戦場の走り方   作:ブロックONE

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Vol.5からの続きです。

どうしてこうなった(^ω^)


Vol.6 Nice bomb...

更にその頃。

 ドライバーたち一行は『例のプール』に到着していた。一同は確認のために車から降りる。

 

 「ところで指揮官、この人は誰?」

 「見た所、正規軍の方にお見受けできますが…」

 

 ―ああ、彼は…―

 

 ドライバーは軍人を改めて紹介した。先程はそんな余裕などなく、今になった。これは下手すると、このま彼のことは忘れ去られてしまいかねない可能性も考えられる。しかし、それは防げた。軍人は自己紹介をして、ここが何処かを問いただす。

 

 

 「よろしく…。それで、だ。話は変わるけど、ここが例のプールか?」

 

 見渡すが、やはりどこにもプールなんて見当たらない。中は薄暗く、水着を着た人間なんて見当たらない。というか、 もし見かけたらそれは反って問題だ。ドライバーの管轄内故、下手するとヘリアンからお咎めを受けかねない。

 

 

 ―あれはちょっとしたジョークさ。ここはな、元々空軍が使ってたバンカーだ。今となってはグリフィンが使っている。まぁ、正確には、管轄の問題で軍から貸与されてるって言った方が正しいか。殆ど俺の部隊とかが補給や待ち合わせ場所に選んで立ち寄ってるんだ。幸い、まだ鉄血の手に墜ちてなくて良かったよ。やつらに航空戦力が今のところ無いのが救いかな―

 

 確かに、この大きさなら、ジェット戦闘機が出入りできそうだと軍人は思い頷いた。

 現在は敵のジャミングの兼ね合いもあり、航空機を中々飛ばすに飛ばせないためもあり、比較的後方に基地を移転したために使われておらず、ドライバーの言うように待ち合わせ兼補給地点として使われている。周辺には滑走路とおぼしき場所も見つかった。

 

 そして、ドライバーは積んできたケースを車から降ろそうと、トランクの鍵を開ける。

 

 

 

 ―それより、中に入れてたケースを降ろす。軍人、そっち側、持ってくれるか?―

 

 

 「ああ。よいしょ…」

 

 ―そーっと降ろせよ?―

 

 言われた通りにゆっくりと地面に置く。

 

 「そういや、このケースには何が入ってるんだ?」

 

 

 出発前には『開けてみてからのお楽しみ』とドライバーは伝えており、どうしても気になっていたのだ。

 

 ―これかい?ふっふっふ…―

 

 ドライバーはヘルメットを被っててもわかるくらいに、何か企んでいるような様子であった。

 

………………………………………………

 

 その30分後。

 ハンターたちのいる司令拠点にて。突然の変態に対して悪戦苦闘している最中。

 

 色を答えたら、今度はその形状を聞いてきた。変態は心が広いのか、ハンターたちの答えを待ってくれていた。

 

 ついに考えがまとまったのか、ハンターは漸く次の一手を打つことにした。

 

 「観音開きだっ……………さっ最近、流行ってるんだよ!」

 

 (ハンターさん何言ってるの…?)

 (ついに壊れたかな?)

 (つーか通信切りゃよくない?)

  

 それに対して変態は…

 

 

 『ははっワロスww観音開きって変態かよwww』

 

 

 通信相手は茶化しだした。

 

 

 流石に苛立ち始めたハンター。

 

 しかし、途中で部下がハンターに報告に現れる。

 

 

「ハンターさん大変です!『グリフィンの例の車両』が確認されました。恐らく人形部隊も…」

 

 「やっと現れたか…。『例の車両』は、こちらの部隊と共に追うとしよう」

 

 例の車両…一際煩く速いヤツ。ドライバーのことだ。

 

 

するとそこに……

 

 

 

 

 「随分と騒がしいわね。まるで喜劇みたいだわ」

 

 背後から声が。

 

 「お前は……!」

 

 ハンターの背後に、AR-15の姿があった。服が汚れ、動きがちょっとぎこちないのは何故だろう。

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 「なあ、ドライバー。ホントに大丈夫なのか?AR-15は…」

 

 ―大丈夫だ。彼女なら上手くやる―

 

 ドライバーと軍人は、SOPiiを後部座席に乗せ、M4たちと合流するべく、バンカーから出発していた。

 

 

 

 

 

…先程バンカーにて。

 

 ドライバーは車から降ろした大形ケースを開けた。

 

 そこには、何とAR-15らしき人形が胎児の寝相で収まっていた。

 

  「うわっ」

 

 軍人は思わず驚き尻餅を付く。彼の知る人形は主に武骨なロボット兵然としたもの。こうも曲線的のものは鉄血製のものくらい。というか、このでは、まるで遺体を載せて走ってた様にも見える。

 

 「これ、ダミー人形ですか?」

 

 SOPiiは、ケースの中のAR-15らしきものと、隣に立っているAR-15を交互に指す。

 

 

 「なんだ人形かよ…」

 

 軍人はゆっくり立ち上がり言う。

 

 ―ああ。予算とサイズの関係上、これしか用意できなかったんでな…―

 

 

 「あ、よく見たら、等身大のAR-15じゃないですかぁ。完成度たけーなオイ」

 

 

 SOPiiはケースの上にちょこんと座らせたAR-15のダミーに近付き、そう言った。

 

 ―予算とサイズの関係上、これしか用意できなかったんだ―

 

 「予算とサイズ…なるほど、納得です!」

 

 「あ、確かに私だわ、完成度たけーなオイ…って、SOPii!それどういう意味よ!」

 

 「べっつにぃ?」

 

 そう言われつつもいたずらっぽく笑み、AR-15のダミーの頬をプニプニとつつくSOPii。一方ダミーは無表情。

 

 ―SOPii、あんまり下手に扱わないでくれよ?普段使ってるダミーと違って、急拵え且つかなり手抜きして作ってあるから―

 

 

 「ほぇ?そうなんですか?なるほど、これがよく聞く匠の技ってやつですね!」

 

 

 「少し違う気がしないでもないが…」

 

 

 「私が言うのも変だけど、いつものダミーと変わらなく見えるわ…ところで指揮官、これで何をするつもりですか?」

  

 

 

 ―では単刀直入に。AR-15、これでハンターに近づいてほしい―

 

 「え、ハンター?まさかあいつ、近くにいるの?」

 

 「…!」

 

 ―通信装置が検知したノイズの反応から、その可能性がある。その方向を辿っていけば、確実に近づける筈だ―

 

 「待て、AR-15を一人で行かせるのか!?」

 

 ―いいや、行くのはこいつが動かすダミーだけだ。手抜きしてもこれなら恐らくばれることは無いと思うが…な。敵の位置や動向を知りたい。わざと捕まってもらうことになるが、やってもらえるか?―

 

 突然のお願いにAR-15は…

 

 「私で良ければ、やらせてください!」

 

 活躍のチャンスを与えられたAR-15はそれを引き受けた。

 

 ―わかった。おっと、リンクはこちらの指定する方式に沿ってもらう。システムの関係上でね。すまないな―

 

 「了解。では…」

 

  そしてリンクしダミーの動作確認を行った後、全員乗せてバンカーを出てから、途中でダミーを降ろす。

 SOPiiにはその間無防備なAR-15のサポート。AR-15は精密に動かすためにシートに座るが、手だけを座禅を組んで目を瞑っている。何故そうなってるのかは、先程の通り、ドライバーが持ってきた安物ダミーにつまれたシステムのせいであった。どんなシステムだよ、と軍人はツッコミを入れているのは言うまでもない。

 

 今のAR-15は、戦慄の青い大仏めいたとても安らかな表情。M4A1が見たら、きっと衝撃が走ることだろう。ドライバーはM4たちの所へ走らせる。

 

 『指揮官、今パルクールしてたら、間接がメキッて言ったんですけど…』

 

 ―おい!?―

 

 「フリーダムだな…」

 『指揮官はよく、慣らしは必要だって仰ってましたから』

 

 「あー、AR-15ってね、ちょーっとマイペースなとこがあって~…あはは…」

 

 「それのどこがマイペースなの!?」

 

 ―AR-15、壊さないでくれよ?―

 

 『安心して下さい指揮官。私は(故障なんかに)負けませんから!』

 

 ―あのなぁ…―

 

 そしてかっ飛ばすこと約十分後…

 

 『指揮官、軍人さん、応答してください。…指揮官、軍人さん………クロ○、早くし』

 

 通信拠点を制圧し、自陣の拠点にしていたグリフィンの人形部隊。

 その中で、M4はドライバーたちと連絡が繋がらず、どうしたのだろうと不審に思っていた。

 

 すると、

 

 ―誰がク○エだ―

 

 といいつつ、背後からドライバーの車が到着した。

 

 「あ、指揮官!軍人さんも!」

 

 「M4~!」

 

 早速車から降りたSOPiiが駆け寄ってきた。

 

 「SOPii!無事だったのね!…あれ?AR-15は?」

 

 「それなんだけど…」

 

 M4は、SOPiiが指す、ドライバーの車の後部座席を覗くと、そこには目を瞑り、悟りを開いてそうな表情のAR-15が鎮座していた。

 

 「いつも仏頂面だったAR-15が、恐ろしく安らかな仏頂面をしている…?」

 

 M4は変貌ぶりに、戦慄の青い大仏マークのアレを思い出した。表情がなんか似てる。

 

 『仏頂面で悪かったわね、M4』

  

 ―…M4、悪いがSOPiiと一緒に降ろすのを手伝ってあげてくれ―

 

 「あ、はい。…そう、ついに解脱したのね…AR-15」

  

 

 『何言ってるのM4、解脱なんてしてないわよ?』

 

 ここで、通信でAR-15がもう一度冷静に語り掛ける。

 

 「え、AR-15!?生きてたの!?…何故そんなポーズを…?」

 

 

この時のAR-15は、顔では分からないものの、今更気づいたのか…と言いたげであった。M4は俗に言う『天の声』か何かと勘違いしていた様である。

 

 

 『悪いわねM4。これ指揮官の持ってきたダミーのせいなの。…接続してる時はシステムの都合でこうなってしまうみたいで…正直ちょっと不便ね…』

 

 ―そう言うなよ。これでも予算内で出来る限りやってきたんだ―

 

 その様子に困惑するM4。苦笑いするSOPii。

 

 ドライバーはそんな二人にAR-15を車から降ろすサポートをお願いした。軍人とドライバーは大きなケースを車から降ろし、その上に座らせたAR-15は青空のもと、座禅を組んでいる。AR-15曰く、その方が処理速度が向上するとのことらしい。

 

そのシュールな光景を端から見たグリフィンの人形部隊の人形たちは、『AR小隊って、やっぱり変わってる子多いよね』…と、ひしめき合っている。

 

 そんな中で、ドライバーはM4に何があったのか説明し始めた。

 

 

 数分後。

 

 「そうでしたか。事情は把握しました…しかし、なぜAR-15を?」

 

 ―予算とサイズの関係でな―

 

 「予算とサイズ…?ああ…なるほど…それならば仕方ないですね」

 

 察したのか、頷く。

 

 『ちょっとM4!あんたまで何察してるのよ!?』

 「あ、ごめんなさい。なんでもないの!本当よ?」

 

 『ま…まぁ、それについては良いけど…ところで指揮官、上手く敵に捕まりましたよ。そこで得たんですが、ハンターは退却していった部隊とは別のチームでこちらを探してるみたいです。位置を表示します』

 

 

 ―軍人、タブレットを貸してくれ―

 

 「ああ…」

 

 ドライバーにタブレットを渡す。ドライバーがマップを拡大すると、ハンターとAR-15のダミーがいる位置を示す点が移動している。

 

 

 「よーし、位置も割れれば、これで漸くハンターをぶっ壊しにいけるね!殺っちゃるぜ~!」

 

 はしゃぐSOPii。

 

 ―AR-15、ダミーは現在どうしてる?―

 

 『それが、ハンターと追跡車両に相乗りしてます…人質ってやつですね。しかも、何だかこちらの司令部を襲撃するっぽいですよ?』

 

 

 

 AR-15の報告に、ドライバーは何時もと変わらない様子で、探り続けてくれ、と指示を出し、変なところで指揮官らしさを発揮している。きっと何か考えているのだろうな、と軍人は思っていたその矢先。

 

 しかしドライバーはこう告げた。

 

 ―よし、ちょっくら奴等とレースしてくる―

 

 

 

 「おいドライバー!?」

 「指揮官!?」

 「ちょっと、正気!?」

 

 

 

 ―俺がここまで引き付ける。人形部隊はここで敵の迎撃に備えてくれ。軍人、来るなら早く乗れ。どの道、あの車列は厄介だ。これ以上近付けさせるわけにはいかない。―

 

 

「…わかった。乗るよ!任務の事もあるしな!」

 

 結局、怖いのを我慢して勢いで乗ることになった軍人。任務の報告に必要な情報を集めないとならない。それにツッコミ役は必要だろうという、軍人なりの 強がりである。

 

 

 そして、車のチェックを軽く行った後、ドライバーは軍人を隣に乗せて出発した。M4たち人形部隊は戦闘の準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 「ふふふ、先ずはこれで第一フェイズ完了だな」

 

 同時刻、ハンターは部下たちと移動を開始。

 

 

 『こちら100(ワンオーオー)、配置につきました~』

 

 途中、部下の人形から連絡が来た。100(ワンオーオー)と刻まれた新型の追跡車両が6台停車する。

 

 「よし、お前たちには101回目のなんとやらだ。しっかり頼むぞ?」

 

 『了解!』

 

 

 AR-15のダミーは、黙って周囲を見渡す。ハンターにダミーと気付かれていないようだ。しかし、首を動かすも、カクカクしており、やはり不自然であった。

 

 ハンターはそれを見て…

 

 「ふふふ、怖いか?まぁいい、そこで見てろ。貴様は人質に使わせてもらう」

 

 

 震えていると解釈したのか、どうやら気付いてない様である。

 

 「人質ッて言葉、今ノデ114回目よ」

 

 冷静に突っ込むAR-15。少しカタコトになっている。

 

 「ふっ…何時までその余裕が続くか見ものだな…」

 

 「それヨリ前見て運転シロヨ。事故ったら賠償金フンダクルゾ」

 

 「ふん、なら大人しくしてるんだな」

 

 

…………

 

 「なんで気付いてないんだ!?明らかに首の動きとか色々おかしかったろ!?」

 

 その様子をメインフレームのAR-15を介して、タブレットに表示しているのを見て言う。

 

 ―まぁ、あのダミーのボディの中身は、そこら辺のものを無理矢理くっ付けて作ったから…そこはご愛敬だ―

 

 「なんだって!?あのダミーってそんなぞんざいな構成で出来てんの!?市販品のボディでも行けただろ!?」

 

 『軍人さんのツッコミ、キレッキレだね!』

 

 『ツッコミ役を担ってくれて助かります。これで安心してダイでハードなスパイごっこが出来ますよ』

 

 「AR-15、そんな安らかな顔でさらっと言うなよ!つーか、ダ○・ハードはスパイもんじゃねえええ!!?」

 

 軍人のツッコミが更に光る。

 

 ―さて…スタート地点に着くぞ―

 

 「お、おう…」

 

 すると、AR-15は、ダミーからなにか情報を得た様だ。

  

 『この車両…100(ワンオーオー)?ユロビですかね?』

 

 ―もしかすると、アイツらか―

 

 「あいつら?ドライバー、どういうことだ?」

 

 ―ほら、あれだよ。あんたを基地に運んだ時に追ってきたやつ―

 

 「おおーマンティコアに正面衝突したアイツらか…って、ええ!?死んだんじゃなかったのかよ!?」

 

 ―AIが生きていて、それを新しい身体に移されたのか…俺に100連敗してまだ懲りないか―

 

 『こちらM4。指揮官、敵のことが分かるんですか…?』

 

 ―ああ、あの少したどたどしい動きでな。つまり、101回目の挑戦ってことだな―

 

 

 『100連敗って…どんだけ指揮官に対してしつこいの!?』

 

 ―あいつら、いつもグリフィンとか軍の車両が来ないか見張ってるのさ。だから遊んでやってたんだよ―

 

 『指揮官って結構命知らずだよね!?』

 

 『ほっ…骨は拾ってやりますっ!』

 

 『ご供養ならこのAR-15が…』

 

 

 

 「そのポーズどっちかと言うともう仏じゃね!?縁起悪いぞ!?」

 

 

 

 『あ、間も無く100が来ますよ。備えて!』

 

 AR-15が知らせた。

 

 ―よし―

 

 ドライバーは車から出た。

 

 「あ、おい!」

 

 ―乗っててくれ―

 

 

 丁度いつぞやの追跡車両の二人組が数台の車を引き連れて迫る。

 

 そのコーナーの先の直線で、待っていたぞと言わんばかりに道路の真ん中で腕を組んで立つドライバー。

 

鉄血の車両の走行音が段々と近づいてくる…

 

 その数は6台。

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曲がりきれず、崖に後続3台が転落していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 車両たちは、このトラブル発生につきコーナーを過ぎた辺りで停車した。前方にはドライバーとその愛車。ドライバーは鉄血たちの車両が転落していくのをばっちりと見ていた。

 

 「ああ、もう!これだから無人車両(笑)なんて笑われるんだよ!」

 

 「私たち人間じゃないから正確にはこの車も無人だよね?」

 

 『どうした?車列の信号が減ったぞ』

 

 ハンターから通信。ハンターはこの峠道の麓に回り込み待機する。司令部を襲撃し、指揮官の彼を始末すれば崩落すると思っていたが、予定変更し、『例の車両』ことドライバーを狙うことにした。

 

 

彼らを否定するがごとくドライビングのみでプライドをズタボロにするドライバーは、最早『吐き気を催す邪悪』のようにも見えつつあった。

 

 理由は追った先でアクシデントに見舞われるからだ。そして今回は、出会い頭に早速転落事故である。と言ってもドライバーは別に罠を張ったりはしていない時なので、これまでも、今回も、鉄血側の自爆である。

 

 

 「車両三台が崖から転落しました…」

 

 助手席の人形がハンターに伝える。

 

 『えー…』

 

 

 そしてこの出オチにも関わらず、ドライバーは車に乗り込み、エンジンを掛け発進させた。

 

 「あ!あいつ逃げるぞ!」

 

 100の運転席の人形が言う。

 

 「むしろアレは呆れて帰ろうとしてるんじゃないの!?」

 

 助手席の人形が突っ込み…

 

 『どっちでもいい!早く追え!』

 

 「「了解ー!」」

 

 100と刻まれた追跡車両はハンターからの指示で再び発進。追撃に向かった。

 

………………………………………………

 

 …そして現在に至る。

 

 

  100(ワンオーオー)の車両に乗る人形二人組は最近覚えた技を駆使しながらドライバーの車に追い付こうとする。

 

 「あいつら前より上手くなってるよな…」

 

 ―きっとドリ○ンのDVDでも見て学習したんだろ?だが、彼には遠く及ばないね―

 

 ドライバーは適当に伝えたが、皮肉にも正解だった。ハンターから共有されたものを閲覧し、この日に備えて学習して来ていた。しかし、必要もないところも無理してドリフト走行をしている。

 

 急コーナーに差し掛かりブレーキング。しかし、追跡車両はそこでもたついて距離が離れた。

 

 ―ブレーキングが甘い―

 

 「そうなのか?」

 

 ―レースでもなんでも、運転するやつが、その車の特性を理解してないことには、 発揮させようにもさせようがない―

 

 「あいつらはAIだぞ?道具の使い方位はデータとして蓄積してるはずだろう。しかも、お前が散々捻り上げてきた奴らだ。いい加減対策してきるとは思うが…」

 

 ―だろうなぁ。となると、その車での走行経験が単に少ない。それか、やつらは車を操作してる身体に慣れてないのかもな。或いは両方―

 

 「え?どういうことだ?」

 

 ―やつらは生身の人間と異なり、身体を取っ替え引っ替え出来る。怖いもん無しだ。だが、違う身体で精度を高めるためには、また別に稼働させてデータを蓄積していかないとならんようだ。学習速度は人間よりも比較的早いから、これは時間の問題だろう。だが、以前よりは良くなってる。前はもっと酷かった―

 

 「ということは、鉄血のやつら…確実に進化して…?」

 

 

 その背後では…

 

 「うわー!?突っ込みすぎた!!」

 「あわわわ!?そんなー!?」

 

 100の車がコーナー進入次にバランスを崩す。ハードな走行のために、タイヤの熱ダレによりグリップ力が低下してるのを気にせず突っ込んで行ったためだった。ガードレールに背後から引き連れてきた無人車両が100に突っ込んで行き、リタイヤとなった。

 

 

 「…いなかったな」

 

 ―はは、現実はそう上手くは行かないもんだよ。やつらのAIの能率次第だが、次はもっとまともになるとは思うよ。完全に破壊されてなければの話だが―

 

 『M4から指揮官へ、人形部隊のみんなとカメラから見てたのですが、鉄血の車に何があったんですか?』

 

 『急にコースアウトしちゃったよね?』

 

 M4とSOPiiから通信が来た。こいつらほんと好きだな、とドライバーは思いつつ、鉄血の車に何が起こったかを説明することにした。

 

 ―うーん、車だけを言うならば、無理しすぎてタイヤが熱ダレ起こしたんだな―

 

 「熱ダレ?」

 

 ―そうだ。自動車のタイヤは走行中に熱が発生し、その温度が適温になるとグリップ力を発揮する。しかし、それも適温を越え過ぎると、グリップ力は逆に弱まってしまうのさ。それで、やつらはアンダーステアをおこし、そこに追従してきた仲間の車も釣られてきて、結局追突されていったが。まあ、学習してたみたいだし、100単体は前より少しくらい腕は良くなってたろうね。それに、もしかしたら足回りが粗末なものだったかもしれない。後で回収出来たら見てみよう。さて、お前たち、車や運転手にもよるけど、飛ばす時はタイヤのマネジメントはしっかりな。大事な所だから、覚えておいてくれよ?―

 

 人形部隊の皆から了解!と元気のいい返事が来る。

 

 「アドバイスしてる場合か!?」

 

 ―実戦じゃないと分からんこともあるだろう?―

 

 「それはそうだが…なんか違う意味に聞こえるぞ?…じゃあこの車のタイヤは…そうか、ペースを落としてたんだったな?」

 

 ―そう言うことだ。一応、長く持つようにそれなりの物は履かせていたが、かといって無駄使いはできない。俺なりに色々考えて運転していたってことだ―

 

 100に追われるまでは『慣らし』だったのか、と軍人は呆れる。しかしペースからしていつものドライバーの走りと変わらなく見えていた。これはきっとドライバー側の感性の問題なのだろう。運転してみないと細かいところは分からない場合もある。

 

 思い返して見れば、自分を基地に連れてきた途中、『タイヤが暖まってきた』という旨をドライバーが伝えてきた後にペースを上げていた。

 

 

 

 『AR-15から指揮官へ、突然で失礼ですが、ダミーに組み込まれてるこの項目はなんです?』

 

 ―ん?―

 

 AR-15は接続しているダミーのシステムに【グリフィン曰く爆ぜろ鉄血】と記された項目を見つけた。

 

 

 ―ああ、それか。いざという時の奥の手だ。いいか、それまでは絶対に触るなよ?い い か ? 絶 対 触 る な よ ? ―

 

 

 

 

 

 『え?起動しちゃいましたけど…』

 

 ピッピッピッ…

 

 ―な、何だって!?―

 

 モニターには警告メッセージが出ていた。

 

 《加害範囲から離脱してください》

 

 ―うそだろぉぉぉ!?起動してるじゃねえか!?―

 

 「い、一体どうしたんだよ?」

 

―取り合えず100は片付いたし、ハンターから離れるぞ。位置は…やばい、痺れきらしてこっちの方に向かってきてるのか…急ぐぞ―

 

 「え?うわっ!?」

 素早くターンして、麓と逆の方へ走っていく。AR-15はその時、切断しましたというアナウンスと共にリンクが外れたため、体が自由になる。

 

 

 

 

 同時刻。

 

 「またしくじったか…」

 

 車を飛ばすハンター。こうなれば直々に出向くまでと判断していた。 代理人から貰ったビデオのお陰か、素早くコーナーをクリアしていく。ここは一本道、逃げ道はないと睨んでいた。

 

 「ハンター…」

 

AR-15のダミーは、運転中のハンターに声を掛けた。しかし…やはりぎこちない。

 

 「ん?ふっ…安心しろ、やつらはこの手で直接ころ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「 ぶ っ 飛 べ !」

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ハンターの車から火柱が上がった。

 

 

 

 ドライバーたちは無事に逃げ切り、爆発した様子を眺めていた。鉄血はもう追っては来ず、また、近くにも反応はない。傍受の電波も途絶え、クリアとなった。誘い込む必要はなくなった。

 

 そして、AR-15は無線越しにこう一言。

 

 

 『キタねえ花火だ…』

 

 

 

 

 ―お前が言うなっ―

 

 AR-15の発言に突っ込むドライバー。

 

 

 「あのダミー人形、爆弾なんて積んでたのかよ…」

 

 軍人が一言。まさかダミーの人形とは言え、爆弾背負って走ってたなんて。

 

 『SOPiiから指揮官へ、一体どんな爆薬使ったの?ここから爆発してるところ見えたんだけど!?』

 

 ―基地にあったものを適当に調合したものだ。相手の動きを止められる程度でいいかなーって思ってはいたんだが…―

 

 

『むしろ、木っ端微塵の様な気が……』

 

 

 そんなSOPiiの横から…

 

 

 

 

 『指揮官、次からはキチンと計って作りましょうね?』

 

 『私も手伝いますよ、指揮官』

 

 『AR-15、突然なに言い出すの!?M4も!悪い考えならやめて!?』

 

 「さて、ドライバー。どうするんだ?」

 

 ―…一先ず、M4たちと合流。それにヘリアンたちに手土産を用意しておかないとな―

 

 そして車に戻ると通信が来る。

 

 『指揮官聞こえるか。こちらはヘリアン』

 

 ヘリアンが本部から連絡を寄越してきた

 

 『貴官の赴いた先で爆発音が確認されたそうだが。あれはなんだ?』

 

 ドライバーは一瞬軍人と目線を合わせ、再び通信機を見てこう伝えた。

 

 

 ―心配するなヘリアン。ハンターが爆死した音だ―

 

 現在地からして、爆発が確認出来るのは一ヶ所だけ。

 

 

 

 『………何だと?まさか、交戦したのか…?』

 

 ―ああ。だが一先ず片付いた。報告書を楽しみにしておいてくれ―

 

 『了解だ。そうしておく。よくやった』

 

 ―それは人形たちに言ってやってくれ。それと、AR-15とSOPiiは無事だ。報告書にも記すけど、ペルシカによろしく伝えてほしい―

 

 『わかった。それもまた伝えておこう』

 

 ―それじゃ、また後でな―

 

 ここで通信は終了。

 

 そして、ドライバーと軍人は爆発の起こったところを確認に向かう事にした。追ってくる気配はない。

 

 

 

 

 ―見てみろよ軍人、こいつを…―

 

 到着したドライバーと軍人は消火器を片手にハンターの車を見に行く。火は収まっていた様で、木々に燃え広がることなどは幸いにもなかった。AR-15のダミーは壊れた交通整理人形のように動かない。これでもし勝手に動いていたらホラーも良いところ。ドライバーは事後処理のために人形たちと基地に処理を手伝うように伝えた。人形部隊が駆け付ける途中の報告によると、お着きの追跡車両も居たらしいが、鉄血の人形兵たちは機能停止していたという。

 

 「AR-15…見るに耐えないな…」

 

 ―それは…そうだな。じゃなくてだ。ほら―

 

 ドライバーの指すのは車の方だった。

 軍人は渋々見る。火災が比較的早く収まったのは、搭載された消火装置が爆破の衝撃で作動し消火剤が撒き散らされたためだろうか。正直また爆発したら大変なのであまり近付きたくないが、軍人は恐る恐る近づいてくる。

 

 「もっと燃え広がるものかと思ったが…そういうことか。あれ?運転席のヤツは?」

 

 まさかSOPiiが話してたように木っ端微塵になったのか、と思いつつ周囲を捜索すると…

 

 

 車からは、人工血液か、人形用オイルの痕が付いている。それは車の外へと続いている。そこで、ドライバーと軍人はその痕を追っていくと、右腕と左足を失いハンターが這いずって離脱しようとしていた。

 

 

 

 

 

 この時、ヘリアンへの手土産は決まった。

  

 

 

「くっ…なんとか機能は維持してるが…」

 

 

 ―腕が片方だと動きにくいよな―

 

 「少なくとも、これでは遠くにはいけなさそうだ」

 

 

 

 

 

 

 「ああ…そうなんだ…って、なにいいっ!?」

 

 ドライバーと軍人は、何故かほふく前進でハンターの真横に並んでいた。

 

 ハンターは にげだした。

 しかし まわりこまれてしまった。

 

 

 「お、おのれー!」

 

 片腕で何とか銃を取るものの、引き金を引いても撃てない。

 

 「え?あれ?」

 

 ―これをお探しかい?―

 

 ドライバーは黒い何かの部品を見せる。ハンターは、自分のハンドガンに何かが足りないことに気付いた。 

 

 「ま、マガジン?…あっ!?」

 

 

 

 ―さて、どうするかね…。腹の中の自爆装置も壊れてしまってるみたいだなぁ―

 

 「え!?こいつらってそんな危ないもん付いてるの!?」

 

 ―ああ。敵対するヤツにデータを渡したくないからな。自壊してしまえば、回収は困難になるし、上手くいけば触れようとした相手にもダメージも与えられる―

 

 

 「ふんっお前たちに話すことなど…って何処触って…おい!?」

 

 ―軍人、そっち押さえとけ―

 

 

 「わかった…」

 

 ―悪いな。暴れられては困るんだ―

 

 「止めろ…私に乱暴する気だろ!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!」

 

 この発言にドライバーと軍人は思わず困惑した。

 

 「なんで戦闘用のお前らがエロ同人なんて言葉を知ってるんだよ!?」

 

 「知るかっ!元は貴様ら人間が編み出した言葉だろう!!」

 

 ―しねーよ!大人しくしやがれってんだ!そもそもお前にそんな機能あるのかよ!?―

 

 「え…それは…って!やっぱりそういうことするつもりだったんだな!?くっ…ころ………」

 

 がくりと動きが止まる。

 

 かくしてハンターは機能停止した。しかし、ドライバーたちはスマキにしようとした以外は何もしていない。というより、ハンターが勝手に機能停止した。

 

 ドライバーと軍人は、損傷も中まで到達していた様だし仕方ないと割り切ることにした。メモリーチップ等記録媒体が生きていれば、それを引き出して何か分かるかもしれないが、そこはその道のプロに任せておくことにした。

 

 その後、M4たちと合流し、放置された追跡車両やらハンターの車など、片付けるものを片付けてから撤収していった。

 

尚、AR-15は自身のダミーを供養するまえに確認したところ、破けたところから、胸の部分がベニヤ板で真っ平らに作られていた事に気付いて衝撃を受け、それをからかったSOPiiが怒られていたのは言うまでもない。

 

 

………………………………………………

 

 

 

 「ああ!ハンターがやられた!」

 

 真顔でわざとらしく声を上げる代理人。ハンターからの信号が途絶えたのを確認しての一言。

 

 

 「どこのジャ○・ルイかしらねぇ…」

 

 鉄血のハイエンドモデルの人形が突っ込む。

 

 「…というわけで、次はあなたの出番です。……イントルーダー」

 

 

 

 「イントゥルーダーですわ」

 

 

 「…リテイクしてもいいですか?」

 

 「ダメですわ代理人。いくらハーメルンが一話につき最大15万文字まで書けるからって、甘えは禁物です。ここは一回で決めてくださらないと…」

 

 「むー。午後ローとお昼のドラマばかり見てるだけあってこういう事にはうるさいですね…」

 

 頬を膨らませる代理人。

 

 「ふふふ、ごめんあそばせ…ではもう一度。本番まで~…」

 

 イントゥルーダーは指でカウントを行いカチンコを鳴らした。

 

 

 

 

  

 「…というわけで、次はあなたの出番です。………イントルーダー」

 

 

 「 イ ン ト ゥ ル ー ダ ー

  で す わ 」

 

 

 

 …このやり取りは、興味本意で覗いていた鉄血人形兵曰く、テイク20まで続いたという。




というわけで、Vol.6は終わりです。



もう一度だけ。

どうしてこうなった(^ω^)


【補足?】
今回タイヤがどうたらこうたらって出て来てましたが、これはほんと大切です。
そして、『慣らし』はブレーキやエンジンなどの調子をみるにも必要です(ざっくり)

因みに恐縮ながら、経験談を一つ。
レーシングカートを乗っていた時、ろくに温めないタイヤでかっ飛ばすと滑りまくったことが…。
なので、車でもカートでも、レンタルでも何でも、走行時間がどうであれ、先ずはいきなり攻めず、何周か走って走ってタイヤを温めてから攻めましょう…あと、これは主に自動車でのことなのですが、タイヤの溝の残りも確認しましょうね…少なくなったら交換を(^ω^;)



ではまた次回!


代理人「君の心に、ブーストファイア!!」

今後、【戦場の走り方】内で見てみたいものは?(もしかしたら反映されるかもしれません)

  • 劇中に世界の名車を登場。
  • AR小隊vs404小隊のレース対決。
  • スオミを走らせよう。

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