キュゥべえside
「キミが僕のマスターかい?」
「ああ、そうだ」
やれやれ。
まさか、この僕を召喚する者がいるなんてね。
そもそも、僕が英雄などというものにカテゴライズされていることそのものがおかしいわけだけど。
「さて、君の名前を教えてもらおうか 。見たところ人間ではないようだけれど」
僕を召喚したマスターはどうやら人間が召喚されなかったことに驚いているようだった。
まあ、当然か。
英霊・英雄といえば人型の者を連想するのだろう。
「僕の名前はインキュベーター。個にして群のもの。クラスはキャスター。他のことは追々話すとしよう」
「ふむ。キャスター、か」
「お気に召さなかったかな?」
「ああ、いや気にしないでくれ。てっきり三騎士、あるは僕の性質的に、アサシンが呼ばれるとばかり思っていたから」
どうやら僕のマスターは暗殺に詳しい、又は非道な人物のようだ。
まだ本人が言っているだけだけどね。
「三騎士かアサシン用の作戦を立てていたんだけど。まあ、こればっかりは仕方ない。君を組み込んだ作戦を新たに作ることにするよ」
「よろしくね」
人類は過ぎたことを持ち出すのは未練がましい、と言うけれど。
この男のこの言葉はどうなんだろうか?
ある程度の感情は理解できる僕だけど、人類のように複雑になってくると難しくなってくるからなあ。
とりあえず、言葉通りにとっておくことにしよう。
「では、次は僕の質問に答えておくれよマスター。キミの願いは何なんだい?」
「………それは今言わなくてはダメかい?」
「ああ、できれば言ってほしいと思っている」
思っている、か。
思考自体は行っている僕だけど、この場合も当てはまるのかな?
~~~してほしい、なんていうのは本当なのかな?
まあ、嘘ではないだろう。でも、僕じゃないような気持ち悪さがあるな。そもそもの僕は気持ち悪さだとか願望なんて持ち得ないはずなんだけど。
「………世界の恒久的平和、だ」
マスターの男はしばらく迷ってからそう言った。
世界の恒久的平和、ね。
咀嚼する。
「僕の願いはね、宇宙を救うことなんだ」
「宇宙を救う?」
「―――キミはエントロピーというモノを知っているかい?」
~説明中・以下略~
「つまり、宇宙全体のエネルギーは今も目減りしている一方なんだよ」
「……なるほど」
やはり第二次性徴期の少女よりも成人している大人は理解が早い。
他の少女たちは話していても理解できてないのか、すぐに質問してくるからね。
スムーズに話ができるのは効率面で見て、大いに助かる。
しかし、世界の恒久的平和の実現、か。
まるでかつてのさやかのようだ。
と言いたいところだけど―――。
おそらくこの男は理解している。
非情になることが必要であることを。
同族を殺すことを。
まあ、僕にとっては預かり知らぬ所の問題だ。
問題なのは、世界の恒久的平和なんて言うこの男の頭がさやか並に残念でなさそうだということだ。
良かった良かった。
「ならば、僕たちは仲間同士という訳だ」
「………うん。そうだね」
これは前者がマスターの男で、後者が僕のセリフだ。
一人称が同じなのはややこしい。
しかし、この男は何を言っているのだろうか。
僕たちは仲間同士という訳だ?
前言撤回だ。
この男はさやかと同じだ。
さやかと同じく夢をただ追い求めるだけの理想主義者だ。
まだまだ甘い。
まあ、そういうことならばいいさ。
彼とは良きパートナーになれるかと思ったけれど。
少しばかり、対応を変えさせてもらおう。
ほむら曰く、利用という関係で接することにしよう。
「所で今さらだけど、キミの名前を教えてもらえないかな?」
「ん?ああ、そうだね。これからも長いからね。
僕の名前は―――」
「
「そうか。それじゃあよろしくね。切嗣」
「ああ、よろしく」
切嗣side
胡散臭い。
この生物の第一印象だ。
そして、第二印象もまた怪しい、だ。
そもそも人型でなく、しかも臆面もなく
感情は表に出ていない。
けれど、揺さぶってみれば分かりやすい。
特に『僕たちは仲間同士という訳だ』と言った時が最も顕著だった。
おそらく、こいつはあのとき僕に対する印象を決めただろう。
そして、僕はそれを利用する。
腹の探りあい。
普通の騎士様相手では決してしなかったであろう行為。
キャスターと契約するのはそれなりの苦労が付いてまわるようだ。
しかし、想定外のことではあったが、
英雄なんぞと手を組むよりはこいつと組んだ方がいい。
そして、こいつを出し抜いてみせる。
「ところで切嗣。その女性は誰なんだい?」
「彼女はアイリ。僕の妻だ」
僕の隣にいるアイリに対して興味―――とは言わないまでも関心を持った様子のキャスター。
こうなることは予見できていたからできれば、この場にはいさせたくなかったんだが………。
アイリ自身の意志と僕の要望を通した結果、一緒に召喚の儀式を迎えることになった。
万が一、セイバーなどの騎士様がやって来た時は話したくないので、彼女に来てもらったのだ。
まあ、キャスターがやって来たから、その心配はなくなった訳だが。
「へえ。でも」
キャスターはアイリから目を離さない。
なんだ?
もしかしてこいつは人間の女性にも欲情するのか?
確かにアイリは美人だ。
こいつが人間にも欲情する淫獣だとしたら、その可能性は極めて高い。
知らず知らずの内に銃へと手を伸ばしていた。
起源弾を装填している銃だ。
英霊が手に負えない存在だった時に令呪を消費せずに殺せるように用意していたものだったが………。
こんなことで起源弾を消費したくはないぞ、淫キュベーターよ!
「何故キミの妻が彼の英雄王アルトリウス・ペンドラゴンの宝具エクスカリバーの鞘であるアヴァロンをその身に宿しているのかな?」
しかし、その口から発せられたのは予想外の言葉だった。
何故、その事を知っている?
「何故そう思う?」
「それは何故キミの妻の身にアヴァロンが宿っていることを僕が看破できたのか、という意味かな?」
何も言えない僕はそのまま黙る。
「それは簡単なことさ。かつてアルトリウス・ペンドラゴン―――いや、彼女は自身のことをアルトリアと呼んでいたね。彼女に超越的な力を与えたのは他でもない。
僕、インキュベーターなのさ」
絶句した。
「つまりは元々アヴァロンもエクスカリバーも僕がもたらした文明の産物というわけだ。もちろん、僕は自分の造り出したものに関して把握することが可能だ。だから看破できたのさ」
これは―――。
何も言えない。
横にいるアイリも予想外に大きな存在を前にして絶句している。
こいつは僕が思っているよりもよほど大きい存在なのではないか?
インキュベーター。
何故か、侵略者の三文字が浮かんできた。
「―――彼女がアヴァロンを持っているのは彼女が病弱だからだ。アヴァロンには本人であるアーサー王がいなくても多少の回復力がある。だから、アイリの健康維持のために使わせてもらっている」
健康維持、だなんて嘘だ。
本当はこれがなければ、アイリは日常生活に支障をきたすほどの障害をいずれ負う。
しかし、この生物には悟られてはいけない。
「だから、たとえ元々はキミが産み出した物でも今は使わせてもらえないか?」
「大丈夫だよ。その点については問題ない」
その点については。
ならば、他に問題があるのか。
しかし、インキュベーターは特にその点については言及してこなかった。
これからの戦い。
もしかしたら、他の聖杯戦争参加者よりもこのサーヴァントの方が厄介な敵になるかもしれない。
しかし、同時に御しきることができれば、強力な味方であるとも言える。
これが吉と出るか凶と出るか。
まだ、僕にはわからない。
衛宮切嗣&インキュベーター(キャスター)
インキュベーターのステータス
筋力F-
耐久F
敏捷B+
魔力A
幸運A
宝具EX
クラススキル
陣地作成‐…インキュベーターはキャスター適正は持つもの、『魔術』ではなく、『科学』の特性が強いため、このクラススキルとの相性は悪く、発現しなかった。
アイテム作成EX…魔術師ではないため、『道具作成』スキルは発現しなかった。代わりに『科学技術』を用いたこのスキルが発現。適正は高く、EXクラスの宝具を創りだすことさえ可能。