今回の出来事は今後の瑞稀にかなり影響を与えます
「瑞稀、力有る者には力無き者を護る義務がある。どんな力もそれを扱う者次第で有り様を変える。例えば、全てを滅ぼす力があったとする、それを世界を滅ぼす為に振るうのは容易い。でも全てを滅ぼす事が出来ると言う事は、あらゆる理不尽を砕き、大切な誰かを護る事が出来ると言う事だ。逆にあらゆる災厄をはね除ける守護だって、使い方次第でとてつもない暴力にだってなる。あんたの力はきっと将来、あんたを傷付けるだろう。それでも忘れちゃいけないよ?滅びは守護にだって成り得る。守護は滅びにだって成り得る。あんたの力はあんたの使い方次第で何にだって成り得る。何よりもどんな力もあんたの命の一部なんだ。目を逸らさず向き合い、捩じ伏せるんだ。あんたなら出来る。だってあんたは私の最高の弟子なんだから」
…声が聞こえる…
今俺は夢を見ている…
これは失った記憶なのか?
分からない…この声が誰なのか未だに思い出せない…
凄く大切な誰かだった気がする
かけがえのない人だった気がする
何よりこの言葉は…ずっと胸に抱き続けていた
誰かも思い出せないのに言葉だけが残った
結果、それは俺自身の揺るぎない信念と成った
また…声が聞こえる…
「あらゆる争いを止める方法を教えてやろう。それはな…お前が自身の力の全てを振るう事だ。そうさ!殺せば良い!!愚鈍な人間共を、かつて
これは俺の願望なのだろうか?
確かに幼少期、度し難い破壊衝動を覚える事はあった
持て余し周囲にぶつけた事も1度や2度じゃない
…でも…違う…これは俺の怨み辛みじゃない
この憤怒は、怨嗟は20年かそこらで積る様なモノじゃない
もっと根深く、覗くだけで呑み込まれてしまいそうな程暗く冷たい
「お前は誰だ?何故俺にそんな事を語る?」
それを視てはいけない
それを知ってはいけない
そんな気がして瑞稀は堪らず、怨嗟を撒き散らす声に問う
「クックック!そんな事すらお前は忘れてしまったのか?鬼崎の下朗共に魔素を歪められた結果か」
まるで瑞稀を嘲笑うかの様に吐き捨てる声は、もう耐えられないとばかりに笑い声を上げる
…ひとしきり笑いが収まると、今度は憐れみを滲ませた声音で告げる
「私はな……」
声は途切れ、
今、人界は騒然としていた
1週間程前から耳を疑う様な噂が、まことしやかに囁かれていた
王は魔族の血を引く穢れた混血だ
王は魔族と結託して人界を魔界化させる気だ
魔王が攻めて来たのも、その魔王をたった1人で3柱も退けられたのも、全て王が人界を支配するために謀った事だ
そんな噂が人界で囁かれ、一瞬で広まった
連日、新聞のトップやテレビのトップニュースとして報道され、今や、あれだけ瑞稀を支持していた国民は手のひらを反して瑞稀を罵倒した
あの王は悪魔の血筋だ
あの王は我らを裏切った
あの王は人間の王じゃない、魔王だ
殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!
あの穢らわしい王を殺せ!
誰もが口を揃えて瑞稀を罵り、王座から引き摺り降ろした
瑞稀は今、人界の秘境にある奈落一族の宗家総本山で身を隠していた
最早、人界に瑞稀の居場所は無くなっていた…
「……何故…」
瑞稀は茫然としていた
魔族の血?初耳だ
実の親すら知らなかったのに、知っているわけが無い
人界を魔界化?他種族との繋がりを強めなければいずれ、他の世界から復讐され人界は滅びる
そう思ったからこそ俺は、他種族との和解の道を選んだ
魔王と俺が結託して人界を支配?ただ俺は、民を護りたかっただけだ
ただ…民を護るために命懸けで戦った…
それだけだった…俺は…間違っていたのか?
俺は…今まで何をしていたんだ?
爺さん…教えてくれ…俺は…どうすれば良い?
瑞稀の養父、奈良橋徹平は2年前に病気で他界していた
国民から裏切られ、心の支えであった養父も居らず、幼馴染の唯は瑞稀のために、瑞稀の王への復帰を訴える署名活動を、友人の信介と一緒にしてくれていた
だが、賛同してくれる者は未だに一人も居ない
そんな状況がさらに、瑞稀を追い詰めていく
そんな折に先日、奈落一族宗家御館、真奈から聞かされた瑞稀の血筋の事と、ある秘密は、瑞稀を驚愕させるに足るものだった
「良いか?心して聞くが良い。お前の母の名は、宮小路幸葉。奈落一族の分家、宮小路家の娘じゃ。それが分かったからこそ、徹平もお前を引き取る決意を固めたのだろうよ。そして奈落一族は魔族の血を引く一族でもある。」
そして真奈はさらに、衝撃の事実を告げる
「宗家の養子に幸穂と言う娘がおるじゃろ?」
「ああ、知ってるよ。俺と同い年の子だろ、昔はよく一緒に遊んだよ。だが幸穂がなんだってんだ?」
「幸穂はお前の実の妹じゃ。ある日儂らは鬼崎の実験場跡地から二人の幼子を見付けた。お前と幸穂じゃ。幸穂は儂らが保護したが、お前は鬼崎に保護された。」
「…似てるとは思っていたが…まさか妹だとはな。だが何故今さらそれを俺に教える?」
「お前はどの道、人界にはもうおれん。ならば最後にそれ位の事を教えてやるのも良かろうと思っただけじゃ。」
「…どう言う意味だ?」
「そのままの意味だ。こうなってはお前はもう人界では生きられん。数日中に人界を発て、どこへなりとて行くが良い。」
奈落一族からすら見捨てられ、瑞稀は途方に暮れていた
これから自分はどうすれば良い?
これからどう生きていけば良い?
何もかもが分からなかった…
ただ…1つだけはっきりしている
人間は醜い…
ただこの身に流れる血が、自分達と違うからと言う理由で、命懸けで護ってくれた王を裏切った
自分達と違うからと理不尽に迫害し、侮蔑する
その醜悪、吐き気すら催す
もう…俺は…人間達のために戦いたくない…
滅びてしまえ…愚かな人猿共よ…
瑞稀の中に黒い感情が芽生え始めた…
…1人、人間達への憤怒を湛えた瑞稀に、何者かが気配を殺しながら近付いてきた
「…誰だ…俺に何の用だ…場合によってはその首貰うぞ…」
天空剣の柄に手を掛けながら、殺気すら滲ませ問う
瑞稀に気付かれた事で、気配を殺す意味を無くし、出て来たのは、1人の美しい女性だった
「何者だ?その魔力、人間では無いな?」
女性は美しい見た目とは裏腹に、禍々しい魔力をその身に湛えていた
女性は、瑞稀の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた
「ご明察。私は魔界の魔王の1人、セシルよ。」
魔王と聞き、瑞稀の殺気が跳ね上がり、天空剣を抜き放つ
「魔王が俺に何の用だ…同胞の敵討ちか?」
「違うわ、貴方を迎えに来たの」
「どう言う意味だ」
瑞稀は一切警戒心を緩める事無くセシルに問う
迎えに来た?殺しに来たの間違いだろ
瑞稀はそう思っていた
「貴方、人間達に裏切られたのでしょ?行き場なんて無いんじゃない?」
「…っ」
「なら、魔界に来なさい。魔王になれば良い。魔界は貴方を歓迎するわ。既に魔界の住人は貴方を招く事に賛成している」
「馬鹿な…魔王を退けた俺をお前達が歓迎する?誰がそんな戯れ言を信じる?」
瑞稀は疑心を隠す事無く露にした
だが、セシルはそれを聞き可笑しそうに笑った
「魔界の住人は良い意味でも、悪い意味でも馬鹿が多くてね。そう言うの気にしないのよ。兎に角1度魔界に来て、考えてみて?損はさせないわ」
そう言うセシルは、嘘を言っている様には見えなかった
仮にも、数年前に死闘を繰り広げた魔界に迎えられる?
しかも自分が魔王になる?
悪い冗談だと思いたかった
これではあの噂は真実である、と証言するのと同義である
だが、行き場が無いのも事実故、瑞稀は答えあぐねていた
とは言えいつまでもだんまりを決め込むわけにもいかない
…ここは賭けに出るか
「分かった。その話、受けさせて頂く。魔王になるかどうかは、少し考えさせて欲しい」
「分かったわ。では早速、転移魔法で魔界に行きましょう」
「よろしく頼む」
光が二人を包み、消えた時にはもう二人の姿はそこに無かった
こうして瑞稀は人界を去り、魔界に赴く事になった
最後に振り返った瑞稀の目には…深い憎しみが刻まれていた…
人界は今日、本当の意味で王を失った…
黎明の夢が消え、暴虐たる現実が顔を出した…
今回で第1章が終了となります
果たして瑞稀は人間の敵となるのか否か
今後瑞稀はどうなるのか
今回の出来事が瑞稀にとってターニングポイントになります