いずれ真理へと至る王の物語   作:Suspicion

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今回ほぼ回想です



王の始まりの怨嗟、見え始める原点

俺は夢を視ている…

 

「瑞稀、逃げなさい!奴等の狙いは私だ!!あんたは私をおいて逃げて!!」

 

「嫌だ!!奏女様をおいて逃げるなんて、出来ないよ!!俺だって戦える!!俺だって奏女様の弟子だ!!」

 

深い森の中を複数人に追われながら逃げる2人

1人は見目麗しい和装の狩衣を身に纏う女性

その手には紅い炎を纏う刀を携えている

その身にはいくつもの傷があり、血だらけだった

1人は幼い少年。かつての瑞稀だ

その目には、涙を湛え、必死に訴えていた

女性は幼い瑞稀を庇いながら戦い、傷を負ったのだ

 

「馬鹿を言うんじゃないよ!!あんたみたいなガキにどうこう出来る相手じゃない!!私に庇われてた分際が、偉そうにほざくんじゃないよ!!あんたを護りながら戦う余裕はもうない。お願いだから…あんただけでも逃げて…」

 

そうこう言い合っている内に、木々の合間から夥しい数の矢が襲いかかる!

 

「瑞稀!!」

 

女性が瑞稀を庇い、抱き締める

矢は悉く女性の背中に突き立てられる

女性は地に伏し、瀕死の重症を負ってしまった

 

奏女様!嫌だ…俺をおいていかないで!立って!一緒に逃げよう!?」

 

瑞稀の悲痛な叫びが森に木霊する

女性は瑞稀の声に応える様に、刀を杖代わりにして、立ち上がる

 

「…私が…護る…この子をあんた達なんかに傷付けさせやしない…」

 

全身から血を流し、血塗れになりながらも、必死に立ち塞がる

 

「…あんた達が殺したいのは、私だろ…この子は関係ない…この子に手を出すな…」

 

「そうはいかない。確かに我々が殺したいのは貴女だ。だが彼は貴女の弟子だろ?我々にとって貴女の弟子だというだけで彼は十分危険だ。ここで一緒に死んで貰う」

 

追跡者の中で最も力を持つと思われる男が、女性に歩み寄り、そう言い放つ

その手には不可思議な紋様が刻まれた槍を携えていた

 

「それは…ロンギヌスの槍…私を封印するつもりか…」

 

「そうだ。貴女は殺しても時が経てば蘇る。ならば封印するしかない。いくら貴女でもロンギヌスならば封印出来るはずだ」

 

ロンギヌスの槍は、封印を司る神器の中でも、最強の力を持つと言われている

その槍はあらゆる魔力、魔素の干渉を無効化し、貫かれた者は体内の魔素の流れを止められ、目覚める事はない

男は最早抵抗する力すらない女性に向け、槍を構える

 

「さらばだ。遍く厄災を焼き尽くした無双の神よ」

 

女性は避ける事すらままならず、槍に貫かれ、槍に込められた封印式が作動し始める

女性は、最期の力を振り絞り、笑みを浮かべ、瑞稀に言葉を尽くす

 

「ごめんね瑞稀、約束守れなくて。どうか私の教えを忘れないで。強く生きなさい。自分の力に溺れる事なく、大切なものを護るために、力をふるいなさい。憎しみに囚われるなとは言わない。でもそれが全てと思わないで。強く在れ、瑞稀。私は…ずっと…貴方を愛している」

 

笑顔を浮かべたまま、彼女は動かなくなった

何が起きたか、理解出来ない

歩み寄り、触れてみた

冷たい。いつも温もりを与えてくれた熱はなく、少しずつ冷たくなっていった

 

奏女様…起きてよ…」

 

揺さぶり、声をかける

返事はない。いつも安らぎを与えてくれた柔らかな声はなく、沈黙だけがあった

抱き締める

少しの温もりが彼女から逃げない様に

しかし、少しずつ理解した

彼女は死んだ

彼女が与えてくれた温もりも、安らぎも、もうない

奴等が殺した

俺から大切な奏女様を奪った

殺してやる

俺の中に眠るナニカが暴れ出した

…ああ、そうか。このナニカがなんなのか分かった

これは俺だ。憎しみに染まった俺自身だ

自分の中で憎悪が際限なく、広がっていく

ナニカが俺に訴える

 

(奴等を殺せ!!あの人を殺した奴等を殺し尽くせ!!さぁ、謳え!!私の怨嗟を!!お前自身の怨嗟を!!)

 

その唄は、憤怒と憎悪に彩られ、瑞稀と瑞稀の中に眠る最悪の厄災の、2人によって謳われる

2人の唄はとてつもない力を伴って奏でられ始めた

 

「「我に宿りし救われぬ白龍よ!

怒りのまま解き放て!!

我が内に眠りし銀光の白龍よ!

再び天へと君臨せよ!!

 

全界を創造せし神々よ!

我を封じた理の神々よ!

汝等に封じられし我が真の力を思い出せ!!

汝等、我が銀幽たる雷にて滅せよ!!」」

 

周囲の木々を薙ぎ倒しながら、無尽蔵の魔力を放出させて、最悪の厄災は目覚める

 

「「愚かなものなり、理の神よ!!!!」」

 


 

「瑞稀様、神界の戦神が攻めて参りました。どうぞ迎撃の御命令を!」

 

「…早かったな。よし!全軍出陣!!我が後に続け!!」

 

「「「「我等が王の御心のままに!!!」」」」

 

瑞稀の後ろにワルキューレ、唯、バロム、刻龍、斬鉄、セシルと続き、その後ろには精鋭4000で構成された魔王軍が、これから始まる神々との戦争に、抑えきれぬ覇気を纏い、行軍を開始する

そんな中で瑞稀の表情は暗かった

 

(…昨日見た夢…いつもより鮮明だった…あれは俺が忘れている過去?だとすると俺の中に眠るのは白龍神王?それに、あの人が俺の師匠?だが、何を学んだ?思い出せない…それに、何故このタイミングに…嫌な予感がする…いや、今は神界との戦争に集中せねば!)

 

気持ちを切り換え、覇気を纏う瑞稀

不安を抱えながら、神々と魔王の因縁の戦いが始まる

 

 

 

 

 




いくつか明らかになった、瑞稀の過去
瑞稀の中に眠るのはかつて世界を破壊し尽くした二覇龍と呼ばれる最悪の厄災
何度か瑞稀の夢に出てきた女性は瑞稀の師匠
でも教わった技術は思い出せず

でも瑞稀に語りかける、瑞稀の中に封じ込められてるっぽいのはあと1人いたような?
それが語られるのはまだ先です


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