戦場の走り方   作:ブロックONE

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お待たせしました。Vol.19です。



そういえば、平成も終わりますね。退位の日も30日ですし。


色々あったなぁ…


では、続きをどうぞm(__)m





Vol.19 その男、オブザーバー。iv

前回の『戦場の走り方』は……

 

 

 「さっさと片付けを済ませて帰ろうよ。流石にこのままじゃ本部にも本格的にバレて大変なことになるし…」

 

 

 「そうね。早速始めましょう」

 

 

 基地に到着したクロカン。そこから自律人形たちが降りてきた。

 

 「あら?それ面白いわね?私にも見せてよ~」

 

 

 

 突然ナ○コ姫張りの登場を果たす、戦術人形のUMP45。

 

 

 

 「大人しくしろ!!」

 「ふんす!」 

 

 人形たちを捕縛するも…

 

 

 「「にーげるんだよおおおおお!!」」

 

 「やはり亀甲縛りにでもしておくべきだったか…」

 「そんなこと言ってる場合か!?」

 

 「慌てるな。こんな事もあろうかとッ」

 

 商用車がオートパイロットでやって来て……

 

 

 「降下開始!」

 

 増援の人形部隊がヘリボーンでやってきた。

 

 

 

 以上。

 

 

 

………………………………………………

 追跡開始から5分ほど経過。

 

 助手席には戦術人形のUMP45、後部座席には俺が乗っている。急いで乗り入れた順である。人形の乗ったクロカンの位置情報をナビするにはUMP45を助手席に乗せるというのは最適だと思う。

 

 

 「45、相手のクロカンの方はどうだ?」

 「ええと…まだ目視は無理ね。前方5km先くらいかしら」

 

 オブザーバーはUMP45にクロカンの位置を聞き出していた。彼女はオブザーバーの問いに答えると、続けて、『車が違いすぎるわ、相手のクロカン、調べたけどカタログスペックだけで300PS越えてるもの。直線的な道路じゃ差が開くわ』、と語る。行動しながら並列処理できるってほんとに便利だな最近の戦術人形って…。商用車のスペックは200ps近く。便りになるのはこのライトバン特有の剛性の強いボディと専用に作られた比較的強靭な足回り。後はオブザーバーのドラテク。

 

 「ねぇ後ろのお兄さん、何か良い案無い?」

 

 咄嗟に振られる。

 

「…アイツならこういう時、どうしてたと思う?」

 

 オブザーバーからもバックミラーで俺の方に視線を送りつつ聞いてきた。

 

  

「かなりベーシックで悪いけど……そうだな、相手が苦手とする所とか弱点を純粋に突こうとするんじゃないかなって…」 

 

 するとオブザーバーは頷き、検討しはじめ、何かを思い付く。

 

 「よし閃いた。45、今から指示する所にアクセスしてくれるか?」

 

 「え?良いけど…何する気…?」

 

 マスク越しではあるが、俺にはこの時、オブザーバーの目が煌めいた様に見えた。

 

 

 

 

 

 

一方、追跡しているクロカンの車内では…

 

 オブザーバーに押し倒された方の人形が運転し、軍人にディザームされた方の人形が助手席に座っている。掃除用具も含め、持ち物は彼等に取られてしまった。かといって取りに戻るのも得策ではない。

 

 「あぁ…焦ったぁ…」

 

 「咄嗟に逃げ出したは良いけど、武器とか置いてきちゃったわね……」

 

 自律人形の二人はそう溢す。

 

 「どうする?マスターさんに謝りにいく?」

 

 「うーん…どうしよう…あの人たちから逃げられても、指揮官をやったのがもう知られてる以上、下手に逃げ帰ってもマスターさんに迷惑掛けちゃうわ。きっと私たち…」

 

 「うう…そう、だね…」

 

 可能性が高いのは廃棄されること。行き場の失った人形たちは証拠隠滅のために廃棄処分。もし、信心深い人々にお経を唱えられお焚き上げ供養されても、彼女たちは本質は機械。そんなのちっとも嬉しくないし、そもそも望んでいない。

 

 人の役に立ち、寄り添うこと。それこそ、戦術人形以前に自律人形としての喜びの一つ。彼女たちはまさにその典型だった。 しかし…彼女たちは人間で言う、罪を犯し、またはその片棒を担いだ。しかも、本部の命令ではない。

 

 そのマスターという存在が何者かは不明だが、今の彼女たちはその存在以外は、寄る辺なしと言える状態であった。

 

 だが、『マスター』と呼ばれているその存在が、今回の混乱の元か、果てはそのマスターも何かに巻きこまれた被害者なのかはわからない。

 

 ただ、マスターは彼女たちのような人形には絶対的な存在であることは変わりない。

 

 

 「あれ?そこ工事中みたい…柵が立ってるよ」

 

 「わかった。じゃあ…左に迂回ね…戦争の影響かしら?」

 

 「前線だと砲弾が飛んできたりすることもあるしね。ここも同じかな?鉄血もやって来るし整備できずにそのままになってるのかも。この前、ヘリアンさんがそんなことを話してた…」

 

 「そう…あ、この道の先も工事中?」

 

 「マジで?どんだけ道路壊されてるのさ」

 

 「しょうがないわね、お次は右に迂回っと…」

 

 そして迂回。交差点での迂回の指示に従うのは、人形としての性であった。直接指揮されている訳でもないのに、下手に無理してまで走るのは彼女たちはリスクを減らすため取ることはしなかった。

 

 

 怪我を被れば、この先のことを考えるどころではなくなる。

 

 

 そして、クロカンは峠道へと入って行く。

 

   

 「峠道まで来ちゃったね…これ追い付いて来たりでもしたら……」

 

 「平気よ。あれだけ距離が離れているんだもの…そう簡単に…………っ!?」

 

 言い終えようとした刹那、突然背後から排気音が聞こえてきて驚く。バックミラーを確認すると、商用ライトバンが見えた。

 

 「どうした?……えええ!!?」

 

 そう、オブザーバーたちが乗っているあのライトバン(商用車)である。速度を極力殺さぬ様に道幅を目一杯使い、次々とコーナーをクリアしていく。車体は荷重移動の都度、グネグネとロールしており、まるで踊るように走っていく。その存在感は、商用車という地味なイメージを大きく覆していた。

 

 「すごい!追い付いちゃったわ!」

 

 「凄いな…まさかホントに成功したとは…」

 

 「二人とも、しっかり掴まっておけ?これから更に追い上げるからな」

 

 「「…え?」」

 

 オブザーバーはそう告げて次の左コーナーに備えシフトレバーに手を掛ける。あ、そういや、ドライバーも減速する時は何時も事前に構えていた様な…。

 

 

 

 「ふふっ♪なんか面白くなってきたわ。ミュージックスタート!」

 

 UMP45はカーステレオに繋ぎ、自身の音楽フォルダからユーロビートを選曲して再生を始めた。

 

 「おい!?」

 

 「やっぱり峠はユロビよね!」

 

 

 

 「その曲か…ふむ、士気高揚と維持としては良いだろう」

 

 「良いのかよ!?」

 

 

 

 しかし、みるみる前のクロカンに追い付いていく。恐いけど、どこか面白みを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「商用車だとォッ!?」

 

 運転席の人形が声を上げた。

 

 「え?嘘でしょ?商用車!?いつも高速を走り回ってるアレ!?ていうか何でここ走ってるの!?」

 

 「ま、まさか…」

 

 人形たちは青ざめた。

 

 そう、バックミラーの写す光景から、あの運転席に座る、もさもさの服装。先程背後から襲ってきた者たち(オブザーバー一行)である事を知ってしまったからだった。

 

 「どんだけ執念深いの!?」

 

 「さっきあんな派手に押し倒しておいいてまだ足りないの…?あんな奴に私の純情なんて簡単にはあげないもん!掴まって!」

 

 「………。お、おうっ」

 

 助手席の人形は、何故か若干メスの顔になっている運転席の人形に対して一瞬困惑したような表情になるが、追い付かれて停められでもしたら、今度こそ確実にナニカサレル…と判断するのは容易かった。

 

 そしえ、先程オブザーバーに押し倒された方の人形は、ステアリングを握る力に力が入り、次第に速度を上げていく。

 

 

 

 

 

 「前のクロカン、また速度上げたわ!」

 

 「ふむ、この先は足回り泣かせの連続ヘアピンだ」

 

 「何か作戦があるってのか!?」

 

 

 するとオブザーバーは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 「相手があの速度で飛び込めるのならば、こちらだって同じ速度で飛び込める筈だ」

 

 

 …ちょっと待てオブザーバー、その理屈はおかしい。これが豆腐屋の3ドアハッチバックとかドライバーの車ならともかく、これは商用のライトバンだぞ。強靭とか言っても、それでもスッカスカのサスペンションだぞ。

 

 

 

 ドライバーがそうジェスチャーするならば、まだ説得力はあるが……

 

 

 

 …って!?なんで速度上げてんの君いいい!!?本気でやる気かよおおお!!?

 

 

 っておいUMP45、お前も何楽しそうにユロビの歌詞口ずさんでるんだよ!?マイペースすぎだろ!?お前のメンタルは走っている90年代かよ!?

 

 

 

 

 

 え、もう壁がそこに?

 

 

 

 待て!早まるんじゃない!!

 

 

 あ、あああ………あああああああああ!!!!

 

 

 モウダメダ…モウダメダァ…!!

 

 

 

 

 

 

そう、軍人は死を覚悟した。

 

 

 

 ……が、三名の乗せたライトバンは減速後ターンイン。イン側の側溝にタイヤを引っ掻けて曲がりきり、素早く突破していくのだった。

 

 

 (…え?ま、曲がれた…のか?)

 

 軍人は現実が理解できなかった。絶対にガードレールを破る…!そう思ってしまっていた。尚、軍人は冷や汗をだらだらと掻くが、漏らしてはいない。

 

 

 助手席のUMP45は…

 

 「すっごーい!曲がっちゃったわ!」

 

 上機嫌。おかしい程に。

 その後は荷重移動を利用した素早いコーナーワークで駆け抜けていく。

 

 尚、クロカンの方でも……

 

 

 「うわあ!?何が起こったの?」

 

 後方でタイヤを鳴かせつつも瞬く間に車間距離を詰めてくるライトバンに動揺していた。その証拠として、意識がそれて操作が急になり、左右に車体が揺れる。直線も蛇行気味になるなど、真っ直ぐ走れなくなっていた。銃はオブザーバーたちに取り上げられてしまい、おまけに回収せずにそのまま出てきてしまったため、反撃は不可能。残りはドライビング勝負となってしまった。

 

 オブザーバーの運転するライトバンとクロカンとはテールトゥノーズの状態。そして、次の右急カーブで遂に仕掛けることにした。減速時に僅かに左に寄せてからクロカンとほぼ同タイミングでブレーキング。そして再びイン側の側溝にタイヤを引っ掻けて曲がる。

 

 

 

 「ちょっと待っ…うわ!?」

 

 急カーブなのに一気に迫るライトバン。そして、声をあげる運転席の人形。助手席の人形は死を察したのか手で十字を切っていた。

 

 クロカンは強いアンダーステアを発生させており、外側のガードレールへと吸い寄せられ、ぶつかる間一髪で停車したのだった。

 

 

 

………………………………………………

 

 一方、先程オブザーバーが呼んだ人形部隊はというと…

 

 

 「これで最後よ!」

 

 と、黄色いジャケットの人形が鉄血人形兵を撃ち抜く。

 

 

 「ふぅ、これで終わりね、RO…」

 

 「そうね、92式…」

 

 ハンドガンの戦術人形92式は黄色いジャケットの人形こと、RO635に話し掛けた。

 

 ROは部隊の各員に状況を教えるように伝える。

 

 「こちらAAT-52、クリア!」

 

 

 「ステンも問題ありません!無事です!」

 

 LMGのAAT-52とSMGのステンMk-iiは各自返答した。

 

 そして92式も一言『無事よ』と伝えると、ROはそこで胸を撫で下ろす。

 

 

 到着後に鉄血部隊が接近。現場を守るために戦闘に

 

 

 

 「大した奴等じゃなかったし、数も少くて助かったよ~」

 

 「まだよAAT-52。指揮官が戻ってくるまで現場を保存。」

 

 ROがそう返すと、了解したAAT-52は、このチームで使われる私語専用の通信チャンネルに繋ぎ発言する。

 

 『ねえRO…』

 『なに?』

 『この基地って、この前鉄血に襲われて機能しなくなったんだよね?』

 『そうあるわ』

 

 『何故?抵抗はしなかったの?これくらいの規模なら戦術人形たくさん居たっておかしくないよ…』

 

 『そう言えば、そうよね…奇妙だわ』

 

 92式もAAT-52に続いた。

 すると、ROは少し神妙な面持ちで語る。

 

 『鉄血に襲われる前、ここの指揮官は既に死亡していたの。その為に、有事の統制が取れなくなって、やむ得ず人間たちだけ離脱させた。結果混乱の末、防衛に失敗。表向きにはそうあるわ…』

 

 

 『表向き?それってどういう事ですか…?』

 

 『指揮官の不審死については?』

 

 『あ、それなら知ってますよ!かれこれ二桁に及んでますよね』

 

 『そうね。噂だと、この基地に勤めていた指揮官もその不審死の一人だと考えられているわ…ここの指揮官の死因は拳銃自殺と記録されてる』

 

 『拳銃自殺って……お仕事、ツラくなっちゃったのかな…?』

 『指揮官と言えど、人間だもの…ねぇRO、それで原因はわかっていないの?』

  

 92式はそう訊ねる。

 

 『可能性だけど、やったのは私たち戦術人形を引っくるめた、自律人形のだと言われてる。でも、情報が錯綜してて、まだ確定してるとは言えないけれど…証拠があまり出てこないのよ…』

 

 『な、何で?私たちって、人間の皆に対しては、指揮官からの指示がなければ、セーフティ機能で撃てない様になってる筈なのに…それにグリフィンの規則にだって…』

 

 ステンの言うとおり、戦術人形はトラブル回避のためにもロボット三原則に則り、人間には危害を加えられないようになっている。しかし、指揮官次第では例外もあるそうで、それもまたトラブルの引き金となったり、火に油を注ぐことにも繋がるのだが。

 

 『…暗部の仕業とか?』

 『え?そんなのグリフィンにあるの?…やばくない?』

 

 『企業の秩序を維持するためってやつね』

 

 92式の言う事にはごもっともだった。都市や地区の運営や治安維持を任されている以上、企業ガバナンスはしっかりとしておかなくてはならない。しかし、ここまでやるのは流石に社員からして、波風立てないためにも反発までとは言わずとも、疑問を抱くのはおかしいことではない。

 

 

 『そうよね、暗部がしっかりと機能しているのならば、死者は限定された人数だけで済んだ筈よ…粛清だのなんだのと銘打ってね』

 

 実際、軍と契約したPMCが不祥事を起こしていた事例もその昔からあるため、大きくなる前にそれが動くはず。しかし、この様な事態となってしまった以上、近頃ではこうして軍から目付け役が抜き打ちでやって来ることは仕方がないとも言える。

 

 『怖い話だね…そういえばROって法執行機関にも居たことあるんだよね?』

 

 『ええ…でも、随分と昔の話よ?』

 

 『それでも、やっぱり勘みたいなのはあるんでしょ?推理とか…』

 

 

 

 『推理というか…これは予想なんだけど…ってAAT、今は任務中よ?』

 

『いいじゃんRO、ちょっとだけ!ちょっとだけだからさ!ほらステンも92式も気になってる顔してるし』

 

 『ちょっと止めてよお喋りトマト!』

  

 

 『じゃあ、任務の後でね?一先ず推理ごっこはここまでにしましょう。まだ任務が残ってるわ』

 

 ROもこの件には疑問を持っていた様だ。一先ず任務をこなすだけこなし、後で話すことに。

 

 

 

………………………………………………

 

 

 一方、オブザーバー一行では、クロカンから人形たちを引きずり降ろし、拘束に成功。

 

 降ろされた人形たちは抵抗するかと思いきや、もう何もかも諦めたか、或いは顛末を悟りに悟りきった様な表情をしていた。

 

 「おい、オブザーバー…」

 

 軍人は恐る恐るオブザーバーに訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 「…なぜアイツだけ亀甲縛りなんだ?」

 

 

 

 

 

 「…んっ……んんっ…!」

 

 

 オブザーバーに縛られた運転席に座ってた人形は、何故か頬を染め、ウネウネとうごめく。

 

 UMP45はその様子に少し引き気味で、口許に手を当て、どこか少し目を反らしていた。もしや、うごめく系が苦手なのだろうか?そう思う軍人。うん、確かにこれはいろんな意味で目を覆いたい。

 

 

 「あいつ、なんか嬉しそうにしてるぞ…?これって逆効果なんじゃないか?ほら、UMP45だってあんな表情だし…」

 

 「ふむ、あれはきっとそういう趣向に目覚めてしまった個体なのだろう。確かにこれは異常事態ではあるのだか、下手に暴れられるよりは良い。…ああ、そうそう、ドライバーの所にも、似た様な奴がいてな…まぁあれは…正直引くレベルだよ…」

 

 「どんなレベルだよそれ…」

 

 「さて、捕まえたけど…この後どうするの?」

 

 「こちらで連れていく。このライトバンに乗せるんだ。そうだな…こいつらの車も証拠として押さえる。どこから来たか分かるかもしれない。応援を呼んでおく。車に乗って待っていてくれ」

 

 すると、オブザーバーは何処かに連絡を入れた。その数十分後、兵士と武骨な整備ロボットが仲良く箱乗りしたレッカーがやって来て、クロカンにカバーを掛け、手早く回収していった。つか、ギリースーツ姿の俺やオブザーバーたちに何も疑問持たずに作業してたな…関係者か?まぁ、軍でも戦車とかの回収したり、この頃は道を塞いでる車の撤去作業をさせられる事とかよくあるし、特別変な事ではない。後者はIEDが仕込まれたりするから、戦車で潰したりとかして破壊してしまうけど。

 

 …て言うか、何で箱乗りしてんだよお前ら。それ普通に座れるじゃねーかよ…。

 

 

「ねぇ、『軍人』さん?」

 

 突然話し掛けられる。

 

 「何だ?UMP45…待て、今俺のこと…」

 

 おかしいな、俺一度も彼女に名乗ってないぞ?

 

 「あら失礼。私、リサーチが趣味なの。だから貴方とあの人が軍の人で、貴方がドライバーさんのところに依頼してるってことくらいは知ってるわよ?そして今レッカー呼んできたあの人がオブザーバーって呼ばれてるのも…」

 

 

 

 甘ったるく艶っぽい声にイヤらしい笑みを浮かべるUMP45に対し、俺は思わず大声で叫びたくなった。こいつは正真正銘のアカン奴だ。絶対にストーカー気質ある奴だわ。

 

 

「ま、待ってくれよ、後ろで捕まえた人形たちがいるんだぞ…聞かれでもしたらどうする…?」

 

 「ああ、それなら安心して?後ろの子達は私の方でシャットダウンしてあるから」

 

 そう言う問題か?何処かに緊急予備電源みたいなのとか着いてて、勝手に再起動してきたらどうするよ?まぁ、暫く微動だにしてないからシャットダウンには成功してるんだろうけどさ。

 

 

 

 「ほう?それは助かるよUMP45…」

 

 

 「「…っっ!?」」

 

 何時の間にかオブザーバーは運転席に乗っていた。 俺と彼女は驚く。

 

 「さあ、一先ずさっきの基地まで戻るぞ。帰還するまでが任務だ」

 

 遠足みたいに言うなよ…まあ、そうやって皮肉ったりはよくするんだけどさ。

 

 

 そして再び来た道をかっ飛ばして基地に戻る事にした俺たち。無論、ヒルクライムアタックが如く峠攻め。捕まえた人形がシャットダウンされてて助かった。これ起動してるままだったら、きっとスゲーことになってただろう。想像したくない。

 

 

 

 そして基地に戻る頃には、すっかり日が暮れていた。ここは夕焼けが綺麗に見えたのだが、俺の任務は報告書を書くと言う作業までするので、ぶっちゃけ長くは楽しめない。

 

 すると、オブザーバーと俺は、黄色とオレンジのオッドアイで黄色いジャケットを羽織った、マジメそうな人形に話し掛けられる。

 

 「指揮官!」

 

 「RO635。ご苦労だった。パレット小隊の皆も」

 

 オブザーバーは労いの言葉を掛ける。なるほど、指揮官権限はドライバーから委任されてるからな。こいつらの指揮権もなのかはよく知らない。後で聞いたら、オブザーバーの場合はドライバーから事前に許可を得れば概ね可能だという。RO635はオブザーバーに帰ってくるまでの状況を説明した

 

 「途中で近付いてきた鉄血部隊と交戦し、これを撃破しました。指揮官が予測していた通りでしたよ…数は少なかったです」

 

 おい、そんな予測何時してたんだ?ああ、人知れずって言ってたものな。

 周囲をみると、破壊された鉄血人形兵が横たわったままちらほらと。なるほど、俺たちが出発した後に出やがったのか。あと少し出遅れてたら、交戦になっていたかもしれないな。オブザーバー曰く、分断されてはぐれた鉄血人形兵たちは数多いとのこと。

 

 「それと、この基地所属の戦術指揮官のご遺体ですが…先程、発見されました。座標を送っておきます」

 

 「…そうか。後は私の方で手を回しておく。ご苦労だった」

 

 そういうと、俺とオブザーバーに向けて敬礼し、小隊とされる人形たちの元へ戻っていく。捕縛した人形はオブザーバーの方で連絡したヘリに積み込まれ、運ばれていった。

 

 「軍人さん、オブザーバーさん」

 

 UMP45がひょっこりと現れ、話し掛けてきた。俺とオブザーバーの胸元に手を回してるのは何故だ。なんでそんな手付きがヤラシイんだよ…。そして「私より…大きい…!?」とか呟いて一瞬真顔になってたのは何なんだ。

 

 「ああ。ありがとうUMP45。後はこちらで何とかする。て言うか手を離してくれ。ああ、そうだ…報酬は…」

 

 「……それは結構よ。うーんでも…そうねぇ…」

 

 

 彼女はあるものを懐から取り出した。

 

 「なら…まずこれ飲んで?」

 

 オブザーバーはUMP45から何かを貰う。

 

 

 

 

 

 

 

 「何だそれは?」

 

 

 オブザーバーが問う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ア カ マ ム シ ィ ↑」

 

 

 

 結局それやりたかっただけじゃねえかッ!!?

 

 

 

 UMP45は引き続き、懐から「私だと思って受け取って?」と、彼女の服装を模したデザインのUSBを渡してきた。うん、再現度高いな。ある意味でだが。

 

 

 

 

 さて、UMP45に触られた胸を腕で押さえているオブザーバー曰く、この事案は、グリフィンの自治区で行われたとは言え、規模や損害から軍も警察も黙っていないだろうと言っていた。元軍属も在籍してるらしいしな、グリフィンって。しかし、その事案の複雑さと被害者数の規模から、グリフィン内部の揉め事とは単に言い切れなくなっているため、下手すると当然開発元であるIOPと16LABにも追求されたり、協力させられることがあるだろうということ、しかも、これは氷山の一角に過ぎぬかも知れないのだとか。

 

 更に、UMP45は、この基地の指揮官殺しの調査を何処からか引き受けたそうで、調べの結果、ここを割り出したのだと言う。それにしても良い動きだな。本当にどこから入り込んできたのやら。ストーカー気質は除いて。

 

 先程渡してきたこのUSBは、彼女が気になって調べていたデータが詰まってるそうだ。つまり利害一致の協力者の様な立場らしい。

 

 そして、何とあのドライバーのファンだと口にしていた。アイツみたいなのにもファンが居たとはな…とオブザーバーは皮肉っていたが。

 

 ドライバー、お前背後とかに気を付けろよ?あの人形、わりとマジな目してるから。

 

 そんなUMP45に、俺は『君一人だけなのか?』と聞くと、『いつも頑張ってくれているから、今回はお休みにしてあげている』と話していた。 なるほど、仲間と一緒か。はぐれた訳ではなかったんだな…。

 

 

 

 「じゃあ、またどこかでね!ばいにー☆」

 

 …と、お調子者っぽく振る舞いつつ、どこかへ去っていった。

 

 

 その後、捕まえた人形たちは、オブザーバー曰く『専門部署』と呼ばれる所に連れていかれたそうだが、中々口を割らず、現在はバッテリー切れらしく、スリープに入ってしまっているという。軍の技師曰く、かなり休み無く活動していたそうであった。しかし、オブザーバーと俺が集めた監視カメラ等のログデータが切っ掛けとなり、再び目覚めた彼女たちは言い逃れ出来なくなり、自分達と同じ主人の元でその活動を行っていた事、危険と判断したり怪しいものは暗部がやった様に見せ掛けて暗殺したり、怪しい奴は尻尾を出すまで内部の人形に取り入って調べたこと、そして自分たちは飽くまで片付け担当の使いっ走りにされ、殺害を実行した奴はまた別にいる…と話していた。ROの送った座標曰く、遺体は付近の山中に発見。科学捜査チームとおぼしき部署と解剖医による検死の結果、遺体と被服には、散ったアロマサンドの成分が付着していたので、DNA等の照合の結果、あの基地の指揮官で間違い無さそうだ。そして、遺体から発見された弾痕から、32口径弾が使用され、暗殺を得意とする人形が仲間にいるという事が判った。となると、各地のグリフィンが隠密作戦などで使っている、戦術人形ウェルロッドMkiiの行動記録を洗わなければならなくなり、捜査は再び亀ペースとなる。こちらとしては、まずウェルロッドMkiiってどんな人形だよって所からになるのだが、オブザーバー曰く、ウェルロッドはその仕様上、ミッションに関するやり取りは複雑に暗号化されていたりするため、解析には時間がかかる可能性があるという。

 

 そして、俺は『調査任務』についての報告書を纏める作業にやっと移るのだが、捜査については現段階では混乱防止のために触れるなとオブザーバーから伝えられた。理由は、この不審死にまつわる捜査任務はオブザーバーがグリフィンとは別で軍から引き受けていたものだった。

 

 尚、今回の任務はオブザーバーに至っては公務員としての給与で十分と言うことで、表立った報酬は無いとされている。ほんとか?まぁ、俺は調査任務による危険手当は貰えたんだが…。その後オブザーバーから付き合わせたお礼として、小料理屋でウマイ食事を奢ってもらった。ということは、 それなりに手当はキチンと貰えたのだろう。オカミさんも綺麗だな?幾つだろう?オブザーバーとドライバーは常連客らしく、オカミさんが頼んだ食材を積んだトラックがテロにより交通網がダウンしたことがあり、届かなかった事があったそうで、かといってこのお店にはヘリポートも無論なく、しかもその交通網の迂回路である最短ルートは事故のリスクが高い峠の旧道以外無い状況、しかも、配送業者も旧道の荒れた路面を怖がって行きたがらない。そこで常連のオブザーバーにドライバーを紹介され、市場から注文した食材を運んでもらっていたそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?その小料理屋なんて名前かって?

 

 

 

 ……『Flower Village』。




閲覧有難うございます。

はい、一先ずここで一旦『おもしろ顔面大破系男子』ことオブザーバー編は終わりになります。次回からは多分いつも通りだと思います。たまーにオブザーバーは出るかもしれません。


この作品で暗殺や粛清を描く時、被っても良くないし、他の作品と差別化するにはどうしたら良いだろうかなって考えてた結果、なら刑事ドラマっぽく書いていこう、という考えに至りました。それが、『その男、オブザーバー。』です。

尚、オブザーバー(もしくはドライバー)と軍人がペアで現場に向かって調査したりする…という構想は、テレ朝の刑事二人で捜査するあの人気ドラマから影響を強く受けてます。




 正直、下手くそなりにではありますが、どんな風に展開させていくか迷いました。結果この方が『戦場の走り方』っぽくていいかな…?って思い、書いていったら、こんな感じの展開に落ち着いていきました。伏線?なにそれ美味しいn(銃撃)


 
 そして45姉のキャラとか、立ち振る舞い方とか偉いことになってますが、これはこの作品限定ということで(何)
 
 しかし、ドルフロ(少女前線)の世界観からしたら、この事件も、また小さな出来事の一つでしかないのかもしれません。
 

さて、グリフィンの問題児こと『ドライバー』、その目付けの『オブザーバー』、そして巻き込まれる『軍人』メイン主役三人が揃いました…。

果たしてこの先どうなるのやら……?

 


【ここで作中ドラテクと用語解説】

『キルスイッチ』………燃料と電源を遮断してエンジンを停止させる装置。つまり非常停止スイッチと思ってくださればよろしいかと。競技用や軍用の車両、バイクにも着いてるそうです。競技用車両では車両火災等の二次災害防止のために着いてます。オブザーバーはドライバーに対する皮肉で言っていましたね。



『カーブ内側の側溝を走る場面』………つまりは某漫画でいう溝走りです。実は現実ではラリーで使われてたりします。というかこれ、下手すると車体の側面とか足回りにダメージ与えます。オブザーバーさんはきっとその辺はわかってやったと思います。車は商用車でしたけどね?しかも武器とか載せたままよく出来たなオブザーバー…。
 


『相手と同じスピードで飛び込める筈』………これはもう某漫画が元ネタです。今回においては相手が重量のあるクロカンSUV(作中ではクロカンとも表記)故、ブレーキやタイヤが酷使されるため、タイヤも熱ダレし、ブレーキが効きにくくなってしまう。おまけに重心が高いため高速走行は路面の関係上不利。もしこの車両が改修等でキチンと最適化されたものであったり、バハやらパリダカの様な砂の上等であったなら、話は変わっていたかもでしょう。
 
【解説ここまで】
 
 
 では皆さん、また次回をお楽しみにノシ 

今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)

  • 劇中に世界の名車を登場。
  • AR小隊vs404小隊のレース対決。
  • スオミを走らせよう。

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