真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね 作:お茶に煎餅、お酒にチーズ
今週は間に合わなかった………
直前に活動報告で投稿日の変更を伝えたけど、気づいた方はどれだけいるのでしょうか
多分、私だったら気づかないですね
というわけで、本来の投稿日より1日遅れですが今回の話は番外編となっております
全話の後書きで予告しましたように、バレンタインとイシの村とデルカダール王国に焦点を当てた小話の寄せ集め(?)になります
肩肘は張らず、息抜きくらいの気持ちで見ていただければと思います
*今回の話では多少のネタバレ要素があります
この番外編は本編に直接関わる話ではないので、ネタバレは嫌だという方は読み飛ばしていただいても問題はないのでご安心ください
閑話①
〜聖なるバレンタイン〜
「ねえ、レイブン。なにか面白い話しなさいよ」
いつも通り赤色のローブに身を包み、頭の左右に1本ずつ三つ編みにした髪を垂らした特徴的な髪型の少女、ベロニカがそんな風に言ったのが事の始まりだった
聖地ラムダの宿屋の一室で床に座って剣の手入れをしていたサラサラヘアの少年、世間では〈勇者〉と呼ばれる存在であるレイブンも突然の話題提供の要請には戸惑った表情を浮かべた
「お姉様……。急にそのようなことを言われましても。レイブン様も困ってしまいますわ」
「それ以前になんでお前らは宿屋に入り浸ってんだよ。折角故郷に帰ってきたんだ。自分の家にいなくて良いのか?」
其処に助け舟を出したのは、ベロニカと隣り合うようにしてベッドに腰掛けていた金髪のロングヘアの少女だった。ベロニカと髪型以外は瓜二つな彼女の名前はセーニャ。この聖地ラムダで生まれた〈勇者〉を導く使命を受けた双子の姉妹である
そんな姉妹にツッコミを入れたのは、ツンツンの青髪を気怠げに搔き上げる青年だ。何処となく呆れた口調でボソリと呟かれた言葉は、ぶっきら棒な物言いに反してベロニカたちを気遣った内容だった
「なによセーニャ、いつものことじゃない。カミュの言うこともわかるけど、家にいても暇なんだもの。それならアンタたちも暇なんじゃないかと思って来てあげたんだから感謝してくれても良いのよ?」
双子の妹であるセーニャに対しては憮然と、青髪の青年、カミュにはうんざりとした様子で答えた後に、整った顔に悪戯っぽい笑みを添えてそう告げた
普段通りのベロニカ節にお手上げとばかりにカミュは肩を竦めると、荷物を整理する手を止めて改めてベロニカたちに向き直った
それを見て諦めたのか、レイブンも剣の手入れを止めて考え込むように顎に手を当てる。暫くして思い浮かんだらしく、3人に話し始めた
「ふーん。バレンタインねえ……。好きな人とか、親しい人にチョコレートを作って渡すだけで良いの?」
「ですが、少し手間を掛けて形などを整えればそれぞれ個性が出ますわ。確か家に在庫はあったはずですし、皆様と一緒に料理をすると思えば面白い催しなのかもしれませんよ」
「チョコか……。甘いのは苦手だが、自分が食べるためじゃなければ良いか……?」
──と、レイブンが前世で今のように寒い時期に行われる催し、バレンタインについて簡単に語ると、三者三様の反応が返ってきた
バレンタインという催しの趣旨に思うところがあるのか、ベロニカは難しい表情で唸っている。そんな姉に少し違う視点から面白いそうだと勧めるセーニャは既にこの催しに乗り気のようだ。甘い食べ物が苦手だと言うカミュも渋ってはいたが、さっきベロニカが言ったように暇だったらしく参戦する方向に意識が向いていた
というわけで、この日の予定が決まった一行はセーニャの提案で双子姉妹の家に移動した
その際に、宿屋の隣室で日課の鍛錬として瞑想に励んでいた黒髪ロングの妙齢の女性、マルティナを連行するのも忘れない。宿屋の外でラムダの里の民に芸を披露していたらしいサーカス衣装に身を包んだシルビアという男性もついでとばかりに誘って、合計6人の大所帯で家に押し掛けた
「うん。こんなものかな」
「レイブン様! カミュ様! どうせなら皆様に配りに行きませんか? 折角の催しですもの……!」
「俺もそうするか。自分で言うのもなんだが、中々上手くできたと思うしな」
「レ、レイブン……! これ、ちょっと形は変だけど味は問題ないし、アンタにあげるわ!」
「ベロニカ……? そっか、ありがとう。早速食べても良いかな」
「なに言ってるのよ、当たり前でしょ! このベロニカ様がアンタのために作ってあげたんだから、ちゃんと大事に食べなさいよね……!?」
「────なに、これ……。炭……?」
「えっと、その……。このチョコあげるから、マルティナも元気出して。人には向き不向きとかあるし、そんなに落ち込まなくても…………」
「ふふっ……。いえ、レイブンありがとう。でも、大丈夫よ。必ず貴方の姉として恥ずかしくないチョコを作るわ。そうと決まればロウ様とグレイグを実験だ──味見係にして練習しないとダメね。レイブン、もし良ければ貴方も手伝ってくれないかしら?」
「えっ……………アッハイ、オテツダイシマス」
「このチョコの像、もしかしてシルビア……? あはは! 本人が持ってるとそっくりで面白すぎるわよ!」
「よくわかったわね、ベロニカちゃん! これこそ〈チョコレートスペシャル〜世界に笑いを〜〉のシルビアモデルよ! それじゃ、みんなにも見せてくるわね」
「あはは! ……はあ、笑ったわ。あっ、シルビア! あとでレイブンの奴も作ってくれない……?」
「ええ! 全員分作るつもりだったし、そのくらいお安い御用よ!」
その後、卒なくチョコを作ったレイブンとセーニャとカミュがこの場にはいない他の仲間たちやラムダの里の民たちにプレゼントしに行ったり、少し変形しているがスライム(?)に似た形のチョコを照れながらもちゃっかりレイブンに渡すベロニカがいたり、盛大に焦がして炭になったチョコチップクッキー(の成れの果て)の前で呆然とするマルティナ、自分を模した精巧なチョコの像を製作したシルビアがそれを見せて笑いを取ったりと、バレンタインは大盛況に終わった
ちなみに、その日は生粋の負けず嫌いを発揮したマルティナが夜遅くまでチョコ作りをするのに付き合わされた男性陣がいたとか、いないとか…………
◆ ◆ ◆
〜イシの村のその後〜
レイブンが旅立った翌日のイシの村は特別大きな変化が起きるなんてこともなく、村人たちはいつも通り穏やかに日常を過ごしていた
だが、そんな中で常とは明らかに異なる行動をしている者が2人かいた
1人はレイブンの母、ペルラである
例えば、目撃証言によると彼女は突然誰もいない場所に向かって「今日の夕飯は昨日のシチューの残りだけど良いかい?」と話し掛けた後に愕然とした面持ちで硬直したり、つい1人分料理を多く作りすぎたからと言って近所にお裾分けしている姿が見られた
加えて言えば、織物を片手に1時間くらいボーッと何事か考えている様子も目撃されており、愛する息子がいない影響は目に見てわかるほどに表れている
もう1人はレイブンの幼馴染、エマだった
彼女はペルラよりも反応が顕著であり、日頃はなんの問題もなくこなしている仕事の最中にもミスを頻発するだけでなく、なにをするにも集中できないのかデルカダール王国のある方向を物憂げに見ていることが多い
祖父のダンなどが心配して声を掛けても大丈夫の一点張りで効果はなく。誰が見ても無理してるとわかる笑顔では更に心配を掛けるだけだった
「………………はあぁぁ………」
今日もまた、仕事の休憩中に子供たちの面倒を見ていたエマはあらぬ方向を見つめながら大きな溜息を吐いていた。レイブンが旅立った日からまだ1日しか経っていないにも関わらず、そうして黄昏れる彼女の姿はヤケに憔悴しているように見える。実際のところ、昨日は枕を涙で濡らして満足に眠れていなかったのだ
当然ながら子供たちもその様子を見ており、いつも明るく元気なエマの落ち込む姿に困惑した表情でコソコソと小声で話し合っていた
「エマ姉ちゃん、どうしたんだ……?」
「元気ないよねー? お腹空いたのかなー?」
「それはアンタでしょー!? エマお姉ちゃんはそんなことで一々落ち込んだりしないわよ!」
「まあまあ。お子様には難しいだろうから仕方ないよ」
「なんだとー!? お前らだって子供だろうが……!?」
──と、すぐに言い合いに発展したが、子供たちは器用にも小声で怒鳴りあっている
こんなでもイシの村では数少ない子供同士なので仲が悪いわけではない。喧嘩するほど仲が良い、という言葉通りの関係だった
楽しそうに喧嘩する一部を除いた子供たちは、少し呆れたような顔を彼らに向けた後、満場一致で放置することに決めたのかエマについての話を続ける
「エマお姉ちゃんが元気ないのって、やっぱりレイブンお兄ちゃんがいないからだよね………?」
いきなり核心をついたのはマノロだった
わちゃわちゃと騒ぐ一部を除いた子供たちに確認を取るように言うと、他の子供たちも異論はないのか何度も頷いて肯定を示す
自分の予想が合っていたことに嬉しそうに表情を輝かせたマノロだったが、ある事実に気づくと一転して表情を暗くした。それはみんなも同じだった
「それだとエマお姉ちゃんはレイブンお兄ちゃんが帰ってくるまで、ずっと落ち込んだままなのかな……? 私はそんなの嫌だな………」
1人がそう言うと、その場にいた全員が再び頷く
いつも仕事の合間に相手をしてくれるエマのことが、村の子供たちは大好きなのだ。小さな集落であるためか、その想いは家族に対するものと大きな差はない
そして、誰の影響によるものか総じて賢い彼らは自分たちだけではエマを元気づけられないという結論に至るまで時間は掛からなかった。そうなると、この問題を相談する候補はすぐに決まった
「それじゃあ、ペルラおばさんに相談するってことで大丈夫かな? なにか意見がある人はいる?」
なんとなく場のまとめ役になっていたマノロが聞くと、今度はみんな頷いた後に一斉に首を横に振った
レイブンのことで落ち込んでいるならば、彼を最も良く知るペルラに相談に乗ってもらおうと考えたのだ。尤も本来ならばレイブンが帰ってきてくれたら言うことはないのだが、それが難しいことは子供たちも朧げながらわかっている。今までレイブンが旅に出た時は、長い時には1年間も帰ってこないことがあったのだから、それも当然だった
そうしてマノロたちは連れ立ってペルラの家に向かって行った。…………未だに喧嘩を続ける子供たちと、上の空になったエマを放置したままで
「だから、それはお前が………!? ──あれっ!? マノロたちがいなくなってるぞ!」
「………えっ? 嘘!? 置いてかれちゃったの!?」
「もう〜! だから喧嘩はやめてって言ったのにー! 僕だって怒るんだよ!」
「うぅ…。ごめんなさい。カーッとなっちゃってつい歯止めが効かなくて…………」
「…………………………………あれ? みんながいない……。何処に行っちゃったのかしら?」
そんな遣り取りが残された者たちの間であったとか
なにはともあれ、その後マノロたちから相談を受けたペルラが小1時間ほどエマと話し合い、結果的に彼女の元気を取り戻すことには成功した
その代わりと言ってはなんだが、仕事の休憩の時間に花嫁修行と称してペルラから料理や裁縫などの遣り方を教えてもらうことになった。必然的に子供たちと遊ぶ時間が減ってしまうという事態になったりもしたが、取り敢えず元気になったからそれで良いか、と子供たちは花嫁修行に勤しむエマを生暖かい目で見守っていた
◆ ◆ ◆
〜脱獄後のデルカダール王国〜
少し前に捕らえたばかりの囚人、即ち〈悪魔の子〉が脱獄したという知らせがデルカダール王とグレイグに届いたのは、レイブンたちが地下水路から崖下に飛び降りてからすぐのことだった
場所は王座の間。今は報告に来た兵長からグレイグが脱獄までの経緯を詳しく聞いていたところだ
「なんだと……!? 囚人が崖下に飛び降りてから行方をくらませただと! 水路を巡回させていた兵士たちはなにをやっていたのだ……!?」
「ま、誠に申し訳ありません! まさか飛び降りるとは思わず、捕縛が遅れてしまいました。巡回を任せた部下たちは上手くすり抜けられてしまったらしく、一度取り囲むことには成功したのですが、運悪く水路の石橋が崩落してしまいそのまま取り逃がすことに…………」
珍しく平静を欠いて怒鳴り立てるグレイグを前にして、報告に来た兵長はすっかり怯えてしまっていた。それでも報告はキチンとこなす辺り、流石はグレイグの部下だと言えるだろう
とはいえ、やはり怖いものは怖い。伊達ではなく英雄と呼ばれるグレイグの覇気を真っ向から受けて無事であるはずがなく、答える声は震えていた
常になく激した彼を止められる人物は多くないが、この場にデルカダール王がいたのは兵長にとって幸福だったと言える
「グレイグよ。今は囚人の逃亡を許した責を問うよりも先にやるべきことがあるのではないか……?」
16年前の悲劇より険しさを増した鷲の如き眼を細め、僅かに苛立ちの様子でグレイグを見据える
デルカダール王に窘められたことで漸く平静ではなかったことに気づいたグレイグは一息大きく深呼吸をして気を取り直すと、恐怖から直立して微動だにしない兵長に向き直った
「………はっ! 申し訳ありません、我を忘れておりました。これより迅速に囚人の捜索を始めます。…………崖から飛び降りても〈悪魔の子〉が生きているならば、まだそう遠くまでは逃げていないだろう。城下町に戻ってくる可能性もある。正門の出入りを規制、取り締まりを強化しろ。残った人員は3人1組で全て囚人が飛び降りたという崖下周辺の見回りに回せ。見つけ次第2人を監視と追跡に残して私のところまで報告に来るように周知しろ。その時は私が捕縛に向かう」
「グ、グレイグ将軍自らがですか……!? い、いえ、差し出がましい口を、申し訳ありませんでした。──復唱します。正門の出入りを規制、取り締まりを強化。残りの人員は3人1組で崖下周辺の捜索。見つけ次第2人を監視と追跡に残し、1人はグレイグ将軍の報告に参ります」
正しく指示が伝わったことにグレイグは満足げに頷く。元より英雄たる彼の指揮する部隊は優れた者が集められており、厳しく訓練された精兵なのだ
冷静になれば崖から飛び降りるという暴挙を予想することが難しいのは当然であり、それまでの過程はともかくとしてこの場合は相手が一枚上手だったと言わざるを得ないだろう
実際のところ囚人を逃した責任はグレイグが負うものとなるのだが、それを甘んじて受け入れることを内心で覚悟する。こうしている間にも相手は動いているのだ
「よし、行け! 悠長にしていては〈悪魔の子〉がなにをしでかすかわからん。迅速な行動を心がけろ!」
「はっ!」
グレイグの号令の下、兵長はデルカダール王に失礼がないよう気をつけながらも最大限急いで王座の間を後にした
それから暫しの間、痛いほどの静寂が王座の間に流れるが、意を決した様子のグレイグが無駄のない素早い動きでデルカダール王に跪いた。頭を垂れて覚悟を秘めた力強い声で訴える
「僭越ながら、我が王よ。逃亡した〈勇者〉の捕縛をこのグレイグに任せては頂けないでしょうか。必ずや私が捕らえてみせます!」
「ふむ……。此度、あの〈勇者〉が脱獄した責はお主にあることを承知であるな? 牢番はホメロスの部下であるが、捕らえ損なったのはお主の部下じゃ」
「はっ! その件の処罰に致しましては如何様にも。しかし、どうか汚名を濯ぐ機会を頂きたく!」
「そこまで言うのならばお主に任せようではないか。今度こそ、必ずや〈悪魔の子〉を捕らえるのじゃ!」
「──はっ! 主命、拝命致します!」
跪いた時と同じように無駄のない素早い動きで立ち上がると、右の拳を左胸に叩きつけるように当てて、格式張った礼拝の後に王座の間を去った
王座の間の大扉の前で警護する兵以外には、デルカダール王ただ1人となったその場で、彼は何事か思案するように長く立派な白髭を撫で摩る。徐に玉座から立ち上がるとボソリと呟いた
「────存外、使えぬな」
そう呟いた時のデルカダール王の瞳は妖しく赤色に輝いており、口端は醜く吊り上っていた
しかし、その姿を見ていた者はただの1人もおらず、まるで幻のように常の様子に戻ったデルカダール王は軽い足取りで王座の間を後にしたのであった
これにて閑話①は終了となります
初めての番外編だったので上手く書けたか心配ですが、個人的には楽しく書けたと思いますね
読者から見ても面白いものになっていれば嬉しいです
今回の話ではバレンタインのみ、大きく時系列がズレています
具体的にはエンディング後の小話であり、現時点で私が思い描く終着点に近い状況を試験的に描写してみました
この先でも多少の変更点が発生するかと思いますが、明確にプロットから外れるようなことにはならないでしょう
また、今回の話で本編では登場していないキャラが複数人いたりして混乱させてしまっていたら申し訳ないです
イシの村のその後の話は誰か1人に焦点を当てたものではなく、強いて言えばエマを中心としたレイブンがいなくなった村の様子を描いてみました
原作ではなんだかんだ登場頻度が少ないエマの村での立ち位置などを勝手に想像した上で、マノロを筆頭に他の名前も考えてない子供たちと絡ませてみたというだけの本当に本編とは関係ない話です
自分で言うのもおかしな話だとは思いますが、特に深く考えずに流し見るくらいが丁度良いでしょう
デルカダール王国の話では全く伏せられてない伏線(?)らしきものを蒔いてみました
あからさまに黒幕ムーブをさせてますが、次に登場するのはずっと先になるのでその時には私もこんな話を書いたことも忘れてるかもしれませんね
伏せられてもいなくて、その上で回収もされないという憐れなことにはならないように気をつけます
あと、グレイグやデルカダール王の口調や言葉遣いに違和感があるかもしれませんが、自分的にはそれっぽく書いたつもりなので見逃してください
それでは、来週は頑張って火曜か水曜に投稿したいと思っていますが、どうしても無理そうであれば投稿間隔を2週間に1話のペースに落とすことも視野に入れています
しかし、そうなると比例して完結までの道のりが遠のくので、なるべく今のペースを保つことを目標にやっていきたいです
今週はもありがとうございました