「きたれ、天秤の守り手よ」
私、ケイネス・アーチボルトは決められた通りに召喚の為の呪文を紡ぐ。
呼び出すサーヴァントのクラスはランサーだ。
媒体は異世界からこちらの世界に出てきたという遺物、『赤きペンダント』だ。
本当は第二候補として用意していただけの物で、使う気はあまりなかった。
というよりも微塵もなかった。
それは単に本来使う予定だった『黒きリボン』が強力すぎる遺物だったからだ。呼び出すことが出来れば、それだけで必ずや勝てるほどのサーヴァントを呼び出せる媒体だったのだ。
あの邪悪でおぞましい悪魔とされていても使わざるを得ないほどの強力な伝承の英霊。
その呪いは顕現するだけで街を滅ぼすと言われている。
それだけにあのリボンを奪われたのは痛い。
奪われた当初は弱点が分かって有利になると思っていた―――否、はしゃいでいた。
しかし、時を経るごとに焦燥感が募っていった。
あれ、あの英霊に勝つことが出来る奴っているの?
見たことも聞いたこともない異世界の悪霊。
普段ならば、一蹴して勝てると宣言するところだ。
むしろ私の技量に最強のサーヴァントが加わってしまえば、戦争ではなく虐殺になってしまっていた。
それでは聖杯戦争に参加した意味がない。
そう思い、安心すらしていただろう。
しかし、私にはそれが出来なかった。
それは怖いだとか強いだとかの単純な感情による恐れなどではない。
ただただ、不気味だったのだ。
私は黒いリボンを手にいれたときに同時に異世界の歴史書も手にいれていた。断片的ではあるものの、『魔法』を操る者たちに関する書物であることは分かった。
そして、英雄譚にはお決まりの強大な敵の存在もそこには載っていた。
しかし、何故かその先が残っていないのだ。
強大な敵が現れ、魔法使いたちは必死に戦う。
そこまでは残っていた。しかし、その先が不自然だった。まるで筆者が変わったかのように歴史書の書体、書き方、所謂作風まで変わっていた。
ここで、話が終わっていれば、まだ私も疑問を持つだけで終わっていただろう。
強大な敵が現れて、英雄たちは戦った………。
そこからは単純に歴史書が壊れていたのだとそう思えた。風化なのか焼失なのかはわからないが、記録は消えたのだと。
しかし、それは違った。
歴史とは出来るのではなく、造るのである。
これは別にフィクションの小僧どもが言っている綺麗事としての意味ではなく、これまで為政者たちが戦争の度に行ってきた歴史改竄のことを意味している。
第二次世界大戦終了時に連合軍の兵士たちがドイツの女性を辱しめるために女達の髪を刈り上げ、坊主にしたことがあまり知られていないように。
後に戦争映画として世に発表されるまで誰も知らなかったように。
歴史とは勝利者によって改竄、又は隠蔽される。
この歴史書にも同じことが言えるとしたら。
もしも、フィクションの悪役が世界征服を成し遂げてしまうような、そんなことはこの歴史書の世界にも起きているとしたら。
そんなことを想像したら、単純におぞけが走った。
私の読んでいるこの歴史書の世界では英雄が敗北し、しかし、そのことが書かれずに悪役が鼻歌混じりに歴史書を改竄しているのだとしたら。
しかし、同時に閃いたのも事実。
この悪霊を使えばかなり有利になる―――否、勝てると。
歴史書通りならば、この英霊は複数名の『魔法』使いを相手に圧倒している。
しかし、本音を使えば使いたくなかった。
私の聖杯戦争の参加目的は武功を挙げること。
であるのに、このような存在を使用したとなれば私の武功に傷がつくこともある。
なのに、私は使った。結果的に使えないことになったが、使おうとした。
あの時はなんとなくで流していたが、今ならば分かる。
私は恐れていたのだ。
このような事態を。
他のマスターにあの英霊が使われる可能性を。
掛け値なしにあの英霊に対して恐れを抱いていたのだ。
最近になってようやくそのことを理解できた。
しかし、時すでに遅し。
『黒きリボン』を盗んだウェイバー・ベルベットはすでに日本の冬木市に飛んでおり、かなりの時間が経っていた。
彼の召喚までに間に合うかは微妙なところだった。
だから私はせめて万全を期してサーヴァントを召喚することにしたのだ。
それに私はこれを逆に考えることにした。
あの英霊を倒すことによって更なる武功をたてることが出来るのではないか、と。
異世界の歴史を改竄した(かもしれない)英霊を相手に予備のサーヴァントを以て勝つことができた。
この栄誉が欲しい。
小さい頃から常にエリート街道をひた走ってきた私だからこそ分かる。己のことは己が最もよくわかっている。
私は名声で動ける人間だ。
そうでなくて聖杯戦争に参加なんぞしない。
魔法を手にいれるのはついでだ。
しかし、そこで思考は中断される。
魔方陣が『赤きペンダント』にまつわる英霊を呼び出したのだ。
「よお、あんたが私のマスターかい?」
「ああ、そうだ。私の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。お前のマスターだ」
「ケイネス、………エルメロイ……? あんた外人さんか? 確かに金髪青目だけど。へえ、初めて見るな」
日本語、か。やはり歴史書は日本語で書かれていたことからそうであるとは思っていたが。
この少女、日本人か。
その少女の出で立ちは、外を歩いている若者たちとそう変わらぬ物だった。
服装に疎い私にもわかるようなメーカーの上着を着て、下はハーフパンツのみ。おそらく中国製の量産品だろう。
今いるイギリスは温暖な気候だから大丈夫だろうが、四季豊かな日本では現在冬だと聞いている。
そんな格好で大丈夫なのか?
そして、なにより特徴的なのがその赤毛の長髪。
ポニーテールにしていてもなお腰ほどまで伸びる赤毛はなかなかにインパクトがある。
「私は名乗った。ならば、次は君が名乗る番なのではないかね?」
「んだよ。分かってるよ。最近あんまり人話してなかったからよぉ。そこら辺のことは鈍っちまってんだよ。私の名前は佐倉杏子。ジャパニーズだよ、外人さん」
「大丈夫だ、日本語は話せる。だからそのアジア訛りの酷い英語を喋るな。あとマスターと呼べ」
「ケッ。はいはい分かったよ外人さん」
な、なんだこのガキは………!
日本人の女は常に一歩男の後ろを歩く大和撫子という性格ではなかったのか……!?
別にそれが私の好みのタイプではないのだが。
くそっ、これではこのサーヴァントを選んだ理由の一つである『言うことを聴きやすい』が全くもって意味のないものになる。
「そんであんたは一体どんな願いをもってんだ?」
生意気な女が聞いてきた。
願いだと?
ふん、そんなこと自分で察するがいい。召し使いに聞かせる程度の安い願いではないわ!
反射的にそんな文句が出そうになる。
いや、最初の一文は言ってしまったかもしれない。
しかし、ここで察する。ここでサーヴァントと仲違いすることは得策ではない。
少なくともウェイバー・ベルベット陣営を倒すまでは。
「願いは………根源にいたることだ。もっとも、本来の目的は武功をたてることだが」
「ん?願いと目的が違うのか?」
「ああ、そうだ。私は魔術のためにいままでの人生を捧げてきた。そして、魔術においてトップの座を手に入れた。次は武功でのトップの座でも手に入れようかと思ったのだ」
ここは素直に話しておくことにした。
この少女は特にそのような名声に対して批判的では無さそうだったからだ。
そして、私の観察眼は正しかったようで、「ふうん」と言っただけでそれ以上は何も言ってこなかった。
淡白な反応だが、それ以上に何か思っているわけではないだろう。
なんにせよ、これで用意は出来た。
あとは魔術礼装を持って日本に飛ぶだけだ。
そして、このサーヴァントの召喚に際して、考えてきたことだが、やはりソラウはここに置いていくべきだろうという結論に達した。
婚約者であり、私の人生において初めて恋をした人だ。
そんな彼女に女のサーヴァントとともいるところなど見られたくなかったし、彼女を危険に巻きみたくなかった。
だから、ソラウには召喚したサーヴァントのことは秘密にして聖杯戦争に赴くことにした。
つらい。
まるで浮気をするかのようにこそこそとしなければならないのがとてもつらい。
しかし、彼女が私に対してまだ素直になっていない間は僅かな疑念すら抱かせたくない。
これは仕方のないことだと割りきることにした。
かくして、私の聖杯戦争はこの赤き槍兵ととも始まった。
前途はわからないが、私に勝利の神が味方していることは確かだと信じておこう。
ケイネスの性格はまだ良いとも悪いとも言えません。
というか精神ぶれすぎワロタ状態です。
まあ、そこら辺は人間だものということで。
今回召喚されたサーヴァントは赤色の魔法少女『佐倉杏子』です。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
&佐倉杏子(ランサー)
ステータス
筋力B-
耐久C+
敏捷A
魔力C+
幸運E
宝具C-
クラススキル
・対魔力C
…第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。
4次ランサーが若干弱いと思うのは私だけなのか………。