とある世界の王都郊外
そこにはとてつもない数の兵士が王城へ向けて、まるで津波の様に押し寄せていた
現在進行形で攻め込まれている王城の玉座には、2本の莫大な力を放つ日本刀を携えた王が、眼を閉じ鎮座している
「陛下!敵軍がそこまで攻めて来てるぜ!マジで数がヤバい!!」
そう報告するのは、額に立派な一本角を持つ鬼神
その様子は、焦燥から余裕がなく、切羽詰まっていた
「敵は人界の者達が大半を占めた各界の混成軍の様です。おそらく人界が他の世界を煽動しているのかと。本当に忌々しい奴等です」
更に追加の報告をするのは黒い氷の鱗を持つドラゴン
先程の鬼神とは違い、怒りを湛えている
「……そうか…」
王はただ、静かにそれだけを口にする
抑揚があまり感じられない声音には、深い悲しみと静かな怒りが込められていた
「如何いたしましょう?今ならば逃走も出来ますが…」
そう問うのは王の傍らに控えていた、白銀の毛皮を持つ巨大な狼
「…分かり切った事を…王である俺が民を見捨て、逃げる筈もあるまい…かと言って、ここで俺が討たれるわけにはいかぬ…ならば答えは1つ。往くぞ。奴等の下らぬ願い、悉く滅してやろう…我が後に続け」
「「「我等が王の仰せのままに!!」」」
「……人は…そうまでして…理をねじ曲げたいか…」
そう呟く王の声は小さく、誰の耳にも届かなかった…
…それはいずれ来る争い…
─時は遡り─
聖界のとある病院で突然の爆発音が鳴り響き、病院内は騒然としていた
爆発音と共にとある部屋から赤ん坊の鳴き声が響いていた
「今の爆発はなんだ!?あの方向は…まさか!?」
病院の廊下を豪華な白と金を主とした服を着た20代後半程の男性が慌てて走っていく
─この男、何を隠そう、聖界の若き王なのだ
今日、自身の正妻が産気付き、ずっと我が子の誕生を心待ちにしていたのである
仕事を一段落させ、病院に着いてすぐのことだった
爆発音は妻の病室と同じ方向、これはただ事ではないと歩を早める
暫く走ると、前方から妻に連れ添っていたメイドが王を見付け、駆け寄ってきた
「陛下!おめでとうございます!無事産まれました!!」
メイドが告げた言葉は王が何よりも聞きたかった事だった
「そうか!良かった!それでどっちだ?男の子か?女の子か?」
「お喜び下さい!男の子と女の子の双子でございます!」
佳い事は1つではなかった
なんと子供は双子だったのだ
「おぉ…素晴らしい!だが先の爆発音はなんだ!?」
「それが…先に産まれた男の子が…産声と同時に雷を放ち…」
有り得ない事だ
産声で魔法を発動させるなど、聞いた事もない
「産声で魔法を発動したのか!?それで被害は?」
「周囲への被害は設備、人、共にありません!おそらく発動と同時にかき消したものと思われます。お医者様も凄まじい魔力を宿していると仰っております」
王は歓喜に身を震わせていた
当然だ、この次元において魔力とは才能だ
生まれながら我が子が莫大な魔力を保有する
それはいずれ自分の後を継ぎ、王になる者が強大な力をもって世界を護る事が出来ると言う事だ
「何と…これで我が世界の将来は安泰だ…今日は何とめでたい日だ!どれ、愛し子の顔を見に行こう」
「今は王妃と共に病室で陛下がお越しになるのを心待ちにしておいででしょう。報道陣も控えております故、お急ぎ下さい」
メイドに案内された病室のドアを、緊張した面持ちでノックする
「どうぞ」
「失礼するよ」
病室のベッドには長く美しい金髪をした王妃と、同じく金髪の双子の赤子が王を待っていた
「よくやった!よく頑張ってくれた!」
王は興奮冷めやらぬ、といった様子で妻を労い、涙すら浮かべる
王の後に続き何人かの大臣や報道人が入室する
「ありがとうございます…さぁ、抱いてあげて下さいな、貴方様のお子です」
「どれ、我が子達よ…
パパでちゅよ!
何と愛らしい!」
「ゴホン!陛下、人前です。お控え下さい」
「う、うむ、すまん…」
大臣に怒られた
待ちに待った我が子の誕生に完全に立場を忘れていた
この王、既に親バカなのだ
「貴方、この子達の名を…お願いしますね」
「大丈夫、既に考えてある。男の子は瑞稀、女の子は幸穂だ」
「瑞稀、幸穂。美しい名ですね。どのような意味が?」
「幸穂は、善き縁に恵まれ、この子にとって幸せになって欲しいと、願いを込めた。瑞稀は、いつまでも強く健康的に不自由なくいられるように。そして民の願いを汲み取る善き王になってくれるようにと、願いを込めた」
王の暖かな微笑みにつられ、王妃や周りの者も笑みを浮かべる
病室は暖かな笑いに包まれていた…
それから数ヶ月後
聖界は未曾有の大災害に見舞われていた…
それは星をも砕く吹雪、ワールドブリザードと呼ばれる大災害
空間すら凍てつかせ、全てを氷の世界に変えてしまい、常に強力な界を張り巡らしていなければ、瞬く間に死に絶えてしまうワールドエンド級の大災害が、聖界に直撃したのだ
「瑞稀と幸穂を無事人界に避難させたか!?」
「それが、殿下達のお姿が見えぬのです!」
「護衛の者達が宇宙船で避難させたのではないのですか!?」
「いえ、まだ避難用の宇宙船は1隻も出ておりません!全ての宇宙船をくまなく探しましたが見付かりません!!」
「そんな……」
…その後、王宮中を探しても双子は見付からず
吹雪が収まり聖界中を探しても双子を見付ける事は出来なかった…
その2年後王妃が心労で病を患い亡くなった…
王はあまりの哀しみに耐え切れず、王位を捨て辺境にて世捨て人となった
…そしてワールドブリザードから時は流れて9年後…
人界のとある貴族の館の庭で、1人の少年が木刀で素振りをしていた
「おい、アイツまた1人で木刀の素振りしてるぜ!」
「声がでけぇよ!聞こえるだろ!まぁいいや!ちょっとからかってやろうぜ!」
赤毛をした男の子2人が庭の隅で、1人素振りをする金髪の男の子を指差し嗤う
「………」
(…うるせえな…マジでウゼェ…)
彼の名は瑞稀
9年前にこの館の貴族に拾われた養子だ
貴族は鬼崎と言う鬼神の血を継ぐ一族の宗家、人界の五大貴族の1つだ
鬼神の力を受け継ぎ、膨大な魔力、卓越した剣技、強力な炎系魔法を主とした、鬼崎流と呼ばれる技は各界でも名が知れ渡る程、強大な力を持つ貴族だ
しかし、鬼崎の者はエリート意識がやたらと強く、自分達こそが頂点であり、それ以外は取るに足らないと考えている
他者を見下し、貶める事に疑問を抱く事すら無いのだ
「おい!瑞稀!どれだけ頑張ってもお前なんか出来損ないにうちの流派は教えないぜ!」
「そうそう!お前なんか魔力も無い、出来損ないだからな!」
「………」
そう、彼等が言う様に瑞稀は殆ど無いに等しい位の魔力しか保有していない…
「お前なんかただの人間にすら魔力総量で負ける出来損ないじゃねえか!」
「そんなヤツがうちの流派を使えるはずないもんな!無駄な努力なんかやめて、黙って俺たちの奴隷として生きていけよ!!」
だが一般的に考えても彼の魔力量は不自然な程少ない、少なすぎるのだ
とはいえ、子供にそんな判断が出来る筈が無い
だからいつも瑞稀は、魔力無しの出来損ないとイジメられている
「…うるせえな…」
「なんだと?!」
「もういっぺん言ってみろ!このやろう!」
「うるせえって言ったんだよ、てめえらみたいなバカにかまってやる暇なんかねえんだよ、どっか行けよ、シッシッ!!」
「このやろう!!瑞稀のクセにナマイキだぞ!!」
「ボコボコにしてやる!!!」
結果、瑞稀はボコボコにされた…
「コラー!!!お前ら何やっちょる!!」
そこに雷鳴の如く怒声が響き渡った
「ヤベ!じいちゃんだ!逃げろ!」
「逃げろー!」
鬼崎のワルガキ2人は脱兎の如く凄まじい速さで逃げていった
「全く、なんて逃げ足の早さだ…瑞稀や、大丈夫か?立てるか?」
そう言って瑞稀に優しく声をかけ手を差し伸べる
彼は瑞稀の養母の父、つまり祖父である鉄平
五大貴族の1つ、奈落一族の本家、奈良橋家現当主でもある
「………」
…2人に散々殴られ蹴られた瑞稀は9歳の子供とは思えない程、気丈に振る舞い泣く事も無く立ち上がり鉄平の手を払った
「…よけいなお世話だ…ジジイ…」
血を流しながらも瑞稀は館に戻っていった…
「……」
1人、庭に残された鉄平は瑞稀の背中を見つめながら心を痛めた
(瑞稀…いつも気丈に振る舞っておるがもう限界じゃ…このままではあの子が壊れてしまう…)
鉄平は瑞稀の様子を見るために、時間を見付けてはこうして足を運んでいた
鬼崎の子供達にどれだけ自分が道徳を説こうと、全く効果がない
ならばと瑞稀を庇おうとしても、頑なに瑞稀は鉄平の助けを拒み続けていた
まるで、何かに怯えるような眼をしながら…
(あの子は人に裏切られる事を恐れている…あの歳で既に人の醜い部分を見すぎた故に、人を信じる事が出来ぬ様になってしまった…儂が助けねばならん…何よりもあの子は、おそらく彼女の血を引いておるかもしれん…)
鉄平はこの日、瑞稀を引き取る覚悟を決めた
非常に読み辛く拙い文章で申し訳ない!
文才が欲しい(泣)