先ず最初に。
更新遅くなり、大変申し訳ありませんでした…orz
次に、低体温症イベ、なんとか完走いたしました٩( 'ω' )و
資材の残りについては…お察しください。特に快速修復(泣)
では、どうぞ!
かくして、ドライバーたちは出発するために準備を始めた。場所が場所なので、軍人はヒートテックを身に付ける。ドライバーにお前は着ないのか?と訊ねると、彼は既に着込んでるといつも通りのジェスチャーで返した。
その途中、軍人は整備エリアにて、スペアカーの収められた所だけシャッターが閉じらていることを発見。直後、メカニッククルーがシャッターをガラッと開けて出て来て…
「こちらの車両の準備も整いましたよ!荷物を載せてもOKです!」
…と、爽やかな笑顔でドライバーと彼に伝えてきた。軍人は、あのドライバーの事だし、普段は動かさないというスペアカーを点検させただけかも…と思い、荷物をトランクに載せてドライバーの車の助手席に乗り込んだ。M4たちも準備を終えて、そのスペアカーに乗り込み、ドライバーの後に続いて車を出した。
そして、基地から出発していく二台を、カリーナと警備の人形たちが手を降って見送っている。
その一方、本部のヘリアンたちはドライバーが最善を尽くして無事にM16と共に帰ってくることを、ただただ祈るばかりであった。
ドライバー一行は、美しい山々を背景に、M16の指定してきたエリアへ向けて走っていく。現在走っている山岳道路は、戦争さえなければ休暇のドライブには良さそうなくらい景色が良かった。しかし、所々に戦闘の痕跡が残っているのを見ると、何だか不穏さを感じずにはいられない。ドライバーはこの辺りは既に落ち着きを取り戻している方だと軍人に伝えた。しかし、今だに警戒はされてるそうで、軍やグリフィン以外の者、ましてや民間人は安全のために入れないそうである。軍人はここよりもっと地味な田舎の方面での任務が多かったのか、この様なドライブコースを通るのは滅多になく、とても新鮮味を感じていた。
因みに、ここで起こった戦闘とは、いつも通りにかっ飛ばすドライバーを見付けた鉄血の追跡車両が追い始め、そこから貰い事故などで巻き込み、また巻き込まれて自滅し、その結果、後から駆け付けたグリフィンの人形が動けなくなった鉄血を捕まえたり、または退散していったのだけなので、戦闘と言うか、顛末を除いて殆どカーチェイスである。
本人曰く、負傷した人形を回収するためにここを走っていたそうで、その途中で鉄血に絡まれた、と伝えていた。
それを知ると、軍人はこの情景もあってか、まるでカーアクション映画かオープンワールドのレースゲームのアクションシーンの様な展開だなと思えてしまった。
この前の作戦だってそんな感じだった。自ら敵地へ赴いて通信拠点を探し当てたり、堂々と検問をぶち破ったり。だが、迫撃砲で撃たれても回避して、迷わず敵の司令拠点まで走り切るのは、最早頭がイカれているとしか思えない。普通なら自陣の拠点を設置してそこで指揮を執り、殆どを人形に任せてる筈なのである。だがドライバーはそのセオリーのようなものには該当しなかった。
軍人は、それでよく毎回事が済むものだよな…と、つくづく思い、次の話題を降ってみることにした。
「そう言えばさ、指揮官同士って会うことあるのか?」
軍人は気になっていた。ドライバー以外のグリフィンの指揮官をあまり見たことがない。
―無いことはないぞ。だが、まぁ…余程の事がない限りは、普段其々の基地の方で任務やら報告のための書類製作で追われているわけだし―
というか、こうして任務で運転してるドライバーを見ると、仕事に追われてるより、むしろ楽しんでいるかの様にも見える。
―それにうちに限ってしまうと、あまり来ないんだよな。周辺の立地的な問題だろうかねぇ?―
そもそも、ここは元々の国家がしっかりしていた時からの土地柄か、乗り物での移動が重要なほどに広い。
ドライバーは他の区からの指揮官が来た時の話をし始め、うねった道と長い距離で揺さぶられてダウンする者もたまにいると伝えた。それに対し軍人は、『それ仕事になるのか?』と思わず疑問符を上げている。
ドライバーはこれに対し…
―さあな…G&Kの雇用って変わっててさ、基準満たせるなら兵士じゃなくてもいいんだ。それ故、元々民間人だったのも多くいる。幸いあんたはタフな奴で良かったよ。あんたに出会う前、同じ軍上がりの指揮官を乗せて走ったことがあったんだが、途中で………―
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―もう少しで着くぞ。着いたら一先ず休んでくれ―
「お、おう…」
―ん?顔色が悪いぞ?…あ、寝不足か?わかるぞ、書類が捌ききれず寝れないのな…後方幕僚に任せっきりは良心の呵責があるからつい手を出して…沼にハマる…―
「あ、ああ…それもある…」
―…やっぱ途中で止まるか?この辺はうちの方で警備を出してるから、下手な敵地で束の間の休息するより、幾分安心だぞ?―
「平気だ…平気…平気うっぷ!?」
―あ!おい!?せめて車の外で吐け!!―
【……暫くお待ち下さい……】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「!?!?」
軍人は自分の座っているシートを疑った。
―安心しろ!そいつは間に合って外で吐いた。それに、一度部品全部外して洗浄と殺菌消毒してるぞ―
「ほっ……」
胸を撫で下ろす軍人。検査の結果、その軍上がりの指揮官に食中毒や病原体等は検出されなかったという。だがドライバーの指摘通り、寝不足はあったそうだ。
―まぁ、指揮官にも色々あるってこった。軍だって色んな奴がいるだろ?モヒカンの英国紳士やら、やたら高性能なハゲやら、髭とブーニーハットがチャームポイントなオッサンやら、懲罰部隊やら、三本線やら…―
「ま、まぁな……ん!?」
あれ?どこかで見聞きしたことあるような特徴だな…と軍人は疑問符を上げた。
―真っ黒いトムキャットとか…真っ赤でキャノピーどこだかわかんなくてレーザーぶっ放すやつとか…―
「流石にラーズグリー○隊は居ないよ!?つーか、最後のやつ、最早人じゃないだろ!!?」
軍人はツッコミを入れる。そんな敵地の赤い倉庫を破壊して回収した後、膨大な費用を払って使用可能になるヤツが何処にいるのだろうか。それに最初の方のモヒカン、ハゲ、ヒゲ帽子にしたって、ハゲは候補がありすぎるが、モヒカンとヒゲ帽子は、もう十中八九……。
―おっといけない。まぁ、タイミング次第では、何時かはこちらの関係者の顔を見ることもあるかもな―
「…ああ、その日までに死ぬ事はないようにしておかないとならないな…」
しかしここで軍人は気付いた。
この程度で吐いてる様で仕事になるのか、と思ったり、それを口に出してしまってる時点で、既にドライバーの運転と、彼のペースにすっかり慣れていたことに。しかも、気が付けば戦場。見事に適応して見せていた。
一方、M4の運転する、車体にアラビア数字の2と入っているスペアカーこと二号車は、トラブルなく、順調にドライバーと軍人の乗る一号車の後から付いて来ていた。
軍人は皆が言うほど下手では無さそうだとドライバーに伝えるのだが…
―うーむ、この程度なら支障は…―
そうジェスチャーし、次のガードレールの無いカーブをアウト・イン・アウトで抜けていった時だった。
「M4、ちゃ…ちゃんと減速しなさいよ…!?」
「大丈夫よAR-15。……… せ え の ォ !」
M4A1がドライバーのそれに続こうとし、コーナー脱出時の部分で道幅を使いすぎ、崖から後一歩で落ちそうな所まで寄せて抜けていった。あわや脱輪。タイヤも砂を拾って巻き上げている。
正しく、ドライバーが以前軍人に伝えていた、『ギリギリを狙っていこうとする』という部分である。今のところは追従してるので速度はそこまで飛ばしてはいないのだが、それでも、今のSOPiiとAR-15の様に同乗者に恐怖や不安を抱かせるには、充分過ぎる効力を発揮していた。
後部座席のSOPiiは目をパチクリさせて周囲を見渡す。『うん、落ちていない、落ちてなんかいないよね…うん…』と呟き、恐怖から生気が無い目をしている。
ドライバーもミラー越しに二号車の様子を見てしまい…
―…無いわけでもないな―
と軍人にジェスチャーの続きを行い、更に続けて、『こんな時に限ってだが、後方の現実を写し出す後方確認用のミラーやカメラの類いを外したくなる様な思いだよ…』と皮肉を伝えると、軍人は思わず苦笑い。彼も冷や汗を掻く。
二号車の助手席のAR-15は、あわよくば無事に着けば良いと祈りを捧げる。人形に祈りなど必要かは別として。
M4は久しぶりの運転なだけに、ちょっとだけ楽しそうである。
スペアカーと言っても、あのドライバーの車であることは換わらず、中身は正しく『走りのプロ仕様』。ジープや軍用目的の車と違って、走りは非常に軽快。エンジンの更け上がりも心地よい。足回りもよく動く。M4にとっては楽しさを感じざる得ない。そこから、魔が差しそうになる中、必死でそれを押さえつけている。
(自分はAR小隊の隊長で、皆の命を乗せて走らせる以上、責任がある…!あーでも踏み込みたい!ダメダメ!そんなことしたら指揮官を失望させちゃうわ!)
…と律しながら、ドライバーの一号車に追従していく。なぜAR-15たちは運転を変わらなかったのだろう。
すると、次第に雪が増えてきていた。ドライバーは、この道を行けばもうすぐ基地の近くだ、とジェスチャーしている。
そこからかなり前方にて。
この辺りに来ると、既に両脇は雪に包まれている。そこに、車が一台走っている。
車はグリフィンのドライバーの車と比べると少し古めで、純正に近い形状のハッチバックだが、ホイールは純正ではなく、むしろ不自然な位に新しく、ライトポッドやマッドフラップが付いていたりと、見るからに戦場では先ず見ることが無い仕様であった。
運転していたのは、これからドライバーたちが向かう拠点に属している戦術人形のスオミであった。鼻歌を歌いながら、マシンをコントロールしている。
彼女は偵察がてら、近辺の道を走らせていた。それにしても、普段から真面目で大人しそうな性格と愛らしい見た目なのに、走りは生まれたお国柄もありエゲツないくらいに鋭い。一見、運転してるのが彼女だとはわからない指揮官もいるらしい。
彼女は背後から車の音を検知する。
(まさか…敵…!?そういえば、追跡車両の改良型が確認されたって本部から通達が来てた様な…)
自身の探知機能では、確かに反応はあることしか分からず、もしかしたら、IFFを偽装してるタイプの可能性も踏まえて警戒していた。
しかし、何かあったとしても、運転しながらいつも持ち歩いてる銃は撃てないし、速度を落とすと追突されたり、反って蜂の巣にされてしまいかねないので、ここは素直に増援を呼ぼうとしていた。
しかし…
「…あれ?」
追い付いてきたのはグリフィンのドライバーの一号車と、M4A1の二号車だった。二台は四輪ドリフトでコーナーを抜け、スオミの運転してる車に迫ってきた。
二号車に乗り合わせるSOPiiとAR-15の様子については……お察しください。
(グリフィンのマーク…指揮官!?何で二台?)
スオミは後方から来た反応が敵ではなく、味方だったため、一瞬胸を撫で下ろす。だが、同時にどうやって追い付いてきたの…?と驚きを隠せなかった 。
一方、ドライバー達は…
「なぁドライバー、前方に怪しい車が見えてきたんだが……」
―あれか?ああ、このあと立ち寄る拠点の関係者の車だな。よくこの辺りを走ってるよ―
「そうか……あの車の形は都市でたまに見かけるけど、ありゃどう見ても純正じゃないよな?」
軍人は前方の車についてドライバーに聞いてみる。
―そうだな、スキー客の車にしては少々騒がしいもんな。悪いがこっちも急ぎだ。追い抜かせてもらおう。…指揮官からM4、車を追い抜くからついて来てくれ―
『了解しました』
速度を上げて二台は追い抜いていった。
スオミは追い抜いていく二台をポカンと見つめていた。
………………………………………………
「暇じゃのう…」
「暇ねぇ…」
M1895とモシンナガンの二名の人形が空を眺める。本日は偵察でスオミが出向いたが、今のところは敵の接近やら交戦はない。だが、平和をキープするのも仕事の内なので、おちおちグータラしていてはいられない。たまに人形や物好きな人間が雪山で遭難し、そこから連絡が来ると、助けに赴いたりすることもあるが、その連絡もない。
すると、ドライバー一行の車二台が拠点へと入ってきた。他の軍用車の通行の邪魔にならないように駐車する。ドライバー一行の到着が珍しいらしく、一目見ようと人形たちが出迎えがてら集まっていた。これは、まるでラリーカーに群がるギャラリーを彷彿とさせている。
―やあお嬢さんたち!お騒がせして済まないね!―
ドライバーは出迎えてきた人形たちに突然の来訪に対して詫びていた。
「よく来たのう指揮官。突然どうしたのじゃ?難所前にセーブでもしに来たか?」
人形たちの中の一人、M1895が声を掛けてきた。
―ははは、今はサーバーに自動でアップロードする時代だぞ、ナガンM1895。実は急務でこの先の雪山に用事があってね。一先ず、そこへ行く前にタイヤの交換と補給にな。あ、軍人、トランク開けるから、積んできたスパイクタイヤを下ろしてくれ。交換するぞ―
「わかった」
軍人はハーネスを外し、車を降りる。
「手は足りそうか?」
―ああ。すぐ済ませるから平気だよ―
ドライバーも車から降りる。
「こんにちは、みんな。忙しい時にごめんね…?」
M4も現地の人形たちと挨拶を交わす。応対した人形は最近は暇で来訪なんて物資搬入の人くらいしか来なかったと話していた。一方で、SOPiiとAR-15の二人はどこかげっそりしていることを集まってきていた人形の一人が気付く。
「ねぇM4A1…あの二人、どうしちゃったの…?」
M4は疑問に思い、助手席と後部座席を見る。
「やっと…ついたわ…」
「一先ず…第一関門突破…だね…」
「ふ、二人とも大丈夫!?」
二人の様子にM4は驚く。車から降りると、途端に回復して「うん、まだ生きてる…!」と認識しながら、ドライバーの指示に従い二号車でもタイヤ交換の準備へ取り掛かるため、トランクを開けて工具とタイヤを降ろす。
―軍人、タイヤ交換はやったことあるか?―
「もちろんだ。訓練の時も散々やったけど、元いたうちの部隊だと常にね…」
レンチを受けとる軍人。どうやら元々属していた部隊では、車を使った移動中にトラブルが多く見舞われていたという。ドライバーは肩に手を置いて『そうか…大変だな…』と同情の意を表していた。軍人はそれに無言で頷く。どうやら苦労が絶えなかったようである。
そして、ドライバー一行はスパイクタイヤに履き替え、燃料補給を済ませた。不凍液については、ドライバー曰くこの日に備えて二台とも特別製を入れてきたため、交換の必要はないとのことだった。決して難しい作業ではないために、あっという間に作業は終わった。
「ふう、作業が終わったな。にしてもこのタイヤ…スパイク多くないか?」
―ああ。この日のためのスペシャルタイヤだ―
「しかし、こんなに細いタイヤで走れるものなのか?トゲトゲがついておるが、何だかいつも見るのよりも頼りなさそうじゃのう…」
二台を見ると、いつものタイヤよりも細かった。ナガンたちの乗ったりする軍用車の類いと見比べると差異がはっきり出ている。
―心配ない。このスパイクタイヤについてだが、インチを小さくしているのは、接地面の面圧を上げ、このトゲトゲをしっかり食い込ませるためだ。そうすると、しっかりとグリップ力を発生する。…そうだな…鉛筆がタイヤ、道が手のひら。尖ってるのと平らなのを手に押し当てたら、どちらが食い込む?――
「前者じゃな。だがどちらも痛そうじゃのう…」
―そういうことだ。今回のケースにおいて、ここから先の雪道をこれで走るのには最適なんだ。ちゃーんと車体のバランスも考えてチョイスしてきたぞ―
ドライバーがいう『今回のケース』というのは、車の性能や道の性質などのことである。話がややこしくなるためそう纏めた。それなら誤解はしないだろう、というドライバーの考えであった。
彼はおまけに二台とも搭載火器等を搭載してる訳ではないため、細くしても差し障りはないとも伝えた。そこで、ナガンはなぜ武器を搭載しないのか訊ねると、一言『用途外だからさ』とだけ答えた。
―本当はいつも雪道行くときに使ってるスタッドレスでも良かったんだが、経験上色々踏まえて、だ。それに、戻ったらまたいつものタイヤ戻してから帰る―
「どうしてだ?」
―粉塵対策さ。舗装した路面を削った粉塵が環境を荒らしてしまう。グリフィンは仕事のために場所構わずスタッド付きのタイヤ使って環境を悪くした、だなんて言われでもしたら、社会的にマイナスだしな―
「そこに関しては感心なのじゃ」
「なるほどな。それについてはわかるが、ならその原因となるものを使うときヘリアントス氏は納得してるのか?」
―俺に任せると言い出した程だ。それ良からぬ誤解をさせないためにも、一応こういうことは毎回書いておいてる。今回もそうするさ。許してや、カリーナ・・・―
………………………………………………
(報告書纏めるって辛いな、サム…)
その一方。
基地では、書類仕事をしていたカリーナが心の奥底で呟く。尚、ドライバーの本名は、少なくともサムではない事に留意されたし。
………………………………………………
「そうか…オンボード映像だけでお腹いっぱいになりそうだけどなぁ…」
―あれも、受け取った方に誤解をしないためのものさ。それに現地のことを知らないやつにはこれがちょうど良いし、逃走時に飛ばすんだって、道がわからんようでは思うようには離脱できんだろう?―
むしろ、その豪華な報告書を受けとる上層部からしたら、ある意味でドライバーの方こそとんでもない誤解をしているのではないのか、と思っていてもおかしくはない。
「そういえば、ヘリアンが言っておったそうじゃな。『先ず誰もそんなスピードでは走らないしコントロールするやつはいない』…だったかのう?」
―えー!このご時世、ハイスピードで運転する時の挙動やらコントロールする方法をここまではっきり手解きしてる奴こそ早々居ないと思うぜ?居たって民間人だから、前線なんかに来たがらないぞ?ドーナツ屋のオヤジみたいに相当な覚悟を決めた様な人間以外はな―
「お主くらいしか出来そうなのがおらんじゃろ。…ここだとスオミくらいかのう」
「うーん…軍の人間ならば自己責任の上で比較的簡単に誘致できそうな感じはするが民間人だとなー…って、ドーナツ屋のオヤジ何者だよ!?中身は凄腕のコックとかじゃないよな!?」
―まぁ、確かにただならぬ気配を感じるしなぁ…あのオヤジ、『キッチンで負けたことはない』って豪語してるし…―
「あの、指揮官に軍人さん。御話し中に失礼します。こちらを!」
スオミが声を掛け、あるものをドライバーに渡してきた。気が付くと先程の追い越した車が停まっている。
「これはなんだ…?」
―ほう、この辺のマップとペースノートのデータが入ったチップだな。まだ持っていてくれたのか?―
「はい!すごく参考になりました!」
「ペースノート…?」
―ラリー競技で、タイムアタック区間、スペシャルステージと呼ぶんだが、その情報を纏めたものだ。コーナーの角度やら路面の状況やらジャンプやら、色々な。元はメモ帳みたいに紙に書いてたんだが、今じゃタブレットを使ってるとこもある―
「ほう、やはり指揮官関連のものであったか。」
―まぁ…そう思ってくれていいぞ―
ナガンは体格的に運転することが無いが、ドライバーの性質を知るものは大体が軍事目的ではなく、モータースポーツ関連のものと予測していた。自身のAIの検索結果にも該当してる項目がトップに上がっていた。ドライバーはタブレットにカードを挿入して認識させると、ロードマップとペースノートのアプリが表示され、データが表示された。走り慣れてるドライバーには必要がないが、もしもの時に備えて持っていくことにした。特に敵に追い回されたときに備えて。どのルートを走るにせよ、飛ばすならばそれなりに体勢を整えた方がいい。
スオミ曰く、途中は雪崩が起こり、会敵の懸念から除雪ができないままになってる所があり、書き加えたところがあると話していた。ドライバーはその位置を確認し了承。軍人にタブレットを手渡す。
―軍人、この前の任務みたいに、ナビシートで読んでもらっても良いか?ペースノートがあると、飛ばす時、比較的安心でな―
「ああ、良いだろう。俺もお前のペースノートの内容には、興味がある!」
笑顔で快諾する。
―ははは、そうかい?それなら良かった。じゃあ頼んだ。あ、スオミ、M4たちにペースノートとマップは渡したか?―
「はい!先程、データのコピーをお送りしました。これで雪山もバッチリ行けますよ!」
M4が運転席に乗っている時点で、既に違う意味でバッチリであることに、スオミは気づいているのだろうか。笑顔なので、恐らくM4のヤバさを知らないのだろう。
―そうか…さて、これからが山場だ。雪山だけにな。この後、もっと雪が降るって、気象予報士のキハラさんが話していたが…―
すると、M4たちがやって来て…
「え?モリタさんは曇りって言ってましたよ?」
―な、なんだって…?―
ドライバーはM4の発言に耳を疑った。
―時にナガン、誰の予報をよく聞く?―
あえて現地民のM1895に訊ねる。
「まゆ毛のアイツじゃ!この後晴れとか言っておったぞ!」
どうやら、視聴してる番組には差異があるらしい。
それと、もう一つスオミから受け取った。小さな箱にはこう書かれている。
"サルミアッキ"
………………………………………………
一方その頃。雪山の拠点に潜伏するM16は……
「だぁかぁらぁ~わたしぃ~ひっく…」
「…」
拠点のシェルター内にある小さなキャビネットの上にはコップ二つとウィスキーが置かれている。
M16は窮地に立っていた。
事は数分前。ここにある人物がやって来た。それは鉄血ではなく、とある戦術人形であった。特徴としては涙のタトゥーが入っている。M16は因縁があるようで、最初は突然現れる謎キャラ的な登場の仕方で、空気も張り詰めていた感じで、M16は銃を突きつけてくるものかと思い身構えるが、なんと突き付けてきた物は、酒の入った瓶であった。警戒してスキャンするも特に細工などされてない。市販されている普通の酒である。
『付き合いなさい!拒否権はないわ!』
M16はこの戦術人形の事を知っているのか、断ったら拗らせそうな雰囲気を感じ、仕方なく呑みの誘いに乗った。
そして、相手の戦術人形が一口付けた途端……こうなった。
ベロンベロンも良いところ。
「いいわよねぇ~あんたのとこには指揮官がいれさぁ~どんなひろかわからないろもぉ~あぁ~わらしたちにも指揮官がいたらいいのにぃ~ひっく…」
呂律が回っていない。
M16は翻訳機能を試してみた。
すると…
『良いわよねぇ、あんたには指揮官がいてさ…どんな人かわからないけど…嗚呼、私達にも指揮官がいたらいいのに…』
となる。
愚痴であった。
「さぞマトモなおひとなんれしょうれぇ…」
『さぞマトモなお人なんでしょうね…』
(うーん……それについては何とも言えん…どうしたものか…)
言い出せないでいた。現在AR小隊を預かっている指揮官が、あのドライバーだなんて。きっと彼の話を聞いたら幻滅するどころか信じないだろう。おまけに、余計に面倒なことになりかねないからそこは濁しておくことにした。
M16一口飲むと、416の持ってきたのは良い酒であった。そう、酒だけは…。
「なぁ、ここはバーじゃないんだぞ?」
M16は、その一言の後に一呼吸起き、目の前でベロンベロンに酔っぱらってる相手の名前を呼んだ。
「…416」
「らによぉ、わらしはかんぺきなのよぉ~?」
(何よ、私は完璧なのよ?)
(ダメだこりゃ…)
【M16のメモ】
よい子の皆!
416にアルコール飲料を飲ませるなよ?
ダル絡みしてきたり、他にも色々大変なことになる。
いいか、もう一回記しておくぞ。
間違っても、ふざけてても、416にアルコール飲料なんて飲ませるんじゃないぞ?
お姉ちゃんとの約束だ!
需要は無いと思いますが…
取り合えず用語解説してみた。
※作者調べ。
【ペースノート】
作中でドライバーが話していたのと同様、ラリー競技のタイムアタック区間の道の状況(カーブのキツさやら路肩に何があるか、など)をメモしたもの。なぜこれが必要かというと、サーキットと異なってラリーは数百キロメートルに及ぶこともあるので、運転手一人ではほぼ不可能。そこで、ナビシートに『コ・ドライバー』と呼ばれる人が座り、それを読み上げ、運転手を補佐する。因みに、ペースノートとは別にロードブックと呼ばれるものも渡されるが、これはペースノートとは別で、競技用の区間がどこにあるか等を記したもの。
作中でスオミがドライバーたちに渡したのは、ドライバーが暗記しきったのか、拠点に昔置いていったもの。M4たちは人形故にインストールすればいいが、ドライバーと軍人は一応生身の人間なので必要である。
【コ・ドライバー】
ドライバーのサポートを勤める。ラリーではドライバーとコ・ドライバーの二人一組で挑む。ナビタイムのCMでヘルメット被った人みたいなのが隣に乗っていると思えばイメージしやすいかもしれない。
コドライバーはドライバーの体調を聞いたり、打合せしたり、コース上で車が故障すると一緒に応急処置したり、色々と忙しい。競技中は、二人の信頼関係の上で成り立ってます。
Vol.7の始めの方で、軍人みたいにコ・ドライバーの立場の人がペースノートをうっかり読み飛ばすと、大変なことになる。
(作中はドライバーが上手いこと危機を回避していましたね…)
ほら、時間ピッタ(強制終了)
【スパイクタイヤ】
媒体により、スタッドタイヤとも呼ばれる、雪用のタイヤ。ドライバー(指揮官)がスオミたちの拠点で履き替えていたもの。スタッド、またはスパイクとは、金属またはゴムの鋲(びょう)がトレッドに打たれているタイヤ。
ドライバーは軍人やM1895たちに分かりやすく伝えるために『スパイクタイヤ』とあえて呼称している。タイヤ自体が細いのは、タイヤの面圧を上げてしっかりスタッド(鋲=びょう)を食い込ませてグリップ力を確保するためである。太いと反ってグリップしないことがある。
ドライバーの車は火器を搭載していないため。逆にいうと、火器を発射するためにはしっかり車体を支える必要があるので、作中の様にやたらと細いタイヤは履けないからである。
※ナガンは突起してる鋲の部分をトゲトゲと表現している。
※現実世界では、スパイクタイヤのままアスファルト路面走ると、路面を削ってしまうため、その粉塵による公害が懸念され、法律や条例で規制されている。しかし、一部の車両、緊急車両、身体障害を持つ人が運転する車は適用されない。
積雪も凍結もしてない、舗装されてるところは原則禁止。積雪や凍結してる地域はOKだったりする
(その地域によるのでご注意下さい)
※実は1959年にフィンランドで誕生した。
【スタッドレス(タイヤ)】
一般的に冬タイヤとか呼ばれたりするもの。雪国に住む方々からすれば必需品。スタッド(ナガンの言う"トゲトゲ"=鋲)の無い(レス)タイヤという意味。
雪用なので無論グリップ力は確保できるが、ドライバーは万全を期してスタッドレスを選ばなかった。
現実世界では、品質も向上してるので少なくなっているらしい。日本国内のラリーでは、粉塵の事もあってか、スパイクタイヤが使用禁止されてるのでスタッドレスが使われている。
ドライバーがこれを選ばなかったのは、単に雰囲気で着けているわけではなく、経験上、雪道の危険さを認識してるため(過去編フラグ?)。
【サルミアッキ】
フィンランドの飴。味は…お察しください
ラリー見てると思うんですが、フィンランド出身の選手はヤバい(語彙力)
さて、次回はM4が……
……というわけで、次話に続きますので、お楽しみに!←
今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)
-
劇中に世界の名車を登場。
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AR小隊vs404小隊のレース対決。
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スオミを走らせよう。