ではVol.4です。どうぞ。
M4A1救出から数日後。
指揮官ことドライバーは、ヘリアンからの通信に応じていた。
『指揮官、この前のM4A1の救出、見事だった。おまけに鉄血部隊の排除までやってのけるとは…』
礼を言うも、現地のSV-98たちが撮影してきた、あの芸術的に積み重なった鉄血の追跡車両の写真を見て困惑した表情。
―どういたしまして。M4は何かしらデータを持ち帰っていた様だな。本部に送信するからって言っていたが、届いてるか?―
実は救出後、戦術人形M4A1は敵である鉄血に関する重要なデータを持ち帰っていた。それを本部に送信しなければならないと話しており、作戦報告書をまとめる際に一緒に提出していたのだ。軍からの依頼についての途中経過も含めた報告書、そしてドライバーの運転時のオンボード映像も同梱しており、かなり豪華である。反面、製作を手掛けたカリーナは死にかけた様な顔をしていたが。
『ああ。届いた情報については、現在解析を進めている。軍からの依頼の報告書も無事に届いた。それに、これからは大幅に戦線を広げる必要があるんだが………所で指揮官、今どこにいる?』
通信先のドライバーに訊ねる。なにやら排気音の様なものが聞こえてきた。
―○△地区だ―
「あ、俺もいますー」
「私もいますー」
助手席に軍人、後部座席にはM4も乗っていた。
『………な、何だとォォ!!?』
ヘリアンは驚きのあまり思わず叫んだ。
そう、ドライバーが担当している該当地区の一つである○△地区で、敵が展開して来ているとの報告を受けていたため、その排除をドライバーに命じようとしていたのだ。
一方、ドライバー一行は、その地区の田舎道をひたすら飛ばしていた。
「ドライバー、次の鉄血の通信拠点は北西に2.5km先だ。道はフラット。障害物は無い!」
軍人の手元のタブレットに表示された敵の拠点とされる場所の位置をドライバーに指示している。M4が索敵してくれているので、ドライバーは運転に集中出来ている。
―了解だ……あーそれで?急に叫んでどうした?―
冷静にヘリアンに返すドライバー。
『すまん、取り乱した。コホン、貴官の部隊に○△地区の鉄血の掃討を頼もうと思っていた所でな…』
一先ずヘリアンも冷静になり、本題を伝えた。
―そうか。今は敵さんが設置した通信基地を押さえに来ているんだ。…どうやら本部の出鼻を挫いてしまったようだ。すまない。その分、報告書を楽しみにしておいてくれ―
『そ…そうか。了解した。そういうことなら楽しみにしておこう…』
ここで通信は終わる。
「はぁ…」
ここでため息を吐く。
確かに出鼻を挫かれてしまったとはいえ、そのレスポンスの早さにおいては確かに評価できるものではあるが、やはり指揮官が自ら死地に飛び込んでいくスタイルには肝を冷やしている。果たしてどのようなオンボード映像が報告書に添付されているのか。
「上々の様だな」
突然、ヘリアンの背後から男性が声を掛けてきた。ギョッとして振り向くと、なんと最高経営責任者のクルーガーであった。
「クルーガーさん!?」
「そこまで驚くことはなかろう?」
「す、すみません…」
「まあ良い。さて、彼はドライバーと言ったか…」
「はい…しかし彼は、あれでも任務には従順で…自ら走りに…いや現場主義と言いますか…その…」
慌ててドライバーについて弁明する。ふむふむ、とクルーガーは顎に手を当てつつ頷き、一言。
「彼ならば大丈夫だろう…多分…」
なんとも言えぬ表情のクルーガー。
どうやら、ドライバーの奇行は彼も知っていた様である。
………
その頃、ドライバー一行は…
―後続の人形部隊に告ぐ、敵の通信拠点の位置は特定した!各チーム、配置についたら、同時攻撃を開始しろ。一気に押し込め!―
味方の人形たちに指示を飛ばすドライバー。人形部隊たちはダミーたちと共に雪崩れ込むように通信拠点を制圧していった。
「それで…?俺たちはどうするんだ?」
ふと、軍人はドライバーに問う。しかしどこか声が震えている。
何とドライバーの車の背後には追跡車両が10台近く追ってきていた。まるで映画の1シーンの様な光景。
これもう詰んでるんじゃね?と思ってしまっても不思議ではない。
―考えがある。M4、数は?―
「10台です!」
―軍人、やつらの司令拠点の位置は?―
「え?ああ、この先3kmの所だ!って、まさか…?」
―ふっふっふ…―
「ああ…神よ…!」
「指揮官!前方に鉄血の迫撃砲です!」
―迫撃砲…よし、『当たり』だ。速度上げるから、シートに深く座れ―
ドライバーの一声で助手席の軍人と後部座席のM4A1はシートにしっかり座り直した。ドライバーはアクセルとパドルシフトを操作して速度を上げていく。
一方で、鉄血の追跡車両はお構いなしに編隊を組んで追いかけ回している。追跡車両に乗っている鉄血人形兵たちは、比較的障害物の殆ど無い場所であり、大人数、そして用いている追跡車両は走破性の高いタイプであることから、撃ちすぎて弾切れしても取り囲んでしまえば良いと考えていたため、「これで勝つる!」と勝利を確信していた。
拠点防衛のために駆り出された迫撃砲型機械兵たちの砲身がキラリと光る。装填し、武骨で凛々しい発射音と共に発射される。
が、しかし、編隊を組んでいた数台の車両が突然爆風に見舞われ、爆煙を上げて吹き飛んでいく。
両隣を走っていた鉄血たちは何事かと驚く。別になにもしてはいないし、グリフィンのドライバーも速度を上げた以外は何もしていなかった。
ここで、鉄血たちは自身たちの戦略システムでマップを確認して漸く気付いたのだ。
(これ味方の迫撃砲じゃん……)
そう、ドライバーが速度を上げて着弾地点から離脱した際に、変わりに背後の鉄血たちに命中してしまったのだ。
―残りは9台だな―
「今のはなんだ?」
「あれは鉄血工造製の迫撃砲型機械兵の仕業です。グリフィンの戦術人形の皆さんも稀に食らって修理行きにされてしまうので厄介なんですよねぇ…」
―しっかりと着弾地点から離れれば、怖くはないぞ!―
と、M4の説明に続き、ドライバーはジェスチャーで伝える。
あれがミサイルならどうするつもりなんだろうか…と軍人は思うのだが、今はドライバー率いる部隊の腕を信じる他ない。
一方で鉄血の司令拠点では、鉄血人形兵と機械兵たちが忙しなく動いていた。
「…!?敵性反応が急速接近!」
「迫撃砲型はどうした!?」
「発射しましたけど、外れて味方に…」
「あーもうこれだから地雷撒いとけっつったのに!」
「でも、後片付け大変なんですよアレ…」
戦争で撒かれた地雷は戦後大きな問題となっていた。用済みになり撤去しようにもコストが掛かっており、また地雷側の故障で識別するための反応がロストしたり、それを踏み自滅したり…と鉄血側からしても問題となっていた。そのため、ここでは迫撃砲兵が使われることになったのだが、これもまた、ドライバーのせいではあるものの、現在のような誤爆被害を生んでいる。一応、不発弾にならぬように、信管は気を付けているのだが。
―あんなにバカスカ撃ちやがって、一体誰が不発弾を片付けると思ってるんだ!神経疑うね!―
「同感です!戦争とはいえ、その辺はもうちょっとしっかりしてもらいたいですよ!」
「ここ(戦場)でそんな悠長なこと言ってられるお前らの神経を疑うよ!!」
軍人がドライバーとM4に突っ込む。実質食らったら一発で終了のオワタ式。むしろ何よりそれが問題である。
刹那、着弾した。ドライバーは見事回避し、追跡車両に命中。激しく吹っ飛んでいく。
そしてドライバーは車の速度を上げつつ、後続の鉄血たちを引き離していく。
鉄血車両もアクセルを全開にして追い掛けていく。
そして、ついに迫撃砲機械兵たちのラインを突破する。
「突破されたぁぁぁ!?」
「マジか!?くっ、全員配置につけー!」
基地の鉄血兵たちが騒ぐ。しかし時既に遅し。ドライバーの車は拠点内に入り込んでいた。それに続いて勢いよく突っ込んできた追跡車両が止まりきれずに同胞を巻き込んでいく。資材に乗り上げ横転。迫撃砲兵が『とにかく敵の方を撃つプログラム』を実行したまま発射。無論それは基地に降り注いだ。ドライバーは回避し、変わりに着弾地点に居合わせた鉄血兵たちに直撃するなど大混乱が巻き起こる。
迫撃砲兵は弾が切れたのかこれ以降は撃って来なくなった。装填担当が配置されていなかったためだ。今から行って装填し、調整するのは間に合わない。
だが、まだ為す術はある。ドライバーの車を狙い、手持ちの武器で集中砲火すれば良い。それがこの場で混乱を凌いでいた鉄血兵たちの総意であった。しかし、ドライバーから射撃許可を出されたM4が窓から発砲して無力化。こういう時に戦術人形の精密さは凄いと感じるドライバー。軍人も雄叫びあげつつ射撃するも外れている。しかし、無駄ではなく、牽制にはうってつけであった。そして、その流れ弾が運よく敵の銃口に入り込んで破損。その命中時の衝撃でよろけた鉄血人形兵に、周囲の人形兵たちが巻き込まれ、ボーリングの様に崩れる。因みにその人形兵はストライカーと呼ばれるモデルであった。
―やるなぁ―
「すごいです軍人さん!」
「だ、だろぉ!」
しかし、ここは敵地のど真ん中、ドライバーは再び車を加速させて移動する。ジムカーナの如くターンを決めつつ、機能停止した鉄血の司令拠点を離脱。
―指揮官から人形部隊へ、司令拠点を押さえた。暇してる奴は座標の所まで来てくれ―
人形部隊に指示を出す。数分後、人形部隊が車に乗って到着。
そうして、作戦は無事に終了した。
被害はゼロ。
すると、制圧された拠点の片隅で、M4は誰かに通信を繋げていた。
「AR……こちらM4A1、誰か聞いてるなら応答してください」
AR。M4はAR小隊のメンバーに連絡を取ろうとしていたのだ。すると、誰かが応じる。
『良いタイミングだな、M4。後1分遅かったら繋がらなかったぞ』
「M16姉さん!」
通信に出たのはM16A1。M4が姉と慕う戦術人形。
M4はM16に状況を聞いてみた。どうやら敵が近くに数体いるらしく、すぐ通信機を切らねばならない状況であった。そこで、M4は手短に、ドライバーの元にいること。そして前線の近くにいるため、何時でも応援に行けると伝えた。続いて、残りのAR小隊の状況について質問する。
『後ろの敵を抑えている時にはぐれてしまった。この前連絡した時は無事だったが…M4、私に構わず、先ずAR-15とSOPiiを探せ』
「了解…姉さんも気を付けてくださいね」
『ああ。ん?待てM4、お前…運転してないよな…?』
突然M16から奇妙な質問が届く。少し不安げな声色。
「え?…うん、今のところは、指揮官の車に乗せて貰っているわ」
『そ、そうか!…それなら良いんだが…(ほっ…)』
M16は何処か胸を撫で下ろしたような様子。
「…?」
M4は一体どうしたんだろう?少し首をかしげる。
『あ、気にしないでくれ…おっと、奴等(鉄血)がやって来た。話はまた後だ。大丈夫、また会えるさ』
そうして、通信は終了した。
―繋がったか?―
ドライバーがやって来た。
「はい。有難う御座います指揮官。M16姉さんに繋がりまして…姉さん曰く、先にAR-15とSOPiiを探して上げてほしいと…」
ドライバーはふむふむ、と頷く。あの時、軍人が拾ってきた位置情報のデータからすると、次に近い位置にいるのはAR-15とM4 SOPMODiiだった。
ドライバーは早急に回収に向かう必要があると判断し、次の作戦を考えるため、ヘリアンに繋いで、本部から応援を現在地である拠点に寄越してもらい、一度撤収することにした。
………………………………………………
「おお 処刑人よ しんでしまうとはなさけない」
「どこかの王様みたいな言い方をしないでやってくれ、代理人…確かに情けないやられ方なのは事実だがな…」
鉄血のある拠点では、代理人(エージェント)とハンターが処刑人とその部隊のメモリーを見ていた。代理人のコメントについてツッコミを入れるハンターではあるが、二人は確かにこの有り様に困惑していた。
「撃たれて死ぬのならば、まだわかるが…」
「だから、よそ見をするなと何度も話したのですが…しかし、グリフィンのドライバー…彼は厄介です。彼は一体どこであのような技能を身に付けたのでしょうか」
「うーん…」
ハンターは考えるも、それはグリフィンのドライバーと呼ばれる彼のスタンダードによってしまうし、会ったこともないので分からない。
「ハンター、出番ですよ」
「私はレースは専門ではないのだが…」
「ええ。存じておりますよ。しかし、早く動く動物を狩るのは得意でしょう?」
ハンターは、代理人の一言に「お、そうだな」と肯定する。
「なるほど、それなら話は早い」
「しかし、もしもに備えてドライビングテクニックのデータをお渡しします。多少の時間稼ぎくらいにはなるはずです」
「ほう?…ド○キンのビデオ?これ発禁になったやつじゃないか!?」
ハンターは内容を再生して驚愕する。日本ではある理由から発売禁止になったという幻の作品。
もう手に入らないとされている。
なぜ代理人がそんなレア物を持っていたのか。
何れにせよ、ドライバーたちの前に新たなる敵が立ち塞がることには、何ら変わりはないのだが。
………………………………………………
また更に一方。
M16A1は通信終了後に敵をやり過ごしつつ、途中で確保した補給ポイントとなる場所にいた。現在地では、合流できるほど、まだ近くというわけではない。ここを出ると、敵もまだ彷徨いている。
ここで、先程、通信でM4A1に運転していないかどうかという質問をしていた時の返答を思い出していた。
(あの指揮官の元なら、ある意味で心配はないかもな…。だが、M4が運転するとな…)
ここで一度思考を止めた。不安なことは考えず、第一目標であるAR小隊の元へ合流することを改めて念頭に置く。
おまけにあの指揮官の性質なら、きっと自分で運転してくるに違いない…と。そう期待感に似た思考に切り替える。
だが、それと同時にもしも迎えに来た車のステアリングを握っていたのがM4だった場合は…という時にも備えなければならない。その時はその時で考えよう。きっと少しは…と願いつつ、周囲の安全確保の後、一休みする事にしたM16であった。
さあ、次回からはSOPiiとAR-15を助けに行くことになります。
先程、ド○キンのビデオを渡されていたハンターは、一体どの様にしてドライバーに立ち向かうのか?
そして、あのM16A1が不安になる程の、M4の『ある部分』とは…?
次回をお楽しみに。
代理人「君の心に、ブーストファイア!」
今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)
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劇中に世界の名車を登場。
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AR小隊vs404小隊のレース対決。
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スオミを走らせよう。