憂鬱勇者vs.優しい異世界   作:茶蕎麦

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 三ヶ月ぶりで、お久しぶりですー。

 ギャグ回です! あの子が頑張るとどうしたってこうなってしまうのですねー。
 どっかんです!


第五話 イチコロ

 葉大が召喚されたこの世界において、魔物は魔王に、そして人は神に愛されている。

 それ以外の存在には、別途違う加護が存在していていたりもするが、まあそれはあまりに多岐にて割愛するしかない。

 そして、魔王は一柱、そして人を愛している神は、この世に複数実在を確認されているのであるから、驚きである。

 

 その中の一つ柱、ドゥルウス教の主神である神チアル。彼女はまた殊更多くに加護を与えることで有名だった。

 神の力を与えがちな上、それこそときにチアルは、気に入った信徒の悩みのためにと神託をイメージを降ろした上で身振り手振りを加えてまでして伝えることすらある。

 直に会ったらしい開祖ドゥルウス曰く、あの方は愛が深すぎる、とのこと。一時期は、お気に入りの信徒に酷く粘着していたということも書物にばっちり残されていたりした。

 

 そう、チアル本神は高位すぎて同類にすら直接触れがたいこともあって暇を持て余しており、また心根が人間を基にしているところもある。

 故に、近づきやすい神様という訳の分からない存在として、ことウェミテル王国では殊更信じられた一柱だった。

 

 

 

「チアル様……以前仰っしゃられた通り、私はガンガンと攻めて勇者様とお近づきになろうとしています……ですが、なかなか、上手くいかないのです」

『へー、そうなんだ。ならいっそ脱いで誘ってみたら?』

「チアル様……私もそれナイス、と一瞬思ったのですが、私の仲間には裸同然ハレンチな女傑が存在していまして……」

『んなのも居るんだ。だったら、知的アピールとかどうよ? ハリスラ結構ちっちゃい頃から勉強とか出来てたじゃん』

「そっち方面は、一人手強い子がいまして……それに、勇者様も大変に学を修めていらっしゃる様子。私でもその、お馬鹿さん扱いされてしまうのです」

『へぇー。勇者パーティーって粒ぞろいでおもろい子ばっかじゃん。でも、ならどうしようかねー……よし、こうしよう!』

「な、なんでしょうか……」

『キャラを変えちゃうんだ! ヤンデレムーブとか、イカしてると思うな! いや、唐突な自傷とかドキドキだねー』

「自傷って、そのドキドキは恐怖ですわ! イカしてるんじゃなくてイカれてるだけですの!」

 

 そんな神チアル(投影するイメージ映像において胸尻を盛りがち)は、信徒ハリスラ(週3で神託を聞く)の相談に対して今日もざっくばらんに返答をする。

 あまりに雑な回答に、ハリスラは宿の一室にて目を閉じ手を組み合わせて乞い願いながら、器用にツッコミをしていた。

 チアルのケラケラ笑いに、信徒でありながらこの神ムカつきますわねとの感想を持ちながら、それを綺麗な面に出すことなく、敬虔で通っている少女は更に神に問う。

 

「はぁ……そういえば、何時も私の話ばかりでしたが、チアル様は懸想している方とかいらっしゃいますの? まあ、居たとしてもヒトではないのでしょうが……」

『えー、恋とか結構前にずいぶんしちゃったから、今は特にないかなー』

「……それは少しさみしいですわね。でも、何か楽しんでいることくらいはおありでしょう?」

『うーん……そだねー。信徒が私のてきとーな言葉で右往左往することは楽しみだよ。ちょっと前に、インリアン司教のカツラが呪われるって嘘の神託を下した時は面白かったなー』

「あ! 何だか同期の数人が唐突にあの方に襲いかかったと思ったら偽の毛髪を焚き上げたことがありましたわね! その周りで皆が奇声を上げて謎の踊りをし出したことといい、怖かったですわー!」

『あれ、全部私のせい』

「全く、クソ神ですの、チアル様は! 厄神認定、よくされないですわね……ああ、こんなの信仰して本当に大丈夫なのでしょうかー!」

『けらけら。私がクソって、ハリスラは素直で面白いね』

 

 笑い声を上げる彼女は、叫びを面白がる、ヒトで遊ぶありがちな神様。クソと思いながらもそれでも神様お願いしますの形を崩さないハリスラに、チアルは親しみを覚えるのだった。

 それこそ、可愛い我が子のようにすら思い、よく知らない勇者との恋が叶うことまで応援してしまう。白い頬に、柔らかい笑みが二つの笑窪を作った。

 

『じゃ、そんな面白いハリスラにはご褒美をあげようか』

「な、なんですの? また前みたいに、プレゼントとか言って虫満載のびっくり箱を落としてきやがりましたら、チアル様のこと全力で呪ってやりますわよ?」

『けら。あれは、子供のハリスラが私の力を侮ったから脅かしただけだよ。そうじゃなくって……ほい』

「わ、なんか落ちてきましたわ……ってこれ、杖ですの? ダサくてボロっちいですわ」

『んー? そうかねえ。私がヒトだった時代には結構イケてるデザインだったんだけどなあ』

「そうですの? この過多な装飾が年齢経過で削れている木製杖が……ん? ヒトだった? ……もしかして、これ神代にてチアル様が用いていた杖だったりします?」

『そうそう。ちょっと前にそんなのあったな、って埃とったばかりの奴送っといたよ。それ使えば、多分私から神力を倍は得られるんじゃないかな?』

「そ、それって凄まじいことではありませんの! 伝説どころじゃない遺物です……キモいくらいにババ臭いデザインですけど、大切にしますわ!」

『……ねえ、ハリスラって私のこと本当は嫌いじゃない? 率直にも程があるんだけど』

「わーい、ですわー!」

 

 神の小さく零した言葉も知らずニコニコしながら、金毛揺らがせハリスラは喜びにぴょんぴょん。ダサデザインの長杖を抱きしめるのだった。

 無視されて、でも面白い少女の様に思わず笑みを零してしまうチアルは、これも惚れた弱みかね、と考える。

 

『ま、これからはこの子の旅路もヤバくなりそうだからね。ま、人の子に対するこれくらいの力添えなんて、些細なもんだろう』

 

 呟きながらも、チアルはそんなことまでは神託に流すことはなかった。神は、ただ人の子が自力で得る幸せを支えたいと、思う。

 

「これで勇者様もイチコロですわー!」

『けらけら。実際はニコロくらいかねぇ』

 

 その日、葉大の世界と比べると巨きく近すぎるそんな月の下、首都ユグノルからほど近くの小麦の街ファシアムの宵は薄青く希望に輝いていた。

 向こうの紫がかった雲が作る闇をよそに、きらきらとその下に病みを懐きながら健やかに世界は廻る。

 

 

 

「ハリスラ」

「なんですの、勇者様?」

「えっと、まず近いから離れて欲しい。そしてその……変わった杖はどこから手に入れたのかな?」

「神様がくれましたわ!」

「はぁ?」

 

 翌朝。最近増えてきた魔物退治の遠征の続きを始めようと宿の外にて集まったところ、何やら一夜で荷物が増えているものが。

 それを気にした葉大であったが、その返答はなんとも怪しげなもの。いや、この世界だと確かに神は居るようであるが、それにしても急である。

 だが、Cランクの胸を大いに自慢げに反らして、ハリスラは右手に持った大きな杖の自慢をするのだった。

 

「見た目はカスですけど、神代の杖ですわ。これなら、私の神法の威力は何倍にも跳ね上がる筈です!」

「何倍も……はは」

「いやそれは拙いだろ。クレーターでも作る気か?」

「そんなつもりはありませんが……実際最大でどれくらいの威力を出せるか、気になりますわね……」

 

 顎に指を当てて悩み始めるハリスラ。彼女の口から、限界まで勇者様を強化してみたらどうなるか、でもやりすぎて頭破裂とかなったら困りますし、と溢れる。

 聞いた葉大は、引きつった笑みを浮かべざるを得なかった。一応想い人であるはずの自分をモルモットとして真っ先に上げるその思考回路が普通に、怖い。

 隣で、冷静にイシュトが白い唇を動かし、告げる。

 

「なら、空に向けて爆発の神法を射ってみたら? それで普段との差異が分かると思う」

「それですわ! 行きますわよー!」

「あ、流石にこんな市街地であの大音量のを使うのは、あ」

「えい!」

 

 そして、巻き起こったのは、大爆発。

 平和な朝を壊し、この地のありとあらゆる窓ガラスをぶち破ったその大神法は、当然のことながら近くの予測出来なかった葉大と下手人たるハリスラの鼓膜にまでダメージを負わせる。

 ふらりとばたり。倒れ込む二人。そして、大被害の現実に街の人達が悲鳴のような声を上げだす中。

 そっと耳から手を離したエールニルとイシュトは、ぼそりと会話をするのだった。

 

「ハリスラはヒロイン力ではなく、戦力を上げてきたね……やり過ぎなくらいに」

「勇者に完全に引かれるだけなのにな……気づいていないのが、哀れだ」

「っ、とんでもない威力だった……と」

「ん、起きたね」

「よし、行こう」

 

 そして、前言の通りに勇者をイチコロにしたハリスラを哀れに思いながら、二人はふらつきながら起き上がった葉大の手を引き、その場を立ち去る。

 最近の中で一番に命を削ってきたダメージから葉大は恐ろしい人たちの手を無理に振りほどくことも出来ず後をふらふらついていく。

 喧騒は次第に遠く、だから。

 

 

「お前か! ここらの家の窓全部破壊した女は!」

「い、いえ。これは……そう、神様がやらかしたのですわ、チアル神が下さった杖が暴発したというか、そのような……」

「あん? ……なんだその杖は……いや、正気でそんなにイカれた形の杖を持っている訳がない。お前、ひょっとして魔族信奉者か?」

「そんなことありませんわー! チアル様のクソださセンスのせいで、とんだ風評被害ですのー!」

「神にクソと言うとか罰当たりな……やっぱりこいつは臭えな」

「なるほど、テロリストの破壊活動だったのね!」

「あわわ……どんどん話が大きく……誰か助け……って誰もいませんの!」

 

 

 彼女の自業自得がどんな愉快な顛末を迎えるのかが知れなかったことだけが、彼にしては珍しく少し残念だったかもしれなかった。


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