戦場の走り方   作:ブロックONE

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M4A1「こんにちは、指揮官。M4A1です。この作品はフィクションです。作中のカーアクションを現実で真似すると大変危険です。絶対に真似しないでくださいね?実際に自動車を運転なさる場合は、交通ルールに則り、シートベルトを閉めて安全運転を心がけて下さいね!」

M16A1「いいぞM4!噛まずに言えたな!」


と言うわけで、第1話です。どうぞ。


Vol.1 グリフィンのドライバー

時は20XX年。

 北蘭島事件で起きた世界的な汚染により生じた生活圏の縮小、それから第三次世界大戦勃発、そして戦術人形たちがあらゆる分野の代価戦力(労力)と化し、高度なテクノロジーが一般化しつつある。だが、国家の衰弱、未曾有の敵の存在、それらによる混乱により、人々の心に闇を作ることもあり、未だに完全な平和には到らない世界。

 

………………………………………………

 

 この世界は、今やそのまま完全な破滅か、或いは、新たなる世界秩序か…という分岐点に立っていた。いや、もうすでに何かしら新しいことが始まっている真っ只中のかもしれない。

 

 その中で、ある日、テロリスト襲撃によりエラーを起こして暴走した、鉄血工造の人形たちが人間の従業員を殺し回った蝶事件が起こり、各地の鉄血の人形たちは映画さながら人類に敵対し攻撃をしてきた。それ以前からE.L.I.Dの対処を優先している軍は、入札して都市運営権を勝ち取った民間軍事会社にその対処や都市の防衛を色々頼んでいる。

 PMCを雇うという事自体は、遥か昔からは続いてきた事だが、今は見ての通り、国家そのものの弱体化により、更に頼らなきゃならない現状にある。

 

 しかし。

 

 決して、『世の中という生き物』は単純なようで、案外そうではなかったりする。どんな物事にも何かしらの裏はあると考える者も少なくはない。陰謀論を唱える者だって少なからずいる。

 

 尚、人類の生活圏は、北蘭島事件の汚染のみならず、WW3での核汚染に、ELIDや鉄血などの脅威となる存在との交戦により、危険な場所が増えつつある。

 

 

 …それでも、未だに人間はちゃんと文明と共に過ごしている。技術もホントに進歩しながら。無論死屍累々の上で成り立っていたのは、否定できない。

 

 

 

 その中で、抜けのいいエキゾースト音が鳴り響いている。そう、いつ戦場となってもおかしくない、この場所で。

 

 

 

 ………………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ……………

 

 

 

 

 「そのー、助かったよ!司令部からヘリが来る予定だったんだが、敵に撃ち落とされてさ…はぁ…」

 

 路面の凹凸により揺れる車内。そこで運転手に礼を言い、すぐ溜め息をつく、同乗していた軍人の男性。どこか頼りなさそうな顔だが、彼は兵士として現場へ派兵されたはいいものの、回収時に何かの手違いで取り残されてしまったのだ。自身の運の無さかと悔やむが、幸い無事であった。だが、徒歩で移動している途中、適当に休憩に立ち寄ったある家屋にて、『ある拾い物』をしたために、今度はどこからか聞き付けた鉄血の人形たちからも命を狙われるリスクを背負う羽目になってしまった。泣きっ面に蜂、その直後、更に雀蜂が襲ってきた様なものである。

 

 軍は直ぐ、彼の迎えにヘリを送ろうとしたのだが、生憎、手の空いているパイロットが二日酔いで健康状態に無理があるとされ飛行困難に。そこで無人操縦モードにして送り込んだのだが、AIを簡易に設定して飛ばしたためか、高度な操縦など出来ず、鉄血の放った対空兵器により無惨に撃墜され、途方にくれてしまう。

 

 そこで、対空兵器に二度もやられる間抜け面を民衆に晒したくない軍は、軍人の位置から最も近いグリフィンの基地に向け、拾ってくる様に依頼が舞い込んできたのだ。

 

 そこで、立ち上がり、駆け付けたのが運転手の彼である。

 

 

 ―大丈夫だ―

 

 そう運転手が片手をヒラヒラさせ、不安な軍人に向けてジェスチャーで返す。この運転手は、フルフェイスヘルメットを被っており、目元を覆うバイザーは透けておらず、その素顔はわからない。

 

 

 

 「な、なぁ、ところで、ちょっとスピード出しすぎじゃないか?ここは確かに速度制限は無いし、あんたが運転に自信があるのはお見受けできるけど……」

 

 違和感と不安を覚え、思わず尋ねる軍人。

 車内は補強用に使われるロールケージ。軍人と運転席の男の身体が収まっているシートはバケットシートと呼ばれるホールド性の高いもの。六点式シートベルトがくっついている。速度だって戦地で見てきた軍用車のそれとは、全く次元が違う。直線では、スピードメーターを見たら時速200kmを軽々と越えてしまっている。外見だっておかしい、

 ジープでかっ飛ばしても、こんなに軽々と出ない。

 

 早く帰りたいから迷わず乗ったは良いが、この車や運転手に違和感を感じるのは十二分だった。その軍人からの問い掛けに対し…

 

 ―そうか?道が空いてるから速度出てるように見えてるだけさ―

 

 …と、ジェスチャーで返した。

 

 どういう理屈だよ、と呟き軍人は呆れ返る。

 

 

 すると、進行方向の先に何かが見えた。

 

 ――ん?あれは何だ?――

 

 「どうしたんだ?」

 

 運転手が見つけ、軍人も気になってその方を見た。

 

 

 ……

 

 それは、鉄血の人形が乗り回す追跡用の車両であった。車内に座る鉄血印の戦術人形の二人組は、この頃、偵察や警戒中に路肩で待ち伏せを仕掛けていた。

 

 が…

 

 「はあ、やはりここのドーナツは最高だよなぁ…はむっ」

助手席の人形がそう言って、ドーナツを一口含んだ。

  

 「本当だよ…間に合って良かったー…はむ」

 それに続き、運転席の人形も一口。

 

 触感や味に舌鼓を打ち、顔を緩ませている。

 普段の鉄血の人形は女性型で、銃を持ち、人間に敵対している未来の兵士っぽいイメージが強いが、今の彼女たちは、まるで買い食いを楽しんでいる普通の女の子である。

 

 その目の前を、爆音を共に猛スピードで通過していく運転手の車。巻き上げられた埃が鉄血の車に振り掛かった。

 幸い、窓を閉めきった車内で食べようとしたドーナツは無事であり、驚いて落とすことも、舞った埃で汚れることもなく済んだ。

 

 尚、最近は鉄血人形も一部でAIを載せている者が増えており、この二体もそうである。

 

 

 「「!?」」

 

 突然の爆音で驚く。ドーナツに殆ど意識が向いていたので、何が起こったのかわからない。

 

 「何だ!?」

 「ん?256km?」

 運転席の人形が速度計測を行い表示された速度を読む。

 

 「壊れてるんじゃないの?」 

 助手席の人形が数字を見て疑問符を上げる。

 「バカ言わないでよ、この前ハイエンドモデルの人形から譲り受けたものだぞ?」

 

 運転席の人形が否定した。

 

 「それむしろ押し付けられたんじゃ…って!?グリフィンのマークだぞ!!」

 

 視界に入っていたものを映像ログとして巻き戻し、画像を認証すると、その通過した自動車からグリフィンのマークが写り込んでいた。人形ならでは、の確認法である。

 

 「あ!またアイツだ!グリフィンのドライバーだ!なんか他の奴も乗ってるけど!」

 「なんだと!?追うぞ、出せ!」

 「おうっ」

 「あ、待って!」

 

 二体は食べかけのドーナツを入れ物である紙の箱に仕舞い込み、グローブボックスに入れ、急発進させて後を追い始めた。

 

 

 その中にドーナツの領収書とポイントカードらしきものも覗かせていた。恐らく見つかるとサボったと思われ怒られてしまうからだろう。

 

 二台は市街地の方へと走っていく。ここは鉄血との戦いのせいでゴーストタウンとなっていた。これから安全確保が済み次第、人々は戻るらしいが…。

 

 

 一方、軍人と彼(ドライバー)の車では…

 

 「うわ、追ってきた!!追ってきたぞ!!」

 

 ドライバーは慌てる軍人の様子に対してこう告げた

 

 ――ああ、あいつらはいつもの遊び相手だ。いつもこの辺りで車に乗って見張ってるんだよ。いつもの仲良し二人組。ラリーで例えると、ドライバーとコ・ドライバーみたいだよな!ははっ――

 

 呑気な事をジェスチャーする。

 

 「いやいや、あれはどう見たって、鉄血工造の戦術人形たちにしか見えなかったぞ!?……っ!」

 

 その直後、軍人が腰のホルスターから拳銃を手に乗り出そうとするのだが、ドライバーはそれを制止した。

 

 ――おい、落ち着けって!やっつけたい気持ちはわかるけど、今はやめとけ!――

 

 「なんでだよ!!奴等は敵なんだぞ!?」

 

 ――いいか?この速度、それにこの場所で、無闇に撃ち合いでもしたら、射手のアンタが危ない。敵の弾に被弾する前に折れ曲がった標識やなにかの破片にぶち当たったり、下手すりゃ車から落っこちてお陀仏だ。それに変にちょっかい出して増援を余計に呼ばれでもしたらどうする?アンタと俺だけじゃ手に終えなくなるぞ?―

 

 「…」

 

 軍人は周囲を見て考える。折れ曲がった標識やら飛び出ている。それにこの速度。ブスリやドカーンなんてギャグ漫画みたいには少なくともならない。

 

 「確かにな」

 

 冷静になり、ドライバーの意見を聞き入れることにした。普通に車から身を乗り出す事自体、危険であることには変わらないが、速度からして、その殺傷力はかなり高まっているのだ。

 

 ――だろう?頼むからシートに座っててくれ。それにやっとタイヤも温まってきたしな――

 

 「へ?」

 

 ―飛ばすぞ―

 

 「え…うわっ!?」

 

 

 

 一方鉄血はというと…

 

 「待て待てー!!」

 「止まらぬなら…撃つべし!撃つべし!」

 

 助手席に座る鉄血の人形は、車載機関銃を起動させようとするが…

 

 『Empty』

 

 それは発射されることは無かった。

 

 「はああ!?」

 「ん?ああ、あれなら弾抜いてあるぞ」

 「な、なぜだ!!?」

 「だって無駄撃ちしたら代理人に殺されちゃうだろ!資源だって無限じゃないんだ!」

 

 運転席の人形の言うことは、正論だった。供給が追い付かない所は幾ら生産出来ても意味がなかったりする。次の補給が来るまでは持たさねばならないし、工場もグリフィンや暇してる軍隊の気まぐれで、万一拠点を潰されでもしたら大変だ。おまけグリフィンも最近勢い付いて来ているので、下手したら補給が断絶されてしてしまうことも懸念されていた。

 

 「確かにそうだな…しかしな、こういう時は別だ!必要経費だ!…あ、そうだ」

 

 一体は諦めて助手席に収まるが、ある作戦を閃く。

 

 

 「どうしたの?」

 

 「この先の仲間んで挟撃しよう」

 

助手席の人形がにやりと笑む。運転手も肯定した。

 

 

 ドライバーは、どうしても後ろが気になる軍人にもう一度注意を促す。

 

 ―とにかくだ、座って大人しくしてくれ。あと、その9mmも危ないからセーフティ掛けてホルスターにしまったほうがいい。落としでもしたら大変だ。それとも何か?お前トリガーハッピーとかじゃないよな?―

 

 「んなわけないだろ!あー、しまうから!…これでいいか?」

 

ホルスターにしまう。セーフティも掛けて。

 

 すると、ドライバーはオーケーサインを軍人に送り、ペースを上げていく。軍人はその時の遠心力によりシートに身体を押し付けられる様に埋められていた。そして、目の前の急カーブに差し掛かる。

 

 「う、うわ!?ぶ、ぶつか………る?」

 瞬きした途端に急接近する。それだけ体感速度は実際の速度よりも速く感じる。

 その急カーブに差し掛かる時に死を悟った。ドライバーはそこまで怯える軍人をよそに、迫りくる壁や障害物などものともせず、見事に曲がり突破してみせた。なんと車とガードレールはほんの1mmくらいであった。

 

 鉄血も続いて急カーブに差し掛かるものの、グリフィンのドライバー(彼)ほどの速度では進入できず、脱出までには速度が出せず遅れてしまい、段々と車間距離が広くなっていく。

 

 ――あいつら、少しは粘ったが、まだまだアマちゃんだな!はっはっは!――

 

 と、ドライバーはケタケタと笑っていた。どうして笑えるのか軍人にはわからなかった。むしろ追われているのに追手の事を笑い事にしていいのか、と。

 

 

 軍人は、明らかに事故ってもおかしくない速度域で事故を起こさないという状態が、何より現実的に思えなかった。下手すると恐怖で失神しそうにもなる。

 

 「悪い夢でもみてるのかぁ…?」

 

 思わず吐露する。

 

 悪い夢ならさっさと覚めてくれよ…。そう願うばかり。

 

 …が、鉄血の車が遠ざかっていくのを見て少し正気に戻る。この後数回のカーブを抜け、また軍人は遠心力を受けて顔を歪ませる。なんとも情けない顔だが、これでも持ちこたえるので必死であった。

 

 「…離れてるぞ…!?」

 

 ――この辺の道路はアスファルトだが、路面ミューが低いからアプローチする時にちょっとばかり工夫が必要なんだ――

 

 「おいおい、アプローチだって?あんたなぁ、これはレースやラリーとかじゃないんだぞ!?」

 

 ――なぁに、安心してくれよ。力任せに走らせる素人なんぞに、そう簡単に負けはしないさ!――

 

 「えええええ!?」

 

 

そのまま狭い市街地の一本道を走り抜け、林道へ。

 

 

林道は舗装された道ではあるが、少し荒れている。生い茂った木々がどこかアニメの世界に紛れ込んだのかと錯覚する。

 

 

 

現実では鉄血人形兵二人の駆る追跡用車両と、グリフィンのドライバーとのカーチェイスが展開されているが。

 

 

 

その頃。

 

 ―気分転換に音楽聞くかい?―

突如ドライバーは軍人にそう訊ねた。軍人の不安を取りたい彼の思いやりである。そんな場合ではないだろうが。

 

 「……ああ。なんか気持ちの落ち着くやつを頼むよ…」

 

 

突っ込むのが疲れたのか、諦めるようにリクエストを出した。

 

 

 ――よし……あれ?あ、カリーナのやつ、またオーディオデータにユーロビート突っ込んだな?ったく、しょうがないな…――

 

 「はぁ…。やっぱり、アップテンポで行こう…」

 

 それも悪くないな、と、ドライバーは了承し、オーディオを素早く操作した。

 

 よくそんな余裕なんてあるなこいつ。そう思ったのはあなただけではないので、どうか安心してほしい。

 

 「ってお前はタクシーの運転手かっ!」

 

 ――ははは!それってつまり、サービス精神豊富って言いたいのか?嬉しいね!こっちも仕事をしてて甲斐があるってもんだ!――

 

 機嫌が良くなるドライバー。 

 

 「よくもまぁこんな状況でメンタルが保てるよな…」

 ――そりゃあな。運転手には必要なものなんだ。変にメンタルが乱高下すると認識力や判断力に影響して事故のもとになるとされてる。まぁ、だからって調子乗りすぎるのもどうかと思うがな。一定が一番!それに、ドライビングはまず冷静にってスクールでも教わるだろ?――

 

 「お前のその変なテンションも考えもんだよ!って、逃げ切れるのか?」

 

―どうかな?あいつらはこのあたり苦手らしいからワンチャンあるんじゃないか?―

 

「苦手?」

 

―ああ、この前このあたりまでくると諦め出す。一応グリフィンもこの辺までくると、うちや他所の基地の人形たちが警備してるし、人数的に不利だと思って帰ってるか、たまに無茶してクラッシュしてるかだな―

 

「どうやって回収してるんだろうな…」

 

―さぁな…そこまでは流石に確認できてないからわからん。あいつら機械だし、徒歩でのんびり帰ってるんじゃないか?走ったところを観察したりしてさ―

 

「ならこの辺のどこかでも鉄血のやつらがいて、交戦してそうだよな」

 

―かもな。だが、きっと武装してない車を追うのに、そこまでやる気ないんじゃないか?居ても少しでかいのが一体とかな。さっきも話したように、うちのとこの人形も警備してることもあるから、迂闊には人数回せなくなってるはずだ。やつらもそこまでバカじゃない―

 

「まあ、何にせよ出くわさないのは嬉しいよ、これ以上面倒な敵とは会いたくない」

 

―同感だ、所であんた、拾いもんしたって基地から聞いたぞ?―

 

「ああ、端末とかある?これなんだけど…」

 

記録媒体を見せる

 

―あー…悪いな軍人さん、そのタイプの媒体だと、基地の端末使わないと見れないな。今は大事にしまっといてくれるか―

 

「ああ、そうする」

 

――

 

 ……

 

 「くそう、今度は逃がさんぞ!」

 

画像解析を進める助手席の人形。他の鉄血人形兵たちはこのカーチェイスに巻き込まれたくないのか、それとも他のグリフィンの部隊により始末されたのか。恐らく両方だろう。

 

 

 

 「いつもこちらが遊ばれてるからな!今日こそ、目にもの見せてやる!!」

 

 意気込む運転席の人形。

 

 追いかけてきている鉄血は、どうやら前方を走るグリフィンのドライバーに因縁があるらしい。

 鉄血の二体の言うグリフィンのドライバーと言えば、他でもない。該当する者はこのフルフェイスヘルメットを被った「彼」くらいしか居ない。しかも、他の職員はフルフェイスヘルメットなんて被っていない。

 

 戦場でもお構いなしに、サーキットやラリーのSSを駆け抜けているが如く、常識外の速度域であちこち走り回っているグリフィンのドライバー。

 基本的に陸路は現に交通手段の主となる。空は飛ばそうにも難しい状況。内陸だと海も厳しい。軍の海兵隊は動かせるのだが、管轄はグリフィンなどの民間企業が担当している。そのためにトラブル回避のため手が出しづらい。

 

 グリフィンのドライバーと呼ばれている彼は、まさに熟達…いや、常識の斜め上の領域へと達している。それだからこそ、あの二体の鉄血たちからしたら歯痒い様で。いくらラーニングしても、現に彼の領域に達することが出来ずにいたからである。そして自爆(クラッシュ)したり取り逃がしたりして墓穴を掘る。

 

 そして代理人にお仕置きをされる。

 

 「おい、急いでくれ!頼むぞ!」

 

 『リョウカイ』

 増援からそう応答が来る。

 「ふふ、これでおしまいだ…グリフィンのドライバー!」

 

 「100連勝目は阻止させてもらうぞ!」

 

 助手席の人形に続いて意気込んだ運転席の人形だが、どこかレースゲームのマルチプレイで連勝する相手プレイヤーと阻止レースをやってる様なノリである。

 

 

 「っておい真面目にやれよ!!」

 

 「何を言ってるんだ、私はいつだって真面目だ!!」

 

 運転席の人形に突っ込む。

 

 確かに、呑気なやりとりにしか聞こえないかもしれないが、これを逃すと彼女たちは実質100連敗目であり、そうなれば、まさしく代理人にお仕置き(廃棄)されるのは確実なので、一応必死なのである。

 

 

 

 だからこそ、機転を利かせて挟撃しようと仲間に連絡を入れたのだった。無論、なりふりなど構ってはいられない。

 

 そして、林道を飛ばしていると次第に何かが見えてきた…

 

 

 ―ん、あれは?―

 

 「なんだ、どうし……」

 

 軍人の顔から血の気がサーっと引いていく。

 

「終わった…」

 

 軍人が呟くように言う。

 

 目の前にはなんと…

 

 

 

 

 『ヨッコラセック…オットアブネェ』

 

 道の脇にアンブッシュしていた『ナニか』。

 間の抜けた台詞を発する対話AIの音声。なにかとんでもない台詞を吐き出しそうになるあたりいろんな意味でヤバい臭いが立ち込めていた。

  というか、こいつもAI積んでるのだろうか?

 

 多分鉄血の『作ってみた』的なノリで生まれたのだろう。

 

 『ソンナクセエカ?洗浄ハシテルゾ?』

 

 第四の壁すらぶち破らんとする、多脚のエグいやつが前方を塞がんと移動していた。

 

 

「前方にマンティコアだ!!」

 

 叫ぶ軍人。

 

 ―あ、ホントだ!しかも、この前自分から田んぼに落っこって動けなくなってたやつじゃないか!―

 

 

 「なあ、ドライバー、まさかこいつもあんたの『お友達』だってのか!?」

 

 ―まさか。通り掛かって見掛けただけだ。だが、絡まれると厄介この上ない。手持ちの得物じゃ、マンティコアは止められない。よし、掴まってろ!―

 

そういいつつ、マンティコアの出てこようとする真正面に向かい加速をしていく。

 

 「まさか、おい、嘘だろ…?」

 

しかも、このマンティコアが目の前を立ち塞がらんとしている。悪条件が揃う。しかもなんかこのマンティコア、なんか大きい。

 

 ―なあ軍人さん、あえて今言うけど、あんたのとこの兵器、うちの司令部だけでも融通してくれないか?あんなもの道のど真ん中にいらたらかなわん!―

 

 「人形たちで対処しろよ!?」

 

 ―やつらを止めるのに生半可な弾は通じない。それにちょっとこちらで魔改造するだけだから…―

 

 「それで不調起こしたなんて言って返品されても、保証対象外にして突き返してやるからな!!」

 

 …鉄血の車両では…

 

 「ふっふっふっ…年貢の納め時だ、グリフィンのドライバー!マンティコア、出発お新香!」

 

 『キュウリノキューチャン!』

 

 助手席の人形が声を掛け、それに返答するマンティコア。

 

 なにかが違う。そこはキュウリのぬか漬けではないのか。

 

 そして、ドライバーの運転する車とマンティコアとの距離が迫っていく。マンティコアは横から車道へ躍り出ようとしていた。勾配があるので足元に気を付けながら。

 マイペースに見えるが、あれでも安全に気を配っているつもりである。

 

 『ソリャソウダヨ、他所様ヲマキコンダラ、エージェントニコロサレチマウカラナ…』

 

 ママに殺される、みたいに第四の壁をもう一度ぶち破らんとする…やはりヤツは強敵だった。出発といっても、数メートル先の道の真ん中。ちょうどかっ飛ばしてるドライバーの車が微かに見え始めた。

 

 

 ドライバーは恐怖するどころか、加速させ、マンティコアに向かって突き進んでいく。

 

 ドライバーたちから見て向かって右側から一歩一歩横断してきているマンティコア。もう道に奴の砲台が見えているため、次第に道幅が狭まり始めていた。残すは片側一車線しかない。ここで車を止まれば後の祭。

 

 ドライバーはそれでもアクセルを踏みシフトを入れて向かっていく。みるみる上昇する速度。回転数を上げるエンジン。

 

 それを見た軍人は、まさか内心自暴自棄になっていて、これから車ごと突っ込ませる気じゃ…?と最悪の展開を想像する。

 

 「まてまて、早まるな!うわああああ!!」

 

今度こそ死を覚悟した軍人。 

 

 『ア、 ドッコイショ』

 

 マンティコアは渡り終え、これから展開しようとしていた。

 

 軍人はもうダメだと目を瞑る。

 

 ドライバーはマンティコアがこちらにくるりと展開した瞬間、咄嗟に右にステアを切って、その時開いたギリギリ一車線分ほど空いていた隙間をすり抜けていった。

 

『ウワッチ!?』

 

 マンティコアは驚くように片側の足を避けてしまう。そして続けて独特なイントネーションで文句を言った。

 

 『アブネェジャネェカ、フザケンナヨ!……アイツ、ゼッタイニショウキジャネェヨ…フゥ』

 

 そして向きを変え終えるとそこには鉄血の車が目の前にいて……

 

 『ア』 

 

 「「あ」」

 

 100連勝を阻止することは叶わなかった。

 

……………

…………

……

 

 背後で悲劇が起こっているのを尻目に、ドライバーは放心状態の軍人に…

 

 ―ふーっ……おい軍人さん、生きてるかい?―

 

 「う…あ………生きてる…のか?俺たち…!?」

 

 ―ああ、生きてるよ。間一髪だったが。まぁ、あいつらは……運がなかった―

 

 「何が起こった…」

 

 ―マンティコア、まぁ、あいつだけの性質を利用したってことだ―

 

 「性質?」

 

 ―あいつはたまたまAIがバカな個体なのか、対象を真正面に捕捉しようとする。あんよ(脚部)の間には砲台が回せないまたいでな。それはデカくても一緒。あの砲台が短小だったら、あのイカす装甲板のついたあんよにキスしてお陀仏か、砲台に撃ち抜かれてお陀仏か―

 

 「はぁ…なんであれ、生きてるんだな?」

 

 ―まあな。…まさか、まだお花畑が見えてるのかい?―

 

 「かもな。少なくとも、戦場よりは良いだろう…?」

 

 ―…そうかも知れないな。花粉症の奴には、ちとキツいかもしれないが…―

 

 「ああ…だな…」

 

 かくして、窮地の一つを脱したのだった。すると……

 

 

 『指揮官さまぁ~鉄血の対空兵器、無事制圧いたしました!』

 

 と、車内の無線から音が入ってきた。喋り方と声からしてM1911。

 

 「あれ?混線か?グリフィンの人形?」

 

 ―ああ、ウチんとこの人形だよ。そっちにも人形くらいあるだろう?―

 

 「ああ、でも、軍で運用してるのは、今みたいに流暢に話さないんだよな…」

 

 ―殆ど民間の人形がベースだからな。でも仕事はきっちりこなせる良い子たちだよ―

 

 軍人の見慣れてる戦術人形は武骨なロボット然とした軍用のものだ。グリフィンの戦術人形は本体内部のコアで戦闘能力を制御しているだけで、民間ガイノイドがベースだ。

 

というか、軍用の武骨な人形が「指揮官さまぁ~」だなんて甘い声で呼び掛けてきたら、その人の性癖次第だとは思うが、多分敵味方問わずトラウマになると思われる。

 

 

 (あれ?こいつ…運転手(ドライバー)ってことは、戦闘員じゃなくて輸送要員とかだよな?…ぐえっ!?)

 

 軍人は、ふとドライバーの所属について疑問に思ったが、またもや高速走行による遠心力でシートに押し付けられ、現実に戻される。

 

 この後、増援もなければエンカウントもなく、そのまま基地に向けてかっ飛ばしていく。

 

 

 

 

………

 

 

 

 某地区にあるグリフィンの基地。

 

 ここは軍人を迎えに来たドライバーも所属している基地である。林道を抜けてまた暫く走ると、基地の近くまで来ていた。無論飛ばしてるため、あっという間ではあるが。

 

途中で列になっているグリフィンのマークをつけた軍用のトラックを追い抜いていく。

 

 トラックの運転手は「今日もうちの基地は平和だな!」といった様子。いつもの事らしい。果たしてそれでいいのだろうか。

 

 

 その先のゲートから基地へ入り、司令部のある棟に止まる。

 

 その頃には、軍人は車内でげっそりとしていた。

 

 

 

 「つ、着いたのか…?」

 

 ―ああ、着いたよ!よく吐かなかったな?―

 

 ドライバーはそうジェスチャーしてサイドブレーキを掛ける。

 

 「…はは、映画じゃあるまいし…でも、ありがとう。ここでいい。……あ、司令部ってどっち?」

 

―目の前のそれだよ。そこが出入り口―

 

 ドライバーは目の前の建物を指差した。

 

 「ホントに色々あったが、ありがとう……おっと…」

 

 車から降りた途端によろける。それを心配したドライバーは、降りて軍人に肩を貸す。

 

 ―よっと…!とても大丈夫そうには見えないぞ?―

 

 「すまん…」

 

 ―良いんだ。中に案内するよ―

 

 一緒に建物に入っていく。

 

 「あ、お帰りなさいませ!そして基地へようこそ!」

 

 「や、やあ……」

 ―ようカリーナ―

 

 後方幕僚のカリーナが二人を出迎えた。

 

 ―早速だけど彼を司令室につれていく、あ、なにか飲み物を用意してやってくれ…―

 「はい、ただ今ご用意します!」

 「お、お気遣いどうも。お嬢さんも、その、ありがとう……」

 

 カリーナは、軍人のその様子から、ドライバーがすさまじいことをやってきたんだな、と察した。大体基地に連れて来たり同乗した者は、人間や人形を問わず、彼のドライビングにより、ほぼ必ずといって良いほどこうなっている。

 

 そして…司令室に。

 

 「ふう…」

 ―落ち着いたか?―

 「ああ…お陰さまで…」

 

 水を飲み、一息つく軍人。ドライバーもそこにいた。ドライバーはヘルメットの下から通しているチューブで水分を取っている。手元のボトルの中身は水である。

 

 「それ、なんだ?」

 ―ドリンク装置だ。チューブは本来のものより短くしてるけどな―

 「そうなのか…」

 

 すると

 

 「失礼するぞ」

「失礼します」

 

 カリーナと上級代行官、つまりドライバーたちグリフィンの上司であるヘリアンが入ってきた。軍人はヘリアンに入るとピシッと立つ。ヘリアンの印象がそうさせるのだろう。

 

 「ご苦労だったな。人形たちも撤収してきていたぞ」

 

 ―ああ、出る前にさっさと撤収する様に言っておいたからな―

 

 「…そうか。はじめまして。私はヘリアントス。グリフィンの上級代行官です」

 

 「ど、どうもっ…」

 

 挨拶を交わす。軍人はヘリアンの風格から何故か背筋が伸びるが、ドライバーは変わらない。 やあヘリアン。と、椅子に腰かけたまま手をヒラヒラさせて出迎えている。

 

 「お、おいっ…」

 「ああ、ええと、この人はいつもこんな感じでして~」

 

 「そ、そうなのか…?」

 

 カリーナが明るくドライバーのことをフォローする。

 

 「ええ、本当です…。それで?回収したものとは?」

 

 ヘリアンは軍人に問い掛ける。

 

 「ああ、はい!これを途中で拾いまして…」

 

 懐から記録媒体を取り出した。

 

 ―カリーナ、見てあげてくれ―

 

 「はい。では、お預かりしますね!」

 

 カリーナに渡す。すると、媒体を端末に接続し、ウイルスチェックをしてから中身を確認すると…

 

 「え…!?」

 「これは…」

 ―ほほう―

 軍人が拾ってきたデータチップの中身にヘリアンとカリーナ、ドライバーは注目する。

 

 そこで、かしこまっていた軍人は口を開く。

 

 

「自分も自身の端末で確認した際、驚きましたよ…。これは、恐らくこの前失踪したAR小隊、あなた方グリフィンと関わりがある戦術人形たちの位置情報ではないか、と…」

 

 

 ―こりゃヤバイね。こいつは鉄血のアホどもが血眼で探してる情報だ。そりゃ命狙われるわけだよ…あんた見かけによらずやるじゃないか!ははっ―

 

 「そうだろぉ?俺だって時には…って!見かけによらずってどういう意味だよ!?」

 

 ドライバーに突っ込む軍人。

 

 するとヘリアンが咳払いをして、場の空気をもとに戻す

 

 「この位置だと、もっとも近いのは…」

 「…M4A1さんですね。ここから最も近いです」

 

 「16Labのペルシカにも見せよう。失礼、構いませんか?」

 

「別におたくらのものなら良いですけど…」

 

 ―その方がいいかもな。ペルシカのやつ、AR小隊の身を案じてたからな。特にM4A1に対しては…な―

 

 

 「そうだな。指揮官、念のため、来るべき時に備えておいてくれ」

 

 ―やれやれ、了解だ…任務から帰った人形ちゃんたちにも手伝わせる―

 

 

 「ん?指揮官だって?…失礼ですが、ヘリアントス上級代行官…ここの基地の指揮官って…?」

 

 

 

 「ああ、それは、『彼』のことですが…」

 

 軍人はヘリアンの指す方を見る。そこにはボトルの飲み物をヘルメットの下から通したチューブで吸っているドライバーしかいない。近くで何者かが光学迷彩で隠れているわけでもない。

 

 そこでカリーナが続いて発言した。

 

 「そちらにいらっしゃるドライバーさんが、この司令部の指揮官様なんです!」

 

 「ははは、二人ともご冗談を…」

 

 「いえ、冗談ではなく、そこのそいつが指揮官です」

 

 そいつ、つまりフルフェイスヘルメットを被った彼である。

 

 「え……?ちょっと待ってくれ、彼が指揮官なのか!?」

 

 

 「はい」

 「はい!」

 

 そう。

 

 

 なにを隠そう、このドライバーは、ここグリフィンの基地における戦術指揮官なのである。

 

 

 ―悪いな、騙すつもりは一切無いんだ。さて、ようこそ、司令部へ!俺がここの戦術指揮官だ。俺のことは、これまでみたいにドライバーとでも呼んでくれ。以後お見知り置きを…―

 

 「えええええー!?」

 

 ドライバーのジェスチャーに、軍人の驚く声が基地に木霊していたのだった。

 

そして、彼は先程ドライバーに薦められたグリフィン印の缶詰をPXで買おうとした時、その値段に唖然としたのは言うまでもない。




ということで、記念すべき本編第一話でした。

シリアスなのかギャグなのか、これもうわかんねぇな。

ええと、軍人さん目立ってますけど、主人公はドライバーさんでございます(念のため)。

荒れた路面(一話では市街地なのでアスファルトを想定してますが)のコーナーアプローチは、結構ムズい。直前ではなく事前に減速を済ませてから曲がります。

あと、ブレーキングは先ず初期踏力(要するに踏み込む力)が重要。これが弱いと減速しきれなかったりします。よく某スクールでは、この初期踏力の感覚を掴むようにトレーニングされるそうです。私も別の場所ではありますが、練習してました。あくまで主に競技での走り方なのですが…
(上手くやれてたかどうかは……お察しください)

一応、うちの戦術人形たちがヤンデるかどうかは、その内わかるかもしれません…多分(何

では、また次回。


軍人「ねぇ、この缶詰、ちょっとお安くならない?」
カリーナ「(お安くなら)ないです」

今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)

  • 劇中に世界の名車を登場。
  • AR小隊vs404小隊のレース対決。
  • スオミを走らせよう。
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