真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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なんとか書き終わった……!
疲れた、頭痛い、眠い………でも、達成感がかなりある
なので、今回は前書きも後書きもさらっとで!

では、最新章となる今回の話をどうぞお楽しみください





壱章 勇者と盗賊と赤い宝玉
不思議な夢と教会のシスターさん


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イシの村より東に進むと、大滝があるという

 その滝は遥か遠く、今は亡きユグノア王国から長く伸びる河川に繋がっているとか。噂では〈命の大樹〉から流れ落ちる水だとも言われている

 普段は人の姿はなく、あるとしても魔物たちが冷たい水で喉を潤すために訪れる以外では、川魚くらいしかいない大滝の傍に、珍しく2つの人影があった

 

 

 

「へぇ、これがお前の言ってたイシの大滝か。中々立派なもんだな」

「……うん。何度かお爺ちゃんに連れてきてもらったことがあるから間違い無いと思うよ」

 

 

 

 ツンツンと跳ねた青髪の青年が腰に手を当て、ドドド……! と流れ落ちてくる滝を見上げて感嘆の声をあげる。盗賊として世界各地を旅した青年、カミュにしてみても目を見張る美しい光景だった

 滝が流れ落ちる音。川のせせらぎ。風に揺られた葉が擦れてざわざわと騒めき、虫や小鳥が囀る

 そっと目を瞑り、其れらの音を堪能していたサラサラヘアの少年、レイブンは名残惜しげに目を開いた。青空を写し取ったかのような瞳に僅かな郷愁を滲ませて、ポツリとカミュの言葉に答えた

 

 

 

「さて、本音を言えば少し休んで行きたいところだが、生憎時間がないからな。さっさとお前の用事って奴を済ませちまおうぜ」

 

 

 

 少しの間、2人は目の前に広がる長閑な風景を眺めていたが、一度大きく深呼吸して澄んだ空気を吸い込んだカミュが場を仕切り直すようにそう告げた

 レイブンとしても何時迄もこうしている訳にはいかないことは重々承知していたので、後ろ髪を引かれる気持ちを断ち切ると滝壺の側にある特徴的な形の三角岩に近づいて、徐にその下の土を掘り起こし始めたのだ

 突然の行動に、しかしカミュはなにを言うでもなくレイブンの背後に立って静観していた

 

 

 

 レイブンが土を掘り始めてから、そう時間が経たない内に1つの箱が姿を見せた。最低でも6年前に土の中に入れられたにしては腐っているような様子もなく、箱自体もそれなにり上等な品であることが2人にはわかった

 そっと穴の中から取り出して箱についた土を軽く払った後、恐る恐ると言った様子で蓋を開けると、箱の中には2枚の手紙があった

 不意に箱の中身が気になったのか、背後から覗き込んできたカミュが腕を組んで少し首を傾げた

 

 

 

「手紙か。1つはかなりボロボロだな」

 

 

 

 この2枚の手紙がレイブンにとって大事なものであると感じているのだろう。呟く声は真剣なものだった

 手紙の前で少し間を置いた後、レイブンは意を決して手紙に手を伸ばした。最初に手に取ったのはボロボロに擦り切れた手紙の方だ

 其処に書かれていた内容に、レイブンは驚きに目を見張り息を呑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、レイブンは不思議な空間にいた

 突然のことに戸惑いを隠せない様子で、キョロキョロと辺りを見渡すも暗闇が広がるばかりで自分以外には人間の気配は感じ取れない

 この空間に光はなく、闇に覆われているようだった。しかし、どういうわけか手を顔の前に持ち上げればその動きがハッキリと見える。自分の姿だけが闇の中にポツリと浮かび上がっているような感覚になる

 普通ではあり得ないことに巻き込まれている。そう考えるのが当然なのに、不思議と心は落ち着いていた

 

 

 

 異常なのは、この空間だけではない

 先程から此処に来るに至るまでの記憶を思い出そうとしても、レイブンはなにも思い出せなかった。自分や家族の名前、イシの村で育ったことは覚えているのに、旅立ちの前日以降の記憶がないのだ

 流石に前後の記憶がないのは焦りを生むが、なぜか不安な気持ちは湧き上がってこなかった。或いは、自分はまだ旅立っていないのかもしれないとも思ったが、それは違うと感じた

 

 

 

 底のない沼に思考が嵌った気がする。こうして考えていても答えは出ないと結論を出すまでに大して時間は掛からなかった

 取り敢えず考えるのは後にして、在るのかもわからない出口を探すために宛てもなく暗闇の中を歩き出した

 幸いと言っていいのか、周囲は暗くて見渡せなくても自分の足は普通に見えている。気をつけていれば突然足を取られて転ぶなんてことにはならないだろうと、その時は楽観的に考えていた

 

 

 

 どれだけ歩き続けていたのか。暗闇に覆われた世界では時間の感覚が狂い、正確なところはわからない

 1つわかったことがある。暫く歩き通したにも関わらず未だに行き止まりらしき場所が見当たらないのだ。今も踏みしめている足下の地面と言っていいのか微妙な足場には起伏がなく、どこまでも平坦だった

 仮説として、この空間は無限に広がっているか。或いは、確かに歩いている感覚はあったが、実際には最初の位置から移動していない可能性もある

 

 

 

 そうしている内にレイブンは此処が自分の夢が生み出した空間ではないかと考えた

 明晰夢というものがある。其れは、夢であるとハッキリ認識することができる夢だとか。細やかな原理はレイブンにもわからないが、仮に此れが夢であると考えれば幾つかは説明がつく

 どれだけ歩いても際限がないほどに広く、今更だが自分は服を着ておらず歩いた時に足音もならない。この空間にいても不安を感じないのは、自らの無意識が生み出した場所なのだからある意味当然だと言える。どうすれば目が覚めるのかわからない現状に焦りを覚えるのは不思議な話ではないだろう

 

 

 

 だが、例え夢だとしても記憶がないのは異常だ。そう考えると夢という仮説も違うのではないかと思えてきた

 答えが見つかったと思った矢先に思考は迷路に陥り、悶々としながらも足は止めずにいた

 ふと、思考に耽るあまりいつのまにか俯いていた顔をあげると目の前に“ナニカ”がいることに気づいた。形は人型のようだったが、周囲の暗闇に溶け込むようにその姿は判然としない

 

 

 

「……きろ。……イブ……!」

 

 

 

 互いに喋らず奇妙な沈黙が保たれていた中、何処からか聞こえた声がレイブンの耳朶を震わせた

 余りにも小さな声で、一瞬気のせいかとも考えるほどだったが確かに聞こえたのだ。しかし、それは目の前の謎の人物のものではなさそうだった

 だとすれば、一体誰の声だったのだろう。初めて聞いたはずなのに、ごく最近に聞いた声にも思える

 

 

 

「いつま……寝て…………だ……? ……やく起…………!」

 

 

 

 焦ったく思いながらも待っていると、再び誰かの声が聞こえる。今度はさっきよりも声がハッキリしており、ぶつ切りの言葉から推測するに、自分のことを起こそうとしているのだろうか

 謎の声も気になるところだが、先程から黙りを決め込んでいる謎の人物のことも気に掛かる。なんとなく悪い感じはせず、警戒心も湧き上がってこない

 

 

 

「お前は誰だ……? 此処のことを知っているなら、どうか教えてくれ。気がついたらこの空間にいて、出口も見当たらず困ってるんだよ」

 

 

 

 意を決して話しかけたが、特に反応は返ってこない。本心からの質問だったので困ってしまう。元々口数が少ない方であるため、初対面の人物の口を割らせるというのはかなり難易度の高い問題なのだ

 どうしたものかと途方にくれていると、不意に謎の人物が口を開こうとする気配を感じて、レイブンは慌てて居住まいを正した

 

 

 

『──ごめんね。僕のことはまだ話せない。それよりも…………ほら、君のことを呼んでるよ。何時迄もこんなところにいないで、早く行ってあげて』

 

 

 

 謎の人物から聞こえてきたのは、穏やかな少年の声だった。優しく語りかけられる言葉には落ち着いた響きが宿っており、其れは声から察することのできる年齢には似つかわしくなかった。なんとなく馴染み深い声に思えて、話せないとはどういう意味かと問いかけようとしたところで、急に足下が大きく揺れ動いた

 突然のことに思わず膝をついたレイブンが顔をあげた時には、もう目の前には誰もいなくなっていた。其れと同時に、空間が砂嵐のように揺らめいて崩れていく

 驚きすぎて声もなく空間の崩壊を眺めていたが、レイブンが立ち尽くしている足下まで崩壊が侵食してきた瞬間、プツリと糸が切れたように意識が消えそうになる

 

 

 

『……本当にごめん。せめてものお詫びとして、君の助けとなる情報を1つ教えるよ。────イシの大滝。其処にある三角岩の下の地面を掘って。きっと、君の窮地を救ってくれる物があるはずだから』

 

 

 

 そして、レイブンの意識が落ちる瞬間、何処からかそんな言葉が聞こえた気がした

 その声は一度だけ聞いた謎の人物のものだったが、先程のように穏やかで優しい声とは程遠い、なぜか狂おしいほどの苦悩や悲哀、後悔に包まれていた

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、起きろよレイブン!」

 

 

 

 その声と共に身体を譲られる感覚がして、レイブンの意識は急速に覚醒した

 瞼の奥から感じる光に安心しながら目を開くと、見覚えのない白い天井が目に入った。どうやらレイブンはベッドに横になっているらしかった

 少し視線をズラすと先程からレイブンに呼び掛けていたであろう青髪の青年、カミュの存在を認識した途端に鈍かった思考が常のように高速で回転し始めた

 

 

 

 こんな時にも関わらず、レイブンはよく眠っていたのだろう。気怠い身体を起こして記憶を整理する

 亡き祖父の言葉に従い〈勇者〉としての使命を果たすためにデルカダール城に赴いたレイブンは、其処でなぜか〈悪魔の子〉と呼ばれて投獄された。地下の最下層と謳われる牢獄に捕らえられて、しかし其処で出会った囚人の男、今はレイブンの横たわっていたベッドの側に置いた椅子に腰掛けているカミュの協力の果てに無事脱獄することに成功したのだ

 ──と、其処まで記憶を辿ったところで、自分たちが最後に崖下に飛び込んだことを思い出した。それについてカミュに尋ねる前に、彼はニヤリと笑って口を開いた

 

 

 

「よおっ! 漸くお目覚めか。此処はデルカダールの外れにある教会だ。お前、あれからずっと気を失ってたんだぜ」

 

 

 

 その言葉に、然程驚きはなかった

 なんと言ってもあの高さから飛び降りたのだ。むしろ五体満足であることの方があり得ないとさえ言える

 当然ながらそう思ったのはレイブンだけではなかったようで、カミュは何処か嬉しそうにあの時のことを語り始めた

 

 

 

「〈勇者〉の奇跡って奴を信じて崖から飛び降りたが…………どうやらその賭けには勝ったらしい。──ったく、なにが起きたかわからねえが、気づいた時には無傷で崖下の森の中さ。……大したもんだな〈勇者〉ってのは」

「──あはは。〈勇者〉の奇跡か……。もしかしたら、そうなのかもしれないね」

 

 

 

 最後の言葉は呆れたような調子であったが、カミュも無事にデルカダール兵たちから逃げ切ったことを喜んでいるようだった

 カミュの言う通り、確かに奇跡でも起きなければ崖から飛び降りて無傷なんてことは考えられないだろう

 しかし、喜んでばかりもいられない。今回はデルカダールから脱出に成功したが、まだ捜索圏内にいることには違いないのだから

 

 

 

「さて、これでお前も俺も仲良くお尋ね者って訳だ。のんびり休んでる訳にもいかないが…………まずは俺たちを助けてくれたシスターに礼を言っておくとするか」

「シスターさん……。うん、そうだね。そういうことなら、ちゃんとお礼をしないと」

 

 

 

 レイブンに意味ありげな笑みを向けたかと思えば、そんなことを言い始めた。茶化したような物言いだが、脱獄した2人が追われる身となったのは本当のことだ

 それはそれとして、助けてくれたシスターにはお礼をしなければならないとレイブンは何度も頷く。不意に人の優しさに触れて嬉しかったのだろうか。普段は表情の薄い顔には見てわかるほどの笑みが刻まれていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カミュに促されて部屋の扉を開けたレイブンは、小ぢんまりとした教会の中を見渡した

 すると、シスターはすぐに見つかった。青色を中心にして造られた修道服に身を包んだ後ろ姿に近づく。足音に気づいたのだろう。振り向いたシスター、腰の曲がった優しげな老婆はカミュの隣を歩くレイブンの姿を見て小さな目を見開いた

 それから皺の多い顔を更に皺くちゃにしながら穏やかに微笑んで、2人に向けて口を開いた

 

 

 

「あら、旅の方………お連れの方のお身体はよろしいのかしら?」

「ああ、もうバッチリさ。アンタのお陰で助かったぜ」

「…………シスターさん。僕たちを助けてくれたと聞きました。ありがとうございます」

 

 

 

 老婆はシスターらしく落ち着いた喋り方でレイブンの心配をしてくれた。まだ無理だと答えれば、教会の一室を貸してくれるつもりだったようだ

 とはいえ、2人は絶賛お尋ね者であると思われるので、城下町の近くで悠長に構えてはいられない。レイブンが此処に運び込まれてから丸1日寝たきりだったとのことで、今頃は兵士たちによる本格的な捜索が始まっているだろう

 

 

 

「良かった、それはなによりです。……ですが、お気をつけて。先程不穏な噂を耳にしました。なんでも凶暴な囚人たちが牢を脱走し、この辺りをうろついているそうです。一体どんな恐ろしい人物なのか…………」

 

 

 

 そう言って身震いする老婆のシスターを前にして、レイブンとカミュは居心地が悪そうに顔を見合わせた

 城下町の外れにあるというこの教会に噂が届いたとなれば、デルカダール王国はその脱獄した囚人とやらのことを積極的に捜索しているのだろう。凶暴な犯罪者が城下町周辺にうろついているとお触れを出す以上は、大々的に捜索のために兵を割かなければ市井への示しがつかない

 

 

 

 そして、2人を複雑な表情にさせた原因である老婆のシスターは凶暴な囚人とやらが存在することを信じて疑っていないようだった

 今の世に名を轟かせる賢王モーゼフ・デルカダール三世の言葉を疑う人間は皆無に等しい。それだけの実績のある人物であり、対するレイブンたちには自らが潔白だと証明するものがなにひとつないのだ

 複雑な感情が湧き上がってくることは仕方ないとして、今この場で正体を明かしても恩人を怯えさせるだけの結果になるだろう

 

 

 

「えと、そいつは大変だな。それで、その…………町の様子はどうなっているんだ?」

「町はなんとも物々しい雰囲気です。逃走中の2人の囚人を追って兵士の方々が懸命に探されています。それにあの大英雄グレイグ将軍が直々に指揮を取っているようで、発見の報告が届き次第出陣するおつもりだとか」

 

 

 

 不安げに俯く老婆の姿に2人の良心が軋む。恩人であるシスターが怯える原因の一端を担っていることが申し訳なかった

 とはいえ、2人に自首するつもりはない。レイブンは無実の罪で囚われていたし、カミュにも絶対に譲れない理由がある。自然とその場にいる全員が俯いてしまった

 その沈黙を取り違えたのか、老婆のシスターは先程までの沈鬱な雰囲気を取り払いレイブンたちに優しい声音で語り掛けた

 

 

 

「………あら、ごめんなさい。不安にさせてしまったわね。大丈夫、きっとすぐに囚人は捕まりますよ。それまではこの教会を宿と思ってお好きに使ってくださいな」

「ああ、そうだな………。すまないが、少し世話になるぜ」

「シスターさん。……いえ、ありがとうございます」

 

 

 

 老婆の提案に答えるカミュの声には、隠しきれない罪悪感が含まれていた。それはレイブンも同じで、なにかを言い掛けたが頭を振って礼を告げるだけに留めた

 心優しいシスターには、其れらは全て遠慮から来るものに映ったようで、皺くちゃな顔で微笑む姿に含むところは欠片もなかった

 その姿をこれ以上見ていられないとばかりに背を向けたカミュは、通り過ぎざまにレイブンの耳元で囁いた

 

 

 

「レイブン。外の風にでも当たりながら、これからのこと少し話さないか」

 

 

 

 突然ではあったが、その提案にはレイブンとしても否やはないので素直に頷いた

 それを見たカミュはさっさと教会から出て行ってしまう。急いでレイブンも後を追おうとしたが、一度振り返り老婆に深々とお辞儀をしてから、足早に教会を後にした

 外に出てすぐのところでカミュは待っていた。レイブンが近づいてくることに気づいてか、振り向くことなく話し掛けてきた

 

 

 

「イシの村………。生憎と聞いたこともないが、確かお前はあの時にその村の出身だと言っていたよな。あの渓谷地帯に村があるとは驚かされたが、不幸中の幸いかデルカダールも気づいてはいないようだぜ」

「そうだね……。王座の間に通された時に嫌な予感がしたから思いつきだったけど、あの説明で誤魔化せて良かったよ」

 

 

 

 デルカダール城の地下牢に囚われていた時、レイブンは捕まった経緯を話していたのだが、王座の間での虚偽の説明ではなく自らの出身についても話していた

 つまり、今のところレイブンがイシの村の出身であることはカミュ以外に知る由もなく、グレイグは宛てもなく探しているのだろう

 仮にイシの村の存在に気づいていたならば、先程の老婆のシスターが語った噂の中にあるはずだ。囚人を育てた村を放っておくのは外聞が良くないのだから

 

 

 

「まあな。それでも心配だろうが、今のところは問題ないはずだ。早まった真似はしてくれるなよ。グレイグに見つからずイシの村に行くには別の道を使うしかない………」

 

 

 

 わかってるだろうがな、と念押しするように告げるカミュの言葉に重々しく頷いた

 村が心配だからと急いで確認しに行くのは簡単かもしれないが、動き回ればそれだけ捜索に出ている兵士たちに見つかる可能性は高くなる

 この場合はカミュの言う通り人通りの少ない道を行くか、村を素通りするかの2択しかない。だが、当然ながらレイブンの心情としては、村の様子だけでも確認しておきたかった

 

 

 

「俺ならその道を知っている。なんだったら、案内してやってもいいぜ」

 

 

 

 それ故に、カミュの提案はレイブンにとって渡の船に違いなかった

 今すぐにでもお願いしたい気持ちを堪えて、レイブンは話の続きを促した。あの語り口はただの親切などではなく、なにか要求を通すための取り引きのものだ

 短い間とはいえ、生死を共にした相手でもあるためカミュの為人についてはなんとなくわかっていた。だが、やはり関係が薄いのは事実である。自分に利のある話であっても、悪事の手伝いを依頼されたとしたらレイブンは躊躇なく断るだろう

 

 

 

「話が早くて助かるぜ。それじゃ、お前の案内をする前に、先に俺の用事を済まさせてくれ。デルカダールの城下町に忘れ物があってな。そいつを取り戻しておきたいんだ。牢から連れ出してやったんだ。それくらいの頼み、聞いてくれても良いだろ?」

「……うん。そのくらいなら大丈夫。僕で良ければ力になるよ」

「よし、決まりだ! ………けど、このままじゃチョイと目立つな。待ってろ、適当なもん探してきてやる」

 

 

 

 カミュの頼みを快諾したところで、彼はレイブンの姿を上から下まで矯めつ眇めつ眺めた

 今のレイブンは鎧をつけていないため、祖父からの贈り物である紫色の渋い旅装束に身を包んでいる。少年という年頃にそぐわない服装は往々にして人の目を引いてしまう。確かにこのままでは駄目だろう

 もう一度教会の中に戻っていたカミュはすぐに戻ってくると、その手には深緑色の地味な布を持っていた。それは良く見るとフードのようだった

 

 

 

「ほら、此奴を着て顔を隠しな。兵士どもが待ち受ける城下町にそのままの格好じゃ戻れないだろ?」

 

 

 

 レイブンは言われるがままにフードを受け取る。単純な構造なのでその場で着替えたが、大した手間は掛からなかった

 レイブンの肩までを隠す程度の小さなフードであるため紫色の旅装束はそのままだが、地味な色合いのフードを被るだけで印象は大きく変わっていた。更にフードを深く被れば、それだけで破落戸のように見えるのだから服とは不思議なものである

 

 

 

「へっ、お尋ね者らしくなって箔がついたじゃねえか。それじゃ、北に向かって町に戻るぞ」

 

 

 

 レイブンの姿を見て軽口を叩いたカミュは、くつくつと笑って先に行こうとする

 数歩前に進んでから振り向いたカミュの顔にはもう不敵な笑顔は消えており、真剣な表情でレイブンを見つめていた

 

 

 

「どうやら預言によると、俺はお前を助ける運命にあるらしい。改めてよろしく頼むぜ! 勇者さま!」

 

 

 

 やはりというか、最後には戯けたような調子で軽口を叩くカミュに、これからの旅が楽しいものになりそうだと感じて、レイブンは小さく笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて最新章の1話の終了です
どうにも書く時間が取れずに遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした
お陰様で私は休日にも関わらず既に疲労困憊になっています

今回は少し伏線を入れてみました
表現が下手でわからないというようなことになっていなければ良いのですが、そこら辺は正直自信がないのでなんとも言えないです
察しの良い人とかは気づいちゃいそうな気もしますけどね
どちらにしても、お好きに想像してくれたら私としても嬉しいです


活動報告欄でも言いましたが、見ていないという方のためにも後書きで言及しておきたいことがあります
以前から週1投稿が大変だ、なんだと言っていましたが、本格的に厳しくなってきたので次の話から2週間に1話の投稿に変更させていただきたいと思います
仕事などが忙しく時間が取れないという私事で申し訳ないのですが、毎週予告通りの日に投稿できない現状はモチベーションを崩しそうでした
大前提として完結させるのが目標であることを鑑みて、先のことを考えると今のうちに余裕のあるスタイルを確立した方が良いと感じました
そのためにも2週間も猶予があれば書き溜めなどを作りながら投稿できると思いますので、この作品を読んでくれている方にはどうかご了承いただければと思います
結局長文になってしまいましたが、報告は以上です

それでは今週もお読みいただきありがとうございました
次の投稿は3月5日か3月6日を予定していますので、それまでお待ちいただけると嬉しく思います


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