ゴブリンは皆殺しだゾン   作:SKYbeen

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第4話

 

 

 

 「キリねぇなこいつら」

 

 

 既に変身してより半日。数え切れない程に転がるゴブリンの死体を見て、仁は呆れたようにため息をつく。

 受けた依頼はとうの昔に完遂、後は帰還するのみなのだが、ゴブリンの気配を捉えた結果こんな奥地まで来てしまった。依頼とは関係のない、完全な独断行動。ギルドにバレたら面倒なことになるかも知れないが、気に留める必要はないだろう。どうでもいいことこの上ない。

 しかし、このゴブリンという魔物はどれだけ増え続けるのだろう。十を殺したのなら次の日には倍の数に増えている。繁殖能力が異常に高い種族なのだろうか。それとも何かを媒介して増殖しているのか。あの溶原性細胞のように⋯⋯。

 

 ありえない。この世界にオリジナル、ましてやアマゾンは存在しない。飽きる程繰り返す殺戮の日々の中でさえ、その噂すら聞いたこともなかった。

 無論、世界は広い。まだ仁が知らない領域も多くある。その内に潜んでいる可能性も考えられなくはないが、何にしろ現実的ではない。この世界にやってきたことすら、神の悪戯としか思えないのだから。

 

 仁にとっての現実は、世に蔓延る魔物を狩り続けること。今はただ、それでいい。

 

 

 「⋯⋯なんだありゃ。遺跡か⋯⋯?」

 

 

 日が沈み、闇が支配しつつある大地。わずかに差し込む陽射しの先に大きな建造物を発見する。あまりの遠方ゆえに詳細は不明だが、何やら遺跡めいた風合いだ。

 そういえば、風の噂で森人が住まう土地の遺跡をゴブリン共が根城にした、と聞いたことがある。ここが森人の領地なのかは知ったことではないが、あの遺跡が本当にゴブリンの巣窟ならば駆除せねばなるまい。赤子すら残さず、その全てを。

 

 変身した今の状態なら大した時間は掛からない。食糧も多少備蓄はある。疲労は蓄積されているが、足枷にすらなりはしない。

 持ち得る能力を最大まで発揮し、仁は森を駆け抜ける。目まぐるしく変わる景色に方向感覚を失いそうになるが、それは通常の生物の話。ずば抜けて優れたアマゾンの感覚器官なら問題はない。木から木へと飛び移り、蹴り上げ生まれた推進力で突き進む。結果、たったの五分という短時間で付近の林内へと到達した。

 

 

(ビンゴか)

 

 

 息を潜め遺跡を伺うと、入り口にゴブリンの姿を捉える。見張りだろうか、二匹のゴブリンが複数の番犬を従え眠たそうに座っている。

 ゴブリンを狩るうちに分かったことがいくつかある。その一つは彼らの時間感覚だ。人間と異なるスパンを持ち、人間にとっての「夕」は彼らにとって「朝」。とっぷりと日が暮れ、「夜」となった瞬間こそが「昼」となる。ならば幾分か動きが鈍る今が狙い目だ。

 しかし、ここからだと少し距離が離れている。開けた場所にある入り口からでは、姿を晒してから仕留めるまでに数秒のラグがあるのだ。その数秒の間に増援を呼ばれる可能性を考慮すると、遠方から攻撃するのが賢明だ。

 

 幸い、手段はある。仁はそこらに転がる小石を拾った。

 

 

(さて⋯⋯上手くいくかね)

 

 

 狙いは脳天、撃ち抜くだけなら威力は要らない。ほんの少し穴を開ければそれで済む。

 手首のスナップを効かせ、投擲。音速にも匹敵する速度で飛来した小石は見事ゴブリンの頭を貫いた。続け様に小石を投げ、もう一匹と番犬共々を始末する。ぶっつけ本番だったが、この戦法は今後も活かせるかも知れない。

 

 あとは遺跡内部のゴブリン共を駆逐するだけだ。一応警戒しつつ、ゆっくりと入り口へと向かう。

 

 と、その時。

 

 

 「───ッ! ⋯⋯矢か?」

 

 

 大気を切り裂く音。それに気付いた瞬間、仁の眼前には一本の矢が飛来していた。超人的な反射神経をフルに活用し、すんでのところで掴み取る。あとコンマ一秒反応が遅れれば今度はこちらが脳天を貫かれていただろう。尤も、こんな程度では強固な生体装甲を貫くのは厳しいだろうが。

 

 さて、この矢を射ったのはどこのどいつだ。周囲に気を張り巡らせると、何やら素っ頓狂な声が耳に届いた。

 

 

 「うっそぉ!? 私の矢を掴んだわよアイツ!?」

 

 「何しとんじゃい耳長の! 得体の知れんヤツに奇襲なんぞするもんじゃないわい!!」

 

 「う、うるさいわね! どー見たってヤバいじゃないのあれ!?」

 

 「しっ、向こうに勘づかれるぞい!」

 

 「もう気付かれてる気もしますがなぁ⋯⋯」

 

 

 なんだ、あいつら。

 

 冒険者の一党だというのは分かる。恐らくは遺跡のゴブリン達を駆除しに来たというのも。だが、突然けしかけてきたのは頂けない。少しお灸を据えてやろうかとも思ったりしたが、彼らの漫才のようなやり取りを聞いてしまうとそんな気もなくなる。全くもって、阿呆らしい。

 とはいえこのまま無視すると遺跡でかち合うのは必至。また奇襲されるのは面倒だし、敵でないことを説明する必要がある。

 仕方なくそう判断した仁は、両手を上げた。無抵抗のランゲージは伝わったらしく、動揺はすれども攻撃の意思はなくなったようだ。

 

 がさりと草をかき分け現れる冒険者達。その中に一人、仁の知る人物がいた。

 

 

 「お前確か⋯⋯ゴブリンスレイヤー、だったか?」

 

 「うわっ! 喋った!?」

 

 「うるさいぞ耳長の。かみきり丸よ、知っとるのか?」

 

 「いや、こんな奴は知らん」

 

 「ん? ⋯⋯あぁ、そういやこの姿は見たことなかったっけな」

 

 

 ゴブリンスレイヤーとは一度会ったことがあるし、ギルドでも稀に見る。が、それは仁が変身していない時だ。アマゾンの姿は、ゴブリンスレイヤーにはおろか他の冒険者の誰一人見せていない。知らないのは当然だ。

 ベルトを外し、変身を解く。凍てついた冷気が収束していくと、そこには人間へと戻った仁の姿があった。

 

 そこにいる誰もが驚愕に目を見開く。よもや人間だと思っていなかったらしい。しかし、それは仁も同様だ。何せ一行は長い耳の少女、ずんぐりむっくりな老人、極めつけはトカゲがそのまま人型になったような者と、個性的の一言で片付けられない者ばかりなのだから。まともに人と判断出来るのは杖を持った少女くらいだろう。この世界に来てから驚くことばかりだが、今までで一番の衝撃だ。

 

 まぁ、いい。人間でない者もいるが、今のところ危害を加える様子はないし、放っておいても心配はないだろう。仮に敵対するのならそれなりの処置はさせてもらうが。

 

 

 「その遺跡にゴブリンの巣がある」

 

 「やっぱりか」

 

 「お前もゴブリンを殺しに来たのか」

 

 「ああ。別にお前らがどうしようと構わんが、邪魔したら潰す」

 

 「安心しろ。どちらにしろゴブリンは殺す」

 

 「答えになってねぇんだが⋯⋯まぁいいか」

 

 

 一見会話をしているようで、まるで会話になっていない。両者の思惑がすれ違うばかりで全く噛み合っていなかった。その上互いが互いに関心がない為、齟齬があったところで欠片も気にしていない様子。

 そんな二人の掛け合いを見て、妖精弓手は我慢の限界のようだ。

 

 

 「ちょっとそこのアンタァ! いったいどこのどいつか知らないけど、私達の依頼は超重要なものなの! なんたって只人と森人の同盟に関することなんだから! この依頼を受けられるのは私達だけだし、アンタは正規の依頼受けてないんでしょ? ギルドにバラされたくなかったら今すぐ───」

 

 「知るかよ」

 

 「はァっ!? ちょっ、私の話聞いてた!?」

 

 「ああ。で?」

 

 「"で?"って⋯⋯アンタ、これがギルドにバレたら認識票剥奪されるわよ?」

 

 「だから言ってんだろ。知るかってな」

 

 

 猛る妖精弓手。対して仁はこの上なく冷ややかだ。彼女の言葉など耳にも留めず、どうでもよいとばかりに冷たい視線を送る。小うるさく喚いていた妖精弓主だったが、仁の視線がいたたまれず口を噤んでしまった。

 

 

 「いやすまんの。どうにもこの娘は要らんことを口走るクセがあってな」

 

 「気にしてねぇよ。じゃあな」

 

 「少し待たれよそこの御仁。何も我々は無駄話をしたい訳ではないのだ」

 

 「⋯⋯なんだってんだ」

 

 

 やたら背の低い、ずんぐりむっくりした老人。そして蜥蜴が人型になったような大男。その両者に引き留められ、遺跡に向かおうとした仁は少しイラつきながら振り向いた。

 

 

 「此度のゴブリン討伐なのだが、今回の規模は通常のものとは比べ物にならない程大きい。単独での行動はいささか危険ではありませんかな?」

 

 「なにが言いてぇのかはっきりしろ」

 

 「お前さんがどれ程のモンかは知らんが、如何にゴブリンとて数が数。塵も積もれば山となるとは言わんがの、ここは徒党を組んだ方が盤石じゃろうて」

 

 

 つまり、仲間に加われと。

 

 別に誰かと組むのはこれが初めてではない。かつては水澤悠を含めた駆除班の面々と共闘したこともある。だがそれは、当時の仁では敵わない敵がいたからだ。ゴブリンがどれだけ数を重ねようとも、それが仁にとっての敵足り得るか? 断じて否である。ゴブリン百体よりも駆除班の方が百倍強い。

 

 悪いが断る。その言葉が喉元まで出かかった時、妖精弓手が甲高い声を張り上げた。

 

 

 「なっ、コイツを一党に加えるって訳!?」

 

 

 随分と耳に障る声だ。何とかして黙らせたいが、その役目を鉱人が買って出る。

 

 

 「落ち着け耳長の。何も間違ったことは言っとらんじゃろ。儂らだって無駄な犠牲は出したくない。それに潜んどるのがゴブリンだけとは限らんのだし、戦力は多いに越したことはないじゃろうて」

 

 「拙僧も鉱人殿に同じですな。特に拘る理由もない故、一党に加え入れても問題はないでしょうや」

 

 「うう〜⋯⋯アンタはどうなのよオルクボルグ!」

 

 

 どうにも言いくるめられそうな妖精弓手は、とうとうゴブリンスレイヤーに話を振り始める。気になる彼の回答は⋯⋯。

 

 

 「構わん。むしろ戦力が増えるのなら役に立つ」

 

 「わ、私もゴブリンスレイヤーさんがそうおっしゃるなら⋯⋯!」

 

 

 ゴブリンスレイヤーの、ついでに便乗してきた女神官の答えを聞き、妖精弓手はがっくりとうなだれる。まだ仁の返事を聞いていない辺り何とも勝手な連中だが、もはや断ることすら面倒に感じてきた仁。別にいてもいなくても変わらないし、もうどうでもいいと考え始めている。

 

 

 「⋯⋯〜〜ッッ! もうっ! 足引っ張んじゃないわよアンタ!!」

 

 

 それはこっちの台詞なんだが。心の中で、仁は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 






とうとうあの3人組登場。金床ちゃんほんとすき。
女神官の影が薄いのは許してください⋯⋯。だってどうやって仁さんと絡ませりゃいいんですか!!(逆ギレ)
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