結局瑞稀はこうなる…
当然と言えば当然ですが…
「おかえり…瑞稀」
「…ただいま。ばあさん」
瑞稀は今、かつて人界にいた頃住んでいた奈良橋家に帰っていた
万感の思いが込められた育ての母からのおかえりは、かつてと変わらず暖かかった
魔王になった事、人界を捨てた事、想い出の詰まったこの家を捨てた事、後悔はしていない
それでも気掛かりだった
じいさんに先立たれ、唯一の家族である俺にまで置いていかれたばあさんは、大丈夫だろうか。新しく本家当主になった紗矢彦はばあさんを支えてくれているだろうか。俺は、ばあさんを置いていった事を恨まれていないだろうか。
そんな不安を吹き飛ばす程に育ての母のおかえりは、瑞稀を安心させた
「…少し…痩せたかな。ばあさん」
「瑞稀こそ、少し老けたんじゃないかい?」
そう言うとばあさんは瑞稀を抱き締めた
「こんなにも傷だらけになって…辛かったろうに…」
「大丈夫だよ。傷痕は残ってるけど治ってるから」
「身体だけじゃないよ…瑞稀。あんた、心もズタズタじゃないか…護りたいものを護れなくて…護れる力があったのに、護れなくて辛かったろう…」
ばあさんは瑞稀が覇龍化出来る事を知っていた
そしてディアレスト戦では、神という立場に縛られて使えなかった事も
「……大丈夫だよ…次は…絶対護るから…もう俺は負けないから…」
泣かぬ瑞稀の代わりに、ばあさんは瑞稀を抱き締め啜り泣き続けた──
「それで?急に帰ってきてどうしたんだ?」
現当主紗矢彦が落ち着いた頃合いを見て切り出す
こんな大変な時期に、なんの用も無く絶対神がここに来るわけがないと分かっている
「紗矢彦。先ずは礼を言う。プラエトーリウム・ソムヌスの件、本当に助かっている。それと一族から追放された俺の突然の訪問を許可してくれて助かった。今日はお前に用があってきた」
「瑞稀さんが俺に?嫌な予感しかしないなぁ…」
「単刀直入に言う。次代の絶対神として戦神になって欲しい」
「…は?」
「絶対神候補として戦神になれ」
「…いや…意味が分からない。俺でも分かるように言ってくれ」
「分かった。簡単に言う。俺の次の絶対神になれ」
「そういう事じゃなくてね!?俺を絶対神に据えようとする経緯を説明しろって言ってんの!!」
「…面倒臭いけど…説明するか…」
心底面倒臭そうな顔で瑞稀がほざく
そんなん説明されなくても察しろよ、と本気で思っているのだ
おそらくある程度、最近の情勢を把握していれば、瑞稀がセレスに対して覇龍化を使用する可能性があると推測する事は容易く出来る
しかし紗矢彦は瑞稀の覇龍化を知らない
というか瑞稀が白龍神王である事すら知らないのだ
何を隠そう紗矢彦は瑞稀すら超える変態であり、生粋の女好きなのだ
毎日毎晩、相手をとっかえひっかえしてずっこんばっこん
仕事は出来るが女と仕事以外の情報など調べないし、知りもしない
奈良橋家の管理だけなら世界情勢なんて知らなくても大丈夫なのだ
以前ワルキューレ達が瑞稀の為に訪ねてきた時も、紗矢彦はあんまり話を聞いていなかった
ただ瑞稀が危ない、高濃度の魔素による恒久的な治療が必要な事以外理解していなかった
そう、彼は馬鹿なのだ
「つまり瑞稀さんは、次にセレスと戦う時に覇龍化するから、俺に後釜をやらせたいと」
「…まあ…うん…そういう事だ」
紗矢彦に事情を説明した瑞稀は疲れ切っていた
紗矢彦は瑞稀が思っていた以上に馬鹿だったのだ
瑞稀が白龍神王の宿主であり、絶対神として覇龍化を使えない事
セレスとの実力差を逆転させるために覇龍化を使わざるを得ない事
覇龍化を使えば神の座を堕とされる事
現在の神界には後釜を任せられる者が居ないので、女癖が悪いという欠点を除けば、かなりの実力があり、人格者である紗矢彦に、次の絶対神になってもらいたい事
たったこれだけの事を説明するのに、2時間近く掛かったのだ
1つの事を説明すれば、それに対して質問され、質問に答えると更に詳しく説明を求められる
この繰り返しで瑞稀は辟易としていた
「分かった。俺が瑞稀さんの後釜になろう。だから絶対に負けるな。俺の中で瑞稀さんは絶対無敵のヒーローなんだ。戦場で屈する瑞稀さんの姿なんて見たくない。だから勝て。あんたの帰りを待つ人の為に勝て。あんたの背に希望を託す人達の為に勝て。あんたの往く先に未来を見た人達の為に勝て。あんた自身の夢の先を描く為に絶対勝て」
紗矢彦の眼は本気だった
普段は馬鹿で女たらしでちゃらんぽらんな紗矢彦だが、根は真面目で心根の優しい青年なのだ
「…任せろ。王に敗北は許されない。次は勝つ」
「おう。神界は任されるから、責任持ってセレスをぶっ飛ばせ」
後日、ばあさんを連れて紗矢彦は神界に合流し、瑞稀から最高神に話が通された
結論から言うと、紗矢彦の件は承諾されたが、瑞稀は最高神に怒られている
「…瑞稀。こういう大事な事は事前に相談せんか。前回の敗北を気にしていると思っておったが、神の座を捨てる必要は無いだろう。そなたには、全ての世界を別け隔て無く護るという理想があろう。神で無ければその様な事、不可能に近いぞ。その理想すら捨てる気か。まったく…自分だけで全部背負い込んで、全部自分だけで勝手に決めてしまうとこまで奏女に似おって、この大馬鹿者め。そんなに儂は信頼出来んか」
態度こそ落ち着いているが最高神は今、怒りが頂点に達する寸前まで来ている
親友の忘れ形見とも言える瑞稀が自分の知らない所で、神の座を諦める程に、自身の理想を諦める程に悩んでいた事に気付けなかった自分の不甲斐なさと、これ程までに自らを追い詰め、悩んでいたのに相談すらしてくれなかった事への怒りが、ふつふつと沸き上がってきていた
「…信頼しているからこそ、事前に言わなかった。貴方に相談すれば止められるのが分かっていたから、準備が整ってから言う事にした。それに貴方が神として君臨してくれているからこそ、いざという時に、安心して俺は神の座から堕ちれる。そんな事言ったら貴方は俺を叱るだろう?」
瑞稀の言い分に最高神の堪忍袋の緒が切れた
「当たり前だ!分かっておるのか?覇龍と成ればそなたは全ての次元にとって、恐怖の象徴と成るのだぞ!?そなたの理想は、想い描いた夢はどうする!?全てを護るのだろう!?力による覇道の支配ではなく、仁徳による王道の統治を目指すと、あんなにも希望に満ちた眼で、そなたは儂に語ったではないか!!覇龍と成れば理想の全てが塵と化すぞ!!そなたの夢見た永遠は、覇の
かつて瑞稀は酒の席で、自らが抱いた理想を語った
─最高神、俺さ、全てを護りたいんだ。差別とか迫害とか、あらゆる理不尽から全部を護りたいんだ。平等とまでは言わないけどさ、一人でも多くの人々が幸福な天命を全う出来る世界を創りたい。力による覇道の支配じゃなくて、仁徳による王道としての統治。覇王じゃなくて、王としてみんなを導きたい。それが俺の夢見る永遠なんだ─
その時の瑞稀の眼は希望に満ちていた
本来、瑞稀が目指したかったもの
魔王では、覇王では出来なかったもの
神だからこそ出来るものだ
「理想か…確かに全てを護りたい。今もそれは変わらない」
「ならば─」
「だからこそ、俺は再び覇龍と成る。仁徳による穏やかな統治、実現出来れば本当に素晴らしいだろう。だが、俺は気付いたんだ。穏やかな
理想を実現する為に、力を制限して王に成った
でも、それでは護れる者達を護れなかった。理想は遥か遠くに消えていた
考えた。考え抜いた。計算し尽くした
どうすれば護れるのか、どうすれば理想に近付けるのか
考え得る全てを行った
戦神全体での作戦会議。最高神との戦況の擦り合わせ。
それでも足りない
どう計算しても被害が甚大だった。護れなかった
だから、もういいのだ
王としての自分で勝てないのなら、覇王の自分に戻ればいい
王として皆を導く事叶わぬとも、この身を抑止とし、恐怖によって災いを抑えよう
同胞には繁栄を、敵対者には滅びを
恐怖をもって我が身を平和の礎と成さん
覇の理を掲げし覇王として、あまねく悪性に滅びを手向けよう
これらの理をもって瑞稀の往く先は決まった─
真なる白龍神王、白銀の魔王の再臨である
難しい事ばかり言ってますが、ようはこのままじゃどう足掻いてもセレスには勝てないから、覇龍使います!て事です
瑞稀の葛藤をもう少し上手く表現したかった…
作者の頭ではこれが限界でした…申し訳ないです…