戦場の走り方   作:ブロックONE

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コアが足りないって辛いな、サム


では続きをどうぞ。


Vol.12 簡単なものこそ奥が深い

「もしもし、私です。お声が聞けて光栄です。……え?何か皮肉っぽい?これは失礼しました」

 

 何処かの真っ暗闇の部屋。少なくとも基地ではない。

 そこにオリーブ色の野戦服に身を包んだ男が一人。ドライバーでもなければ、彼とよくツルんでいる軍人とは別の人物。そんな得体の知れぬ男は、端末からある人物へ連絡を行っていた。

 

 「…さて、報告します。先ず始めに、紛争地における、現存する敵対勢力の調査に関しまして。……はい、『それらに』ついては、順調に追跡は進んでいます。現地に向かったとされる精鋭人形部隊は、『我々』の存在には気付いてはおりません…。…ええ…はい。AR小隊は『例の彼』の方で、全て無事に回収されました。これで漸く、グリフィンも本来の目的へ向けて軌道修正していけることでしょうが、やはり問題は残っているようです……ええ、どうやら睨んだ通りでしたよ……はい。既に先方には連絡を入れてあります…」

 

 

 淡々と受け答える男。

 

 

 「次に、S09地区にある第3セーフハウスと呼ばれていた所からM4A1たちが入手してきたデータのお陰もあり、今後における鉄血に纏わる調査の手間が省けました…これで【傘】の事に関しても…はい。次に、最も気になっていらっしゃる『例の勢力』についてですが、表だった行動は現在確認できていません。恐らくは鳴りを潜めていることかと。それでも行方不明者の行き先は、その組織で間違いはありません。風の噂によれば、それに対抗するために、軍の何者かが動きを見せているそうです。監視と調査は引き続きこちらで…。はい…報告はこれで以上となります。…はい?……そうでしたか…それでしたら『例の彼』に、こちらから仕事として幾つか上手く回しておきましょう。快く引き受けるでしょうし、彼だと、物理的に顔が割れません。それに、誰も、彼の顔を見たことがないのですから。そう、私ですらね。はい?ええ、『例の彼』には貸しがあるので…はい……有難うございます。……では、私はこれにて戻ります。失礼いたします」

 

 

 端末の通信を切る。男は無表情のまま少し考え、その後に端末をオフラインにして懐に仕舞う。

 

 

 静かに一息つき、真っ暗なところから姿を消した。そんな彼を見たものは居ない。

 

 ………………………………………………

 

 

 IOP/16LABの敷地のある場所に設置された屋外周回路にて。

 

 軽い排気音が重なって響く。その数は四台。それは、一台ずつ色違いのサイドとリヤのバンパー、そしてフロントにカウルを取り付けており、小さな屋根の無いエンジンもタイヤも運転席も剥き出しの軽自動車にも満たない小さな競技用の車。つまりレーシングカートと呼ばれるものであった。

 

 緑/黒のマシンを先頭に、黄/黒、青/桃、黒/赤の四台が連なって走っていた。

 

 運転しているのは、ボディラインからして、どれも女性。マシンと同様の配色をしたレーシングギアを着用している。念のためだが、青/桃も一応女性である。

 

 四台は左右にテールを小刻みに振ったりしてタイヤの温度を上げる。

 

 ホームストレートに差し掛かり、それを見たコースの脇にいる黄色とオレンジのオッドアイの人形が、16LABと書かれた大きな旗を構える、先頭の緑/黒のマシンがコースを跨ぐ様に引かれた白線を通りすぎたと同時に、旗は大きく振られ、四台全てが一気に加速していく。カートはカートでも、遊園地のゴーカートと異なり、その加速力と速度伸びは鋭い。

 

 オッドアイの人形は緑の旗に持ち変えた。

 

 一方、ピットエリアにはペルシカが「面白そうだから」という理由で来ていた。彼女はラップトップを開き、M4たちの様子を興味津々にモニターしている。

 

 

 

 

 四台のカートはコースの端々を使ってコーナーを次々クリアしていく。途中、緑/黒が黄/黒に抜かれたり、それを抜きかえしたり。

 

 黒/赤と青/桃が抜きつ抜かれつの攻防戦をしたり、さらに、それら四台の順位が頻繁に変わる。旗持ちしているオッドアイの人形は、そのデッドヒートを冷静に見守っている。

 

 

 

 

 

 (どうか事故など起きませんように…特にM4とか…)

 

 

 運転しているのはAR小隊の面々であった。緑/黒がM4、黄/黒がM16、黒/赤がSOPii、青/桃がAR-15である。旗持ちの人形は16LAB製の戦術人形RO635。今回はコースマーシャル役。マーシャルとは今行っている旗降りやら事故処理などを行う役職のこと。

 

 すると…

 

 四台全員スピン。理由は先頭のM4が高スピードで突っ込み過ぎたために操作が急になり、しかもステアを切りながら急ブレーキをしてタイヤがロックし横滑りした。カウンターステアを当てたが、最初のターンインの段階で滑りすぎてしまったためにクルリと回ってしまった。後続のカートたちが緊急回避で同様にスピンしていった。16LABが誇るM4たちだが、その辺はまだ未熟な面もある。お互い衝突は防げたが、そのお互いが前を塞ぎ合う形で止まってしまったため、立ち往生してしまう。

 

 M4たちは両手を振って救援要請の合図をした。

 

 RO635は黄色の旗に持ち変え振る。各セクションに設置されたポストに控えるダミーたちも黄旗を用意た。これは振られているポストがある区間の間は徐行せよ、追い抜き禁止という意味。作業している時に危険だからだ。一台でもコース外に飛び出しているのなら、旗が一本でいいが、車両はコース上で止まってしまってしまっているので、RO635はダミーとMF(メインフレーム)共に二本振る。

 

 「ROから指揮官へ、第三セクションのコース上でスピンを確認。救援をお願いします!」

 

 

 すると、グリフィンカラーである赤/黒カートに乗ったドライバーが手を上げてコースインした。そのまま、M4たちのもとに駆け付ける。ドライバーはオフィシャル兼マーシャル。

 

 オフィシャルとは、マーシャルと異なり、レースの実運営を担う役職。オフィシャルにもレース前の車検等を行う技術オフィシャル、レスキュー、ラップタイムの計時、事務局色々な部署があり、F1で言うと『スチュワード』と呼ばれる協議中のペナルティなどの審議をしている部署もその一つ。

 

 

 ドライバーはエンジンを止めて降り、 順位的に先頭のM4から順に回り、カートの後ろを持って一度バックさせ、一台ずつ再スタートをさせていく。仕様上、バックギヤが付いていないレーシングカートは、こうして物理的にバックさせなければならない。始動する直前にドライバーに各々お礼を言ってから走らせていく。

 

 

 

 四台を再スタートさせ終え、ドライバーも自身の乗ってきたカートのエンジンを始動させ、再び乗り込みROにジェスチャーを送った。

 

 ―良いぞ、再開だ。グリーンフラッグを振れ。…ブルーフラッグも忘れるなよ?―

 

 「了解。…グリーンフラッグっと…ん?ブルーフラッグもですか?」

 

 ドライバーはROの問いに対し、そうだ!とジェスチャーしている。

 

 ROは疑問に思った。イエローフラッグはペースカーが走ってたり、コースマーシャルやコースオフィシャルたちがコース内で作業している時など、競技中のレースマシンの速度を落とさせ、指示あるまでは振り続けろと国際レース規定の本ではその様に記されていたはず。ドライバーはオフィシャル兼マーシャルであるはず。

 

 

 

 

 一先ず、ドライバーの指示通りにレース再開と続行の意を表すグリーンフラッグを振って四台が通りすぎるのを待つ。ブルーフラッグというのは、後続から速いマシンが来ていることを、走行中のマシンに伝えるために振られる。

 

 疑問符をあげるROは、各ポストに配置したダミー人形を通じて、何故かドライバーはタイヤを暖めるために、わざと左右にテールを振りながら走らせているのを見つけてしまう。

 

 

 

 あ、もしや…

 

 

 

 

 ROは嫌な予感がした。

 

 

 

 四台が通りすぎ、再開を確認した途端、ドライバーがピットに戻ったか確認するが、何と戻っていなかった。

 

 

 すると、謎の 五台目がホームストレートを走って来る音が聞こえた。

 

 「ん?………あ!!!」

 

 ROは目を疑った。

 何と、ドライバーがピットに入らずそのままホームストレートをかっ飛ばしてきていたのだ。

 

 「ちょっと指揮官!!」

 

 

 まさかのレース乱入に困惑するRO。これ思いっきりルール違反ではないのか。ドライバーはそのまま勢い良くコースを攻め始めた。

 

 

 『ん?』

 

 現在最下位を走るAR-15が、自身の背後に迫っている排気音に気付く。

 

 『…私の後ろにもう一台?コーナー三つも抜ければ…ってえええ!?ちょっと皆!後ろからもう一台来るわよ!……指揮官だとォ!?』

 

 驚いてキャラ崩壊するAR-15を始め、AR小隊の皆が後ろをチラ見して異変に気付いた。ポストではROのダミーがブルーフラッグを提示していた。

 

 ドライバーの運転するカートが猛烈な勢いで四台を追い上げてきていることに全員が認知するは1秒も掛からなかった。

 

 それぞれ後ろをチラ見している。

 

 

 『あれ?指揮官じゃん!楽しくなってt…速っ!?』

 

 『つーか、どうやって追い付いてきた!?距離的に20mは離れてたぞ!?』 

 

 『す、すごい…です……!』

 

 真横に並び、ブレーキングのタイミングをずらして四台の前に出た。先頭のM4がなんとか前に出られぬ様に持ちこたえようとするが、一歩届かず、ドライバーに前へ出られてしまう。

 

 

 そのまま圧倒的な速さを見せ付けるドライバーは、最後まで前に出さず、見事にフィニッシュラインを越えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースが終了し、車両すべてがピットに入りエンジンを止めた後のパドックにて…

 

 「もう!参加なされるなら参加すると仰ってください!」

 

 ROに叱られるドライバー。彼は『いやー悪い悪い!抜き打ちチェックみたいなもんさ。それに、走りの良い例はキチンと見せてやらないとな。しかしあれでも手加減はしたぞ?』とジェスチャーし、呆れさせる。

 

 

 「手加減ってなぁ指揮官…まるでワープでもしてきたのかと思ったぞ?まさか…ワープ装置なんて車に付けてないよな?」

 

 すると、ヘルメットを外したM16が、ドライバーの乗ってきた赤/黒のカートを指さし話し掛けてきた。M4たちもヘルメットを外して駆け寄る。

 

 どう見ても自分達と同じ100ccの2ストロークエンジン。セルスターター付き。カウルも色以外は同じ。

 

 ―ワープ装置?ははは、そんなのあれば、もっと先にゴールしてるよ!―

 

 笑ってM16にジェスチャーするドライバー。

 

 「あの、M16…残念ですが、ワープの痕跡はありません…というか、そんなのまだここですらキチンと実用化できてませんからね…?」

 

 ROはM16にそれでもマシンにおいての不正は無かったと困惑しつつも伝える。

 

 「そ、そうか…」

 

 「でもでも!すっごく速かったよ!」

 

 「ホントにびっくりよ…」

 

 ―悪かったな皆。公認レースじゃスチュワードやオフィシャルは飛び入り参加はしないぞ?しても事故の片付けくらいだからな―

 

 「わかっているのならば良いのですが…」

 

 

 

 「しかし、これが指揮官の原点って訳か?調べたところ、レースの世界だと子供の頃からこれに乗ってやって来たやつらはその筋で大成しているらしいな?」

 

 ―まあな。公式レースも色々あってな、国内選手権で勝つことが出来れば、やがてプロの道が開かれる…トップカテゴリー参加も夢ではない…―

 

 ファンタジーの世界観っぽく表現するドライバー。

 

 ―俺にとっては、正しく原点だな。これでコントロールやら追い抜く時の仕掛け方やら、色々と学んだもんだよ。上に行こうとするとどうしても金は掛かるが…―

 

 「…原点…」

 

 その二文字の言葉を呟くM4。

 

 「ドライバーの原点だって?これは気になること聞いちゃった!」

 

 ―よせペルシカ、あまり大したことはない―

 

 「ご謙遜を。あんなに速かったのに?かなり差は付いてたよ?」

 

 ―その昔、サーキットは多くの魔物のフレンズが産声を上げ、それらが巣食う魔境(パーク)だったのさ…―

 

 染々とジェスチャーするドライバー。

 

 

 皆の近くには、先程まで乗ってたカートが作業用ロボたちの手でカートスタンドに載せられており車体のチェックが行われていた。ドライバーはここにいる皆に『知ってるだろうけど、エンジンは熱いからヤケドしない様に気を付けてくれ』と注意を促していた。作業用のロボは『こちらは耐熱だから大丈夫だってへーきへーき!』と言いたげに一斉に右のアームを上げガッツポーズをしている。

 

 こんなタイヤの径もエンジン本体も小さいのに、小さくキビキビと走り回れる、簡素構造の車。『カート』という単語だけだと遊園地のあの遊具のイメージが強いが、実際経験するとこれも立派なレーシングマシンに思えてくる。いたずらにアクセルを開けたところで速くは走れない。戦術人形たちは人間の代替で、戦闘用なのだから運転くらいは幾らでもできる筈だが、実際、現場での色んなシチュエーションに対応させるためにはフィールドでの演習やら訓練は必要になるのは言うまでもない。基本的な所作やら、その物に適応するための使い方やら。車は移動手段だが、戦闘外でのアクシデントはよくある。その一つが乗り物の運転だ。いくら人形が機械故に予測は出来ても、事故は付き物。スリップやら思わぬ出来事だってあるし、予測機能がダウンしたり鈍った時はどうなってしまうのか。ドライバーの指揮下にいる故に運転や操縦の方面に傾倒している感はあるが、彼はそれらに懸念を抱いているからこそ、少しでも多くを経験させるべきと考えた。特にAR小隊の様に代わりが利かない部隊ならば尚更である。

 

  

 「さてさて、ドライバー(指揮官)?メンテ明けの彼女たちはどうだったかな?」

 

 突如ペルシカが訊ねてきた。

 

 ―走りに付いては、もっと練習が必要だが、反応その物は良かったぞ。前までのこいつらなら、バリアに突っ込んだり、接触をしていてもおかしくはなかったな―

 

 手をヒラヒラさせるも、後半はサムズアップしつつ答える。

 

 「うんうん!それはよかった!」

 

 嬉しそうに頷くペルシカ。

 

 

 そう、ドライバーはメンテ明けの彼女たちの様子を見に来ていたのだ。

 

 切っ掛けはペルシカから『メンテ後の慣らしとして、屋外でレーシングカートを使ったレースの演習をやるのでドライバーにも来てほしい』と言う依頼があったためだった。そこで、基地をカリーナたちスタッフと人形たちに任せ、16LABへとやって来ていた。

 

 今回のドライバーは、『その道』のプロという事から、オフィシャル兼マーシャルを買って出ていた…というか依頼なのでやらされたに近い。今回の場合、オフィシャルということは役割的にはスチュワードも兼任していることになるため、先程の乱入は公式の競技なら大問題である。

 

 恐らく、もしカリーナがここにいたらノリノリで実況していたかもしれない。何時か自分の基地内で催しとしてやることになった際は、是非とも起用しよう。そう思い付くドライバーであった。

 

 しかし、何かが物足りないと感じている。

 

 

 

 

 

 それは軍人だった。

 

 彼ならば「調子見るって言っておきながら、ぶっちぎってどうすんだよ!?」とか「スチュワードがレースに乱入するとかどういうことだ!?」とか、そんな感じで、比較的まともな所から鋭くツッコミを入れてくれる筈。

 

 しかし、ドライバー自身では何時までも自分のやり方に毒させてしまうのも何だか気が引けるので、今回は別行動としている。

 

 ―さて、AR小隊の諸君。暫しの休憩後、講義と質疑応答の時間だ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、そんな軍人はと言うと……

 

 

 

 

 軍本部。

 何と軍人は、帰還後早々、上司の部屋に呼び出されていた。閉じている扉の前に立ち、服をチェックしている。

 

 

 

 (よし、ボタンは掛け間違えてないな!)

 

 

 

 実は以前、ボタンが掛け間違えたまま上司の部屋に向かってしまった事があった。あんな恥ずかしい思いはしたくはないと、ボタンが正位置にあるのを見て、社会の窓の戸締まりもしっかりしているのを確認した後、扉をノックする。

 

 

 

 「入って、どうぞ」

 

 

 

 ノックすると、部屋の奥から男性の声。

 

 

 

 「し、失礼します!」 

 

 

 

 元気良く一声掛けて入室する軍人。若干緊張で声が裏返りそうになっているが、なんとか噛まずに済んだ。

 

 

 

 「やぁ…一先ずそこに座りたまえ。…アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」

 

 

 

 上司の色黒の男性は切り出す。アイスティーをコップに注ぐ。砂糖らしきものをサッーと入れ、それを軍人に勧める。

 

 軍人は嫌な予感を感じ…

 

 「お気持ちだけいただきます」

 

 電光石火の如く速答する。それを聞いた上司はクゥーン…と子犬の様な声を上げ、そうか、と返答する。軍人にとってアイスティーは決して嫌いではないのだが、この上司の男が注いだものは何か怪しいものに見えたからであった。というかいつもアイスティーしか無い。

  

 

 

 「あ、そうだ。報告書見たゾ。君、やりますねぇ!」

 

 

 

 提出した報告書から仕事ぶりを褒め出す上司。

 

 

 

 「は、はぁ…恐縮であります。殆どグリフィンの指揮官殿のお力添えもありますが…」

 

 

 

 「ふむふむ。はえ~すっごいボリューム。この前会議で発表した時なんて特殊作戦群のカーター将軍も『歪みねぇな!』って褒めてたゾ。これには珍しく俺も彼も意気投合したゾ。カーター将軍もやっぱ好きなんすねぇ~」

 

 

 

 (何が好きなんですかねぇ…)

 

 

 

 上司と特殊作戦群のカーター将軍は、普段は何故か『相性が悪い』とのことで疎遠気味らしく、そんな二人を意気投合させたのは、どちらを誇るべきなのか…と軍人は複雑な心境になる。一体何の相性なのかは考えたくもない。

 

 しかし、ドライバーが決死のドライブをしなければ踏み込めない様なところばかり。それもまだ一部分。

もっと調べなければならない所は多くある。

 

 E.R.I.Dのみならず、鉄血の人形たちも多くエリアを占拠しているし、倒したとしても現状の調査がなければ、思わぬところで命を落としかねない。それにあんな所への調査は、かなりの勇気が必要だ。敵の弾をさらっと避けて敵陣突破は当たり前、道が狭かろうと荒れてようと走り抜けていく人物は軍のはみ出し者でも早々居ない。

 

 帰還後に輸送科に聞いた時は『グリフィンにはそんな頭のイカれた野郎が居るのか?ロックだぜ…!』と謎のリアクションがあった。メカニック(整備クルー)についてだって、そんなキテレツな奴と悪ノリしたがるのも先ず居ないぞ、と返答が来ていた。

 

 ていうか、ロックってレベルじゃねぇぞ!装甲の付いてる車ならいざ知らず…いや装甲が付いてても関係ないか。

 

 そもそもドライバーが乗ってる一号車は装甲なんて皆無にも程がある。二号車はM4A1が乗ることを想定し、直前で装甲ボディパネルに替えただけだし…と、無い頭で思い返しては思考をするたび益々意味がわからなくなってきた軍人。

 

 「しかし、ラリーカーみたいなので戦場走りますかね、普通…」

 

 ドライバーの事を思いだし、上司に質問してみた。

 

 「(走ったことあるやつなんて先ず聞いたこと)ないです。そりゃあグリフィンには色んな人がいるから、まぁ多少はね?」

 

 多少はねって何だよ!?

 

 軍人は上司の発言に心の中で突っ込む。しかし、ドライバーも『グリフィンの社員には色んな奴がいる』という旨の発言をしていたのを思い出した。

 

 すると、今度は上司から切り出した

 

 「そうそう、最近会議でね、今後、グリフィンと合同で大きな任務をやるかって話が上がっている。その前に、よく基地に出向いてる君に、知っておいてほしい事がある」

 

 途端に上司が手を組み、神妙な面持ちになる。

 

 「は、はい…」

 

 「実は、あるところの情報部にいる特定兄貴からの情報で、グリフィンの組織内で指揮官の不審死が多く出ているそうなんだ…その情報部の特定兄貴は暗殺された可能性があると示唆している」

 

 

 

 

 (暗殺…!?)

 

 軍人は、あんな組織でも内ゲバなんてあるのか?クルーガー氏なにしてんの?と驚きを隠せなかった。

 

 つーか、特定兄貴って呼び名は一体…

 

 

 

 

 「怖い話、ですね…」

 

 「うーむ、困ったゾ。あちこちに司令部があるわけで、かれこれ複数名にも及んでいる。あぁ^~実に困っだゾ…これでは巻き添えを食らった場合、色々大問題不可避ゾ……こわいなー戸締まりしとこ…」

 

 更に、クルーガーは内部捜査の元、暗殺の可能性は否定している。結果は事故や自殺とのこと。下手すると軍の人間も、いやもっと多くの人間が巻き添えを食らう可能性もないわけでは無さそうだ。

 

 司令部の指揮官が死ぬと、次の指揮官が来るまでは円滑に機能しなくなる場合もある。そこを敵対勢力に攻め込まれることだってある。イントゥルーダーのような情報戦が得意そうなハイエンドとか、経験豊富な敵は特に。この前の雪山に潜んでたみたいながそれをやった場合、占領したグリフィンの司令部を映画村みたいに改築されてもおかしくはない。

 

 軍としては、E.R.I.Dの掃討で大変なのに、不足した司令部の分、鉄血の相当まで多く駆り出されると軍だって手が足りずにパンクしかねない。直ぐには片付くだろうが、予算が嵩む。おまけに権利の問題上、やたらに手が出せない。ドライバーとの出会いは軍の依頼で救助された時。しかし、改めて軍人にグリフィンと協力して調査してきて、と任務を渡すのだって、たった一社のPMCのためにそうやって人一人送り込むのもやはり苦労が無いわけがない。

 

 たまたまドライバーの基地だったからドライバーのやり方に付き合っている。死地を相乗りして一緒に駆け抜けたのを認めてくれているのか、それとも単にフレンドリーなのか、スタッフたちや人形とも安定した付き合いだ。

 他のところだと、こっちでやっとくからお前は帰れ、みたいに冷たくされてもおかしくはない筈。

 

 しかし、こういう相手方の冷遇は、時と場合次第では組織同士でのわだかまりや亀裂になり、後から大問題に発展したりする。『これがうちらなりの優しさだ』なんて釈明したって、世論的には一切通用しなくなる。

 

 つまりは、立ち入ると色々面倒だし、それなら、例えばグリフィンが権利得て管轄し運営する都市や地区なら、治安維持や防衛もグリフィンに任せてしまおうよ、という考えに到った訳である。

 

 大きな戦争で国家が力を弱めてる以上、企業が顔幅利かすのは仕方の無いことだろう…それでも、このまま放ってもよりマズイ事になりそうだからと、『それでも俺ら公務員は君らの事を見てるからね?』と言いたそうに、こんな事をさせるのだろう。

 

 しかし、この調査任務のお陰で軍の判断材料は増えた筈だ。土地勘もない何も知らない所でいきなり襲撃され、もし壊滅なんてしたら、とんだお間抜け集団だ。数日後には世界中で叩かれてしまうこともある。ネットは広大。軍の装備の写真がフリー素材にされてしまってもおかしくない所だったろう。

 

それには、少しはドライバーに感謝をするべきかもしれない。

 

 おまけに、ドライバーの居る基地は、カリーナたちスタッフ一同からも、決して邪険には扱われていない。もしかしたら空気扱いかもしれないが。どちらかと言えば柔和な方だと思う。ドライバーだって色々教えてくれるし、第一に同乗者としても怪我したりなどの被害を被っていない。精神的な被害はあるだろうけど。そりゃ同乗者に怪我をさせないのは運転手の基本的な義務なのだが、ドライバーは他の奴ならその義務を放りたくなる程の危険な時にも冷静で、決してステアリングを放すことはこれまでしていない。

 

 「しかし、よく生き残ったゾ。話だと、そのエリアを陣取ってた鉄血製のハイエンドモデルの人形も、君とその指揮官を追跡してきたそうじゃないか。とてもじゃないが、めげてしまいそうだゾ…」

 

 

 (あんな数の追跡車両なんかに追われたら…そりゃあね…)

 

 

 ふと、軍人は上司の言うグリフィン内部の問題の事を、ドライバーは知ってるのだろうかと考えた。

 

 変わり者だ。きっとレースの競争相手以外にも敵も多い筈だし。任務に追われて身内を調べる余裕も無いかもしれない。だっていつもマイウェイを突っ走ってる感じするし。

 

 

 

 「いきなり全域に言って回ると不審に思われるから、一先ずはドライバー(指揮官)兄貴だけに伝えてあげてゾ。後、こちらでも問題は山積みだから、もしかしたら、そのドライバー兄貴の基地に依頼し、君もその彼にメッセンジャーとかで付き合うことがもしかしたらあるだろう。グリフィンって人間の人手が不足してるらしいからな。調査もそうだけど、手を貸せるところは引き続き手を貸してあげてくれ。あと、万一だが、内ゲバに巻き込まれた際は、最悪は自分の身を守るんだ。…だけど、救える命は殺すなゾ。君も彼らも、人命は今や貴重だからさ。さて、再び任務に戻って、どうぞ。以上だ」

 

 

 所々の語尾はおかしいが、軍人はそれを聞いて了解した。そして話は終わり、軍人は一礼してから上司の部屋を退出していった。

 

 

 彼は早速ドライバーにコンタクトを取った。帰還前にドライバーの連絡先を教えてもらっていた。その連絡先に向けて『こちらの用事は済んだ』。と文章を送信すると、ドライバーも『こちらも済んだぞ。合流は何時ごろだ?』と返答が来たので、日時を伝えてやり取りは終わる。

 

 

 

 

 (任務の内でもあるが、やれることはやっとくべきだよな…)

 

 

 

 軍人は思う。

 

 

 

 そう彼の知る中で、最も『走り方』を熟知し、気が付けば、いつの間にか信頼している彼のために…。




唐突なカート回だったはずなのに、冒頭と終わりで色々有りましたね(震え声)
 
シリアスってなんだよ…(哲学)

 
 
ポスト………コース脇の有人監視施設。レース中はコースマーシャルが常駐しており、コントロールタワーと相互に情報交換し、走行車両に対し、フラッグ(レース旗)で、追い越しの指示、事故や路面の状況、緊急車両の有無、タワーからの指令などを伝える。各種フラッグのほか、消火器、オイル処理用の石灰、散乱物除去用のほうきを装備する。隣り合ったポスト同士は目視できる位置にあり、濃霧などでポスト間の視認が不可能な場合、レースは中断、または中止となる。
 (今回はRO635のMFとダミーが旗振ってた所です)
 
バリア………ガードレールやコンクリートウォールの前に置き、コースアウトした車両が衝突する際の衝撃を吸収するもの。
  (要するに、鈴鹿サーキットのタイヤが積まれてたりしてるあれとかもバリアの一つ。鈴鹿は以前はタイヤ。あれは使い古したタイヤは硬くなっているためクッション性がなく極めて危険であるために新品タイヤだったそう。現在ではゴムベルトを巻いた物が主流。その理由は、タイヤがむき出しだとその間に車両が食い込むため。その場合により、ショックを吸収しきれないとして、スポンジバリアと併用している)
 一応Vol.12でカートが走ってるところは、ほぼスポンジバリアという設定。






さて、また次話をお楽しみに。

今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)

  • 劇中に世界の名車を登場。
  • AR小隊vs404小隊のレース対決。
  • スオミを走らせよう。

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