いずれ真理へと至る王の物語   作:Suspicion

23 / 53

戦争の準備に勤しむ瑞稀に春が来た!!
戦争の準備してる最中て…タイミング酷すぎる…



幕間 魔王と戦乙女

 

「お父様。私は魔界に行きたいです」

 

「…婚約者を決めねばならないこの時期に、何故魔界に?」

 

純白のドレスを着た姫と、同じく白を主とした正装を着た王が聖界の王宮の一室で話していた

 

「何度も言いますが私はお父様がお連れになった殿方とお会いする気はございません。それよりも会いたいのです。あの魔王様に。あの魔王様はあの人なのだから」

 

「…お前が以前話していた想い人か…しかし魔王か…今代の絶対神がお前を后に欲しがっている。確実に戦争になるぞ。聖界を滅ぼされるわけにはいかぬ」

 

「それでも…私は…あの人に会いたい…今だからこそ会いたいのです。あの人が本当に辛い時に私は傍に居てあげられなかった…もうそんな思いはしたくないんです!あの人の傍で支えたいんです!お父様…お願いします…どうか、身勝手な私のわがままを、どうか、どうか…」

 

「……」

 

泣き崩れる娘を前に強く言う事が出来ず、何とか娘の気持ちを汲んではやれないだろうかと思案するが、この場でどうこう出来る事ではない

 

「…もうよい、下がれ。その件は考えておこう」

 

「……分かりました…困らせてしまい申し訳ございませんでした…」

 

娘が部屋を出ると男性は椅子に腰掛け深い溜息を吐く

娘は大人しく、今までわがままらしい事を言った事がなかった

初めてのわがまま故、叶えてやりたいが非常に難しい問題である

噂の狂嵐の魔公子が娘の想い人であろうとそれはいい

聖界は中立。魔王と結婚しようとも娘を大事にしてくれるのなら構わない

だが今回は状況がよろしくない

よりによって絶対神が娘を欲しがっている

それを無下にして魔王と結ばれたなど、あの強欲な神々が許すわけがない

今の神界に思う所がないわけではない故に、娘を嫁がせる事を迷ってはいるが、聖界を滅ぼされるわけにはいかない

下手な事は…出来ない

神々の逆鱗に触れるわけには…いかない──

 

「…瑞稀様…」

 

涙を流しながら自室に戻った聖界の姫・ワルキューレはただただ彼の事を想う

会いたい…瑞稀様に会いたい…

会って想いを告げてお傍で支えたい

かつて人界にて出会い、歳月を重ね育んできた想い

最初は夢見がちな少女特有の憧れだった…

私が危ない時、颯爽と助けてくれる白馬の王子様…

私を助けてくれるヒーローの様な…そんな憧れでしかなかった

でも…歳月を重ねる毎に憧れは恋に変わった…

彼を知る程に惹かれていた…

彼の理想を知った…凄いと思った…支えたいと願った

彼の弱さを知った…愛おしいと思った…包んであげたいと願った

彼のひた隠してきた激情を垣間見た…悲しいと思った…その心を癒してあげられればと願った

想いは募るばかりだった…

それでも耐えてきた…あの人の迷惑になると…

この想いは私の片想いなのだと…

でも…もう耐えられない…

7ヶ月程前あの人が人界王を失脚させられた

驚いた…あの人が魔族の血を引いていたなんて…

お会いした時に魔力を感じられなかったから人間だと思っていた

でも…どうでもよかった…

例え魔族の血を引いていても、彼である事は変わらない

ただ彼の事が心配だった…

命を賭けて護ってきた人間達に裏切られた彼を思うと心が張り裂けそうになる…

すぐに彼を迎える為に情報を集めた

でも…彼は見付からなかった…

彼を恐れた政府に殺されたのか…

あるいは世界に絶望して自ら死を選んだのか…

生きた心地がしなかった…

恐らくあの時、彼が死んだという情報が入ったら私は彼を追っていただろう…

そして…つい先日彼は見付かった…

彼は魔王になって天界を落としていた

生きていた!生きていてくれた!

嬉しかった!ただ嬉しかった!

すぐにでも彼に会いたかった…

でも…絶対神様が私を后に迎えたがっていた…

彼は神々の敵対者…私が彼の下に行けば聖界に神々が攻め込むかもしれない…

彼にも迷惑をかけるかもしれない

…それでも…会いたかった…彼を支えたかった…

 

「…瑞稀様…貴方に…会いたい…貴方の声が…ききたい…!」

 

彼を想う涙は止めどなく流れていた──

 

 

父王は悩んでいた

どうにか娘の想いを遂げさせてやれないだろうかと

 

「どうしたものか。今の絶対神は強欲で傲慢。神としての己以外を省みぬ冷血漢。対して狂嵐の魔公子は民を最優先に考え、比類無き才覚を持ち、他者を慈しむ慈悲をもって魔界を統治している。天界との戦争も民のためと聞く。どちらが娘を大事にしてくれるかなど一目瞭然なのだがな…」

 

「…陛下。私に妙案がございます。魔王様次第ではありますが」

 

そばに控えていた秘書が意見を述べる

 

「述べよ」

 

「はい。姫様は政略結婚を忌避し家出をした事にするのです。そして事前に魔界に使者を送り、あちらの協力の下、保護して頂けば少なくとも聖界に危険はありません。絶対神様も馬鹿ではありません。姫様のわがままに対して武力などを使えば器量を疑われます。すぐに手荒な事はしないでしょう。その間に姫様と魔王様の婚儀を速やかに済ませるのです。問題なのは代わりに魔界が進攻を受けかねないという事です。魔界にとっていい話ではありません」

 

「…確かにいい話ではないな…だが…あの子のわがままを出来るだけ叶えてやりたいのだ。大至急、魔界に使者を送れ。魔界は人界との戦争を始めるという話を聞いた。その前に話を通せ!」

 

「はい!直ぐに使者を魔界に送ります!」

 

魔界に使者を送り、後は魔王の返答を待つだけだ

常識的に考えれば魔界に受け入れるメリットは無い

…果たして受けてくれるだろうか…

出来る事なら受けて欲しい

彼なら娘を大事にしてくれると思うから…

 


 

「瑞稀様。メルフェレス様がお呼びです。全ての事柄を差し置いて、急ぎ魔王城へ赴く様に。との事です。なんかいつになく真剣な顔でしたよ」

 

「…は?緊急事態か?」

 

「さあ?」

 

瑞稀とバロムは不思議そうに首を傾げるが、考えても分からないものは分からないので急ぎ魔王城に向かう事にした

人界との戦争まで後5日程前だった──

 

「狂嵐の魔公子・瑞稀。入ります」

 

「銀狼・バロム。入ります」

 

二人が片膝を着け礼をする

メルフェレスは玉座にてなんだか悪い顔をしている

まるで渾身の悪戯を思い付いた子供の様に

その傍らには魔界には似つかわしくない白い正装を着た者が居た

 

「よく来てくれたわ!」

 

「それでメルフェレス様。本日はどの様なご用で?」

 

「実は今、聖界から極秘裏に使者が送られて来たの!この人ね!瑞稀に頼みがあって来たのよ!」

 

「…聖界が俺に頼み?いったいどの様なものなのでしょうか?」

 

「私はもう聞いたんだけど!直接聞きましょう!いやマジで面白いわぁ!!」

 

瑞稀とバロムは何が何だか分からないと怪訝な表情を浮かべる…聖界の使者は冷や汗やら油汗で生きた心地がしない…

 

「狂嵐の魔公子殿。突然の事で驚きとは思いますが、どうかお話をお聞き頂きたい」

 

「前置きはいい。それで何の用なのだ?メルフェレス様に話を通した上で俺が呼ばれたのだ。無下にはせん。出来る限り話は聞こう」

 

「ありがとうございます。落ち着いて聞いて頂きたいのですが…単刀直入に申し上げると、我が聖界の姫を絶対神から奪って頂きたい!」

 

「「……は?」」

 

瑞稀とバロムが同時に疑問を口に出した

ぶっちゃけ落ち着いて聞けなんて無理である

瑞稀は思った

何のこっちゃ、こいつは何をトチ狂った事言ってやがるんだと

混乱し過ぎてぶっちゃけキレそうである

バロムは思った

今日の魔界はいい天気だと

混乱し過ぎて現実を認識出来ていないのである

 

「あっははは!!!二人とも面白い!!」

 

瑞稀とバロム大混乱

メルフェレス様大爆笑である

…ちなみに使者はストレスのあまり吐きそうである

 

「…詳しく事情をお聞かせ願いたい…」

 

何とか持ち直した瑞稀がキレそうなのを堪えながら問う

 

「はい、実は──」

 

 

 

「…なるほど。つまりそちらの姫が俺に会いたがっていると」

 

説明をされた瑞稀は頭痛がした

この忙しい時になんて面倒な事が起こったと

…自分の秘めた想いは見ない事にした…

 

「はい。ですがこれは婚約の申し込みと受け取って頂きたいと、我が聖界の王が申しておりました」

 

…更に頭痛が増した

ぶっちゃけ聖界の姫の事はよく知っている

だが、何故今さら魔王である自分なのか

 

実は瑞稀が人界の粛清部隊に居た頃、聖界の王が外交のため人界を訪れた事があった

その時彼女も一緒に見聞を広めるために付いて来ていた

彼女の警護についたのが瑞稀なのだ

父王が政治外交を行っている間、彼女の観光案内や話し相手になっていたのだが、その時人界の不穏分子の奇襲にあったのだが…

瑞稀一人に全て鎮圧された

彼女はそれ以来瑞稀に恋心を抱いていたのだ

彼女にとって瑞稀は自分を助けてくれたヒーローだった

…ちなみに彼女と瑞稀は出会ってから人界と龍界が戦争を始めるまでの数年間、文通をしていたのだ

 

…初めて会った時は何とも思わなかった…ただの護衛対象だった…

だが、彼女を観光案内しながら、色々な事を話し、様々な景色を見ながら表情を変える彼女を見る度に、美しいと思った…

最初は…そう…上っ面の美しさに眼を奪われた…

でも文通を通して彼女を知る程に内面に惹かれていた

彼女の強かさを知った…本当の強さを思い出した…俺もそうでありたいと感じた…

彼女の清らかさを知った…本当の美しさを思い出した…俺には無いものだと感じた

彼女の儚さを知った…本当に強くなりたい理由を思い出した…俺が護りたいと感じた

瑞稀自身、彼女に強く惹かれていたのだ

 

「いきなり婚約と言われても…ぶっちゃけ魔王と聖界の姫ではそちらにとってよろしくないのではないだろうか。俺と彼女では不釣り合いだろう…」

 

聖界の姫といえば神々すら見惚れるほどの美貌を持ち、誰もが羨むほどの抜群のスタイルを誇る

頭脳も明晰で、その知識は魔法、科学、政治とあらゆるものを兼ね備えている

戦闘技術も高く、神聖魔法と高度な魔法剣を使う事から戦乙女と言われ、あらゆる世界から求婚の申し出が絶えない

 

それに対して瑞稀は魔王

神々の絶対的敵対者

世界にとっての絶対悪

ついこの間天界を落としたばかりで全世界から敵視されている

しかも次は人界に攻め込もうといているので印象は最悪である

 

…釣り合うわけがないと瑞稀は思った…

…だが…

 

「…何故です?貴方は善き人だ。善き人に魔王もなにもないでしょう。貴方以上に姫様に相応しい相手など居ないでしょう。少なくとも我々聖界はそう考えております。なによりも姫様が貴方を望まれたのです。貴方を傍で支えたいと。王もまた、貴方なら姫様を大事にしてくださるだろうと」

 

「…っ!?」

 

聖界の使者は心底不思議そうに問う

魔王である自分を偏見無しで一個人として見て善き人であると言われたのも驚いたが、彼女自身の想いはとても嬉しい

…かつて何度、彼女を后に迎えたいと思ったか…

その度に考え直した…

まだ早い、もっと人界王として実績を積み重ね、政府の連中を黙らせてからでなければ彼女が恥をかくと…

もう遅い、この身は怨嗟に塗れ、魔王と成った。彼女には相応しくない。彼女も俺に失望しただろうと…

だが、彼女はこの身が魔王に堕ちれども、俺を求めてくれている

ならば!!

 

「…お引き受け致します。聖界の姫君・ワルキューレ様を奪わせて頂きます。彼女の準備が整い次第后に迎えましょう」

 

迷う事はなかった

彼女が俺を求めてくれているのなら、迷う必要なんてなかった

 

「おお!ありがとうございます!!急ぎ聖界へ戻り、王にご報告致します!」

 

「出来る限り早い方がいい。魔界は後5日程で人界との戦争を始めます」

 

「分かりました!本日中には姫をこちらに送り出せる様、速やかに準備に取り掛かります!」

 

聖界の使者が転移魔法にて聖界に帰還した後、瑞稀は一気に血の気が引いていく様な気がした

 

「…メルフェレス様。勝手を御許し下さい。俺のせいで神界と戦争をする事に…ですが!!魔界は必ず俺が─」

 

「あっははは!!さいっこうに面白いわ!!ねっ!バロム!」

 

「ふふふ、そうですねぇ。最高に面白いですね。色恋にて争う魔王と神。これ以上ない神々を潰す理由です」

 

焦る瑞稀を置いてきぼりで愉しそうな二人

二人とも悪い顔である

 

「……あの…え?」

 

「あ~笑った笑った!なぁに瑞稀?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」

 

「そういえば瑞稀様に言った事ないですね。魔界と神界が初めて戦争をしたのは色恋沙汰でですよ。ぶっちゃけ今回と同じ様なケースですね」

 

「え?は?マジで?初耳なんだけど…」

 

「だからね瑞稀!気にせず娶りなさい!そして神々をぶっ潰してやればいいのよ!魔界は貴方達の味方よ!思う存分イチャついて!思う存分暴れればいいわ!」

 

「…えぇ?そんなの有りかよ…」

 

…そして翌日、魔界にて瑞稀と聖界の姫君・ワルキューレの結婚式は盛大に行われた

…具体的には魔界総出で夜通し騒ぎまくって…

 

「瑞稀様。私は貴方と結ばれて幸せです…これからは貴方の隣で貴方を支えます!何があろうと貴方が何に成ろうと私は…貴方を愛し続けます!」

 

「俺も君と結ばれて幸せだ。この先何があろうと俺が君を護る。ずっと俺の傍にいてくれ、死が二人を別つまで…」

 

「はい!ずっと貴方のお側に!!」

 

瑞稀とワルキューレの幸せを肴に魔界のお祭り騒ぎは夜通し静まる事はなかった…

 

 





瑞稀に奥さんが出来ました!
本当ならもうちょっと前に結婚する予定だったんですが、ぶっちゃけ忘れてました(汗)
なのでこのタイミングですが無理矢理捩じ込みました

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。