美術部に所属する俺は後輩にデパートに連れていかれることとなった。
後輩によると男女でそこに行くと「呪われる」らしい。
暇つぶしを兼ねてデパートに行くと……

1 / 1
デパートの呪い

「先輩、呪われた非常階段の話知ってます?」

 

放課後の美術室。たった二人だけの室内に、その声はよく響いた。

スマホをいじる手を止めて彼女の方を見やる。キャンパスに顔が隠れ、その表情を窺い知ることはできない。しかし、きっと悪戯っぽい笑みを浮かべているのだろうことがなんとなくわかった。

 

「また下らないオカルト話か?」

「下らないとはなんですか。インスピレーションを呼び起こすためには必要なことですよ」

「インスピレーションだのなんだの言ったって、もうほぼ仕上がってるじゃないか」

「いえ、この作品を仕上げるにはなんとなくインスピレーションが足りないんですよ」

「意味不明だね」

「つまるところ、私はインスピレーションを補充しないことにはこの作品を描きあげることができないのです」

「要は『描くの飽きたので気分転換がしたいです』ってことかな?」

「そう言い換えることもできます」

「その気分転換が呪われた非常階段の話っていうのはなかなか陰鬱な気分になりそうなものだけど」

「こうして二人いるのになにも喋らずに居る方がよほど陰鬱になると思います」

 

彼女はそう言うと僕の隣に腰掛けた。肩の触れ合いそうな距離だった。

 

「先輩の家の近くにデパートがありますよね。あそこの非常階段に男女二人で行くと呪われるらしいんですよ」

「以前君と二人で画材を買いに行った時はなんともなかった覚えがあるんだけど」

「時間が重要なんですよ。16時20分。その時間ぴったりに非常階段にいることが条件なんです」

「微妙な時間だね」

「でもちょうど良いと思います」

「なんでさ」

「今から行ってもある程度余裕をもって到着できるからです」

「……まさか今から行くの?」

「はい」

「部活中だよ?」

「先輩だってさっきまでスマホいじってたじゃないですか」

「まあ……暇だったからね」

「なら別に良いじゃないですか。行きましょうよ!」

 

彼女は勢いよく立ち上がると僕の手を引っ張って歩き始めた。どうやらこれ以上の反論は許してくれないらしい。なされるがままに美術室から廊下に出る。窓から覗く街並みは夕日の茜色に染まっていた。

 

「先輩、寒くないですか?」

「寒いか寒くないかで言ったら寒いけど」

「そうですか……」

 

彼女は少し目をそらした気がする。いや、でもそれは気のせいであろう。いつにもまして軽やかな足取りで進む彼女の後を追い学校の前のバス停に向かうと運が良く遅延したバスにほどなくして乗ることができた。

 

「先輩、今日はいい日ですねえ」

「まさか、バスにスムーズに乗れたからじゃないだろうね」

「それもありますけどもちろんそれだけではありませんよ」

 

こんな他愛もない話をしていると15分程度でデパートの最寄りのバス停に到着した。

暖房が効いていたバスの車内から外に出ると冷たいからっ風が襲ってきた。

 

「どうしたんだ?とっとと行くぞ」

 

後輩が腕に抱き着いた。決して嫌なわけではない。嫌なわけではないが何と言ったらいいだろうか、公衆の面前でこのようなことをするのはちょっと……。

 

「私みたいなかわいい女子高生にこんなことされて喜ばないのって先輩くらいですよ。いや、内心喜んでいるんですよね」

「このデパートのどこの階段なんだ?」

自分は後輩を冷静に無視をして場所の確認をした。

「本当に先輩は冷たいですねぇ。まあ、私についてきてください」

 

後輩は年季が入ったエスカレータを降り地下に入るとエレベーターの方へ向かいそのすぐ脇の非常階段と書かれた鉄の重い扉を開けた。

 

「16時17分。あと3分ですね」

 

なんだか嬉しそうに話している。

 

「呪われるっていうのに嬉しそうにする奴は君くらいじゃないか?」

「そっ、そんなことはないですよ。呪いって楽しくないですか?」

「呪いねぇ」

 

誰もいない非常階段。バツンという音がして辺りが暗くなった。すると後輩が肩をピクリとさせて僕の手を握る。

 

「動いている人がいないので減灯になったんだろう」

「まあそうですよね。まだ19分ですし」

 

腕につけた機械式腕時計は19分30秒を示していた。あと少しだ。

 

「そういえば呪いってどんな呪いなんだ?」

「あぁ、それはですね」

 

腕時計の針は55秒。

一呼吸おいて後輩は言った。

 

「お互いのことが呪われたように好きになるって呪いですよ」

 

彼女がそう言うと蛍光灯が明るくなった。

 

「先輩、私先輩のことが好きなんですよ」

 

今まで暗かったからわからなかったが彼女は頰を赤らめていたらしい。そうか、彼女はそれをいいたくて今まで……。

 

「先輩、なんとか言ってくださいよ」

 

不器用にもほどがあるよ。こんなことされてもまさか本気でそう思っているとは普通の感覚では思わないと思うのだが。いや、自分がただ単に鈍感だっただけかもしれない。

 

わかったよ。もちろん返事は一つしかないよ。




いかがでしたでしょうか。
高評価、感想は執筆の励みになります!
よろしければお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。