神様のいなくなった世界で   作:デスイーター

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神様のいなくなった世界でー2-

 俺、響裕太はこの間までヒーローをやっていたらしい。

 

 こう聞くと頭のおかしい人間に思えるかもしれないけれど、それが事実らしいのだ。

 

()()()なんて言葉を使うのは、俺自身そこまで正確な記憶があるワケではないからだ。

 

 ハイパーエージェント、グリッドマン。俺の身体を使っていたヒーローは、自分の事をそう名乗った。

 

 六花達はグリッドマンが勝手に俺に憑りついたんだと思っていたみたいだけれど、実際は違う。

()()()という形であれ、グリッドマンは俺に頼み込んで来たのだ。「この世界を救う為に、君の身体を貸して欲しい」と。

 

 ……普通なら、そんな話信じる方がどうかしてると思う。けれどその時の俺は夢の中に現れたヒーローを、信じてあげたいと思った。

 

 彼なら、信用出来る。無意識のうちにそんな想いを、俺はグリッドマンに抱いていた。

 

 実際は憑依した時の不具合で俺は記憶喪失という有り様になっていてその夢の中の出来事もすっかり忘れてしまっていたのだが、あの時六花の家で再び目覚めた時に俺は全ての記憶を取り戻した。

 

 俺がグリッドマンの提案を受け入れ、自分の身体をグリッドマンに貸し出した事。俺に憑依したグリッドマンが、怪獣を……新条さんが生み出した怪獣を倒し、最後には諸悪の根源であるアレクシス・ケリヴを倒して、この世界が救われた事までもを。

 

 そもそも、戦う時はともかく日常生活では実際の肉体の主導権は俺の方にあったようなものだ。

 人間の日常生活なんてものに疎いグリッドマンは変にでしゃばらず、日常を過ごす時は俺が無意識のうちに下していた判断を支持して行動していたらしい。

 

 それでも使命感のお陰で奇妙な行動を取ってしまった事はあるけれど、【グリッドマン同盟】として戦った記憶は俺の中にしっかりと刻まれていた。

 

 自分が本当にヒーローになったみたいで嬉しかった、なんて言ったら六花には呆れられてしまった。

 内海にも「お前やっぱ変わってるよな。いや、分かるけどさ」なんて言われてしまったのであるが。

 

 ともかく、俺は今の状況をしっかりと受け入れる事が出来ていたと思う。俺は俺の境遇に、きちんと考えた上で納得している。なら、それでいい筈だ。

 

 ……けれど、グリッドマンに対して文句を言いたい事もなくはない。何故なら、グリッドマンが俺の身体に乗り移ったタイミングが、俺が六花に勇気を出して告白した直後だったのだから。

 

 実際には前の日の夜の夢の中で俺が承諾し、その後約束通りにグリッドマンがやって来たのだが……何もあんなタイミングで乗り移らなくてもいいだろうと、後になって常々思ったものだった。

 

 結果として、俺は六花の返事を聞く事も出来ず、悶々とした日々を過ごしていた。

 

 けれど、六花もどうやら俺に告白された事を思い出してくれたらしく、学校で会っても何処か俺を避けている節があった。

 

 このままではいけないだろうと、そう思った。六花にとって俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というワケの分からない評価をされている筈だから、これ以上放置して評価を落とす真似はしたくなかった。

 

 ……六花を好きになったのは、彼女が綺麗だからというのも勿論あるけれど……何よりも、あの()に惹かれたからだ。

 

 六花の瞳は、純粋で曇りが一つもなかった。まるで悪い事なんて知らないとでも言うかのように、穢れを知らず純粋なままでいて、尚且つハッキリと自分の意志を通そうとするその清廉さに、俺は惹かれたのだ。

 

 だから、少しでも彼女に見合う男になる為には、きちんとけじめをつけないといけないと思った。だから俺は、()()()()()()()()()()()()のである。

 

 学校帰りに告白をやり直した直後の六花の顔は驚きに満ちており、けれど……不思議と、何処か好意的に俺を見てくれているように思えた。

 

 ……けれど、その後「返事はいつでもいい」と言った事に、何の後悔もなかったといえば嘘になる。

 

 立花は俺の告白を聞いてもすぐ断りはせずに、「ちょっと考えさせて」と告げてその場を立ち去った。

 即座に断られなかっただけ儲けものだと考えて、俺は日々六花の返事を待ち続けた。

 

 ──だから、彼女から家に呼び出された時にはその用件を察して、緊張で心臓が高鳴った。

 

 六花から電話で「大事な話があるから来て欲しい」と言われ、俺は急いで六花の家に向かった。

 

 思わず全力疾走してしまった俺を六花は笑顔で迎え入れ、そして言ったのだ。「私も、響くんの……ううん、裕太の事、好きだよ」って。

 

 ……その時の気持ちは、今でも覚えている。最初は言われた事を理解出来ず、段々とその内容を咀嚼した瞬間自然と頬が緩み、気付けば笑みを浮かべていた。

 

 こうして、俺は晴れて六花と付き合う事になった。お互いに恥ずかしいからという理由で交際している事は隠しているものの、周囲の人間は俺が立花に好意を抱いていた事を知っている。

 

 けれど、だからと言って恥ずかしがって何も出来ないのでは付き合う前と変わらないという事で六花とも意見が一致し、俺と六花は大晦日の夜……深夜の初詣に向かう事になった。

 

 深夜の神社前には出店の間を縫うように凄まじい数の人の行列が出来ており、その喧騒には最初唖然としたものだ。

 

 あまり長くは並びたくないと思って時間ギリギリに来たのだが、その所為で俺と六花は列のかなり後方に並ぶ羽目になってしまった。

 

 俺の浅慮で迷惑をかけた事を六花には謝ったが、彼女は特に気にした素振りもなく「これはこれでいい経験だよ」と言って笑ってくれた。

 

 俺は素直に六花の配慮に感謝し、同じ失敗は二度としないよう心に誓った。

 

 そうこうしているうちに、除夜の鐘が聞こえ始めた。ごーん、ごーんと鳴る金の音が夜空に響き渡り、周囲からは歓声があがる。

 

 俺は立花と手を繋いだままその鐘の音に聞き入っていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おーい、六花~! あれ? 六花それもしかして……」

「ん? なーになみこ……? って、あ……あー、そっかぁ。そうなったのかぁ……」

「……な、なみこ、はっす……っ!」

 

 声の主の正体は、六花と学校ではいつも一緒にいる二人の女生徒だった。二人は手を繋ぐ俺と六花の姿を見比べると、にまー、っと笑みを浮かべた。

 

「やあやあ少年、六花を落とすとはやるじゃないかね。一体どんな魔法を使ったんだよ、君ぃ?」

「でもでも、六花も満更じゃなさそうだしねぇ。もしかして六花って、響くんみたいな子がタイプだったの?」

「べ、別に裕太は、その……っ!?」

 

 友人二人に好奇心全開で詰め寄られ、六花は戸惑いながらも更なる失言を漏らしていた。裕太、と俺の事を呼び捨てで呼んでいた事を耳聡く聞きつけた二人の顔が、満面の笑みとなる。

 

「ほぅほぅ、()()ねぇ……()()()からえらい出世じゃない、六花」

「そうだねぇ。まさか、名前呼び捨てで呼び合う程親密になってるとは思わなかったわー」

「あ、あぅあぅ……っ!」

 

 二人にからかわれ、六花は顔を真っ赤にして目を伏せた。どうにか助け舟を出してあげたいが、此処で俺が割って入れば逆効果だろう。

 

 そう考えて口出しを控えていたのだが、六花をいじり終えた二人は当然の如く、俺にターゲットを移して来た。

 

「さー、響くん。念願の六花を落とした感想をどうぞ」

「私の見た感じだと、まだ六花とは清い関係だよねー? それとも、草食動物に見せかけた肉食獣とか? あ、六花に手を出すなら相応の覚悟はしといてね」

 

 軽口に見せかけた本気の警告を送って来る二人に対し、俺はおろおろしながら対応する。

 

「そ、その、そういうのはまだ早いというか、なんというか……」

「……かーっ、此処まで純情ボーイとはねぇ。ちょっと見誤ってたわー」

「私もー。そっかぁ、こういう子なら六花も無警戒に付き合えるよなあ。うん。私もちょっと可愛いと思った」

 

 俺の返答に何かを感じ入った様子の二人だったが、どうやら勝手に納得して満足したらしく、それ以上の追及は止めてくれた。

 

「ま、ごゆっくり。一皮剥けちゃうかなー、色んな意味で」

「なんにせよ報告必須だからねー、六花」

 

 二人はそう言って俺達から離れ、雑踏の中に消えて行った。残された俺達はふと腕時計を見て、0:00を迎えるまであと僅かである事に気が付いた。

 

「……そろそろ、新年だね。色んな事、あったよね」

「そうだね。けど、決して辛い思い出ばかりじゃないと……俺は、そう思うよ」

 

 ……そう言って想起するのは、俺がグリッドマンに身体を貸していた時の事だ。

 

 心が壊れていた新条さんは、ほんのちょっとした事で我慢が出来なくなり、怪獣を使って気に入らない人間を殺していた。

 

 その中には、六花の知り合いもいたのだ。先ほどの二人程親密ではなかったにしても、問川さん達がいつの間にか死んでいた事になっていたと気付いた時の六花は、酷く落ち込んでいた様子だった。

 

 恐らく、ああして新条さんが怪獣で人を殺したのはあれが初めてではないだろう。

 この街はグリッドマンが来るまで、新条さんと彼女を唆したアレクシス・ケリヴが生み出した怪獣によって、破壊の再生を繰り返していた。

 

 多分、認識できていないだけで本当はもっともっとたくさんの人が死んでいたのだろう。

 電子生命とはいえそれだけの人間を虐殺した新条さんの所業は、心が壊れていたとはいえ許され難い事の筈だ。

 

 けれど、結局は彼女も被害者だった。アレクシス・ケリヴに心の隙を付け込まれ、神様に仕立て上げられて怪獣を作り続ける、孤独な少女。それが、新条アカネだった。

 

 もう、彼女はこの世界にはいない。この世界を作り出した彼女は、此処ではない何処か……彼女が本当に生きるべき世界へ、戻って行った。

 

 恐らく、グリッドマンと同様彼女とももう会う事はないだろう。新条さんは自分の世界で一歩を踏み出し、グリッドマンもまたこの世界という掛け替えのない宝物を残して自分の世界へ帰還した。

 

 だから、俺も前に進もう。口で言う程現実というものの壁は低くはないけれど、頑張れば出来ない事なんてないんだって、グリッドマンが教えてくれた。

 

「……あ……」

 

 ──遂に、時計の針が12時を超える。それと同時に空に花火が上がり、そこかしこから歓声が鳴り響く。それは、一つの年が終わり、新しい年が始まった合図だった。

 

 列が進み、人の波がどんどん神社に向かって歩んで行く。俺は六花の手を引きながら、前へと足を踏み出した。

 

「さあ行こう、六花……! あけまして、おめでとうだね」

「うん、今年も……これからも、よろしく。裕太」

 

 俺達はそう言って笑い合い、手を繋いだまま歩き始めた。周囲の喧騒が、祝福の鐘のように鳴り響く。

 

──裕太、君は君の未来を生きてくれ。それが今の君の使命であり、私達の願いでもあるのだから──

 

 ──何処かでそんな、力強い声を聞いた。それがなんなのかは分からないけれど、きっとそれは……全霊の、激励の言葉なんだって思えた。




 深夜の神社の行列の写真を見て思いついたんで書きました。今度は裕太視点です。
 所々独自解釈入ってますが、そういうもんだと割り切って貰えれば。グリッドマン、良い作品でした。
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