ゴブリンは皆殺しだゾン   作:SKYbeen

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第3話

 

 

 

 

 

 「さて⋯⋯」

 

 

 仄暗い洞窟、その小さな入口の前に仁はいた。ベルトを装着し、既に変身可能な体勢を取っている。

 ゴブリン退治。それが『白磁』である仁が出来る唯一の狩りだ。集団で攻めてくる彼らは恐ろしいが、それは素人の話。幾度となく死線をくぐり抜けてきた仁にとって、何ら脅威足り得ない。

 

 ふぅ、と一つ息を吐き、仁はグリップを捻る。

 

 

 《ALPHA》

 

 

 「アマゾン」

 

 

 《Blood and Wild! W-W-W-Wild!!》

 

 

 熱風が迸り、周囲の草木を吹き飛ばす。次の瞬間、仁はアマゾンアルファへと変身していた。

 強化された感覚が洞窟の内部を正確に察知する。どうやらゴブリンは討伐に向かった冒険者達を罠に嵌め、陵辱の限りを尽くしているようだ。

 特段、怒りを覚えることはない。これはただの狩り。ひたすらに獲物を殺し尽くせばそれでいい。胸の傷を軽くかきながら、仁は洞窟へと侵入する。

 

 暗い。松明がなければ視界が効かない程だ。迷路のように入り組んだ構造も重なり、何の対策も講じねば容易くやられてしまうだろう。仁には障害にもならないが、数多の冒険者がゴブリンに狩られてしまうのも納得だ。

 

 

 「ん」

 

 「GAAAA!!!」

 

 

 歩を進めていると、小さな横穴からゴブリンが現れた。まるでアリのように無尽蔵に這い出てくる。ゴブリンの習性として大きな道の死角となる部分に横穴を掘り奇襲を仕掛けるというのがあるが、実際目の当たりにするとよく出来た戦法だと言える。

 

 だからといって、それが成功するとは限らない。

 

 

 「邪魔だ」

 

 

 まず最初のゴブリンの頭を砕く。続けざまに四方八方から襲い来る連中はもれなく殺しまくる。実際、仁に戦法などありはしない。こちらに向かってくる肉の塊を処理すればいいだけの話。殴り、蹴り、切り刻む。たったそれだけで死ぬのだから何の苦労もない。

 仁がいる位置は洞窟を少し進んだ通路。ここまでに横穴は存在せず、ゴブリンは前方からしかやってこない。あとはただひたすらに殺し続ければいい。

 雑草を刈り取るように殺していると、途端にゴブリンは来なくなった。勝ち目がないと踏んで奥に引きこもりでもしたのだろうか?

 

 

 「逃がすかよ⋯⋯!」

 

 

 固まっているのなら好都合。手間が掛からずにケリがつく。死体の山をどけ、奥へと進む。道中足止めにくるゴブリンを殺しつつ、やがて最奥部に辿り着いた。

 そこには大量のゴブリンと、その奥には退治に赴いたであろう冒険者が複数人転がっていた。全員、死んでいる。生きていれば救助するつもりだったが、わざわざ死体を持って帰るつもりはない。単に彼らの実力が足りなかった、それだけだ。

 

 

 「GURUAAAA!!!!」

 

 

 決死の覚悟でも決めたのか、雪崩のように押し寄せるゴブリンの群れ。それを前にして仁は何の感慨を抱くことなくグリップを捻った。

 

 《Violent Punish》

 

 肥大化したアームカッター、増強した筋力。その二つが組み合わされば倒せぬものなどありはしない。容赦なく肉を引き裂き、穢らわしい臓物をぶちまける。逃走など許さず、一匹一匹確実に、それでいて迅速に駆逐していく。一方的な虐殺劇はものの数分で幕を閉じた。

 

 

 「ふぅ⋯⋯」

 

 

 他に生命の反応はなし。変身を解いた仁は上着のポケットから何かを取り出し、おもむろに口へと放り込んだ。ゆで卵だ。殻はあらかじめ剥いてある。いつだかのヤツは殻ごと食べていたが、流石にそこまで飢えていない。

 ゆで卵一つでは足りないが、エネルギー効率はいい。携行しやすく、手間なく食べられる。戦闘の始まり、あるいは終わりの際に食べるのがここ最近のルーティンだった。というより、単に好きだからなのだが。

 

 

 「⋯⋯これくらいは持って帰ってやるか」

 

 

 食事が終わると仁は冒険者達の死体へ向かい、認識票を千切り取る。生きるか死ぬか、シビアな冒険者にとってそれは己の生きていた証。然るべき場所に届けてやるのがせめてもの供養になるだろう。

 

 ベルトを片手に、仁は帰路についた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 冒険者登録を済ませてから十日経つ。燃料切れで倒れた時は焦ったが、担ぎ込まれた宿から食事を提供して貰い事なきを得た。他人からの食物を受けるのはポリシーに反するのだが、生きる為ならやむを得ない。なお、卵も宿からのおすそ分けだ。

 以降は冒険者として経験点を稼ぐ為、依頼に明け暮れている。一つの依頼が終わればまた別の依頼へと赴き、それが終わればまた別の依頼を。昼夜問わずこなしていくうちに近場の魔物はあらかた狩り尽くしてしまった。なので他の依頼がないか聞いてみたものの⋯⋯なにやら受付嬢の様子がおかしい。

 

 

 「なぁ、なんでそんな怒ってるんだ?」

 

 「誰のせいだと思ってるんですかっっ!!」

 

 

 怒髪天をつく、とはこのことだろうか。普段のおしとやかな態度はどこへやら、魔王のような角を幻視する程度には怒っている。その理由が仁にはさっぱり理解出来ない。

 

 

 「あのですねぇ!! 冒険者に成り立てではやる気持ちも分かりますが!! だからって一日中依頼を受け続けるのはやめてください!!」

 

 「自己責任だろ、別に」

 

 「だーーーかーーーらーーー!!! それが良くないんですっ!! もし死んだらどうするんですか!!? それに他の『白磁』級の人達にも悪影響を及ぼすかも知れないんです!!」

 

 「ったく、うるせぇな⋯⋯」

 

 

 ギャーギャーワーワー、がなり立てる受付嬢に仁は辟易していた。独自に狩りをするのは控え素直に依頼をこなしただけなのに、全く訳が分からない。第一、魔物を駆除するのは困っている人を助けることに繋がると説明していたではないか。

 

 

 「とにかく! 無茶なことはしないでください! 血まみれの戦士さんの認識票なんて、見たくありませんから!」

 

 「そうか。で、次の依頼は?」

 

 「そうですねぇ、次の依頼は⋯⋯じゃなーーい!!」

 

 

 まるでコントだ。近くの冒険者達は可笑しそうに笑っているが、こちらとしてはさっさと依頼を受けたいだけ。こんなやり取りをするのは凄まじく無駄だ。ほんの少しだけ仁にイラつきが募る。

 ふんすと鼻息荒らげる受付嬢だったが、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。それでも幾分か不満のようだ。

 

 

 「全くあなたという人は⋯⋯どうしてそこまで魔物を討伐することに拘るんです?」

 

 「なにがだ」

 

 「魔物の脅威を減らしてくれるのは感謝しています。ですが、あまりにも無鉄砲過ぎます。こんなことを続けていては本当に死んでしまいますよ?」

 

 

 連続での受注は認められたものではないが、仁の働きはめざましいものがある。驚異的なスピードで依頼をこなしていくものだからここら一帯の魔物はどんどん数を減らし、次第に遠のいていったという。ゴブリンだけはその特性上どうしようもないが、他の魔物はあまり見なくなったそうだ。

 おかげで襲われる村も劇的に減少し、仮初にしろ平穏な日々が続いている。わざわざ感謝を述べにギルドへ赴く村民もいる程だ。

 だとしてもそれは結果論。仁のスタイルが危険であることに変わりはない。命を削るような戦い方では受付嬢の懸念通りいつかは死んでしまうだろう。

 

 そんなことは、仁本人が一番理解している。

 

 

 「簡単な話だ。人を脅かす存在がいるのが我慢ならないんだよ、俺は。

 ゴブリンスレイヤー、だったか? 俺が戦う理由は多分、あいつとそう変わりゃしない」

 

 

 ゴブリンスレイヤーはその名の通りゴブリンを殺す者。この世に蔓延るゴブリンを一匹残らず殺し尽くす。仁の場合、その種類が増えただけだ。ドラゴン、悪魔、冒涜的な名の大目玉。それら全てが狩りの対象となる。

 狩りの理由はたった一つ。人に仇なす存在だからだ。それ以上でもそれ以下でもない。単純明快、シンプルな目的だ。

 

 

 「殺して殺して殺しまくる。一匹残らず根絶やしにする。じゃないとな、安心して死ねないんだよ」

 

 

 アマゾンを殺したように、魔物も殺す。世に平穏が訪れるまで、ひたすらに。果てのない、血を吐きながらも走り続けるマラソンだ。それでも鷹山仁という男が止まることはない。その命が尽きるまでは⋯⋯。

 仁の瞳を見て、受付嬢は何か空恐ろしいものを感じ取った。底のない真っ暗闇、何もかもを引きずり込むような深淵のよう。しかし獲物を求める獰猛な獣にも見える。ただ一つはっきり分かるのは、彼もゴブリンスレイヤーと同じなのだ。何にも屈さぬ信念を持ち、裁きを下す者。常軌を逸してしまった、タガの外れた男。自分ごときが止められる道理など、最初からなかったのだと。

 

 もはや諦めた彼女は、手元にある依頼書を仁に見せる。

 

 

 「⋯⋯ゴブリン討伐の依頼が三件あります」

 

 「またゴブリンか? あいつらゴキブリみたいに増えやがるな。ま、いいか。三件とも受ける」

 

 「分かりました。でも、一つだけ約束してください」

 

 「⋯⋯? なんだ」

 

 

 少し俯いていた受付嬢は、強い眼差しで仁の目を見る。

 

 

 「⋯⋯死に場所を探さないで。あなたに生きてもらわないと、安心して夜も眠れません」

 

 

 これまで何度も冒険者を送り出してきた。生きて帰る者もいれば、道半ばで散っていく者もいる。そしてそれは、後者の方が圧倒的なのだ。

 依頼はギルドを介してでしか受けられない。死地に送り出しているようなものだ。間接的にとはいえ、冒険者を殺しているのは自分だと、自責の念に駆られることも少なくはない。

 死んで欲しくない。ゴブリンスレイヤーも、他の冒険者も、仁も。ただ一つしかない命を大切にして欲しいと、願うしかない。だからこそ、無茶な行動を諌めるのだ。生きてもらう為に。

 

 

 だが、その祈りは届かない。

 

 

 「知るか」

 

 

 たった一言で切り捨てる。仁にとって、他人の思惑など関係ない。自分の使命を⋯⋯人間を守るという使命を果たす為に戦う。それだけの話だ。

 

 あまりの返事に受付嬢は言葉を失う。そんな彼女など意に介さず、仁は次なる獲物を求めギルドを後にした。

 

 彼を見送る受付嬢。その背中は、どこか悲壮に満ちたものだった。

 

 

 

 

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