黄昏のエルメリア短編集   作:三代目盲打ちテイク

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天照太陽に下れ、盲目なりし黄金狼

「レイアーワース新聞社? 記者の方が私に何用でしょうか?

 ――閣下の取材。なるほど、戦意高揚のための……は? 特集? 女性将校と親衛隊、閣下についての?

 はぁ、なるほど? では、私は何を? 閣下との出会い、ですか……そうですね……ええ、とてもよくおぼえていますよ。あれは――」

 

 ●

 

 イルデイズ・フォン・ウィルトール。

 閃光。太陽。薔薇。英雄。

 数多の言葉で呼ばれる女。

 小国でありながらただ一人の英雄の誕生によって、大陸中を震撼させた軍事大国ファブラサルス初代総統。

 

 その輝きは数多の者を魅了した。

 望んで傘下に下る者もいた。

 逆に、その輝きに泥を塗らんと暗躍を開始した者もいる。

 

 妬み、恐れ。

 輝きが強ければこそ生じる影の淀みは、近隣諸国の中に紛れもなく存在していた。

 名を神聖領域リーアル。

 ロストを神とあがめる狂信者たち。

 荘厳なる至高神の御神体とされているS級ロスト終末神・シヴァは、昨今のファブラサルスの侵略行為を良しとはしていなかった。

 

 だが、真正面から戦って勝てるとも考えていない。

 化け物どもが集まった国に対し、リーアルの兵士らは役に立たぬ。

 シヴァが手繰るにしても性能差がありすぎる。

 故に一人の少女を送り込むこととする。

 

 ――アデリナ・ヴァイデンライヒ。

 リーアルの路地裏を生きた孤児だったモノ。

 ただただ消費されるだけの存在を、調教し、調整し、凌辱の限りを尽くし、暗殺者へと仕立て上げた。

 

 リーアルにおいておそらくは、上位の暗殺者になるだろう。

 第九柩の名を与えられ、シヴァの加護は最上位たる王の位。

 彼女以上の暗殺者はシヴァの指で数えるほど。

 まさしくシヴァの

 

 命令はただ一つ。

 傲岸不遜に太陽を喰らうこと。

 今、魔狼の首輪に繋がる鎖が解かれる。

 

 よって彼女は今、レイアーワースにいる。

 くすんだ金髪に、深すぎる蒼空の瞳はただ総統府を見つめていた。

 巨大な鋼鉄の城。

 深夜ながらも光を失わぬ現代の魔塔を見つめ――

 

「いと慈悲深き、至高の神よ、汝の御力をどうかお貸しください――接続(アクセス)

 

 祈りとともに摩天楼から身を躍らせる。

 大気を踏みしめる。

 柩と呼ばれるリーアルの戦士が持つ物質を媒介に、発動した術が彼女の体に風を踏ませる。

 

 猫のごとき軽い身のこなしで侵入し、足音をも立てず彼女は目標の部屋へとたどり着く。

 すでに下調べは済んでいる。

 この時間帯、総統は一人でいることも、護衛が引継ぎで一瞬だが離れることも。

 その間隙を熟練の暗殺者は逃さない。

 

 総統の部屋というにはいささか飾り気の少ない部屋だ。

 華美な装飾はなく、しかして厳選された調度品は紛れもなく貴種の風格を漂わせる。

 

「ふむ、手練れだな」

「――!」

 

 かけられるはずのない声が背後から響く。

 ただそれだけで、頭蓋を揺さぶられたかのような衝撃。

 振り返ることすら全身全霊の気力を必要とした。

 

 そこにいたのは女だ。

 ただの女ではない。

 神の怨敵。

 アデリナが殺すべき存在。

 イルデイズ・フォン・ウィルトール。

 

 なるほど、まさしくこれは怪物(えいゆう)だ。

 ただそこにいるだけで世界を己の色に塗り替えるほどの覇気。

 黄金に輝く双眸にあるのは太陽の如き強い鋼の意志。

 

 駄目だ。

 アデリナの脳が、その先にいるシヴァが、それ以上この女を生かしておいてはいけないと叫んでいる。

 少女もまた、目の前の英雄(ばけもの)の姿に戦慄以外の何かを感じ――すぐにそれにふたをする。

 

 こいつは駄目だ。

 これは駄目だ。

 ただ目の前に立っているだけで、跪きたくなる衝動が抑えられない。

 これほどまでに美しいものをアデリナはシヴァ以外に知らない。

 

「しかし、最上位の暗殺者と聞いてどんな屈強な男が来るのかと思っていたが、それが貴官のような愛い少女とはな」

「なぜ……」

 

 本来ならば眠っているはずの女。

 その寝首をかくはずだった。

 それは失敗した。

 そうしなければならないと神様(シヴァ)が言っていたのに。

 失敗した。失敗した。

 

「うちにはそういうのが得意な者がいてな、あれは実に愛い。私を天使などと慕っていてな――まあ、貴官には関係ないことか。

 さて、どうする暗殺者? 暗殺は失敗した。次なる手は用意しておろう?」

 

 次の手。

 どうする。

 ただ殺せばいい。

 だが殺せるのか?

 

「どうするのかな、アデリナ・ヴァイデンライヒ。第九柩の女」

「…………」

 

 逃げるか?

 

「おや、帰るのか? それとも私より外にいる瞋恚の炎の方が好みか?」

 

 無理だ、出来るはずがない。

 

「まさか、嗜虐無情ならばなどと思っているわけではあるまい。あれもまた眩いぞ」

 

 ならば戦うか?

 

 無理だ、勝てるはずがない。

 

 目の前の女が何をしていたのか、アデリナは正確に知っている。

 イルデイズ・フォン・ウィルトールはまさしく化け物だ。

 ならば――

 

「殺します」

 

 殺せばいい。

 どのような怪物でも、どのような化け物でも。

 彼女が人間であることに変わりはないのだから。

 

 その心臓に剣を突き立てれば死ぬのだから。

 なにより

 

「私は、我らが神に逆らう愚者を、その肉の一片たりとも許しはしません。

 その魂の髄までも焼き尽くし、殺します。それこそが我が神に奉げる献身なれば」

「ふむ。ならば戦うということかな。良いだろう。相手をしよう。さあ――来るがいい」

「いいえ、殺すだけです。

 嗚呼、神よ――我が神よ、怨敵殺す我が献身を見よ(アクセス―ナンバーナインパイモン)

 

 開戦。

 起動する神の業。

 リーアルの業。

 シヴァから与えられた王の加護が発動する。

 この空間をアデリナは自らの色へと染め上げる。

 神より与えられた権能が駆動する。

 

「ただ死ね」

 

 戦いなどではない。

 ただ死ね。

 それだけでいい。

 

 逆手に持った神器をふるう。

 

「おっと」

 

 その刃をイルデイズは剣を鞘から抜くと同時に受け止める。

 否、それだけにとどまらない。

 彼女の戦技はこの程度では断じてありはしない。

 

 能力起動。

 躊躇なく晒す己の神技。

 アデリナが行使する権能は大気を味方につけること。

 この空間そのものが彼女の刃である。

 

「切り裂け」

 

 ただ死ね。

 空間そのものがイルデイズへと殺到する。

 

「これがリーアルの業か」

 

 だが、その黄金を傷つけるに能わず。

 全方位から放たれた風の腕は、イルデイズに傷一つつけることはない。

 

「なぜ」

 

 風が彼女の手を離れていく。

 イルデイズの周囲の風が、言うことを聞かない。

 

「なぜ」

 

 神の権能は機能している。

 信仰心が揺らいだことはない。

 いつも通り、己を奉げているはずだ。

 柩は己で満たしている。

 ならば――なぜ――。

 

「さて、ではこちらからも行くとしよう」

「――ッ!」

 

 考えている暇などありはしない。

 ただ一歩、踏み込んだだけでイルデイズはアデリナの目の前にいた。

 振るわれる一剣。

 

 否、四つ。

 左右、上下。

 一度に見せる斬撃に四つの斬線が内包されているのをアデリナは見た。

 

 受ける?

 馬鹿な。そんなことできるはずなし。

 ならば躱せ!

 

「ぐッ!」

 

 神の力を以て、アデリナは自分の身を壁へとたたきつけた。

 斬撃は空を切る。

 いいや、イルデイズの剣はアデリナを捉えている。

 

 彼女の心眼はすでにアデリナの心中を見切った。

 アデリナの行動が躱すために己に大気をぶつけ避けることならば、それを計算したうえで軌道を修正すればいい。

 刹那の判断。

 ミリ単位の身体操作がさせる技だ。

 

 まさしく絶技であるが、こんなものイルデイズが持つ戦闘術理からすれば余技でしかない。

 この程度のこと誇るでもなく、たたえるべきは、それすらもわずかながら躱して見せたアデリナの技巧であろう。

 

「ほう。これを躱すか。良い良い。実に――楽しくなってきた」

 

 まさしく、イルデイズが相手取るにふさわしい刺客である。

 

「…………」

 

 対するアデリナの心中は穏やかとは言えない。

 痛みなど信仰心でいくらでもねじ伏せるが、先の斬撃の威力は、それだけでアデリナの気力を奪っていった。

 防御するなど論外。

 躱すことも難しい。

 何より、目の前に立っているだけで、アデリナは消耗していく。

 

「安心しろ。いくら暴れても人は来ん。貴官との逢瀬(イクサ)に無粋な邪魔などは入らせんよ」

 

 それは逆に、絶対に逃がさないということでもある。

 

「……神よ」

 

 献身を神は見ている。

 神からの命令は絶対。

 命を懸けて殺せ――。

 

 ただそれだけだ。

 そう、そのためならば命すら捨てよう。

 

 まずは――

 

「神よ我が腕を受け取り給え――」

 

 与えられた権能。

 行使するは大気の巨腕。

 この空間ごと押しつぶさんと猛る不可視のそれ。

 

 だが、その程度などイルデイズはどうとでもしてくる。

 これはただの時間稼ぎ。

 一瞬でもよい。

 その一瞬を暗殺者は見逃さない。

 

 刃に風をまとわせる。

 超高速で乱回転する刃。

 自らの腕すら切り刻み始めた異形の風刃を己の肉体ごと打ち出す。

 

 疾走。

 もはや尋常な人間の肉体限界を超えた駆動。

 それは刹那でもイルデイズの認識を振り切った。

 

「ここで死ね!!」

「断る。まだ死ぬわけにはいかんのだよ」

「――!」

 

 それでもなおイルデイズは、振るわれる刃に己の剣を合わせた。

 見切り? 

 否。

 人間の動体視力は振り切っている。ならば、心眼か。

 否。

 相手に気取られぬように細心の注意を払った。己の心を御することこそ暗殺者だ。何より、これをなしたのはシヴァだ。アデリナは体を神に操縦させただけ。イルデイズの心眼であろうとも読み切れぬ。

 では、直感か。

 是。

 

 イルデイズの未来視の如き直感が、アデリナのナイフを止めさせた。

 異形の刃が暴発する。

 

 風の咆哮。

 金属の悲鳴。

 轟音とともに砕け散るイルデイズの剣とアデリナの左腕。

 

 問題ない。

 右手にはまだ刃がある。

 右手内部よりナイフが飛び出す。

 

 仕込まれた短刀が皮膚と肉を突き破りイルデイズの首へと迫る。

 

「ああ、良いな。実に愛い。故に残念でならん。貴官はもっと強かろう」

 

 何を言っているのか。

 そんな疑問すらアデリナにはない。

 神の命じるままに動くだけだ。

 

「だからな、貴官に見せてやろう、私の愛を。起きろ、ファーリア――戦争の時間だ」

 

 優しく、されど下された絶対命令。

 虚空より現出する黒十字。

 彼女の剣。

 彼女の刃。

 

 それがまるで意思を持つかの如く、アデリナの短剣を叩き落す。

 

「貴官は強者だ。故に――その首輪を切ってやろう。本当の貴官を私に見せてくれ」

 

 さあ、刮目せよ。

 大輪に咲き誇る薔薇の花を。

 天頂にて荘厳に輝く太陽を。

 万象一切ことごとくを照らす愛滅の恒星が今ここに、その術理を抜刀する。

 

「絢爛たれ、揺蕩う赤の薔薇。微睡む愛を我らと示せ――」

 

 紡がれる起動序説。

 ポラスによる愛の業(グローセ・ベーア)の発動を告げる宣誓歌。

 朗々と、しかして灼熱を超過した無限の熱量で以て、星の輝きがごとく祝詞が謡いあげられる。

 

「それを待っていました――」

 

 アデリナは聞いていた。

 愛の業。

 彼女と、彼女の親衛隊と一部の上級将校たちが用いるポラスと呼ばれるシュテルンを用いたいわゆる必殺技。

 それの発動に必要なのは、歌劇(ミュージカル)の如き詩の詠唱。

 戦闘において、致命的な隙であると聞いていた。

 

 暗殺をするならばここだ。

 そう戦いではどうあがこうとアデリナ・ヴァイデンライヒはイルデイズ・フォン・ウィルトールには勝てないのだ。

 だからこそ、絶大な隙を晒す愛の業を待っていた。

 そのために腕すら奉げた。

 さあ、殺そう。

 謳い上げるその喉に刃を走らせるのだ。

 それで終わり。

 

 だが――

 

「私は恒星。硝煙を纏う愛の星。抱いたものは勇気への賛美。

 望むものは万物を燃やす滅相の光」

 

 アデリナの体はその活動の一切を停止する。

 詠唱(ことば)が放たれる度、世界が作り替えられていく。

 

 詠唱が放たれる度、目の前の女から放たれる重圧が高まっていく。

 

 相手は隙を晒している。

 攻撃すれば殺せるのに。

 

 ――出来ない。

 世界に告げる宣誓を邪魔など出来るはずもない。

 例え太陽に弓引く不遜者でも、この力の発露の前には、足を止めざるを得ないのだ。

 

「死に絶えろ。ただ安らかに骸と化せ。

 その死を以って至高であると唄わせてくれ」

 

 愛の業。

 それこそは、自らの中にある譲れぬ思いを 揺れない心を、焦がれる夢をシュテルンへと流し込み能力として昇華させるファブラサルスの固有戦闘術理。

 

 健常な体を夢見た者は、だれにも負けぬ体を手に入れるだろう。

 決して諦めぬ心を持った者は、何人たりとも曲げられぬ槍を形成するだろう。

 消えぬ憎悪があるならば、消えぬ焔を生むだろう。

 誰かになりたいと思ったのならば、そのようになる。

 思うままに一つ。

 

「生の終わりに咲く花は、何よりも美しい事を知っている

 輝く死に花

 血染めの花園」

 

 天地万物を超越した異能の発露。

 剣に七光(しちこう)がまとわりつく。

 あらゆるすべてを燃やし尽くしてもなお足りぬほどの熱量は、際限なく上がり続けていく。

 それこそが愛とでも言わんばかりに。

 

「さあ、狂い哭くがいい」

 

 彼女の場合は――ただ夜を切り裂きたい。

 黄昏に染まる世界にただ一筋の光を。

 黎明に哭く夜に、遍く一条の極光を生みたい。

 

開華(Anfang)――夜天引き(アベントデメルング・)裂く最果ての華(ローゼン・ヴェルトール)

 

 それこそは彼女の愛。

 ファブラサルス初代総統――イルデイズ・フォン・ウィルトールが抱く人間賛歌。

 あまねくすべてを照らす太陽の如き彼女の輝きだ。

 

 夜のベールを切り裂いて、光が生まれた。

 それは極光――物質が持つ第四の光。

 触れたものあらゆるすべてを滅相する救世の煌めき。

 イルデイズ・フォン・ウィルトールが持つ愛の業の開華に他ならない。

 

 だれもが叫ぶのだ。

 愛の業を、その想いを、その意思を。

 いつかきっと、星が聞き届けてくれると信じている。

 これはその一端。

 いつか至る満開。

 

「さて――」

「っ、ぁ――きれい……」

 

 アデリナは、ただ見とれていた。

 その輝きに。

 ただただ、魅了されていた。

 この人のようになりたいと――。

 

 食い入るように見つめる。

 

「童のようにうれしそうな顔をして私を見つめるか。これを使ったならば相手は恐怖以外の顔をせんものだが――やはり貴官は違うようだ」

「――!」

 

 だからこそ――殺さなければならないのだ。

 アデリナ・ヴァイデンライヒは暗殺者である。

 殺せと言われた。

 故に殺す。

 

 それは違えられない。

 首輪がある限り。

 

「手向けに撫でてやろう」

 

 黒十字剣(ファーリア)にまとわりつく七光。

 それこそは、人が至る第四力(プラズマ)

 

「かッ――」

 

 目にもとまらぬ斬撃がただ放たれる。

 イルデイズの愛の業。

 それこそは、プラズマ生成・操作能力。

 

 オーロラに酷似した光を剣に纏わせて斬撃と共に飛ぶ。

 触れたものを強制的に分解する滅相の光。

 

 それがアデリナの首へと振るわれた。

 

「あぁ……」

 

 何よりも美しい太陽の風。

 無意識にアデリナはそこにあったものをつかんでいた。

 小さな短剣。

 それは、破壊の風が運んだ星――シュテルン。

 

 無意識か、あるいは本能が生きるためにつかんだのか。

 

「私は……」

 

 光がのどへと食い込む。

 その瞬間、極光がはぜる。

 ばっくりと切り裂かれた喉。

 気管。

 大動脈。

 あらゆる首にある菅は焼き切られた。

 

 だが――

 

「かはっ……」

 

 アデリナ・ヴァイデンライヒは健在であった。

 

「わた、し、は……」

「ほう」

 

 撫でただけとはいえ、まさかアレを首に食らって生きているとは思いもしなかった。

 いいや、生きていればよいとは思ったのは事実であるが、イルデイズは手加減などできない。

 なでるだけとはいえ、それは全力で撫でたのだ。

 己の権能を全力で振るった。

 本気ではないにせよ、それはまさしくあらゆるすべてを灰燼と化す太陽の風であるのだ。

 

「わた、し、は……」

 

 そんな輝きになりたい……。

 

「なるほど。貴官は、愛いな。これを見てなお、私になりたいというのか。ならば是非もない。存分に見ていくがいい」

 

 黄金の光が、七色の光が。

 遍くすべてを照らす光が。

 

 アデリナ・ヴァイデンライヒという少女を照らす。

 

 七光七閃。

 放たれた斬撃は、アデリナを切り刻んだ。

 もはやなぜ、生きているのかすらわからない。

 全身を刻む刀傷。

 それは、イルデイズの能力が真に力を発揮していないことを意味する。

 

「ヒュ……」

 

 輝ける星。

 気温は氷点下に達している。

 アデリナの肉体が、あらゆるすべてが凍り付く。

 

「なるほどな、温度に干渉するか。確かに、私の光は物質の第四状態だ。であれば――」

 

 温度を下げればそれは気体へと落ちるというわけだ。

 それであとは致命傷を防いだと。

 

「ならば、それより速く斬れば問題あるまい」

 

 さらなる輝きが降り注ぎ――。

 

 アデリナ・ヴァイデンライヒは、レイアーワースの暗がりにいた。

 

「あぁ……」

 

 美しいものをみた。

 輝けるものを視た。

 あれこそが太陽だ。

 

 心が震えた。

 魂が叫んだ。

 

 もはや神などどうでも良い。

 己の、己が真に使えるべき存在を見つけたのだ。

 

「わた、し、は……」

 

 震える手で、己の両眼を抉り出す。

 もう、視界はいらない。

 あの人以外を視たくない。

 

 世界の醜さを知った。

 己の世界はなんと醜く色褪せたものだったのかを知った。

 何が神だ。

 あんなものただ頭の中をいじくるだけのロストだ。

 

「わたし、は、あの人のために、生まれてきた……」

 

 理解した。

 もう何も迷うことはない。

 今まで遅れてしまった分を取り戻すのだ。

 

「行かなきゃ……」

 

 瀕死の肉体をアデリナはイルデイズへの思いだけで動かした。

 その日のうちに、逆十字軍に一人の少女が入隊した。

 

 狼は、輝ける太陽にその身を焼かれ、その身を委ねたのだ……

 

 

 ●

 

「こんな感じですが。

 あの、なんで身を引いているのですか? あの、え、気持ち悪い?

 えっと……」

 

「貴様ァァァ! アデリナ様に何を言っているのだァァァ!!!」

 

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