話の主な舞台が人界から魔界に替わります
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解き放たれる紅蓮、喜びを謳う女王
転移魔法の光が収まり、まず瑞稀の目に入ったのは、黒い城だった
周りは荒野が広がり、寒々しい情景である
何よりも、城の中から肌に感じる禍々しい魔力は凄まじいものだった
「ここは?」
瑞稀が共に転移したセシルに問う
セシルは瑞稀の反応が思った通りだったのか、上機嫌に答える
「ここは魔王城。数多に存在する魔王にも当然序列というものが存在するわ。そしてこの城に住まうのは最高位の魔王、魔界の正当なる王、メルフェレス・ヴェリオール女王陛下よ。これから貴方にはメルフェレス様に会って貰うわ。大丈夫よ、メルフェレス様は色々ぶっ飛んでるけどお優しい方だから。他にも貴方を一目見ようと主要な魔王が来てるけどね」
セシルの言葉に柄にもなく瑞稀が緊張を催す
天空剣は逆に楽しそうだった
(そう緊張するな、メルフェレスは悪い王ではない。むしろ警戒するべきは他の有象無象、バロム達三人以外の魔王共だ)
天空剣の忠告に首を傾げる瑞稀
銀狼達三人以外の魔王?
むしろ銀狼達の方が因縁がある以上、俺を目の敵にしそうなもんだが?
瑞稀がそう考え込んでいるのを見て、セシルが瑞稀に気付かれない様に笑う
(彼は面白い。こんな純粋な子が人間共の王だったとは。しかもバロム様方を退けるとはね。これから面白くなりそう)
そしてセシルに先導され、瑞稀が魔王城に入る…
瞬間、感じたのは多数の殺気だった!
城のロビーには幾人もの魔王が居た
皆一様に好戦的な笑みを浮かべながら瑞稀を睨み付けていた
咄嗟に天空剣の柄に手を掛ける
一触即発の様相を見せるその場に力ある声が響き渡る
「止めよ。彼はメルフェレス様の客人だ。あの御方の顔に泥を塗る気か。この馬鹿共が」
「言うだけ無駄です。バロムさん?不躾なこいつらは1人残らず殴り殺した方が、御行儀良くなりますよ」
「一人一人殴り殺すのも面倒だし俺が焼き尽くせばいいんじゃね?」
「「黙れゴリラ」」
「俺ゴリラじゃねえし!鬼神だしぃ!!」
銀狼と氷龍鱗が人形で、鬼神将が派手なアロハシャツを着て、漫才をしながら現れる
三人(三匹?)の登場に瑞稀とセシルが脱力する
他の魔王は瑞稀に向けていた殺気を三人に向け、侮蔑の眼差しを露にする
「チッ!おい銀狼、何しに来やがった?文字通りの負け犬に成り下がって魔王の座から堕とされた分際がよ。氷龍鱗、鬼神将、お前らもだ。魔王でも何でもねえお前らが、俺達魔王に偉そうな口を叩くんじゃねえ!分かったら下がれ!」
魔王達がせせら笑う様を見て、瑞稀とセシルは呆れ果てていた
身の程知らすが
二人がそう口にする前にその場の空気が重くなった
「大層な口をきくじゃないか…魔王を名乗りながら我等が人界に攻め込んだ時に、尻込みして共に来れなかった三下風情が…」
氷龍鱗の文字通りの氷点下の視線が魔王達を射抜く
「だから言ったじゃねえか!一人残らず焼き尽くしちまえば良かったんだ!こんな奴等が魔王をやってる事自体、俺は気に食わねえ!」
鬼神将がその身に炎を纏いながら、怒鳴り散らす
「…止めろ二人共、メルフェレス様の城で勝手は許さん。とは言え、貴様等も身の程を弁えよ。確かに我等は魔王の座を剥奪された。だが力まで失くしたわけじゃない。貴様等如き、全滅させるは容易い。分かったら貴様等こそ黙れ、この恥知らず共が。貴様等は魔王の面汚しだ」
銀狼の言葉で止めを刺され、魔王達が押し黙る
それを見て、これ見よがしにセシルが笑う
「フフフ!こんなお馬鹿さん達は放っておいて、メルフェレス様にお会いしてきなさい。バロム様方がご案内してくれるわ」
「…分かった。よろしく頼むよ、銀狼」
「バロムで構いませんよ、瑞稀様」
銀狼達の案内に従い謁見の間に向かう
その道すがらもすれ違う魔王達に睨み付けられ、瑞稀は居心地が悪かった
「…申し訳ない。恥知らずな魔王共が不快な思いをさせてしまい、代わりに御詫び申し上げます」
「…いや、別に。むしろ貴方方から殺気や怒気が感じられないのが不思議でしようがない」
瑞稀の発言に三人はきょとんとしていた
何か変な事を言ったか?
瑞稀は自分が可笑しな事を言ったのかと疑問に思った
それほどまでに彼等からは、負の感情が感じられなかった
「…俺は、何か可笑しな発言をしただろうか?」
「失礼。そう言うわけでは無いのです。むしろ貴方が気にしていた事が意外だったので、ちなみに我々は全く気にしてませんよ」
「そうですねぇ、瑞稀様との戦いは心踊る楽しいものでした」
「そうだぜ!旦那!勝者が敗者に気を使うんじゃねえよ!旦那は堂々としてりゃあいいのさ!」
三人は自分達が敗北した事を全く気にしていないと笑った
その潔い物言いに今度は瑞稀がきょとんとした
(なるほど、良い意味でも、悪い意味でも馬鹿が多い、か。確かにそうかもしれん。だが…後腐れなく、こうして接する事が出来る器の大きさ。敵ではなくなり、同じ魔界に生きる者となれば分け隔てなく接する。確かにこの三人は他の魔王より偉大な王だな)
内心三人の王としての器の大きさに、感動すら覚えていた
瑞稀は魔王と言う存在に抱いていた印象が良い意味で崩れた
…そうこうする内に謁見の間の前に着いた
三人は瑞稀の後ろに下がると、跪き中に入る様先を促す
そして謁見の間に入った瑞稀が目にしたのは、禍々しい魔力を、放ちながらも柔らかな笑みを浮かべ玉座に座る美しき女王だった
「いらっしゃい!貴方が瑞稀ね、待ってたわ!それはもう、首を長くして待ってたのよ?バロム達から話を聞いてずっと貴方に会いたかったの!あっ!ごめんね!挨拶がまだよね!私はメルフェレス!メルフェレス・ヴェリオールよ!よろしくね!」
…開いた口が塞がらなかった…
見た目は美しい大人の魅力溢れる女王
だが、その振る舞いは完全に少女のノリだった
(魔王ってのはマトモな奴は居ないのか!?いや、多分居ない!)
瑞稀の中の魔王への印象が悪い意味で崩れた…
「えっとね、貴方を魔界に呼びたいって言ったのは私なの!魔王には別にならなくてもいいわ!私の話し相手になって欲しいの!」
「と言いますと?」
「私ね、この魔界の初代魔王の血を引いているの。だから産まれた時から王位を継ぐ事が決まってたの。だから話し相手が居ないの。昔から周りには友達も、話し相手さえ居なくて寂しかった。だから貴方に私の話し相手になって欲しいの」
「…事情は分かりました。しかし、何故私なのでしょうか?」
「そんな堅苦しい話し方はやめて?寂しくなるわ。何故貴方なのかって聞かれると、何となくって感じかな!何となく貴方なら私と仲良くしてくれそうだから。バロムから話を聞いてそう思ったの!貴方と話がしたい、貴方の話が聞いてみたい、貴方に私の話を聞いてほしいって思ったの!」
…分からん!完全に分からん!フィーリングじゃねえか!
瑞稀は内心そう叫びたかった
謁見の間の扉の外でバロム達三人が爆笑しているのが聞こえた…
「…ふぅ、分かりました。貴方の話し相手になれば良いんですね?なりましょう!やればいいんでしょう!?」
やけくそ気味に瑞稀がそう言うと嬉しそうにはしゃぎ、メルフェレスが笑う
その顔はまさに無邪気な少女のそれだった
「あっ!忘れてた!瑞稀!貴方の魔力の封印、私が解いてあげるね!」
さらに爆弾を投下してきた!
「はい?」
「貴方の魔力の封印を私が解いてあげる!凄く強力な封印だから完全には無理だけど、貴方の力の覚醒の切欠にはなると思うわ!」
そう言うとメルフェレスは瑞稀に魔力を放った
直撃すると同時に瑞稀の内から膨大な魔力が溢れ出した
その魔力は大気中の魔素に反応して紅い、紅蓮の炎に変わった
そして魔力が収まり、炎が消えると瑞稀が驚きのあまり、固まっていた
「…これは、俺の魔力?これほどの魔力が俺の中に封印されていたなんて…」
今自分の中にある魔力だけでも、銀狼すら軽く凌駕するほどの魔力がある
「凄いわ!まさか少し封印を緩くしただけでこれほどの魔力なんて!」
封印を緩くしたメルフェレス本人すらあまりの魔力総量に驚きを露にする
「決めたわ!瑞稀、さっきは魔王にならなくていいって言ったけど、私の直轄の魔王、序列二位の魔王になって!貴方の部下にバロム、刻龍、斬鉄をつけるから!お願い!!」
「はあ!?」
「よぉし!そうとなれば貴方の魔王としての名が必要ね!そうだなぁ……うん!決めた!その荒々しい魔力!争乱と暴力を司る魔王、狂嵐の魔公子が良いわ!!」
「はあ!?まだ俺は引き受けるとは言ってねえぞー!!!!」
こうして、狂嵐の魔公子・瑞稀の誕生である
ちなみに、その話を聞いた銀狼、氷龍鱗、鬼神将は腹を抱えながら爆笑し瑞稀の部下になる事を引き受けた
そしてセシルは数時間笑いが止まらず、病院に運ばれた…
「俺の意思は無視かー!!!」
瑞稀の叫び声が魔王城に響き渡った…
瑞稀魔界に行く!そして魔王になる!(させられる)
ちなみにメルフェレス様は黒髪ロン毛の巨乳美人です