「セレス。もう一度俺の話を聞いてくれ」
「…また、私が利用されているなどと…世迷言を言うのか?」
瑞稀との力の差を思い知らされたセレスは、力無く項垂れながらも、斬鉄に問う
「冷静に聞いて欲しい。お前が、理の神が直接敵地に攻め込む理由はなんだ?」
「理由?そんなもの、治める世界を護る為だ。他に何がある?」
「違う。それはディアレストが、お前が戦う理由であって理の神が戦線に出る理由じゃない」
「…何が言いたい?」
「理の神とは世界の要。世界の在り方を定め、魔素を循環させる者。世界の形を留める楔だ。理の神が死んだ時、魔素は循環が出来ず、世界もあらゆる法則を失い、最終的に形を保てず崩壊する。そんな危険を犯してまで、ディアレストの理の神であるお前が直接敵地で、命懸けで戦う理由はなんだって聞いてるんだ」
「…何を、言ってるんだ?私が…死んだらディアレストが崩壊する?そんな事があるわけが…無い。第一に理の神が死ぬ?そんな事があるわけ無いだろ…だって理の神は世界そのものだろ。死ぬわけ無いだろ。死ねるわけ無いだろ。お前は私を騙そうとしてる。そうやって言って私を動揺させて、お前こそ私を利用しようとしてるんだろ…!騙されるか…騙されるものか…」
「理の神だって死ぬ。理の神だって生命の理から外れてるわけじゃない」
「そんなことない!理の神は世界そのもので、世界が滅びない限り死ねない!ディアレストが在り続ける限り私は死なない!私はディアレストを護り続ける!」
「そもそもが逆なんですよ」
バロムが痺れを切らして割り込む
要領を得なくなっているセレスに相当苛ついているのだ
「逆?何を言ってる?」
「貴女は相当頭の出来が悪い様ですね。世界が在り続ける限り理の神が死なない?そんなわけ無いでしょう。理の神が在るから世界が存続出来るのであって、世界が在るから理の神が存続出来るわけではありません。理の神だって生命の理、つまり創造神が司る創造の真理には逆らえないんですよ。死ぬ事が無いなんてのは、無限にでも成らない限り不可能です。そして貴女は無限じゃない。無限の力を持っているのは魔導を極め、自らの生命すら造り変えるに至った者だけ。それを成したのは私が知る限り3人だけ。初代の成長を司る理の神と、無限の龍神ウロボロス、そして今は御隠れになっている創造神だけ。貴女ごときが至れるわけがない。というか魔力反応で貴女が無限で無い事は分かります。無限の力はその程度では無いですからね。そんな貴女が死なないなんてあるわけが無い。普通に死にます。貴女が死んだらディアレストも滅びるのに、なんで貴女が直接死地に出向いているのかと問うているですよ。まあ、知らなかったんでしょうね。貴女もディアレストの連中も。にしても不自然ですよね?なんでディアレストの連中は貴女を、貴女と貴女の騎士だけを寄越して、自分達は何もしないんです?貴女に全て押し付けて、自分達は安全なディアレストから出てこないんです?おかしいですよね?自分達の神が死地に出向いているのに、自分達は何もしないなんて、何を考えてるんですか?」
物凄い早口でまくし立てるバロム
苛ついて苛ついてしょうがないのだ
「それは、私がディアレストの最高戦力だから」
「最高戦力だから、なんです?討伐神様が居ないのは攻めてる内に把握してたみたいですけど、それに比肩し得る戦力が居るとは考え無かったんですか?こちらの理の神が迎え撃ってくるとは考え無かったんですか?白龍神王の存在を知っていたのに、白龍神王と敵対するとは考え無かったんですか?白龍神王だけでなく、片割れの黒龍神王の事は考え無かったんですか?普通は一回完膚無きまでに負けてるんだから、ここまで考えて、慎重になるべきでしょ。現に今代の白龍神王が瑞稀様であり、討伐神様の唯一の弟子である事を把握してませんよね?絶対神の時は諸々の関係で、瑞稀様は力を制限していましたけど、魔王に戻った瑞稀様は力を制限なんてしません。勝てます?無理ですよね?手も足も出ないですよね?貴女死にますよ?ディアレストの連中はこんな事も分からないんですか?瑞稀様が魔王に戻ったのは予想外にしても、考えが浅いんですよ。ディアレストの存続を掛けた戦争なんだから、自分達の神である貴女は死守すべきでしょ」
セレス、ボッコボコである
「というかこの戦争の言い出しっぺは貴女?それとも他の連中?」
「それは私の補佐をして、下界を治めている人間が」
「貴女じゃないと。なんだって今さら攻めてきたんです?なんて言いくるめられたんですか?」
「…下界の魔素が枯渇して、このままじゃ近い内に枯れ果ててしまうから…今すぐこちらに攻め込まないと限界が…だから魔素の聖樹を奪取する必要があるって…」
「貴女から見て、下界の魔素はそれ程までに枯渇していたんですか?」
「それは…だって…人間達が…」
「それ程切羽詰まっていたのかと聞いているです」
「…いや、それは…でも!理の神である私と人間達じゃ生存に必要な魔素は違いが…!」
「ありますね、違いは。
「そんなわけない!!だって人間達が言ってた!彼等は私より弱いから、生きていくには私よりもいっぱい糧を必要とするって!魔素だっていっぱい必要なんだって!力が無い分、いっぱい外から魔素を取り込まないと生きていけないって!言ってたんだ!だから私は!!」
「そんなわけ無いでしょう。魔素の保有量も、魔素核の限界硬度も、理の神である貴女より遥かに劣る人間が、貴女より魔素を取り込めるわけ無いでしょう。考えれば分かるでしょう」
セレスの必死の叫びにバロムはどこまでも冷静で冷たく返す
しかし嘘はない
バロムは真実のみを伝えている
だからこそ、セレスに現実を突きつける
「じゃあ…本当に…私は騙されていると?全てを捧げ、護ってきた世界に裏切られたとで言うのか?お前達が言ってる事が真実で、彼等が嘘を吐いてると言うのか?」
「貴女の世界の人間達が、貴女より魔素を保有出来るのなら、話は変わりますがね」
トドメだった
バロムの言葉でセレスの心は折れてしまった
「そんな…なんで…だって…ずっと私はディアレストの為に…何もかも捨てて理の神になったのに…ただ、皆を護りたかったから…神殿だって私の為にって…私がいたからディアレストは生きていけるって…本当に彼等は、私を利用して…!」
「もういい!もういいんだ!お前は頑張った!皆の為によく頑張った!」
心が壊れて茫然自失になったセレスを斬鉄が抱き締める
耐えられない
斬鉄には壊れてしまったセレスを放っていられない
限界だった
セレスは斬鉄に縋りつき、涙を流しながら叫んだ
「そうだよ!私は頑張ったんだ!ただの人間だったんだよ!燃えてた!何もかもが燃えてたんだ!だから祈った!助けてって!皆を助けてって!必死に祈ったんだ!そしたら声が聞こえた。助けてあげるって。私が人を捨てて理の神になるなら、世界を助けられるって声が聞こえた!だから捨てた!捨てて、理の神になった!声が言ったんだ。私は壊れてしまったものを直す力があるって。だから、燃えちゃった世界を頑張って戻した!人間だって頑張って戻した!完全に元通りには直せなかったけど、私は頑張ったんだ!人間達だってありがとうって!私のおかげだって!私の為に私だけの神殿だって建ててくれた!彼等からの感謝の証だって!ずっとそばにいてって言ってくれたんだ!だからずっとそばにいた!ずっと見守ってた!大好きだって言ってくれたんだ!私だって大好きだから、大好きだったから!ずっとずっとずっと!大好きだったから護りたかったんだ!!頑張ったんだよ…ずっと辛くても…1人で寂しくても…人間達が私に会いに来てくれなくなっても…大好きだから…頑張ってたんだよ…頑張ったのに!なんで!!私が、私がもっと上手くやれたらよかったのかな!?私が馬鹿だから駄目だったのかな!?あの時…世界と一緒に燃えて死んでたらよかったのかな!?私が理の神になんか…ならなければよかったのかな!?私がやった事は間違いだったのかな…」
心からの叫びだった
堪えていた全てを吐き出した
久しく感じていなかった人の温もりに耐えられなかった
「違う!お前は頑張った!お前は悪くない!世界の為になにもかも捨てたお前が悪いなんてあるもんか!」
「じゃあ何が悪かったんだよ!!」
「悪いのは人間だろ。お前の存在に、優しさに甘えたディアレストの人猿共が悪いだろ」
憎悪
瑞稀の声には隠し切れない、隠す気もない憎悪が溢れていた
自身も経験した人間達の裏切り
だから囁く
「間違いだったと思うなら壊せばいい。元より燃え滅びる運命だったんだ。かつてもディアレストの都合でこちらに攻めて負けた。過去から学ばず、また攻めて負けたんだ。今度こそ燃え尽きればいい。十分生きただろう。滅びる筈が今日までお前の献身のおかげで生きてきたんだ。その献身を裏切ったのだから、滅びるのは必然だ」
悪魔の囁きだった
ディアレストに裏切られて心が壊れ、過去の全てが辛く、喜びすら反転してしまったセレスには、甘く、抗い難い囁き
「旦那!でも滅ぼさなくても!なにもそこまでしなくてもいいんじゃないか!セレスは今心が傷付いてるから、そこまでしたら─」
「お前が支え護れば良い。お前がセレスを助けたいと言い出したんだ。責任を持ってお前がセレスを癒し、護れ。俺は元よりディアレストを赦す気はない」
「そりゃ責任もってセレスは俺が護るけどさ!いやでも!そこまでしなくたって─」
「良いんだ。なんだか、もうどうでもよくなってきた。私がやった事は無駄だった。私は全てを捨ててディアレストを護った。その私を裏切るなら、全て返してもらう」
「いやでもセレス─ホントに良いのか?お前が護ってきた世界が無くなるんだぞ」
「良い。お前が護ってくれるんだろ?お前が、私を説得しなければ何も知らずにいられた。責任…取って」
「…分かった。死ぬまでそばにいる。もうお前が泣かなくても良いように俺がずっとそばにいる」
「うん。そうしてくれ」
セレスはチョロかった!
斬鉄とセレス、2人の間に甘い雰囲気が漂いはじめちゃった!
だって恋なんてした事ない!
ずっと神として世界を護ってきたから、自分を護るなんて言われた事無いのだ!
斬鉄もセレスみたいな弱ってる女性を放っておける様なタイプじゃない
頼られるとコロッと行っちゃう
「…意味が分かんない…殆ど喋ってたの私じゃん。なんで斬鉄なの?ほぼ説得したの私じゃん…」
「お前はただ現実を突き付けただけ」
「そんな…納得出来ない…!アイツなんてセレスが折れた時に出張ってきただけじゃん!本来あそこは私であるべきでしょ!セレスに抱き着かれてウハウハするのは私であるべきじゃん!!」
バロムはどこまでも変態でしかなかった
ご都合主義で申し訳ない!