。前倒しで作業は進んでいるので、問題は無いだろう。

 

 

宇宙暦779年 帝国暦470年 4月下旬

アムリッツァ星域 惑星モールゲン 第11駐留基地

テオドール・フォン・ファーレンハイト

 

「しかしながら、ここまで巨大な駐屯基地になるとはな。イゼルローンとは違った壮観さがある。そんな基地建設に自分が関わることになるとは、夢にも思わなかったよ」

 

建設現場が一望できるメイン管制塔からみえる光景に、思わず本音が漏れる。既に2個艦隊の駐留基地ではあったが、新たに4個艦隊分の駐留基地を作っても効率が悪くなるため、中心となるメイン管制塔を軸に、メンテナンス設備と造船工廠を円状に建設し、補給船の発着場も同心円上に8ヶ所作られ、そこに副管制塔も併設される。

その先に艦隊の駐留施設が建設されるが、基地内の移動の為に、環状線も2本、メイン管制塔を中心に南北・東西にも広軌の路線が引かれ、貨物専用のラインも併設される。南と東の終着点には歓楽街が、北と西の終着点には関係者の滞在施設と、超硬度鋼とスーパーセラミックの量産施設が移築新設される。もう基地の建設というより、巨大都市の建設に近い計画だ。

 

「ファーレンハイト准将は、イゼルローン要塞はほぼ完成してから視察されたのでしたね。私は建設途中の段階も観ておりましたので、イゼルローン要塞の印象が強いです。ただ、完成すれば見渡せる範囲全てが基地になりますから、壮観でありましょうな」

 

落ち着いて感想を述るのはベッカー准将だ。幼年学校以来の腐れ縁となりつつあるが、彼はザイトリッツの従士として、俺よりも長い間、傍で支えてきた人間だ。イゼルローン要塞の建設過程は映像で見る事が出来るが、確かにあれを生で見る事が出来ていたら、心に残るモノになるだろう。

俺も任官2年目から、ザイトリッツの副官と参謀を兼ねたような職務を果たしてきた。下級貴族出身の俺が33歳で准将などできすぎだろう。嫡男のアーダルベルトも幼年学校の3年目、数回ザイトリッツの日に参加しているし、ザイトリッツの甥にあたるルントシュテット家のご嫡男、ディートハルト殿とも研鑽しあう仲らしい。

親父が投資詐欺に引っ掛かった時には俺の人生は借金の返済で終わると絶望しかけたが、こんな未来が待っているとは思わなかった。アーダルベルトの後にも長女と次男・三男が生まれたし、ファーレンハイト家は一先ず安心といった所だろう。

 

「それにしても、通信設備を通常の物より強化する計画だし、中央管制塔の下はだいぶ余裕のある設計になっているが、我らが上級大将はまた面白い事でもお考えなのかな?」

 

「まだ決定ではないのですが、6個艦隊の駐留基地となると交代も含めれば12個艦隊のメンテナンス・補給が行えることになります。イゼルローン回廊の向こう側での戦況を把握しながら戦力配分を指示する機能も持たせようという話が出ているようです。話が流れれば大会議室が数個作られることになると思いますが......。まだ稟議の段階ですし、そうなると回廊出口付近に通信衛星を配備する必要も出てきます。稟議が降りたら正式な話として降りてくると思いますが......」

 

「確かにイゼルローン要塞の一歩後ろからの方が全体を把握しやすいか。目の付け所が違うなあ」

 

後方支援部門を軸にキャリアを重ねて来たが、どちらかというと俺は前線指揮官や、艦隊幕僚との折衝を担当し、ベッカー准将は、軍務省や統帥本部との折衝を任されてきた。こういう情報は彼の方が詳しいのが、俺たちの役割分担だ。代わりに俺は前線や宇宙艦隊司令本部の情報に詳しい。

 

「前進論を抑える意味でも、イゼルローン回廊のあちら側への駐留基地新設案はかなり必要予算を盛りましたから、それに比べたらこの駐屯基地改築予算など安く見えたと思いますよ。実際問題、あちら側に駐留基地を作っても維持と補給の予算も考えれば負担が増えるだけでしたし」

 

政府系貴族と宮廷貴族が一時期騒いだ前進論だが、軍部の特に前線指揮官たちにとっては『後方で政治ごっこをやってる連中が勝手なことを抜かすな!』というのが本音だった。

 

「あれは前線指揮官にとっては喜ばしい話じゃ無かったからなあ。騒ぎが納まったあとは、方々から感謝されたものだ」

 

「シュタイエルマルク元帥とザイトリッツ様の合作で戦況は優位。このままいけば戦争には勝てるのだから、今、変なリスクを負う理由もないだろう......でしたか?その通りではありましたね」

 

俺たちも参加した第一次・第二次イゼルローン要塞攻防戦で、叛乱軍の屋台骨にヒビは入ったはずだ。長期戦に持ちこめば確実に勝てるのに、短期決戦に持ち込む必要など、軍部では誰も感じていなかった。

 

「シュタイエルマルク伯が軍務省に転出されたのも前進論を抑える為だろう?本来なら元帥の一番弟子として艦隊司令になっていただろうに。残念なことだ」

 

「艦隊司令の人事案を活かすために次官にはならなかったようですし、正式に宇宙艦隊司令長官の引継ぎが終われば、ご本人は正式艦隊の司令を希望するおつもりのようですよ」

 

「それは良かった。正直、我々の世代で士官学校で習ったことは今の艦隊運用では通じない部分が多いからな。理論実証をしっかり進めてもらわねば」

 

しばらくそんな話をしながら休憩した後、俺達はそれぞれが担当している建設エリアへ向かった。これでも准将だからな。それなりの責任を負っているのだ。


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